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特集 令和5年の差止実績及び水際取締制度の強化 税関における知的財産侵害物品の水際取締制度について

財務省では税関における知的財産侵害物品の差止実績を昭和62年から公表しており、令和6年3月8日に「令和5年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」に係る報道発表を行った。令和5年の輸入差止件数は3年ぶりに3万件を超え、過去2番目を記録した。今号の特集では、知的財産侵害物品に関する令和5年の差止実績及び水際取締りの状況について紹介する。
取材・文向山勇

令和5年の税関における知的財産侵害物品の差止状況 輸入差止件数が3年ぶりに3万件を超え過去2番目を記録


令和5年の全国の税関における知的財産侵害物品の差止めは、輸入差止件数が前年比17.5%増の31,666件となり、過去2番目を記録した。一方、輸入差止点数は前年比19.7%増の1,056,245点であった。これらは、1日平均86件、2,893点の知的財産侵害物品の輸入を差し止めていることになる。
(注)「輸入差止件数」とは、税関が差し止めた知的財産侵害物品が含まれていた輸入申告または郵便物の数のことで、「輸入差止点数」は税関が差し止めた知的財産侵害物品の数をいう。例えば、ある一件の輸入申告の中に20点の知的財産侵害物品が含まれていた場合は、「1件20点」となる。


仕出国別の差止件数は中国が最多。ベトナム、韓国と続く

これを仕出国(地域)別に見ると、輸入差止件数では中国を仕出しとするものが25,271件(構成比79.8%、前年比23.5%増)となった。次いでベトナムが2,690件(同8.5%、同26.0%増)、韓国が751件(同2.4%、同15.7%増)、台湾が630件(同2.0%、同55.9%減)となった。
一方、輸入差止点数は、中国を仕出しとするものが921,579点(構成比87.3%、前年比37.3%増)、次いでベトナムが66,487点(同6.3%、同5.8%減)、香港が27,720点(同2.6%、同56.8%減)、韓国が20,235点(同1.9%、同33.8%減)となった。
件数・点数ともに中国を仕出しとするものの構成比が引き続き高くなっているほか、ベトナムを仕出しとするものの構成比が件数・点数ともに中国に次いで高くなっている。
知的財産別にみると、輸入差止件数は、偽ブランド品などの商標権侵害物品が30,448件(構成比95.5%、前年比18.5%増)で引き続き全体の大半を占め、次いで偽キャラクターグッズなどの著作権侵害物品が863件(同2.7%、同2.6%増)となった。
輸入差止点数は、商標権侵害物品が500,824点(構成比47.4%、前年比8.8%減)、次いで加熱式たばこ用カートリッジなどの意匠権侵害物品が442,073点(同41.9%、同224.7%増)、著作権侵害物品が79,221点(同7.5%、同51.4%減)となった。


品目別では健康や安全を脅かす危険性のある物品の差止めが続く

品目別に見ると、使用又は摂取することにより、健康や安全を脅かす危険性のある、煙草及び喫煙用具、医薬品、浄水器用カートリッジなどの家庭用雑貨、電気製品などの輸入差止めが続いている。
輸入差止件数は、衣類が10,401件(構成比28.3%、前年比49.4%増)で最も多く、次いで財布やハンドバッグなどのバッグ類が9,028件(同24.5%、同0.2%減)、靴類が4,448件(同12.1%、同4.0%増)、携帯電話及び付属品が3,373件(同9.2%、同39.8%増)となった。
輸入差止点数は、煙草及び喫煙用具が317,764点(構成比30.1%、前年比約5倍)と最も多く、次いで医薬品が118,190点(同11.2%、同20.4%減)、衣類が84,403点(同8.0%、同10.7%増)、イヤホンなどの電気製品が68,976点(同6.5%、同29.7%減)となった。
輸送形態別にみると、輸入差止件数は、郵便物が大半を占めており、郵便物が27,969件(構成比88.3%、前年比17.7%増)、一般貨物が3,697件(同11.7%、同16.4%増)となった。輸入差止点数は、郵便物が376,605点(構成比35.7%、前年比29.4%減)、一般貨物が679,640点(同64.3%、同94.8%増)となった。


税関で輸入を差し止めた侵害物品の例


輸入差止めが多い物品

写真:ハンドバッグ(商標権)
写真:ゲームコントローラ(特許権)
写真:スニーカー(商標権)
写真:腕時計(商標権)


