国際機構課長 木原 大策/係長 舟木 健/係員 西﨑 恵理奈
開発機関課長 津田 尊弘/係長 片山 周一
国際調整室長 齊藤 郁夫/係員 阿部 南海
巻頭文
2024年4月17日から4月19日にかけて、米・ワシントンにおいて、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)、日米韓財務大臣会合等の国際会議が開催された。これらの会議は、第79回IMF・世銀春会合に合わせて開催されたものである。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
1 G7財務大臣・中央銀行総裁会議
(2024年4月17日)
今回のG7は、2024年2月28日にサンパウロで開催された会議に続く、イタリア議長下における2回目の大臣・総裁級の会議となった。今回のG7においても、日本議長下に続き、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の対面での参加も得て、ウクライナ支援等について議論を行い、会議後、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
世界経済は、最近の複合的なショックに対する強靱さを見せ、リスクはよりバランスしてきているが、成長見通しは過去の平均より低いとの認識を共有し、為替を含む過去のG7における政策対応に関するコミットメントを再確認した。併せて、ロシアによるウクライナへの侵略や中東情勢などの地政学的要因が世界経済のリスクであるとの認識を共有し、ロシアを非難するとともに、侵略の即時終結を求めることを確認した。また、ハマスによるテロ攻撃に端を発するガザにおける人道危機についても懸念を表明した。
ロシア制裁・ウクライナ支援については、ウクライナに対する揺るぎない支援を再確認した。日本からのグラントによる財政支援、日本の信用補完も活用した世銀融資、追加支援(世銀融資に対する追加の信用補完)を含む予算の成立などにも言及がなされている。また、ロシア制裁を継続し、制裁の回避に対抗していくことを確認した。凍結されたロシアの国家資産の活用策に関しては、G7首脳声明を踏まえ、本年6月のG7プーリア・サミットに向けて、国際法及び各国の法制度に整合的な形で、凍結されたロシアの国有資産がウクライナを支援するために活用され得る全ての可能な方策について、関係各国で緊密に連携しつつ議論を続けていくことで合意した。
国際保健については、パンデミックへの「予防・備え・対応」(PPR)を強化するための取組を、昨年5月に合意された「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」に基づき進めることで一致を見るとともに、対応資金(Response financing)のための革新的なメカニズムの検討を継続することや、財保連携の重要性を再確認した。
気候変動については、OECDによる炭素削減アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)の作業を支持するとともに、クリーンエネルギー関連製品等の強靱で包摂的なサプライチェーンの強化に向けたパートナーシップ(RISE)*1の進展に期待を表明した。
MDB改革については、G20における「より良い、より大きい、より効果的なMDBs」の実現やCAF提言の更なる実施を含む議論を歓迎し、低所得国を支援する国際開発協会(IDA21)やアジア開発基金(ADF14)の強固な増資への支持を表明した。
債務問題については、予測可能で、適時に、秩序立ち、かつ連携した方法で「共通枠組」の実施を改善していく必要性を確認し、スリランカとの覚書の最終化に向けた作業の進展を歓迎するとともに、全てのステークホルダーに対し、データ共有の取組を通じた債務透明性の向上を要請した。
IMFについては、第16次クォータ見直しの完了を歓迎した。会議において日本から、IMF増資に応じるための法案が国会で成立した旨を説明した。
国際課税においては、「2本の柱」の解決策の実施を最優先事項として、本年6月末までの多国間条約署名への強いコミットを再確認しつつ、国連での議論に際しては全会一致で議論を進めること等の重要性を強調した。
上記の通り、G7間で率直な議論が行われた結果、多くの成果が得られたものと考えている。
2 G20財務大臣・中央銀行総裁会議
(2024年4月17~18日)
