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アジア太平洋地域における地域金融協力の推進(ASEAN+3,日中韓,日・太平洋島嶼国)


国際局地域協力課長 徳岡 喜一/課長補佐 鳥羽 建/庄司 浩典/係長 江波 千晃/森 健治郎/松尾 洋平

2024年5月3日(金)、アジア太平洋地域における地域金融協力関連の会議として、「第27回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」及び「第24回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議」がジョージア・トビリシで開催された。
「ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」は、1997年のアジア通貨危機を契機として、アジアの金融セーフティーネットを構築する機運が高まる中、1999年に「ASEAN+3財務大臣会議」が開催されたことをその始まりとする(中央銀行総裁は2012年から参加)。
また、同日に、「日・太平洋島嶼国財務大臣会議」が、2024年7月に首脳級の「太平洋・島サミット(PALM10)」が日本で開催される予定であることも念頭に、初めての試みとして開催された。
以下、本稿では、これらの会議における議論の概要を紹介したい。

写真:(会議の様子。鈴木大臣は前列左から3番目、氷見野副総裁は前列左から2番目。)

1.第27回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議

本年の「ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」は韓国とラオスが共同議長を務め、日本からは、鈴木財務大臣と氷見野日本銀行副総裁が出席した。会議では、(1)世界とASEAN+3域内の経済・金融見通しや政策対応についての意見交換及び(2)ASEAN+3地域の金融協力について議論が行われた。以下、その概要を紹介する。


(1)世界と域内の経済・金融見通しや政策対応

本会議では、ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)、アジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)より、世界・域内経済の見通しについて説明があり、アジア経済が弱い外需の中でも堅調な内需にけん引され、2023年の域内成長率が+4.3%と力強い成長を記録したことが確認された。また、域内各国の経済・金融情勢について参加国間で意見交換が行われ、日本からは、世界経済が、ロシアによる不法かつ、不当で、いわれのないウクライナ侵略や中東地域を巡る情勢といった地政学的緊張や金融資本市場の変動の影響等様々な下方リスクに直面しており、注視が必要であることを指摘した。本会議では、これらのリスクや、外的要因からの負の波及による外国為替市場のボラティリティの高まりが、域内の短期的な見通しに影響を与えうることが確認された。また、域内における財政政策の優先課題として、的を絞った支援を提供しつつ、財政の持続可能性を強化することの重要性が確認された。


(2)地域金融協力について

ASEAN+3地域の金融協力は、従来から下記の3本の柱に沿って議論を行ってきたが、域内金融協力を更に深化させるべく、日本からの提案により、2023年5月の会議において、災害リスクファイナンス(DRF:Disaster Risk Financing)が第4の柱として定例議題に格上げされた。
以下、この4本の柱という形で、今回の会議の議論を紹介したい。


ア.【第1の柱】チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)a

1997年に発生したアジア通貨危機を教訓に、ASEAN+3では、2000年に二国間通貨スワップ契約から構成されるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)が立ち上げられた。その後、スワップ発動の際の当局間の意志決定の手続きを共通化し支援の迅速化を図るためのCMIのマルチ化契約(CMIM)締結、資金規模の倍増といった機能強化が図られてきた。
2023年の日本共同議長下では、パンデミックの経験も踏まえ、自然災害やパンデミックなどの外生ショックに対して迅速に発動する「緊急融資ファシリティ」(RFF:Rapid Financing Facility)創設について積極的に議論し、2024年に入ってからも、RFFに対するASEAN諸国の高い期待を受け、メンバー間で精力的な議論を継続した結果、本会議において、RFFの創設とその制度設計が承認された。


イ.【第2の柱】ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)

CMIMの実施支援に当たっては、ASEAN+3域内・各国経済のリスクを早期に発見し、各国に改善措置の速やかな実施を求めることが必要不可欠である。このプロセスに貢献するためのサーベイランス機関として、2011年にASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)が設立された。(その後、2016年に国際機関化)。日本はその設立以来、所長を含めた人材の輩出や拠出金の貢献等を通じてAMROを支援してきている。
本会議では、AMROの幹部ガバナンスの包括的な見直しの結果を歓迎するとともに、AMROのテーマ別サーベイランスを担当する新設次長ポストの選任プロセスの進展が歓迎された。また、ASEAN+3財務プロセスへのAMROの事務局的支援機能の強化や、シンクタンクや国際金融機関等とのネットワークの立上げ等、AMROの「戦略的方向性2030(Strategic Direction 2030)」の着実な実施が歓迎された。


ウ.【第3の柱】アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)