輸入差止めが増加した物品

写真:ペット用ベッド(商標権)
写真:美容用ローラー(意匠権)
写真:ヘアアクセサリー(著作権)
写真:目元温熱アイマスク(意匠権)


健康や安全を脅かす危険性のある物品

写真:加熱式たばこ用カートリッジ(意匠権)
写真:浄水器用カートリッジ(商標権)
写真:医薬品(商標権)
写真:シャワー器具(商標権)


差止回避工作事例

立体商標の一部を隠すように覆う
写真:Y字形の背もたれを布製カバーで覆っていた。


立体商標とは

商標は、企業のロゴマークや商品名など、文字や図形からなるものが一般的だが、商品の容器や店頭に置かれる広告用人形など立体形状からなる「立体商標」もある。
本事例もその一例で、椅子の形状それ自体が消費者等から見て、他の商品と区別することができる(識別力を有している)と認められた結果、「立体商標」として保護を受けているものである。


告発事例

商標権を侵害するエアバッグの密輸出事犯を告発

東京税関は警視庁及び群馬県警と共同調査を実施し、商標権を侵害するエアバッグ12点を米国へ密輸出しようとしていたパキスタン人4名を関税法違反で告発した(令和5年3月)。


差止申立ての状況

知的財産を有する者は、自己の知的財産を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合には、税関長に対し、当該貨物について認定手続を執るべき旨の申立て(輸入差止申立て)を行うことができる。令和5年末時点で税関が受理している輸入差止申立ての件数は736件で、前年比2.8%の増加となっている。知的財産別では、商標権の申立てが477件(構成比64.8%、前年比5.1%増)、次いで意匠権の申立てが127件(同17.3%、同2.4%増)、著作権の申立てが90件(同12.2%、同3.2%減)、特許権の申立てが34件(同4.6%、前年と同数)となっている。一方、輸出差止申立ての件数は、商標権12件、意匠権2件となっている。
税関が受理している輸入差止申立ての例(写真は全て真正品)
写真:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会缶バッジ等(商標権)
写真:日産自動車株式会社自動車の部品及び附属品等(商標権)
写真:アーネスト株式会社おにぎり成形器(意匠権)
写真:セイコーエプソン株式会社プロジェクター用交換ランプユニット(意匠権)
写真:ピーナッツ・ワールドワイド・エルエルシーバッグ等(商標権)
写真:ヤエス軽工業株式会社オートテープディスペンサー(商標権)


水際取締り強化
海外の事業者を仕出人とする模倣品の水際取締り強化

令和4年10月に改正商標法・意匠法・関税法が施行され、海外の事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品(商標権又は意匠権を侵害するもの)は、個人使用目的で輸入されるものであっても、税関の水際取締りの対象となった。
以前は、国内にいる輸入者の事業性の有無が商標権等の侵害行為にあたるか否かのポイントになり、輸入者に事業性があればその輸入行為は商標権等の侵害にあたるとされていたが、事業性がない場合、いわゆる個人使用目的による模倣品の輸入行為は、商標権等の侵害にはあたらなかった。しかし、越境電子商取引(越境EC)の急速な拡大により、海外に所在する模倣品業者が、ECサイト等などを利用して、日本国内の個人に少量の模倣品を直接販売し郵便等の手段で送付するといった、いわゆるBtoCの取引形態で模倣品を送付する事例が急増していた。こうした状況に対応するため、商標法、意匠法及び関税法の改正により、海外の者に事業性があり、その者が模倣品を郵送等で国内に持ち込む行為について、権利侵害行為に該当することが明確化され、海外事業者によって持ち込まれた模倣品は、たとえ国内にいる輸入者に事業性がない場合、つまり個人使用目的で輸入する場合であっても、侵害物品に該当することになった。


「争う旨の申し出」件数が大幅に減少

前記のとおり、令和5年の知的財産侵害物品の輸入差止件数は31,666件であり、前年と比較し17.5%増加したが、そのうち輸入者が疑義物品の侵害の該否について「争う旨の申し出」を行った件数は1,267件で、前年と比較し大幅に減少(前年比70.7%減)した。これは、改正商標法・意匠法・関税法の施行によって、個人で使用する場合であっても海外の事業者が郵送等により日本国内に持ち込む模倣品は輸入できなくなったため、相当数の輸入者が争うことを断念したと受け止めることができ、このことが輸入差止件数の増加の一因になっていると考えられる。よって、これまで税関で差し止められなかった模倣品の流入が水際で阻止できているものとして、法改正の効果が表れていると考えられる。