今回のG20は、2024年2月28~29日にサンパウロで開催された会議に続く、ブラジル議長下における2回目の大臣・総裁級の会議となった。今回の会議では共同声明は発出されていない。
初日の「公正な移行と気候変動目標に向けたファイナンス」セッションにおいては、途上国の気候変動対応への資金動員等について議論を行った。議論の中では、MDBsの融資余力拡大や、既存の気候変動関連基金による支援の効率化、関係者間の連携強化、民間資金動員や国内資金動員の強化などの重要性が確認された。また、融資余力拡大に資する日本の貢献として、革新的な金融手法である世銀のポートフォリオ保証プラットフォームやADBのIF-CAPへの信用補完の供与(それぞれ10億米ドル、6億米ドル)を行うことを紹介した。
2日目の「21世紀のための国際金融アーキテクチャー」セッションにおいては、MDB改革等に関して議論が行われた。議論の中では、MDB改革に関して、「より良い、より大きい、より効果的なMDBs」の実現に向けた民間資金動員の促進や融資余力拡大のための自己資本十分性に関する取組(CAFレビュー)の継続的な実施のほか、国際開発協会(IDA21)やアジア開発基金(ADF14)といった低所得国支援のための譲許的基金における資金の確保の重要性について認識が共有された。加えて、債務問題に関して、日本から「共通枠組」を含む債務再編のタイムラインとプロセスを明確化し、予見可能性の向上を図る必要性を主張するとともに、債務データ突合のためのデータ共有の取組への全G20メンバーの参加を働きかけた。IMFに関しては、第16次増資の早期発効が最優先であることを確認するとともに、日本からは、IMF増資に応じるための法案が既に国会で成立したことを説明した。
このように、今回のG20において、重要な論点について、我が国の取組を紹介し、建設的な議論を交わすことができた点は有意義であったと思われる。
3 第49回国際通貨金融委員会(IMFC)
(2024年4月18日~19日)
IMF・世銀春会合の終盤である4月18日から19日にかけて、第49回国際通貨金融委員会(IMFC)*2が開催され、日本からは鈴木財務大臣と植田日銀総裁が出席した。今回のIMFCは、本年1月にサウジアラビアがIMFC議長国に就任して以来、初の会合であった。
会合では、世界経済の動向と見通し、IMFや加盟国が取り組むべき課題について議論が行われた。日本からは、世界経済に対する認識や為替に関する立場について発言したほか、世界経済が様々な課題に直面する中、グローバル金融セーフティネット(GFSN)の中心であるIMFがその対応に一層貢献できるよう、引き続きIMFの強化を進めるべきであることを主張した。具体的には、昨年12月に合意された第16次クォータ増資の速やかな発効がIMFの最優先課題であるとして、増資に応じるためのIMF加盟措置法改正法案が今回のIMFCに先立って4月12日に可決されたことを報告するとともに、各国の国内手続の迅速な完了を呼び掛けた。このほか、日本が長年に亘りその取組を支援してきたIMFの低所得国に対する能力開発支援について、太平洋島嶼国地域との更なる協力関係の強化に向け、太平洋金融技術支援センター(Pacific Financial Technical Assistance Centre:PFTAC)に対して6百万ドルの追加貢献を行うことを表明した。
IMFCにおける議論の結果は、加盟国間の共同声明(コミュニケ)として発出されることとなっているが、2021年10月の会合以来、コミュニケは発出されていない。今回のIMFCにおいても、各国間で粘り強い交渉と調整が続けられたが、声明冒頭の地政学的要因に関する文言について加盟国間での合意が得られず、「ウクライナにおける戦争、ガザにおける人道危機、紅海における海運上の混乱を含む、現在の戦争や紛争による、世界経済へのマクロ経済面、金融面での影響について議論した」と冒頭に記載する形で、議長声明での発出となった。他方で、声明冒頭以外については、「進行中の戦争及び紛争は世界経済に大きな負担を課し続けている」という文言を含め、各国間で合意がなされている。また、クォータについては、第16次クォータ見直しの下での50%増資の発効に向けて、本年11月の期限までに各国が国内手続きを完了するよう迅速に取り組むことに合意するとともに、次回の第17次クォータ見直しの下で、計算式の見直しを含む幅広いアプローチを来年6月までに取りまとめるよう取り組むことを再確認した。そのほか、IMFの各種融資制度の見直しや、本年の理事選挙においてサブサハラ・アフリカ地域から25番目のIMF理事を設置すること等、IMFの機能・ガバナンスの強化についても、引き続き取り組むことを再確認した。このほか、先般決定したゲオルギエヴァ現専務理事の再選について、各国から歓迎の声があった。
