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主幹事方式入門― 市場公募地方債を事例に―*1


財務総合政策研究所 石田  良*2/東京大学 服部  孝洋*3

1.はじめに
本稿は市場公募地方債の発行方法の1つである、主幹事方式について解説することを目的としています。地方債の発行方法としては、主にシ団引受方式、入札方式、主幹事方式、さらにこれらの組み合わせがあります。本稿で取り上げる「主幹事方式」は、(国債を除く)債券の起債で最も広く使われている手法であり、地方債では特に超長期債を中心に普及しています。
石田・服部(2024)では大阪府を事例に入札を活用した発行方法(引合方式)を説明しましたが、主幹事方式とは、発行体が債券を発行するために、証券会社が一時的に当該債券を在庫として保有して投資家に販売する方法です。この手法は「引受(アンダーライティング)」と呼ばれ、社債などの発行で広く用いられています。シ団引受方式も「引受」という表現を含むことから引受の一種と解されますが、現在、地方債を除き、シ団引受方式を用いることが稀であることから、実務的に、引受という場合、「主幹事方式」を指すことがほとんどです。
現在でも5年・10年の市場公募地方債の起債についてはシ団引受方式が広く用いられていますが*4、主幹事方式については、本論文で紹介する東京都と横浜市が2003年に超長期債の発行に主幹事方式を活用し始めました。その後、特に超長期債の発行において主幹事方式の活用が普及し、今では、全年限の市場公募地方債を主幹事方式で発行する自治体もあります。前述のとおり、主幹事方式とは他の債券で広く用いられている方式であることから、自治体による主幹事方式の採用とは、(国債を除く)債券発行で広く用いられる方式への移行と解釈することもできます。
本稿では主幹事方式の基本的な仕組みを説明した後、主幹事方式がその他の発行方法に比べどのような特徴があるかを議論します。また、主幹事方式が導入された背景を考えるため、自治体において最初に主幹事方式を導入した東京都と横浜市の事例を紹介します。紙面の関係で、取り上げられない話題については次回以降の論文で説明します。
石田・服部(2024)で指摘したとおり、一般的に、地方債といえばいわゆるローンの形式を含む銀行等引受債なども含みますが、本稿では主幹事方式を説明することを目的としていることから、有価証券の形式をとる市場公募地方債を前提に議論を展開する点に注意してください。なお、筆者(服部)が記載してきた債券入門シリーズは、ウェブサイトにまとめて掲載してあります*5。


2.主幹事方式
2.1 主幹事方式とは
地方自治体が地方債を発行する場合、投資家と発行体(=地方自治体)が折り合える価格(金利)を探す必要があります。国債の場合、入札を実施することにより、この価格(金利)を模索します。具体的には財務省が発行額をまず定め、その金額をもとに投資家がプライマリー・ディーラー(Primary Dealers, PD)などの証券会社を通じて札を入れて発行価格を決めます。石田・服部(2020)や服部(2023)で説明したとおり、例えば、ダッチ方式であれば、入札の形で表明された需要曲線と供給曲線が交差する価格で一律に発行がなされます。
一方、主幹事方式と呼ばれる方式では、主幹事証券と呼ばれる証券会社を主軸に、証券会社が発行する債券を一時的に在庫として抱え、発行体と投資家が折り合える価格を決めます。そもそも「引受」とは、発行体が有価証券を発行する際、主に証券会社が販売することを目的に当該有価証券を取得することを指します。図表1 引受(主幹事方式)のイメージがそのイメージですが、証券会社における投資銀行部門が発行体サイドが望む価格(金利)を伝える一方、典型的にはシンジケート部と呼ばれる部署を通じて、マーケット部門*6がその情報を投資家に伝えます。例えば、発行体が一定の金利で発行したい場合、シンジケート部を通じてその情報を投資家に伝達します。その金利が投資家の目線から見て低すぎれば、投資家の需要が募れる金利を再びシンジケート部を通じて発行体に伝えます。そのプロセスを繰り返すことで、発行体と投資家が折り合える金利(価格)を模索していきます。
