このページの本文へ移動

令和4年度事業別フルコスト情報の改訂▶経年比較・横断比較情報の見える化

主計局法規課公会計室課長補佐 川中 啓輔

概 要

財務省主計局法規課公会計室では、行政活動の効率化・適正化や国民の行政活動への理解促進を目的として、省庁別財務書類の業務費用計算書を基にした発生主義ベースの情報である「事業別フルコスト情報の開示」の取組を、平成26年度分から令和元年度分までの試行的段階を経て、令和2年度分から本格的に実施している。その上で、本格的な取組の実施3年目となる令和4年度分では、事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)の改訂を実施した。本稿では、そもそも事業別フルコスト情報の開示とはどのような取組か、令和4年度分にどのような改訂を実施したか、また改訂を踏まえた分析や今後の取組について以下解説する。


事業別フルコスト情報とは

事業別フルコスト情報は、国が行政サービスを提供するに当たり、その事業のトータルコスト(人にかかるコスト、物にかかるコスト及び事業コスト)を把握することで行政活動の効率性及び適正性を向上させるとともに、それを分かりやすく開示することで国民の行政活動に関する理解を促進させることを目的としており、その算定方法は図表1. フルコストの算定方法のイメージとなる。
また、事業別フルコスト情報は、後述の「事業別フルコスト情報の把握と開示について」(抜粋)のとおり、コスト情報の活用等の観点から、図表2. 令和4年度フルコスト情報の概要の3つの事業類型(補助金・給付金事業型、受益者負担事業型、その他事業型)に該当する事業について作成され、それら3つの事業類型は、それぞれ国が直接実施する事業(単独型)と、独立行政法人等の外部機関を通じて実施する事業(外部機関利用型)に区分される。なお、事業別フルコスト情報の作成対象となる事業は、各省庁の各部局が、この事業実施区分ごとに代表的な事業を選定し、作成公表している。

事業別フルコスト情報の把握と開示について(令和3年1月25日財政制度等審議会 財政制度分科会法制・公会計部会)(抜粋)


3. 事業別フルコスト情報を作成すべき事業類型

コスト情報の活用等の観点から、以下に該当する事業について事業別フルコスト情報を作成することが適当である。


(1)補助金・給付金事業型

補助金・給付金事業型とは、国が国以外の者に補助金その他の給付金等を交付等する事業をいう。


(2)受益者負担事業型

受益者負担事業型とは、国等が特定の者に提供する公の役務に対する反対給付として手数料等を徴収することとしている事業をいう。


(3)その他事業型

その他事業型とは、上記(1)又は(2)に該当しない事業型であって、行政活動の効率化・適正化の検討や、予算のPDCAサイクルへの活用等に有用と考えられる事業として、下記に該当するものをいう。(以下略)

4. 事業別フルコスト情報を作成する事業の選定方法

事業別フルコスト情報は、原則として各部局(本省内部部局(大臣官房を除く。)及び外局をいう。以下同じ。)ごとに、各事業類型に該当する事業のうち、単独型及び外部機関利用型のそれぞれについて、事業コストの金額が最も大きい事業を選定することが適当である。ただし、行政活動の効率化・適正化の検討や、予算のPDCAサイクルへの活用等の観点を踏まえ、他に有用と考えられる事業がある場合は、上記事業に代えて選定することが適当である。(以下略)
更に、行政活動の効率性や適正性の分析に活用するためには、単にフルコストを開示するだけでなく、分析に資する関連指標が重要となる。
具体的には、そのような指標として、(1)単位当たりコスト(フルコストをその行政サービスの利用者などの単位で除した指標)、(2)自己収入比率(フルコストに対して、その行政サービスの直接の受益者が負担した手数料等の収入の割合を示した指標)、(3)間接コスト率(国民等への補助金といった給付金の給付額に対して、その給付のために要したフルコスト(間接コスト)の割合を示した指標)を合わせて公表している。


令和4年度事業別フルコスト情報の概要及び改訂内容(経年比較・横断比較情報の見える化)