4 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)
(2024年4月19日)
世界銀行・IMF合同開発委員会*3では、世銀改革について議論が行われた。世銀改革とは、地球規模課題への対応強化を目的に、世界銀行のビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを図る一連の取組のことで、2023年4月以来、3回連続で議題に設定された。
以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、前回会合以降の世銀改革の進展を勇気づけられるものとし、世銀銀行グループの成果の新しい測定手法であるWBGスコアカードの公表などが歓迎された。また、支援量や金利によるインセンティブの提供を通じ、国境を越えて外部性を有する地球規模課題への対応を促進する枠組みである「資金インセンティブのためのフレームワーク(FFI)」の開始が評価された。さらに、民間資金動員の観点から、世界銀行グループの保証業務の集約化、簡素化を図るWBG保証プラットフォームの開始に期待が示された。
次回会合に向けては、世銀改革の実施について総務に報告するよう期待が示された。さらに、理事会及びマネジメントに対し、世銀改革の実施に係る報告を提出した後には、国際復興開発銀行(IBRD)の財務能力と世界銀行グループのビション及びミッションとの整合性を評価するよう求めた。また、最も貧しく脆弱な人々のニーズに対処するため、野心的な成果をもたらす国際開発協会(IDA)第21次増資の成功に対しコミットがなされ、そのためには、既存及び新規のドナー、支援対象国、並びに世銀による確固たる努力が必要であることが確認された。
日本国ステートメントでは、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、ウクライナやガザ情勢を含む地政学的危機に対する日本の世界銀行グループを通じた支援を紹介、同グループによる役割・貢献への期待を示した。また、世銀改革の進展を高く評価しつつ、財務面の取組としてFFIの開始を支持、日本として、パンデミックの予防・備え・対応を含む地球規模課題への支援を念頭に、ポートフォリオ保証プラットフォームに対し10億ドルの拠出を行い、融資余力の拡大に貢献することを表明した。加えて、IBRD卒業所得未満の支援枠の設立を条件に、譲許的資金の裏付となる20百万ドルの拠出を表明した。最後に、IBRDに加え、IDAを通じて低所得国による地球規模課題への対応を支援する緊急の必要性も忘れてはならないとし、マネジメント及び借入国と共に、強固なIDA第21次増資(IDA21)に向けて貢献していく姿勢を示した。
5 日米韓財務大臣会合
(2024年4月17日)
2023年8月に米国・キャンプデービッドにて行われた日米韓首脳会談にて、日米韓財務大臣会合の開催が合意されたことを受け、3か国の財務大臣が参加するIMF・世銀春会合の機会に、米国財務省にて、初の日米韓財務大臣会合が開催された。本会合では、米国のイエレン財務長官が議長を務め、日本の鈴木財務大臣、韓国のチェ経済副総理兼企画財政部長官が出席し、対ロシア・北朝鮮制裁、経済的威圧や過剰生産能力等の非市場的慣行及びサプライチェーンの脆弱性への対応、太平洋島嶼国支援、MDB改革等G20における協力等について議論を行った。
会合終了後には、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。共同声明は、基本的価値観を共有する日米韓3か国の経済関係の重要性を示すものとなっている。まず、世界経済について、開かれた公正な経済慣行を通じて、インド太平洋地域及び世界にとって好ましい機会と繁栄の継続を追求することや、持続可能な経済成長及び金融の安定並びに秩序立った、良好に機能する金融市場を促進するために引き続き協力していくことに合意した。為替については、足元の状況に鑑み、「最近の急速な円安及びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、既存のG20のコミットメントに沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」ことに合意した。