野村資本市場研究所研究理事 齋藤 通雄/東京大学 服部 孝洋
本インタビューの目的
我が国における国債制度を理解しようとするにあたり、特別会計についての理解が必要になることが少なくありません。もっとも、特別会計は複雑であり、独力での理解が困難だと指摘されることも少なくなく、さらに、初学者に向けた文献がないのが実態です。本稿は、国債を専門とする経済学者である服部が、国債制度だけでなく、日本の財政制度についても造詣が深い、財務省前理財局長(現在は野村資本市場研究所研究理事)の齋藤通雄氏にインタビューし、特別会計の理解を深めることを目的としています。今回は「齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)」の続編になりますので、前編(齋藤・服部, 2024)についてもご参照いただければ幸いです。なお、本インタビューの活字化等にあたり、東京大学経済学部の安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
東日本大震災復興特会
服部 齋藤様は、東日本大震災復興特会ができたときに、国債課にいらっしゃいましたよね。国債課ではどのような業務をなされていたのでしょうか。
齋藤 2011年、まさに東日本大震災が発生したときには国債業務課長として入札等資金調達の現場責任者で、復興特会ができたときには国債企画課長に異動していました。
服部 災害復興のために、東日本大震災復興特会を設け、政府は復興債を発行して資金調達をすることになりました。復興のために特別会計を設けた理由としては、東日本大震災の復興に関し、例えば、歳入と支出の関連がつけやすく、特別会計にしたほうが資金の流れが分かりやすい、ということであったと思います。2011年に野党であった自民党や公明党は、復興財源の明確化のため特別会計化を求めていました*1。その一方で、この資金調達をする場合、特会でなくても、理屈上は建設国債などの形で資金調達し、国土交通省などに予算をつけるという形もあったと思います。当時の政府には一般会計内での経理区分で対応可能との意見もあったところ、民主党・自民党・公明党の3党合意の結果、特別会計の新設に至りました。一方で、2020年のコロナ禍や、2024年に起きた能登半島地震については、特会を作らずに予備費で復興対策を実施しています。
齋藤 どういうときに特別会計として区分し、どういうときに一般会計のまま予算を措置するかは、どれだけ収入と支出のリンクが強いかというところが一つの判断軸になると考えられます。
特別会計を作る際には、収入と支出が紐づいていて、その対応関係が明確になるように分けた方が分かりやすい時に、特別会計として、一般会計から切り離します。特会として切り離すとなれば、最終的には法律面での手当てが必要となるので、法規課をはじめとした主計局と、その予算を担当している省庁で話し合って、切り分けた方がいいよねという話になってくると、政府としてその話をまとめ、国会へ持っていって、政治家の方にも納得をしていただければ、特会になるということです。
私の理解では、東日本大震災のときは、復興のために国として歳出予算の規模を膨らませ、すぐに財源はないのでその分国債を発行したわけですが、そのときに復興のために発行した国債を、どのように償還をしていくのかという問題に対して、一般会計のそれまでの赤字国債などの償還とは別立てにしましょう、という考え方がありました。当時は民主党政権下でしたが、財政健全化に対する意識もあったので、最終的に、東日本大震災からの復興のために、一時的に借金はするけれども、通常の一般会計の借金とは別立てに返済財源を確保しましょう、という話になったわけです。
そのために、復興特別税という形で広く国民に負担をお願いするとともに、一般会計の歳出を削減したり既存の特会の剰余金を繰り入れたりするとか、あるいは、国有財産の売却収入、例えば政府が保有しているJTの株式や、売却はこれからですが東京メトロの株の売却収入などがあれば、それも復興債の償還財源に繰り入れるといった形で、枠組みを作ったわけです。そういう意味では、東日本大震災の場合は、特定の支出と収入を紐付けるという枠組みに馴染みやすかったので、紐付けたものを整理するための一つの箱として、特会を作って経理することにしたわけです。
服部 2010年ごろは野田政権下で、財政再建を目指す機運がありましたね。
齋藤 民主党政権時代は財政規律に対する意識は強く、徒に国債を発行するよりは、予算の無駄を削りましょうということをやっていました。「事業仕分け」で、スパコンが世界2位ではダメなのか、といった発言も話題になりましたね。
