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コラム 経済トレンド119

「物流2024年問題」の現状と課題

大臣官房総合政策課 調査員 木下  裕也/横山  修平

本稿では、「物流2024年問題」の現状と課題を整理し、今後の展望について考察する。

「物流2024年問題」と政府による対策方針

2024年4月から働き方改革関連法の適用により、自動車運転業、建設業、医師において残業時間の上限規制が開始された。人手不足が深刻化する中で、企業等はこれによる対応に直面しており、中でも物流業界は残業規制に加え、改善基準告示によるドライバーの拘束時間等への対応により、輸送力不足が懸念となっている(図表1 「改善基準告示」における変更点(2024年4月~)・図表2 輸送力不足の見通し(対策を講じない場合))。
2024年問題への対応に向けて、政府は2023年10月「物流革新緊急パッケージ」を定め、(1)物流の効率化、(2)荷主・消費者の行動変容、(3)商慣行の見直しを3本柱に据え、経済対策による財政面での支援を進めてきた。これら3本柱を中心とした一連の施策により、2024年に不足する輸送力に相当する、約14万人分の輸送力が補填できると見込まれている(図表3 施策による効果試算(2024年度分))。
本稿では、「物流革新緊急パッケージ」策定に至る背景について、物流業界の雇用環境や商慣行等の現状から思索するとともに、3本柱の一つである「荷主・消費者の行動変容」に焦点を絞り、物流の需要サイドである荷主・消費者側の課題を踏まえた上で、「物流2024年問題」の展望について考察していく。
(出所)国土交通省「「2024年問題」解決に向けて」、内閣官房「物流革新緊急パッケージ」、日本経済新聞「置き配や鉄道輸送、運転手14万人不足補う 政府対策」


「物流革新緊急パッケージ」策定の背景

物流産業の現状整理として、日銀短観の雇用人員判断DIをみると、運輸・郵便業(物流業)は全産業を恒常的に下回っており、2024年問題以前から人手不足が深刻であることが確認できる(図表4 雇用人員判断DIの推移)。
運輸・郵便業の賃金は人手不足に伴い上昇はしているものの(図表5 所得(賃金)と人手不足感)、全産業と比較して低賃金・長時間労働の実態に変わりはなく(図表6 年間所得額の推移・図表7 年間労働時間の推移)、多重下請け構造による賃金の下方バイアスや、ドライバーが行う仕分や検収・検品、荷造りといった附帯作業に対しては、賃金が発生していない等の商慣行が影響しているものと考えられる(図表8 下請の利用状況・図表9 ドライバーが行っている主な附帯業務)。
残業規制に加え、こうした要因が人手不足に拍車をかけ、輸送力不足を招きかねないことから、物流産業を魅力ある職場とし、物流サービスの利便性を維持するため、「物流革新緊急パッケージ」が策定されたと受け止められる。
(出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」「賃金構造基本統計調査」、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「物流変革の波:2024年問題対応に向けた実態調査レポート」


物流産業の魅力化に向けた荷主・消費者の行動変容

物流産業の魅力化に向けては、施策による「標準的運賃」の引き上げを通じた賃上げの実現や、物流負荷の軽減、働き方改革による労働時間の削減が重要であるが、そのためには、前提として物流の需要サイド(荷主企業・消費者)における、物流を取り巻く課題の認識や理解を通じた意識改革・行動変容が不可欠となる(図表10 ドライバーの業務の課題(長時間待機や附帯作業の多さ)に対する認知度・図表11 再配達率の現状に対する認知度)。
「物流革新緊急パッケージ」では具体的な対策として、ポイント還元を通じた「宅配の再配達率半減に向けた緊急的な取組」により、2024年度に再配達率6%を目指すことが盛り込まれている(図表12 再配達率の推移)。
パッケージ内では、「政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進強化」も掲げられているところ、消費者の認知度の高まりも感じられ(図表13 「物流の2024年問題」の認知度)、賃上げやサービスの低下に対しても一定の理解が進んでいる兆候がみられる(図表14 人手不足対策への対応案)。
(出所)国土交通省「物流に対する消費者意識に関するアンケート」「宅配便再配達実態調査」、一般社団法人日本物流団体連合会「「物流の2024年問題」に関するアンケート調査結果について」


「送料無料」に関する実際のコスト負担の明確化

「物流革新緊急パッケージ」に加え、2024年2月の我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議で、「2030年度に向けた政府の中長期計画」がとりまとめられ、荷主・消費者の行動変容に向けた取組内容として、「送料無料」表示の見直しに関する事項も盛り込まれ、関係事業者は、「送料当社負担」や「送料込み」といった表示への変更が要請される(図表15 「送料無料」表示の見直し・図表16 政策パッケージにおける施策ロードマップ)。
「送料無料」の表記について、無料でモノが届くわけではなく、誰が物流コストを負担しているのかが明確でないことが問題視されている中、「送料無料」の表記に関する消費者の受止めをみると、同関係閣僚会議や消費者庁も掲げている「送料込み」等表記の工夫次第で、消費者の意識改革や行動変容が期待できそうである(図表17 「送料無料」の表記に関する受止め)。
価格上昇のトレンドは、財からサービスにシフトしてきている中(図表18 消費者物価指数の推移)、荷主側の表示見直しが進み、消費者の物流コストへの認識が高まり、適切な対価としての送料負担化の流れが広がっていくことで、物流業界の賃上げの原資になることや当該業界で働く人々の待遇改善、利便性やサービス維持に繋がることを期待したい。
(出所)内閣官房「2030年度に向けた政府の中長期計画」、一般社団法人日本物流団体連合会「「物流の2024年問題」に関するアンケート調査結果について」、総務省「消費者物価指数」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。