対ロシア・北朝鮮制裁に関しては、北朝鮮の弾道ミサイルのロシアへの輸出及びロシアによる調達を強く非難し、直ちに停止するよう求めた。また、サプライチェーンの脆弱性と、経済的威圧や主要部門における過剰生産能力を含む他国の非市場的慣行による我々の経済へのあり得べき損害に打ち克つための協調の重要性を強調するとともに、RISEパートナーシップ等を通じたサプライチェーンの強靱化に共に取り組むことに合意した。さらに、重要な地球規模課題により良く対応できるよう、MDB改革等において協力することや、ASEAN及び太平洋島嶼国の重要性を再確認し、同地域におけるマクロ経済と金融の強靱性・健全性の強化に向けて協力することに合意した。
最後に、日米韓3か国の経済の強化及び世界経済の繁栄を促進するため、引き続き協力することを確認し、上記の合意を前進させるため、事務方での取組を継続することとなった。国際情勢が一層複雑化する中、日米韓3か国の緊密な対話と連携は非常に重要である。3か国で率直な議論が行われた結果多くの成果が得られ、大変有意義な会合となった。
*1) 強靱で包摂的なサプライチェーンの強化(Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement, RISE)に向けたパートナーシップ:2023年のG7議長国として日本が策定を主導し、2023年10月に世銀や同志国とともに立ち上げた、低・中所得国への支援を通じてクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン強靭化を図るイニシアティブ。
*2) 国際通貨金融委員会(IMFC)は、国際通貨および金融システムに関する諸問題について、IMF総務会に助言および勧告を行うことを目的として、1999年に前身であるIMF暫定委員会を常設化・改編することで設置された。通常春と秋の年2回開催。各IMF理事選出国・母体を代表する大臣級の委員24名から構成される(現在の議長はサウジアラビアのアルジャドアーン財務大臣。日本からは鈴木財務大臣がIMFC委員として参加)。
*3) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第109回目。
開発機関課長 津田 尊弘/係長 片山 周一
国際調整室長 齊藤 郁夫/係員 阿部 南海
巻頭文
2024年4月17日から4月19日にかけて、米・ワシントンにおいて、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)、日米韓財務大臣会合等の国際会議が開催された。これらの会議は、第79回IMF・世銀春会合に合わせて開催されたものである。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
1 G7財務大臣・中央銀行総裁会議
(2024年4月17日)
今回のG7は、2024年2月28日にサンパウロで開催された会議に続く、イタリア議長下における2回目の大臣・総裁級の会議となった。今回のG7においても、日本議長下に続き、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の対面での参加も得て、ウクライナ支援等について議論を行い、会議後、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
世界経済は、最近の複合的なショックに対する強靱さを見せ、リスクはよりバランスしてきているが、成長見通しは過去の平均より低いとの認識を共有し、為替を含む過去のG7における政策対応に関するコミットメントを再確認した。併せて、ロシアによるウクライナへの侵略や中東情勢などの地政学的要因が世界経済のリスクであるとの認識を共有し、ロシアを非難するとともに、侵略の即時終結を求めることを確認した。また、ハマスによるテロ攻撃に端を発するガザにおける人道危機についても懸念を表明した。
ロシア制裁・ウクライナ支援については、ウクライナに対する揺るぎない支援を再確認した。日本からのグラントによる財政支援、日本の信用補完も活用した世銀融資、追加支援(世銀融資に対する追加の信用補完)を含む予算の成立などにも言及がなされている。また、ロシア制裁を継続し、制裁の回避に対抗していくことを確認した。凍結されたロシアの国家資産の活用策に関しては、G7首脳声明を踏まえ、本年6月のG7プーリア・サミットに向けて、国際法及び各国の法制度に整合的な形で、凍結されたロシアの国有資産がウクライナを支援するために活用され得る全ての可能な方策について、関係各国で緊密に連携しつつ議論を続けていくことで合意した。