証券会社の中では、発行体サイドとやり取りするセクションと、投資家とやり取りするセクションが厳格に分かれており、情報の遮断がなされています。この遮断を「チャイニーズ・ウォール(情報遮断)」といいます。というのも、発行体はできる限り低い金利で資金を調達したいですし、投資家はできるだけ高い金利で運用したいと考えますから、その間には利害関係が存在します。したがって、証券会社の中で、発行体サイドの対応をするセクション(投資銀行部門)と投資家サイドを対応するセクション(マーケット部門)との間で情報を遮断することにより、利益相反が生まれないような工夫をしているわけです。
上述のとおり、主幹事方式とは、証券会社を通じて発行体と投資家が折り合える価格を模索する方式といえます。このような点も踏まえて、主幹事方式は、地方債の自由化が始まる前から用いられていたシ団引受方式に比べて、より市場の評価を重視した発行方法であると指摘されます。
2.2 主幹事証券とは
地方自治体は、公募地方債を起債する場合、上記のプロセスを担う証券会社を選定します。引受を行う証券会社を「引受証券(引受会社)」といい、そのうち契約などについても担う証券会社を「幹事証券」といいます。さらに、その中でも、条件決定やドキュメンテーションなども担う証券会社を「主幹事証券」といいます。このように、実際の引受には多くの証券会社が関わるので、引受を行うために、引受を行う証券会社で構成される「引受シンジケート団」を作ります。
「主幹事証券」という名称に「主」という表現があるため、主幹事証券は一社だけと思われるかもしれませんが、複数社が主幹事証券になるケースも少なくありません。一社だけが主幹事になる場合、単独主幹事証券と呼ばれる一方、複数の場合は共同主幹事証券などといわれます(そのうち中心的な役割を果たす証券会社は筆頭主幹事証券(トップレフト)などと呼ばれます)。地方債の起債において主幹事方式をとる場合、典型的には2-3社の主幹事証券を決めますが、主幹事証券を何社選定するかはケース・バイ・ケースです。
地方債の主幹事方式では、証券会社に提案などを求めることにより、一定期間の発行を担う主幹事証券を定める形をとることも少なくありません。社債などに比べ、地方債の場合は、発行規模が大きく、また、発行頻度も多いことから、事務等を担うトップレフトを半年間や1年間など継続させたほうが事務効率が高いこと等が背景にあります。もっとも、例えば、東京都のようにその都度主幹事証券を定める事例もあります(事業会社が社債を発行する場合は、通常、その都度、主幹事証券を選定します)。
2.3 市場公募地方債において主幹事方式が普及した背景
従来、地方債のうち5年債と10年債についてはシ団引受方式が取られてきました。そのため、現時点における市場公募地方債市場でも、引き続き同年限についてはシ団引受方式が普及しています。一方で、2000年代から発行年限の多様化も徐々に広がってきたところ*7、20年・30年債などの超長期債については、主幹事方式を採用する地方自治体も増加してきました。
図表2 市場公募地方債を発行する各団体の発行方式一覧は、2023年度における各自治体の発行方法を比較したものです。この図表をみると、現時点における発行方式は主にシ団引受方式及び主幹事方式が用いられていることがわかります。また、5年・10年債の多くでシ団引受方式が用いられている傾向がある一方で、超長期債については主幹事方式が用いられていることがわかります。
市場公募地方債の年限は、従来は、5年・10年が中心(中期債が中心)でした。理由としては、銀行は負債サイドの年限が短いことから、ALM(Asset Liability Management)の観点からは資産サイドも負債と同程度の年限が好まれることもあり、5年・10年は地元の地銀などが投資しやすい年限であったからです(銀行のALMについては服部(2023)の6章などを参照)。その一方、主幹事方式は、20年債などの超長期債を発行することが必要になる中で、普及した発行方法とみることもできます。
超長期債の発行が進んだ背景には、地方債市場の自由化が進み、年限の多様化が図られる中、地方債の安定消化に向けて、生命保険会社などの機関投資家など、従来の投資家以外も取り込む必要があったからとされています*8。前述のとおり、主幹事方式は投資家の需要をより反映した起債方法であるところ、従来にはなかった超長期債が発行される中で、シ団引受方式でなく、市場の意見を反映しやすい主幹事方式が取られたと解釈できます。