簡素化手続の対象を拡大

輸入差止申立て対象の全ての知的財産が簡素化手続の対象に

令和5年10月から、知的財産侵害物品の認定手続において、従来は簡素化手続の対象から除外されていた特許権、実用新案権、意匠権及び保護対象営業秘密に関する輸入差止申立てに係る貨物についても、簡素化手続の対象となった。これにより、輸入差止申立て対象の全ての知的財産が、簡素化手続の対象となった。
認定手続とは、知的財産を侵害する疑義物品を税関の審査・検査で発見した場合に、それが知的財産を侵害する物品かどうかを認定するための手続のことである。税関は、疑義物品を発見した際、権利者と輸入者の双方に対して認定手続の開始を通知し、疑義物品が侵害物品に該当するか否かについて証拠・意見の提出を求める。そして、双方から提出された証拠・意見を基に、税関がその物品が侵害物品に該当するかどうかを認定する。該当する場合には税関は当該物品を没収することができ、該当しなければ輸入が許可される。
ただし、税関が発見した疑義物品について、権利者から輸入差止申立てが行われている場合には、認定手続において簡素化手続が執られる。この簡素化手続においては、税関が疑義物品を発見した際に、輸入者に対して、簡素化手続を開始する旨とともに、疑義物品が侵害物品に該当するか否かについて争う場合にはその旨を書面で提出すべき旨を書面で通知する。輸入者がこの争う旨の申し出を提出しない場合、税関は、権利者に証拠・意見を提出させることなく、侵害の該否を認定する。一方、輸入者が争う旨の申し出を提出する場合は、通常の認定手続と同様、輸入者、権利者の双方から証拠・意見を提出させ、その内容によって侵害の該否を認定する流れになる。
簡素化手続は、通常の認定手続と比べ、「輸入者から争う旨の申し出がない場合には権利者が証拠・意見を提出しなくてもよく、権利者、輸入者及び税関の事務負担が軽減される」との点で、メリットのある制度となっている。近年、特許権と意匠権に係る輸入差止件数が増加しているところであり、権利者にとっては、特に特許権・意匠権に係る輸入差止申立てを行うことにより、簡素化手続を活用することのメリットが大きくなっている。


ECプラットフォーマーとの協力関係を強化
アマゾンジャパン及び楽天グループと水際取締りの覚書を締結

近年ECサイト等を利用した模倣品の取り引きが急増しており、この水際取締りは税関・ECプラットフォーム事業者の双方にとって喫緊の課題となっている。こうした状況を受け、財務省関税局は、令和4年6月にアマゾンジャパン合同会社と、令和5年12月に楽天グループ株式会社と、それぞれ知的財産侵害物品等の水際取締りに係る協力に関する覚書を締結し、情報交換等を進めている。
覚書では、税関における知的財産侵害物品等の水際取締りに係る協力のため、次の通り合意した。
(1)両者の協力関係の強化方法について共同して検討していくこと。
(2)両者が抱える課題と問題点の相互理解に努め、有意義な情報交換を促進すること。
財務省関税局・税関では、越境電子商取引(越境EC)による模倣品に対する取締り強化のために、ECプラットフォーム事業者や権利者等の民間事業者と協力・連携することで、水際取締りをより効率的かつ効果的に行うことを目指している。


知的財産侵害物品の展示

瀬戸大臣政務官が展示模様を視察
財務省・税関は、令和6年3月8日に「令和5年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」に係る報道発表を行い、同時に税関で差し止めた知的財産侵害物品の展示を行った。瀬戸大臣政務官が展示模様を視察するとともに、取締りに従事する税関職員を激励した。
写真:知的財産侵害物品の展示風景
写真:展示された物品を興味深く眺める瀬戸大臣政務官

税関における知的財産侵害物品等の水際取締りについて詳しくはこちらから
写真:税関・知的財産HP
写真:知財特設HP

図表.仕出国(地域)別輸入差止件数
図表.輸入差止件数・点数の推移
図表.品目別輸入差止件数と差止点数
図表.輸送形態別輸入差止件数と差止点数
図表.改正商標法及び意匠法の概要
図表.輸入者が「争う旨の申し出」を行った件数
図表.認定手続の流れ