国際保健については、パンデミックへの「予防・備え・対応」(PPR)を強化するための取組を、昨年5月に合意された「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」に基づき進めることで一致を見るとともに、対応資金(Response financing)のための革新的なメカニズムの検討を継続することや、財保連携の重要性を再確認した。
気候変動については、OECDによる炭素削減アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)の作業を支持するとともに、クリーンエネルギー関連製品等の強靱で包摂的なサプライチェーンの強化に向けたパートナーシップ(RISE)*1の進展に期待を表明した。
MDB改革については、G20における「より良い、より大きい、より効果的なMDBs」の実現やCAF提言の更なる実施を含む議論を歓迎し、低所得国を支援する国際開発協会(IDA21)やアジア開発基金(ADF14)の強固な増資への支持を表明した。
債務問題については、予測可能で、適時に、秩序立ち、かつ連携した方法で「共通枠組」の実施を改善していく必要性を確認し、スリランカとの覚書の最終化に向けた作業の進展を歓迎するとともに、全てのステークホルダーに対し、データ共有の取組を通じた債務透明性の向上を要請した。
IMFについては、第16次クォータ見直しの完了を歓迎した。会議において日本から、IMF増資に応じるための法案が国会で成立した旨を説明した。
国際課税においては、「2本の柱」の解決策の実施を最優先事項として、本年6月末までの多国間条約署名への強いコミットを再確認しつつ、国連での議論に際しては全会一致で議論を進めること等の重要性を強調した。
上記の通り、G7間で率直な議論が行われた結果、多くの成果が得られたものと考えている。
2 G20財務大臣・中央銀行総裁会議
(2024年4月17~18日)
今回のG20は、2024年2月28~29日にサンパウロで開催された会議に続く、ブラジル議長下における2回目の大臣・総裁級の会議となった。今回の会議では共同声明は発出されていない。
初日の「公正な移行と気候変動目標に向けたファイナンス」セッションにおいては、途上国の気候変動対応への資金動員等について議論を行った。議論の中では、MDBsの融資余力拡大や、既存の気候変動関連基金による支援の効率化、関係者間の連携強化、民間資金動員や国内資金動員の強化などの重要性が確認された。また、融資余力拡大に資する日本の貢献として、革新的な金融手法である世銀のポートフォリオ保証プラットフォームやADBのIF-CAPへの信用補完の供与(それぞれ10億米ドル、6億米ドル)を行うことを紹介した。
2日目の「21世紀のための国際金融アーキテクチャー」セッションにおいては、MDB改革等に関して議論が行われた。議論の中では、MDB改革に関して、「より良い、より大きい、より効果的なMDBs」の実現に向けた民間資金動員の促進や融資余力拡大のための自己資本十分性に関する取組(CAFレビュー)の継続的な実施のほか、国際開発協会(IDA21)やアジア開発基金(ADF14)といった低所得国支援のための譲許的基金における資金の確保の重要性について認識が共有された。加えて、債務問題に関して、日本から「共通枠組」を含む債務再編のタイムラインとプロセスを明確化し、予見可能性の向上を図る必要性を主張するとともに、債務データ突合のためのデータ共有の取組への全G20メンバーの参加を働きかけた。IMFに関しては、第16次増資の早期発効が最優先であることを確認するとともに、日本からは、IMF増資に応じるための法案が既に国会で成立したことを説明した。
このように、今回のG20において、重要な論点について、我が国の取組を紹介し、建設的な議論を交わすことができた点は有意義であったと思われる。
3 第49回国際通貨金融委員会(IMFC)
(2024年4月18日~19日)
IMF・世銀春会合の終盤である4月18日から19日にかけて、第49回国際通貨金融委員会(IMFC)*2が開催され、日本からは鈴木財務大臣と植田日銀総裁が出席した。今回のIMFCは、本年1月にサウジアラビアがIMFC議長国に就任して以来、初の会合であった。
