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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 32

財務総合政策研究所では、「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています。


財務総合政策研究所では、「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています。
今回は、第5回(4月23日)の議論の模様をご紹介します。


「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」メンバー

○座長
・宇南山卓(京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官)
○委員(50音順)
・古賀麻衣子(専修大学経済学部教授)
・佐々木百合(明治学院大学経済学部教授)
・田中賢治(帝京大学経済学部教授)
・戸村肇(早稲田大学政治経済学術院教授)
・松林洋一(神戸大学経済学研究科教授)
本研究会の発表資料等は、財務総研のウェブサイトからご覧いただけます。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html
※なお、研究会における報告内容や意見はすべて発表者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。


「高齢化と家計資金余剰」

古賀 麻衣子 専修大学経済学部教授


委員の古賀教授からは、家計の資金余剰は続くのか、特に、高齢化や労働市場の変化によってこの家計貯蓄の蓄積が進むのか、減速するのかという問題意識からのご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
・家計の金融資産が高齢者に偏在していることを踏まえると、高齢化の進展にともなって、ストックベースでみた家計資金余剰は高水準を維持すると思われる。
・労働市場の近年の構造変化が、家計の資金余剰に与える影響については、(1)賃金カーブのフラット化、(2)年金の所得代替率低下、(3)高齢者の就業率上昇、(4)女性の労働参加率上昇が、それぞれ貯蓄にどう影響を与えるかに分けて考えることができる。
・(1)については、教育支出や世帯人員の影響を強く受ける年齢階層ごとの消費水準が、賃金カーブのフラット化にともなってどの程度低下するか次第である。(2)については、厚労省の推計によれば、年金の所得代替率は低下の見通しであり、この傾向が続くとすれば、貯蓄減少につながる。
・(3)と(4)については、高齢者・女性とも現状は非正規雇用の比率が高い層であるため、労働参加率の上昇に見られるほど所得形成が力強いものとはならないと考えられる。一方で、高齢者や女性が有業の世帯は消費性向が低い傾向も観察されるため、就業による所得増加は、貯蓄をある程度押し上げる。


「海外直接投資の新たな潮流とマクロ経済:資金循環の視点から見た展望」

松林 洋一 神戸大学経済学研究科教授


委員の松林教授からは、国内へ投資される資金が海外へ移動し、対外直接投資が加速するなどグローバルな資本ストック調整が見られる今日の日本経済において、新たな成長の原動力の可能性を探る問題意識からのご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
・これまで蓄積された対外直接投資を国内経済の成長に組み込むメカニズムとして、(1)海外で稼いだ投資収益が国内に還流して、設備投資や、国内所得・消費を増やす、(2)海外進出した現地法人向けの輸出による所得の増加、(3)企業価値の向上という3つのメカニズムが考えられる。
・(1)については、米国では2004年の「雇用創出法」で、外国子会社の収益を配当として米国内に還流させた場合、収益の85%を課税ベースから控除できる制度が適用されたが、海外から米国内への還流が大幅に増加したものの、還流した資金が米国内の投資や雇用の増加に貢献したか否かははっきりしないとする研究結果がある。
・(2)については、特に技術獲得型M&Aを行った場合、現地でより高付加価値な製品の生産が可能となり、付随する現地法人向け輸出品も高付加価値化していくことが見込まれる。
・(3)については、海外での再投資が現地での増収増益に結び付き、連結ベースでの時価総額が上昇することで、グローバル企業としての企業価値向上が実現し、それによる国内設備投資の増加が輸出の増加につながるという好循環が想定される。


「資金循環の国際比較」

伴 真由美 財務総合政策研究所主任研究官ほか


財務総合政策研究所の伴主任研究官からは、米国、ドイツ、スイス、中国、韓国の資金需給構造の特徴を整理し、日本と比較し報告しました。具体的には、以下の通りです。
・家計部門については、各国とも高齢化が進む中であっても、資金余剰が継続。日本同様に、高齢者・女性の労働参加率が増加傾向にあり、所得の伸びの維持に寄与している可能性。
・企業部門については、資金余剰が日本のような規模で生じている国は無い。韓国・スイスでは、国際競争力の高い産業による活発な設備投資などを背景に、多くの期間で資金不足が継続。ドイツでは、年によって資金余剰が生じているが、余剰幅は日本より小さい。
・海外部門については、資源輸入国であるドイツ・韓国では、日本同様に、資源価格の高騰により経常収支が縮小。他方で、スイスは資源輸入国であるものの、国際競争力の高い産業を擁することを背景に、経常収支の黒字幅が維持されている。
・所得収支の黒字額について日本を上回る国は無かった。日本の対外直接投資の残高は、米国・ドイツ・中国・スイスを下回るものの、対内直接投資の残高が各国を大幅に下回ることが背景と考えられる。
・政府部門については、日本同様に、高齢化が進む韓国・中国では、政府の支払が対GDP比で増加し、近年、資金不足主体に転じている。他方、ドイツ・スイスでは、高齢化が進む中でも、経常収支黒字の水準がおおむね維持されており、債務ブレーキ制度が導入される中で支払や資金過不足の幅が抑えられている。
※財務総合政策研究所では、2023年11月から2024年5月まで開催した「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」における議論を踏まえた報告書をとりまとめ、2024年6月中旬に、財務総研HPで公表する予定としております。



財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html