超長期債の起債で主幹事方式の採用が進んだ理由として、総務省が、東京都と横浜市に対して、20年債などの超長期債において主幹事方式を用いることを容認したことも挙げられています。一方で、10年債の主幹事方式の採用については総務省が「自治体への影響が大きい」*9として、当初慎重な姿勢を示したことも指摘されています(その後、主幹事方式を用いた10年債の発行が始まりますが、その点は後述します)。
2.4 主幹事方式のメリットとデメリット
本節の最後に、主幹事方式のメリットとデメリットについて、他の発行方式と比較しながら議論します。地方債協会(2010)によると、(1)入札方式、(2)シ団引受方式、(3)主幹事方式の各方式のメリット・デメリットは図表3 入札方式、シ団引受方式、主幹事方式のメリット・デメリットの通り整理されています。今日の市場公募地方債においては、前述のとおり、基幹年限の5年、10年債は主にシ団引受方式で発行されている一方で、超長期債については主幹事方式で発行される傾向にあります。
シ団引受方式に比べて、主幹事方式と入札は市場の評価を重視した発行方式と指摘されます(次節で、東京都や横浜市が市場を重視する中で、主幹事方式を導入した経緯を説明します)。もっとも、市場の評価を重視するといっても、主幹事方式と入札のどちらが望ましいかは簡単には判断できず、経済学でもどちらが望ましいかは長く研究されているトピックです。その上で、我が国の実態として、国債を除く大部分の発行体が主幹事方式を導入しているという意味で、主幹事方式の方が広い主体に受け入れられている方式といえます。地方債は、その信用力・発行頻度・発行額等の観点で、国債と社債の間に位置することから、国のように入札が用いられることもあれば、社債のように主幹事方式が取られることもあるのが実態といえましょう。
事務の手間という観点であれば、主幹事方式の方が入札より手間がかかるとの指摘もあります。前述のとおり、主幹事証券の選定の際に、各証券会社の提案などでコンペを行うなど、入札にはない様々な事務が必要になってきます。また、前述の起債のプロセスでは、発行体と投資家の間でプライスを決める手続きが必要になります。その一方で、入札の場合は、システムに投資家が札を入れれば価格が決まります。事務手続きの側面から見れば、主幹事方式より入札の方がシンプルであるとの意見も知られています。
実際には、近年、入札を採用する自治体が減る一方、主幹事方式をとる自治体は増えています。その背景には、特に近年、低金利が常態化してからは、実態として自治体間の市場公募地方債のスプレッドに大きな差が生まれず、入札により起債結果の変動が大きくなること等が忌避されたとの指摘もあるところです。


3.主幹事方式の拡大の流れ
3.1 東京都の事例
前述のとおり、超長期債については主幹事方式が取られるようになった先駆けとして、まず東京都と横浜市が超長期債に主幹事方式を導入しました。その後、この2つの事例が出たことを背景に、主幹事方式が市場公募地方債を発行する自治体の中で一定程度、普及していきます。正確には、横浜市が自治体として初めて主幹事方式を導入(20年債の起債)*10し、東京都の超長期債がそれに続きました。
横浜市が最初の事例ではあるものの*11、東京都は、主幹事方式を導入するにあたり、「都債発行に関する制度改革検討委員会」を立ち上げ、「『都債発行に関する制度改革検討委員会』報告」(東京都,2003年)を公開したことで注目をうけました*12。同検討委員会は都庁および外部有識者で構成され、2002年12月から国内外の公社債の発行方式の比較検討等を行い、安定的な調達と低コストを両立できる方式を検討しました。検討事案については、シ団引受方式から主幹事方式への移行に加え、主幹事証券の選定方法、プライシングの方法、年限の多様化等が議論されました*13。図表4 「都債発行に関する制度改革検討委員会」における提言の骨子が同委員会の提言内容ですが、「市場原理の導入による適切な都債発行を実施するため、都は、現行の条件決定方式から離脱し、主幹事方式に移行すべき」*14とあり、この提言をうけて、東京都は超長期債について主幹事方式をとりました。
石田・服部(2024)で説明したとおり、2テーブル方式が導入されて以降、東京都とその他の自治体で金利差が生じうる構図になったわけですが、主幹事方式を採用してマーケットを重視した発行をする理由として、実際にはその金利差がほとんど生じておらず、そのことが都民のコスト増につながっているという問題意識もありました。図表5 都債と第2テーブルの発行条件の推移は東京都と他の団体(第2テーブル)の発行条件の推移を示していますが、発行金利に差がほとんど生じていないことが確認できます。この背景として、「都債の条件決定に至る経過が不透明であり、引受に競争原理も働いていないとの指摘を受ける中で、高コストな構造となっていることを表している」*15としており、「コスト高は、結局は東京都民の負担に帰することとなるため、早急な改善が必要」*16としています。