会合では、世界経済の動向と見通し、IMFや加盟国が取り組むべき課題について議論が行われた。日本からは、世界経済に対する認識や為替に関する立場について発言したほか、世界経済が様々な課題に直面する中、グローバル金融セーフティネット(GFSN)の中心であるIMFがその対応に一層貢献できるよう、引き続きIMFの強化を進めるべきであることを主張した。具体的には、昨年12月に合意された第16次クォータ増資の速やかな発効がIMFの最優先課題であるとして、増資に応じるためのIMF加盟措置法改正法案が今回のIMFCに先立って4月12日に可決されたことを報告するとともに、各国の国内手続の迅速な完了を呼び掛けた。このほか、日本が長年に亘りその取組を支援してきたIMFの低所得国に対する能力開発支援について、太平洋島嶼国地域との更なる協力関係の強化に向け、太平洋金融技術支援センター(Pacific Financial Technical Assistance Centre:PFTAC)に対して6百万ドルの追加貢献を行うことを表明した。
IMFCにおける議論の結果は、加盟国間の共同声明(コミュニケ)として発出されることとなっているが、2021年10月の会合以来、コミュニケは発出されていない。今回のIMFCにおいても、各国間で粘り強い交渉と調整が続けられたが、声明冒頭の地政学的要因に関する文言について加盟国間での合意が得られず、「ウクライナにおける戦争、ガザにおける人道危機、紅海における海運上の混乱を含む、現在の戦争や紛争による、世界経済へのマクロ経済面、金融面での影響について議論した」と冒頭に記載する形で、議長声明での発出となった。他方で、声明冒頭以外については、「進行中の戦争及び紛争は世界経済に大きな負担を課し続けている」という文言を含め、各国間で合意がなされている。また、クォータについては、第16次クォータ見直しの下での50%増資の発効に向けて、本年11月の期限までに各国が国内手続きを完了するよう迅速に取り組むことに合意するとともに、次回の第17次クォータ見直しの下で、計算式の見直しを含む幅広いアプローチを来年6月までに取りまとめるよう取り組むことを再確認した。そのほか、IMFの各種融資制度の見直しや、本年の理事選挙においてサブサハラ・アフリカ地域から25番目のIMF理事を設置すること等、IMFの機能・ガバナンスの強化についても、引き続き取り組むことを再確認した。このほか、先般決定したゲオルギエヴァ現専務理事の再選について、各国から歓迎の声があった。
4 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)
(2024年4月19日)
世界銀行・IMF合同開発委員会*3では、世銀改革について議論が行われた。世銀改革とは、地球規模課題への対応強化を目的に、世界銀行のビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを図る一連の取組のことで、2023年4月以来、3回連続で議題に設定された。
以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、前回会合以降の世銀改革の進展を勇気づけられるものとし、世銀銀行グループの成果の新しい測定手法であるWBGスコアカードの公表などが歓迎された。また、支援量や金利によるインセンティブの提供を通じ、国境を越えて外部性を有する地球規模課題への対応を促進する枠組みである「資金インセンティブのためのフレームワーク(FFI)」の開始が評価された。さらに、民間資金動員の観点から、世界銀行グループの保証業務の集約化、簡素化を図るWBG保証プラットフォームの開始に期待が示された。
次回会合に向けては、世銀改革の実施について総務に報告するよう期待が示された。さらに、理事会及びマネジメントに対し、世銀改革の実施に係る報告を提出した後には、国際復興開発銀行(IBRD)の財務能力と世界銀行グループのビション及びミッションとの整合性を評価するよう求めた。また、最も貧しく脆弱な人々のニーズに対処するため、野心的な成果をもたらす国際開発協会(IDA)第21次増資の成功に対しコミットがなされ、そのためには、既存及び新規のドナー、支援対象国、並びに世銀による確固たる努力が必要であることが確認された。