服部 一般会計の枠組みの中で処理するのと、特会として分けて管理するのとどちらが望ましいかは、ケースバイケースということですね。当時の国債課はどのような役割を果たしていたのでしょうか。
齋藤 特会にするかしないかは、財務省の中では一義的には主計局の話しです。当時の国債課が復興債関連で何をやっていたかというと、新しく発行される復興債という国債を、どういう形で出すのかを決める、ということです。つまり、復興債の出し方として、一般会計分など他の国債と一緒に混合発行するのかどうかとか、何年物の国債で出すのか、といったことなどです。当時は、東日本大震災からの復興を支援しよう、という国民感情も強かったので、機関投資家向けにマーケットで発行される復興債だけでなく、復興応援国債として目的国債を個人向けに出して、買っていただいたお金を必ず全部復興に使いますよ、という方法もとりました。
服部 今のGX経済移行債みたいな形で、個人向けではなくて、マーケットに復興債だけを他の債券とは異なる形で出すかどうかについても議論があったのでしょうか。
齋藤 そういった議論はなかったと記憶しています。東日本の復興支援をしたい、という個人の方にアピールをして、個人向け国債を買っていただいて、復興の原資とする、ということはしました。しかし一方で、機関投資家の方々には、普通の国債とは別に、復興支援の国債だから買うというインセンティブはあまりなかったのではないでしょうか。企業目線からすると、被災地支援としては、国債購入よりも寄付とか物品の寄贈とか、あるいは人を派遣するとか、より直接的な形で行う方がよいと考えられたのかもしれません。
GX経済移行債は、投資家自身もそれを購入することで環境投資に力を入れていることをアピールしたいという気持ちがあると思いますから、脱炭素に使途を絞った国債として出した方が、そうした投資家の購入意欲を取り込めるのではないかということで、あえて分けて出しています。実は、GX経済移行債も個人向けとして出すかどうかの議論がありました。結局今のところは個人向けには出さないことになったのですが、震災からの復興支援のためにお金を出してもよい、と思ってくれる方はそれなりにいるのに対して、脱炭素のために個人でお金を出そうという人は、残念ながら少ないですよね。
服部 2020年に始まったコロナ禍の時はどうしたのでしょうか。コロナについてもこうした仕組みをとることもできたと思いますが(そのような提案をする学者もいましたが*2)、特会化はなされませんでした。
齋藤 コロナ禍の場合は、収入と支出の紐付きがなかったということだと思います。増発された国債の返済財源として、こうしますというのがはっきり決まっていれば、その将来的な国債の返済財源を収入とし、支出の方で返済していくというのを、会計として切り分けて整理することは考えられると思います。しかし、コロナの場合は、コロナに対応するために様々な多額の支出が追加されましたが、それに伴って増えた国の債務を返すための財源を何か特別に手当しているかといえばしていないので、特会にしようがなかったということだと思います。金額の大きい小さいはありますが、景気が悪いときに国債を増発して経済対策を講じる場合と同じようなやり方になったということです。
政府短期証券(FB)と国庫
服部 特会とは異なりますが、国庫もわかりにくいと指摘される傾向があると思います。短期的なファンディングのための資金として政府短期証券(Financing Bills, FB)がありますよね。理財局の国債課と国庫課はどのように連携しているのでしょうか。
齋藤 特会によっては、FBが出せなくて一時借入金という形をとるケースもあるのですが、FBを中心に、国債課と国庫課のやりとりについてお話しします。年度を通じての予算は、当然、歳入と歳出の金額が見合うように決められるわけですが、実際にお金が入ってくるときと出ていくときのタイミングは異なりますよね。
例えば税収でいえば、所得税は毎年2月から3月の確定申告の時期に入ってくる部分が大きいですね。もちろんサラリーマンの方の源泉徴収は、毎月の給料の支払いの時に、年度を通じて税収として入ってきますが、事業を営んでいる方の所得税は、確定申告のタイミングでまとめて入ってくるわけです。また、企業の法人税も、日本だと3月決算の法人が多いので、決算を締めた後5月までに入ってくる部分が多いと思います。そうすると、国に入ってくる収入は毎月均等に一定額ずつという訳ではなくて、波があるわけです。支出の方も、例えば何か大きな公共事業を行えばまとまった支出が発生しますし、最近でいうと、金額的に大きい年金の支払いは原則偶数月なので、2ヶ月に1回山が発生するわけです。あとは地方交付税で地方自治体にお金を渡すのが年に4回で、そのタイミングでもまとまった支払いが発生します。