この報告書では、シ団に支払う発行手数料が、一般事業債の発行手数料よりも割高であるという問題意識も指摘されています。シ団引受方式の場合、「投資家の需要積み上げではなく、国や発行団体の代表、シ団代表との協議により発行条件を決定するため、シ団にとっては透明性が低く、リスクが高い引受となっていること」*17と指摘されています。これに加え、引受に係るオーバーナイトリスク*18やレス販売の問題*19も発行手数料増につながり、相対的に引受リスクが低く、発行に関する透明性も高い主幹事方式に移行することで、発行コストを低下させることができると評価されました*20。
また主幹事選定において、証券会社などから提案を受けたのち、どう選定を行っていくかについても議論されています。その手順が図表6 主幹事の選定手続きですが、この手法は当時の他の債券の発行方法を参照しており、横浜市が初めて主幹事方式を導入する際も、同一の手法が用いられています。
その後、東京都は年限の多様化に加えて、外貨債やグリーン債、さらに、融合方式と呼ばれる独自の発行方式を実施していきますが、特に融合方式については次回の論文で説明します。
3.2 超長期債以外の年限へ拡大:横浜市の事例
超長期債において主幹事方式を採用
前述のとおり、横浜市は、2003年に、地方債を発行する地方自治体の中で最初に主幹事方式を導入した自治体です。当時の経緯を知るには、横浜市財政局総務課市債係が記載した調査季報153号が参考になります(横浜市財政局総務課市債係,2003)。横浜市は、主幹事方式が導入される以前から市場を重視した発行の努力を行っていたとされています。横浜市財政局総務課市債係(2003)によれば、主幹事方式の導入という観点で、横浜市は個別条件交渉方式に移り、自治体初の20年満期一括の市場公募債を発行しましたが、「20年債という投資家層の限られた特殊な市場であること等を考慮し、民間企業が発行する社債などで一般的な『主幹事制』で行うこととした」*21としています(満期一括償還方式については石田・服部(2024)のBOXを参照)。
横浜市では、20年債の継続的な発行を行うために、「投資家重視のスタンスに立ち、『提案による主幹事先行方式』による発行条件決定方式を採用すること」*22とし、「主幹事会社はプロポーザル方式で『提案書』を一定の評価軸で審査した上で、『横浜市債に関する業者選定委員会』で選定するという手続きをとった」*23としています。現在の地方債の主幹事証券を決める上で、提案ベースで一定期間の主幹事証券を定めており、これはその原型といえるものです。
全年限に主幹事方式を採用
その後、横浜市はすべての年限の地方債に主幹事方式を導入します。図表7 横浜市市場公募債における「市場との対話」の歩み*27は全年限に主幹事方式を導入するまでの経緯を示していますが、2010年(平成22年)には最後に残った10年債も主幹事方式に変化させて、全ての年限・起債で主幹事方式を確立したとしています。報道では、「公募地方債の引き受け手である投資家との対話姿勢を強化」し、「2010年度から定例の10年債(固定の引受シンジケート団型)の発行に際し、企業が発行する社債と同じ主幹事方式を採用」しています*24。初回の発行に際しては、「地方債のスプレッドが縮小傾向にあるなか、より高いスプレッドを求める投資家の需要に応える形となった」としています(全年限の主幹事方式についてはBOXを参照してください)。
横浜市は、発行後は市場実勢に応じて自由に売買できる「均一価格リリース」を宣言するとともに、プライシング方法についても、それまでは昼休み中に発行条件を決めていましたが、午前の取引中に条件を決める方法を取り入れました。これも今では普及した方式ですが(現在は当日の朝9時30分や10時に条件決定する傾向にあります)、プライシング等については紙面の関係で次回以降の論文で議論する予定です。