令和4年度分では、(1)補助金・給付金事業型、(2)受益者負担事業型、(3)その他事業型の3類型合計で206事業を公表した。その内訳としては、(1)補助金・給付金事業で94事業、(2)受益者負担事業型で19事業、(3)その他事業型で93事業となっている。
事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)については、令和2年度分の本格実施以降、フルコスト、関連指標、事業概要等を一覧で開示していたが、令和5年3月、財政制度等審議会財政制度分科会法制・公会計部会において、「事業別に経年比較(各事業のフルコスト情報が時系列でどのように変化しているか)や増減分析ができていない」、「事業類型毎に横断比較(同じ事業類型どうしでのフルコスト情報の比較)ができていない」といった趣旨の指摘を受け、事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)の様式改訂に向けて検討を開始した。
また、令和5年6月、第211回国会(衆議院本会議)において、「事業別フルコスト情報の開示については、類似の事業の比較を容易にするための補足情報を拡充するなど、情報の更なる充実を図ることにより、行政活動の効率化・適正化に繋げるべきである」と議決されたことも踏まえ、法制・公会計部会の委員からの助言を受けつつ、令和4年度分から情報の経年比較や横断比較を可能とするため、図表3. ダイジェスト版の改訂内容のとおり事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)の改訂を実施した。具体的には、経年比較情報(各事業のフルコスト、コスト構成割合及び関連指標の推移)、横断比較情報(事業類型毎の平均コスト割合、自己収入比率及び間接コスト率)をグラフで見える化するともに、事業実績(事業従事者数、単位当たりコスト、アウトプット件数)や、フルコストの大幅な増減理由等を説明するための「補足情報欄」を新設した。なお、令和4年度分から、より精緻な横断比較のため、受益者負担事業型を更に「試験・資格関連事業」と「施設運営関連事業」の2つに性質上区分している。


令和4年度分フルコスト情報の経年比較・横断比較から見えたこと

令和4年度分では、新たな取組として、事業別フルコスト情報の代表的な指標である自己収入比率(受益者負担事業型)及び間接コスト率(補助金・給付金事業型)について、事業類型ごとに経年比較及び横断比較情報の分析を簡易的に実施した。
その結果、図表4. 令和4年度分フルコスト情報から分かることの左図(試験・資格関連事業)と中央図(施設運営関連事業)が受益者負担事業型の平均自己収入比率及び分布を示したものだが、推移を見ると、いずれも新型コロナウイルス感染症の影響による出願者数や入場者数の減少等により令和2年度に一時低下したものの、令和3年度以降はその影響が緩和され、緩やかに回復していることがわかる。
更に、事業別にみると、試験・資格関連事業は約10%から100%までの間に幅広く分布する一方、施設運営関連事業は概ね50%以下の範囲で分布していることがわかる。この分布限りでみると、試験・資格関連事業は、施設運営関連事業と比較して自己収入比率が高い傾向にあると言える。
それに対して、右図の補助金・給付金事業の平均間接コスト率は、概ね10%強の一定水準で推移している。事業別にみると、10%以下の範囲に殆どが分布する一方、20%以上の範囲にも各年度10事業程度分布していることがわかる。


事業の具体例

上述の図表4「令和4年度分フルコスト情報から分かること」を踏まえ、受益者負担事業型と補助金・給付金事業型それぞれの具体例を以下2事業紹介しておく。


(1)受益者負担事業型(試験・資格関連事業)の具体例

公認会計士試験事業(内閣府)(図表5. 公認会計士事業(内閣府)ダイジェスト版抜粋)
公認会計士試験事業(内閣府)は、試験委員会議等の運営を行うとともに、受験願書の受付、短答式及び論文式試験の実施に係る事務等を行う事業である。本事業の自己収入比率をみると、令和2年度に約60%まで一時落ち込んだが、それ以外は概ね80%を超える水準で推移している。これは、令和2年度には一時落ち込んだものの、本来出願者数が比較的多く、また受験料も比較的高いことによるものと考えられる。そのため、当事業の自己収入比率は、出願者数の多寡に影響を受けている点がわかる。