アジア通貨危機において、ASEAN諸国における通貨と期間のミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借入れ、自国通貨建てで国内の長期融資を実施)が一因となったことを踏まえ、その解消のため、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成し、域内の貯蓄を投資へ活用することを促進する取組として、2003年にアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)が開始された。ABMIの開始以来、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場は着実に拡大している。(例えば、ASEAN6(ベトナム、タイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシア)の現地通貨建て債券市場の規模は、20年間で7.6倍に拡大)。
本会議では、「ABMI中期ロードマップ2023-2026」の下での取組が進捗していることを歓迎し、現地通貨建て債券の発行の拡大や新たな取組を行う信用保証・投資ファシリティ(CGIF)の努力が称賛された。


エ.【第4の柱】災害リスクファイナンス(DRF)

これまで、日本は、自然災害リスクへの対応に保険スキームを活用し、ASEAN諸国の財務強靭性を向上させることを目的とした「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」の立上げを主導するなど、自然災害リスクに対する財務強靭性の向上に係る取組を推進してきた。
2023年の会議では、頻発化・激甚化する域内の自然災害に対応するため、将来生じうる経済的及び財務的損失に対する強靱性を高める重要性について参加国間で認識が共有され、DRFをASEAN+3財務トラックの定例議題に格上げすることが決定された。
本会議では、昨年策定された「ASEAN+3 DRFイニシアティブに係るアクションプラン 2023-2025」の更新が歓迎されたほか、DRFイニシアティブの事務局設置及び河合美宏氏の事務局長選任が歓迎された(その他の議論の内容については、財務省ウェブサイトに掲載されている「共同ステートメント」をご覧いただきたい)。

2.第24回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議

本会議は、2000年以降、ASEAN+3の会議と合わせて開催されており、日中韓の3か国で率直な意見交換を行う重要な場となっている。今年は、日本の鈴木大臣、氷見野副総裁の共同議長の下、域内各国の経済・金融情勢及び地域金融協力について意見交換が行われ、日中韓の連携の重要性が確認された。

3.日・太平洋島嶼国財務大臣会議

本会議は、太平洋島嶼国の地政学的重要性が足下で増していることや、本年7月に首脳級の「第10回太平洋・島サミット(PALM10)」が日本で開催される予定であること等を踏まえ、初めての試みとして、日本の主導により、アジア開発銀行(ADB)年次総会の機会を活かして、5月3日(金)に開催されたものである。本会議においては、日本の鈴木財務大臣及び太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国であるクック諸島のブラウン首相兼財務・経済運営大臣が共同議長を務めた。
本会議では、日本及びADBのメンバー国である太平洋島嶼国のうち11か国(注)の財務大臣等に加え、同地域の重要なパートナーとして太平洋島嶼国が期待を寄せるADBが参加し、「気候変動と質の高いインフラ」、「金融の健全性と包摂性」、「債務の持続可能性」といった太平洋島嶼国が直面する開発課題と、今後の日本と太平洋島嶼国の協力の可能性について率直な意見交換が行われた。
(注)キリバス共和国、クック諸島、サモア独立国、ソロモン諸島、ツバル、トンガ王国、パプア・ニューギニア独立国、パラオ共和国、フィジー共和国、マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦

同意見交換においては、鈴木大臣より、こうした開発課題について、今後の日本の二国間及び国際機関等を通じた多国間の太平洋島嶼国に対する協力施策を紹介した。これに対して、参加者からは、日本と太平洋島嶼国の財務大臣が初めて一堂に会し、率直な対面の議論を通じて、相互理解を深め、関係を強化することができたことへの歓迎が表明されるとともに、これまでの日本の二国間支援、特に新型コロナウイルスのパンデミック下の困難な時期における日本の支援に対する謝意が示された。また、太平洋島嶼国の多くが、ADBの低所得国向けの譲許的資金であるアジア開発基金(ADF)の支援対象であるところ、ADFの増資交渉が5月2日(木)に成功裡に合意に至ったことを受け、日本が最大のドナー国として、太平洋島嶼国の意見を反映しながら、同増資交渉に貢献したことに対して謝意が示された(その他の議論の内容については、財務省ウェブサイトに掲載されている「共同議長総括」をご覧いただきたい)。
閉会に当たっては、日本と太平洋島嶼国の参加者の間で、日本と太平洋島嶼国の関係を更に強化するため、様々なレベルで緊密なコミュニケーションを継続することに合意するとともに、来年もADB総会の機会に本会議を開催することで一致した。
写真:(会議で発言する鈴木大臣)

各会議における成果文書はこちら
第27回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
●共同ステートメント
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20240503.html
第24回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議
●共同メッセージ
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20240503.html
日・太平洋島嶼国財務大臣会議
●日・太平洋島嶼国財務大臣会議の開催について(令和6年5月3日)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/other/20240503.html