今では、地方自治体が地方債を発行する際に格付けを取得することは少なくありません。日本の自治体で依頼格付けを初めて取得したのは、2006年に米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)から格付けを取得した横浜市です*25。横浜市が格付けを取得した背景として、安定的で有利な資金調達を実現することもありますが、外部からの客観的な評価を取得することによる職員のモチベーション向上も指摘されています(また、竹中総務大臣(当時)の時に地方自治体が格付けを取得するハードルが低下したことを、このタイミングでの格付け取得に至った理由として挙げている報道もあります)*26。
フレックス枠の拡大
横浜市の特徴として、市場公募地方債発行の枠である「フレックス」の枠を拡大していく点も特徴です。年末に発行される地方債発行計画において各自治体の市場公募地方債の詳細が発表されるのですが、フレックス枠とは、地方債発行計画が出た時点で一回当たりの発行額やタイミングを定めず、自治体が発行枠の中で、マーケットの状況等に鑑み、自らが望ましいと考えるタイミング・年限の債券を発行する仕組みです。具体的には、自治体が主幹事証券等とコミュニケーションをとりながら、例えば、翌月に20年債を200億円発行するという方法です。
図表8 横浜市の市場公募債に占めるフレックス枠の割合の推移は横浜市が発行する市場公募債のうち、フレックス枠の推移を示したものです。かつて、フレックス枠は10~30%程度であったところ、2021年度以降、フレックスの割合が100%になっていることがわかります。横浜市のように、「完全フレックス制」をとる自治体は現時点で非常に少ないのが現状ですが*28、マーケットの動きに応じて、より機動的に年限や発行タイミングを考えることができる、マーケットを重視した新しい起債方法ともいえます*29。


BOX 地方自治体による全年限の主幹事方式採用
本稿で説明したとおり、全年限の債券を主幹事方式により発行する自治体も増加傾向にあります。最初に全年限主幹事方式を導入したのは神戸市です*30。神戸市行財政局財政部財務課(2012)では、「阪神・淡路大震災からの復興対策のための財政出動が10年以上経ってもなお、市の財政が危機的状況にあるというイメージをもたらし、それがスプレッドに反映された結果となりました。そのイメージを払拭するため、本市が震災以降途切れることなく行財政改革を実行しており、その効果が財政状況の改善に繋がっていることを多くの方に知ってもらう必要があると考えました。そこで投資家との対話を行う手段として引受方式を主幹事方式とし、平成20年度から個別債の全ての年限で採用することにしました」(p.18)と説明しています。本稿で紹介した横浜市がそれに続き、今では、大阪市、兵庫県、福岡県が全年限の主幹事方式を採用しています*31。一方、現時点でも、シ団引受方式は5年・10年の地方債を軸に広く用いられていることに注意してください。


4.終わりに
今回は主幹事方式の概要に加え、最初に導入した東京都と横浜市の事例を取り上げました。次回はシ団引受方式を説明します。

参考文献
[1].石田良・服部孝洋(2020)「日本国債入門:ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介」財務総合政策研究所PRI discussion paper series(20A-6)
[2].石田良、服部孝洋(2024)「引合方式入門―大阪府債の事例―」『ファイナンス』,22-28.
[3].神戸市行財政局財政部財務課(2012)「神戸市の主幹事方式を中心とした起債運営とIRの取り組みについて」『地方債』,16-20.
[4].小西砂千夫(2011)「市場と向き合う地方債 -自由化と財政秩序維持のバランス」有斐閣
[5].齋藤通雄・服部孝洋(2023)「齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(前編)」『ファイナンス』,34-45.
[6].地方債協会(2010)「金融市場環境の変化を受けた地方債投資ニーズの動向と資金調達手法の変化」、平成21年度「地方債に関する調査研究委員会」報告書収録.
[7].東京都(2003)「『都債発行に関する制度改革検討委員会」報告」
[8].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情出版会
[9].横浜市財政局総務課市債係(2003)「地方の自立を実現する地方財政制度の在り方(2)地方債制度における自由度拡大に向けた取り組み」『調査季報』153号,33-38.