服部 財務省は、図表2 国庫収支の調整*3を用いて、「国庫収支については、年度を通して見れば予算上の歳入と歳出がバランスするように、概ね均衡するものですが、『日々』の単位では受払に『ずれ』が発生します。このため、日によって現金不足や現金余剰が発生することがあり、調整を行う必要があります」と説明しています。
齋藤 そうすると、先に収入が入ってきて、手元にお金がある状態で支出する時は問題ないですが、税収などがまだ入ってきていないのに支出しなければならない状態になった時に、手元にお金がなくて、払いたくても払えない状態になるわけです。その時、一時的に資金調達をするために発行するのがFB、その中でも財務省証券とか略して蔵券(くらけん)と呼ばれるものです。国としてお金が入ってくる、あるいは出ていくというデコボコについては、国債の発行収入金や償還も関わっていて、国債の発行額は毎月ある程度平準化されているのに対し、国債の償還額は四半期末月(6月、9月、12月、3月)の20日に大きなコブがあります。
国全体として見たときに、毎月あるいは日々お金がどれくらい入ってくるのか、どれくらい出ていくのか、という見込みをたてた上で、これくらい足りなそうだから、資金繰りのためにこれくらいFBを発行して一時的に資金を調達しよう、という判断をしていきます。このような、国としての資金繰りを担っているのが、理財局の国庫課です。予算を執行していく段階では、予算を所管している各省庁の支出担当者が、自分たちの政策に必要なお金を出していくことになるので、いつどれくらいの額のお金が出ていくかの見込みは、財務省ですべてわかるわけではなくて、各省庁の担当者に聞かないとわかりません。そういう情報を全部集めた上で、さらに金額的に大きい国債の発行・償還と、財政投融資という枠組みからのお金の出入りも全体的に合算した上で、どれくらいお金が足りなくて、したがってどれくらいFBを発行する必要があるのかを最終的に国庫課が判断します。
服部 FBの発行額は国庫課が判断するのですね。
齋藤 最終的にはそうです。ただ、今お話ししたような中で、各省庁から色々と情報を集めた国庫課と、国債周りのお金の出入りを把握している国債課と、財政投融資の部署の資金繰りの担当者とが集まって、協議・調整をするんですよ。こうしたことを毎月定期的に事務的に行っています。
服部 各種特会の支出も考慮するわけですよね。
齋藤 もちろんです。一般会計だけでなく特会も含めた政府全体としてのお金の出入りを全て考慮します。
服部 その関係を示したのが図表3 資金融通による国庫金の効率的な管理・運用*4ですね。「国庫全体での資金繰り(調整)を行うことにより、現金余剰となっている会計から一時的に現金不足となっている会計に資金融通を行うことにより、国庫金の効率的な管理・運用が可能」と説明されており、一般会計や特会に過不足があった場合、それを調整する仕組みが導入されています。
ちなみに、FBの発行額に着目すれば、FBは主に外為特会のための短期的なファンディングです。これは、例えば、ドル円介入を考えると、外為特会はいわば円で短期調達し、外債等で運用しているファンドのような側面を持っています。このファンドは円で短期調達しているわけで、そのFBは「外国為替資金証券(為券)」と呼ばれています。そして、前述のとおり、FBの残高をみるとその大部分が為券ですよね。図表4 発行実績がある政府短期証券(FB)の発行根拠別の分類をみるとFBは色々な種類がありますが、投資家には区別されず投資されています。
齋藤 外為特会というのはどうなっているかというと、過去に行き過ぎた円高を是正するときに、円売りドル買いの介入をするために、FBを発行してまず円資金を調達して、調達した円をマーケットで介入として売って、外貨であるドルを買って、そのドルの運用として米国債を中心に外貨建て資産を持っているというものです。為券(FB)の残高はものすごく大きいですけれど、介入はそれほど頻繁に行われるわけではないので、外為特会は、過去の介入の結果積み上がった、資金調達のためのFBの残高と、保有している外貨資産の運用を淡々とロールオーバーしている、すなわち、満期がくればFBを借り換える、あるいは資産であれば次のものに投資をする、ということをやっています。
服部 先ほどまでの国庫の説明とは、少し性質が違いますね。