日本国ステートメントでは、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、ウクライナやガザ情勢を含む地政学的危機に対する日本の世界銀行グループを通じた支援を紹介、同グループによる役割・貢献への期待を示した。また、世銀改革の進展を高く評価しつつ、財務面の取組としてFFIの開始を支持、日本として、パンデミックの予防・備え・対応を含む地球規模課題への支援を念頭に、ポートフォリオ保証プラットフォームに対し10億ドルの拠出を行い、融資余力の拡大に貢献することを表明した。加えて、IBRD卒業所得未満の支援枠の設立を条件に、譲許的資金の裏付となる20百万ドルの拠出を表明した。最後に、IBRDに加え、IDAを通じて低所得国による地球規模課題への対応を支援する緊急の必要性も忘れてはならないとし、マネジメント及び借入国と共に、強固なIDA第21次増資(IDA21)に向けて貢献していく姿勢を示した。
5 日米韓財務大臣会合
(2024年4月17日)
2023年8月に米国・キャンプデービッドにて行われた日米韓首脳会談にて、日米韓財務大臣会合の開催が合意されたことを受け、3か国の財務大臣が参加するIMF・世銀春会合の機会に、米国財務省にて、初の日米韓財務大臣会合が開催された。本会合では、米国のイエレン財務長官が議長を務め、日本の鈴木財務大臣、韓国のチェ経済副総理兼企画財政部長官が出席し、対ロシア・北朝鮮制裁、経済的威圧や過剰生産能力等の非市場的慣行及びサプライチェーンの脆弱性への対応、太平洋島嶼国支援、MDB改革等G20における協力等について議論を行った。
会合終了後には、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。共同声明は、基本的価値観を共有する日米韓3か国の経済関係の重要性を示すものとなっている。まず、世界経済について、開かれた公正な経済慣行を通じて、インド太平洋地域及び世界にとって好ましい機会と繁栄の継続を追求することや、持続可能な経済成長及び金融の安定並びに秩序立った、良好に機能する金融市場を促進するために引き続き協力していくことに合意した。為替については、足元の状況に鑑み、「最近の急速な円安及びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、既存のG20のコミットメントに沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」ことに合意した。対ロシア・北朝鮮制裁に関しては、北朝鮮の弾道ミサイルのロシアへの輸出及びロシアによる調達を強く非難し、直ちに停止するよう求めた。また、サプライチェーンの脆弱性と、経済的威圧や主要部門における過剰生産能力を含む他国の非市場的慣行による我々の経済へのあり得べき損害に打ち克つための協調の重要性を強調するとともに、RISEパートナーシップ等を通じたサプライチェーンの強靱化に共に取り組むことに合意した。さらに、重要な地球規模課題により良く対応できるよう、MDB改革等において協力することや、ASEAN及び太平洋島嶼国の重要性を再確認し、同地域におけるマクロ経済と金融の強靱性・健全性の強化に向けて協力することに合意した。
最後に、日米韓3か国の経済の強化及び世界経済の繁栄を促進するため、引き続き協力することを確認し、上記の合意を前進させるため、事務方での取組を継続することとなった。国際情勢が一層複雑化する中、日米韓3か国の緊密な対話と連携は非常に重要である。3か国で率直な議論が行われた結果多くの成果が得られ、大変有意義な会合となった。
*1) 強靱で包摂的なサプライチェーンの強化(Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement, RISE)に向けたパートナーシップ:2023年のG7議長国として日本が策定を主導し、2023年10月に世銀や同志国とともに立ち上げた、低・中所得国への支援を通じてクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン強靭化を図るイニシアティブ。
*2) 国際通貨金融委員会(IMFC)は、国際通貨および金融システムに関する諸問題について、IMF総務会に助言および勧告を行うことを目的として、1999年に前身であるIMF暫定委員会を常設化・改編することで設置された。通常春と秋の年2回開催。各IMF理事選出国・母体を代表する大臣級の委員24名から構成される(現在の議長はサウジアラビアのアルジャドアーン財務大臣。日本からは鈴木財務大臣がIMFC委員として参加)。
*3) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第109回目。