[10].持田信樹・林正義(2018)「地方債の経済分析」有斐閣
*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿の作成にあたっては、横浜市財政局資金課の古川聡課長および佐々木俊弘係長などからコメントをいただきました。
*2) 客員研究員
*3) 特任准教授
*4) 国債については以前はシ団引受方式が用いられており、入札へ変更されましたが、詳細は齋藤・服部(2023)を参照ください。
*5) 下記を参照
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*6) 投資家に販売するセクションにはリテールセクションもありますが、債券は機関投資家に販売することが多いので、ここでは機関投資家向けサービスを担うマーケット部門を前提とした説明をしています。なお、債券については、個人向け社債や個人向け地方債も存在する点に注意してください。
*7) 持田・林(2018)は、第3章で「2000年代には発行年限の多様化も進むこととなった」(p.65)としており、個別条件交渉方式に全面的に移行した2006年度以降、より多くの年限の地方債の発行が行われたとしています。
*8) 小西(2011)は「ALMの観点では、3年以下の預金で資金を調達している金融機関では長期債の引受に制約がかかるだけでなく、同一貸付先への与信が集中することを避けなければならない」(p.43-44)、「生命保険会社の場合には、ALMの観点では保有資産の長期化が望ましいことから、長期債である地方債を歓迎する傾向がある」(p.44)としています。
*9) 日本経済新聞(2023/7/8)は「地方債、横並びに風穴―都・横浜が改革先導(ポジション)」では「総務省は都と横浜市の主幹事方式などによる超長期債発行は容認した。しかし十年債への主幹事方式導入は『自治体への影響が大きい』(同課(筆者注:総務省地方債課))と慎重姿勢だ」としています。
*10) 日本経済新聞(2003/7/18)「横浜市、20年債条件決定、初の主幹事方式」
*11) https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/iinkaihoukokuzenbun0527
*12) 日本経済新聞(2023/7/8)「地方債、横並びに風穴―都・横浜が改革先導(ポジション)」
*13) 日経公社債情報(2003/6/9)「〈都債改革、夏にも第一弾〉主幹事方式で超長期債」
*14) 東京都(2003)のp.36より抜粋。
*15) 東京都(2003)のp.5より抜粋。
*16) 東京都(2003)のp.5より抜粋。
*17) 東京都(2003)のp.31より抜粋。
*18) 同報告書では「条件交渉が夕刻に行われ、正式な条件決定が翌日の午前11時となっているため、その間シ団は価格変動リスク(オーバーナイトリスク)を負うこと」(東京都 2003, p.31)としています。
*19) 同報告書では「地方債銘柄の中で投資家からの需要の低いものを、条件決定した価格よりも値引きして販売し、その値引き分を発行手数料で賄う「レス販売」が常態化しているとの指摘も一部に見られること」(東京都 2003, p.31)としています。
*20) 「主幹事の選定は提案による方法が最もメリットが多いと考えられるため、これを基本とするべきである。この方式を導入することによって、引受リスクが低減し、発行手数料などのコスト削減が期待できる。また、主幹事は市場実勢を正確に把握する責任を負うことから、発行条件などの面で透明性が高まる。このため、投資家の評価を得やすく、安定的な調達や有利な発行条件を確保するという面で効果が期待できる。さらには、主幹事候補会社の提案を競わせることとなるため、適正な競争も働くこととなる」(東京都 2003, p.37)としています。
*21) 横浜市財政局総務課市債係(2003)のp.37-38より抜粋
*22) 横浜市財政局総務課市債係(2003)のp.38より抜粋。
*23) 横浜市財政局総務課市債係(2003)のp.38より抜粋。
*24) 日本経済新聞(2010/5/14)「起債、横浜市が投資家との対話姿勢を強化 10年債に主幹事方式導入」より抜粋。
*25) それ以前もいわゆる勝手格付けは付されていました。もっとも、勝手格付けについては2008年にR&IおよびJCRが格付けの付与をやめています。
*26) ここでの説明は、日本経済新聞(2006/10/5)「横浜市、「国債と同等」格付け、S&Pから取得―資金調達有利に」などを参照しています。
*27) https://www.chihousai.or.jp/08/h24_ir_pdf/37yokohama1.pdf
*28) 筆者の理解では、執筆時時点で横浜市と神戸市のみ、公募地方債のすべてをフレックス枠で発行しています(ただし、神戸市の場合、共同発行債が発行されているところ、それにはシ団引受方式が用いられています。なお、横浜市は共同発行債を発行していません)。
*29) 報道によれば、トランスペアレンシー方式が2021年度から全面的に導入されたところ、マーケットによっては当初想定したほど投資家の需要がない可能性があり、マーケットに合わせて機動的に起債が可能であるフレックス枠の重要性が高まったことが完全フレックス制導入の背景にある、という指摘もあります(トランスペアレンシー方式については別の機会に記載します)。
*30) 神戸市はIR資料などで「2008年度、地方自治体で初めて全年限で主幹事方式を採用」と指摘しています(下記等を参照)。
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/8035/kobe_ir_r5.pdf
*31) 名古屋市は、基本的にすべて主幹事方式を採用しているものの、「幹事方式」も採用しています。シ団交渉方式(幹事方式)とは固定シェア分(100億円)を通じてシ団による継続販売を行う一方、幹事上乗せ分を起債毎に選定する幹事会社(3社程度)に多く配分する方法です。