齋藤 そうですね。外為特会は、介入をすれば別ですが、そうではない場合、月々の国としてのお金の出入りのデコボコにそこまで影響を与えないですし、FBの毎月の発行額に変化を生じさせるものではないです。むしろ外為特会のFBは根雪みたいな感じで、一定額がずっとあるイメージですね。
服部 図表5 国庫短期証券に係る主な資金の流れ(概念図)*5を見ると、特会でお金が足りなくなったらFBを発行して金融市場から適宜ファンディングして、償還のタイミングになったら、またマーケットに返していくという流れですよね。
齋藤 そうです。蔵券としてのFBの発行収入金は形式的には一般会計に入ります。一番上に「国(国庫)」と書いてありますが、一般会計や特会から独立して国庫というものがあるわけではなく、むしろ統合して観念されるものが国庫なので、この図は若干ミスリーディングかもしれないですね。
それから、FBは年度の中の資金繰りがうまくいかない場合に出てくる話で、特会が発行するFBや一時借入金も、資金繰りという位置づけです。もし、次年度の予算を決める時点で、年度トータルで収入が足りないことがわかっている場合は、FBということではなくて、特会として借入れをするかどうか、という話になります。
借換債と特別会計
服部 ここからは、借換債と特別会計についてお話を伺いたいのですが、借換債の発行の仕組みと一般会計や特会の関係について、簡単にご説明いただけないでしょうか。
齋藤 前回のインタビュー(齋藤・服部, 2023)でもお話ししましたが、一般会計が発行した国債については、60年償還ルールというルールが作られています。60年かけて返済する仕組みとして具体的には、一般会計から国債整理基金特会に、法律上は100分の1.6という書き方をされていますが、国債の残高のおおむね60分の1にあたる額を毎年入れる、という形になっています。それが一般会計の予算の、国債費の中の債務償還費というところに出てきていて、今年度(2023年度)や来年度(2024年度)の予算でいうと、国債の残高が約1,000兆円なので、債務償還費は16兆円程度になっています。この16兆円が、60年かけて返すための、一定率での繰入れ部分になるわけです。
ただ、毎年実際に満期を迎える国債については、当然それを保有者に返していかなければいけなくて、それは一般会計から繰り入れる16兆円ではとても足りないので、足りない部分は国債整理基金特会で借換債を発行して資金を調達して、満期を迎える国債を保有している人に返すという形になっています。一般会計から繰り入れた債務償還費と借換債で、満期を迎えた国債を返していくというのが、一般会計が発行した建設国債や赤字国債の満期が実際に来た時のお金の流れです。
服部 大切なのは、すべての国債が60年償還ルールに則って償還されるわけではない点ですよね。例えば、復興債やGX経済移行債、さらに、後ほど議論する財投債は60年償還ルールに則っていません。例えば復興債の場合は、その償還はどのように考えればよいのでしょうか。
齋藤 復興債の償還財源としては、復興税として税負担の増加を求めますとか、政府が保有する株の売却収入や、一部の特会の剰余金をそこにあてます、といったパッケージができたので、そもそも機械的に毎年一定割合ずつ返すというのとは違う枠組みを作ったわけです。
もっとも、一般会計にあったら自動的に60年償還ルールが適用される、ということでもなくて、もともと今の特例公債・赤字国債を発行し始めたときは、60年償還ルールには乗せないで、赤字の国債なのだから満期が来たら返しましょう、借り換えはしません、ということに決めて、実は一度、赤字国債の発行を始めたわけです。しかし、実際にその国債の満期がきたタイミングで、借り換えなしに返済ができるほど財政状況が良くなかったので、もともと建設国債向けに作られていた60年償還ルールを赤字国債にも適用しよう、と切り替えました。ただ、赤字国債の発行根拠の特例法には、速やかに残高を減らす努力義務が規定されています。したがって、一般会計が返すべき債務として計上されていたとしても、必ずしも60年で返済しなければいけないわけではないです。
服部 国債発行計画の発行根拠法別発行額は、建設国債や特例国債などに加え、借換債の発行額の記載もあります。例えば、図表6 平成25年度(2013年度)国債発行における発行根拠法別発行額が平成25年度(2013年度)の発行根拠法別発行額になりますが、借換債の区分の中に復興債の記載もあります。復興債自体には60年償還ルールが適用されるわけではない、ということでしたので、これは60年償還ルールによる借換債ではないと解釈できると思いますが、これはどのように解釈すればよいのでしょうか。