(2)補助金・給付金事業型の具体例

事業承継・引継ぎ支援事業(経済産業省)(図表6. 事業承継・引継ぎ支援事業(経済産業省)ダイジェスト版抜粋)
事業承継・引き継ぎ支援事業(経済産業省)は、事業承継・引継ぎ後の設備投資や販路開拓、事業戦略等の経営革新にかかる費用、事業引継ぎ時の専門家活用費用、事業承継・引継ぎに伴う廃業費用等を支援する事業である。本事業の経年比較情報をみると、フルコストは緩やかに減少傾向にある中で、間接コスト率は令和3年度に大きく上昇している。これは、資源配分額が令和2年度から3年度にかけて13億円から3.8億円へ大幅に減少していることによる。そのため、補助金を交付するためには、そもそも一定のコストが必要であり、補助事業件数に応じてフルコスト(間接コスト)が発生するものの、間接コスト率は、資源配分額の多寡に影響を受けている点がわかる。


今後の取組

これまで述べたとおり、令和4年度事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)の改訂により、経年比較・横断比較情報が記載され、各事業の相対的位置が容易に把握できるようになった。これにより、各事業担当者において、受益者負担事業型では利用料・手数料などの自己収入の見直しや利用者数増加のための広報戦略といったマネジメントの意識が高まる、補助金・給付金事業型では事業従事者数の見直しをはじめコスト意識をもって実施されているかの点検が可能になるなど、行政活動の効率化・適正化への気づきに繋がることが期待される。その上で、「事業別フルコスト情報の開示」の取組を今後進めていくに当たり、現時点では以下の課題があると考えられる。


【事業選定の課題】

・取組の質を年々上げている中で、令和4年度の選定事業をみると、フルコストの金額が僅少である事業、事業コストとフルコストが殆ど変わらない(人にかかるコスト、物にかかるコストが殆ど配分されない)事業など、各省庁の代表的な事業もしくはフルコスト情報が効率化・適正化に資すると期待しがたい事業も一部見られる。そのような実態も踏まえ、今後は各省庁と協議しながら、受益と負担の関係性が分かり易い受益者負担事業型をはじめ事業別フルコスト情報に馴染む事業の選定を一層進めていく必要。


【各省庁への浸透・定着の課題】

・事業別フルコスト情報の作成・活用に関しては、作成主体である各省庁との間に未だ温度差があることから、より効率的かつ効果的な作成のため、各省庁への説明会や研修を通じて、引き続き、本取組に対する一層の浸透・定着を図る。また、各省庁に今後継続的にモニタリングしていく中で、行政活動の効率化・適正化にフルコスト情報が活用された好事例(グッドプラクティス)があれば、それを横展開していく必要。


【認知度向上の課題】

・事業別フルコスト情報については、令和2年度分の本格実施から3年目ということもあり、各省庁に限らず、一般的にも認知度が十分であるとは言えない中、今後も認知度向上を目的に、国の事業の執行状況や資金の流れを点検する行政事業レビュー(内閣官房行政改革推進本部事務局)と連携するなど各種媒体からのアクセスチャネルを増やし、情報発信を一層進めていく必要。
このような課題を段階的に解消しつつ、事業別フルコスト情報の質を高めていくことで、各事業担当者のコストやマネジメント意識を更に高め、将来的には財政当局における予算査定に活用されることも念頭に、引き続き、行政活動の効率化・適正化を一層図るとともに、経年比較・横断比較情報の見える化を推進していく。なお、これらの課題に関しては、令和6年5月、第213回国会(参議院決算委員会若松謙維君に対する矢倉財務副大臣答弁)においても、今後段階的に取り組んでいく旨答弁されている。
末尾に、本稿の意見に亘る部分については、筆者個人の私的見解であり、政府や財務省の公式見解ではない旨申し添える。
以上


コラム:主計局法規課公会計室の紹介

主計局法規課公会計室では、公認会計士である室長(民間からの出向者)以下約10名の体制で、大きく「国の財務書類」、「事業別フルコスト情報」をそれぞれ作成する係で編成されている。主な業務としては、国の財務状況等に関する説明責任の向上及び予算執行の効率化・適正化に資する財務情報の提供等を目的に、企業会計の考え方及び手法(発生主義・複式簿記)を活用して、毎年度、国の財務書類及び事業別フルコスト情報を作成・公表している。