齋藤 先ほどお話ししたように、復興債やGX経済移行債はそれぞれ償還財源が60年償還ルールとは違う形で決まっていますので、その償還財源を、発行していた特別会計から国債整理基金特会に繰り入れてもらい、それでは足りない部分を借換債で調達しています。復興債の場合は、前述のとおり、復興特別税や株の売却収入など色々な形で返済のための財源を手当てしており、そういった償還財源を復興特会から国債整理基金特会に繰り入れるわけです。復興債の満期到来額に対して、復興特会から繰り入れられる償還財源だけでは足りない場合、足りない部分は国債整理基金特会で復興債の借換債を発行することになります。ご指摘の、発行根拠法別の発行額に「うち復興債分」とあるのはそれです。GX経済移行債についても同じような仕組みになっていて、GX経済移行債の償還財源の手当てはこれからですが、それをエネルギー対策特別会計(エネ特)から国債整理基金特会に入れてもらうわけです。
なお、復興債の場合はやや事情が特殊で、復興財源を賄うための復興債による資金調達は平成23年度(2011年度)から始まった一方、復興事業に伴う歳入・歳出を管理するための復興特会の設置は平成24年度(2022年度)になってからです。このため、復興債には、一般会計負担の復興債と特会負担の復興債の二種類が生じてしまいました。
詳細は政府の法令検索サイト等で「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(「復興財源確保法」)を参照していただきたいのですが*6、復興債のうち平成23年度分(2011年度分)だけは一般会計負担と整理されています。ただ、復興債は、復興債のための償還財源が確保されているので、一般会計負担分も60年償還ルールの対象とはされておらず、復興債用の償還財源で不足する部分を国債整理基金特会で借り換えています。
服部 復興債は、60年償還ルールには則らない一方で、返済の期限が明示的に決まっていますよね。
齋藤 復興債等の償還という規定(第71条)が復興財源確保法にあって、端的に言うと令和19年度(2037年度)までの間に償還するものとすると書いてありますので、返し終わる期限が決まっています。
ただし、全部返し終わる期限は決まっていますが、その途中のところがきっちりと決まっているわけではないんです。一般会計だと60年償還ルールで100分の1.6ずつ機械的に減らしていくという制度ができているのに対して、復興債の場合は、毎年実際どれくらい入ってくるのか、まだこれからの部分もありますが、償還財源として予定されているものが順次入ってきて、入ってきた分はそれで返し、足りない分があれば借り換えて、借り換えた分は更に後の年度に入ってきた償還財源で返していく、という仕組みです。
GX経済移行債と特別会計の関係
服部 GX経済移行債についてはどうでしょうか。
齋藤 GX経済移行債の発行会計は、エネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定)ですが、この国債の発行根拠法は、(一般法である)「特別会計に関する法律」(の改正によるもの)ではなく、GX推進に関する特別立法(「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」*7;GX推進法)によって定められています。GX経済移行債の発行については、この法律の第7条に規定されており、「エネルギー対策特別会計の負担において」とあることで、償還財源を特会自身で手当てする(一般会計の一般財源に依存しない)ことが明確化されています。
服部 GX経済移行債の場合は、2050年までに返済するという大目標を掲げていますよね。
齋藤 GX経済移行債及びその借換債については、GX推進法の中で、化石燃料賦課金と特定事業者負担金の収入で、令和32年度(2050年度)までの間に償還する、ということが決まっています。これも復興債と同様に、返し終わる期限はあるものの、途中どのように返していくのかがきっちりと決まっているわけではありません。
服部 そうすると、復興特会の方がエネ特よりシンプルに感じるので、特別会計と償還の関係を最初に考える上で適している気がします。エネ特には複数の勘定がありますので。
齋藤 そうですね。エネ特は元々特会として存在していて、いろいろな事業をやっており、勘定も分かれているところに、新しい業務としてGXというものが付け加えられているので、東日本大震災の復興関連だけを経理している復興特会よりは、色々なものが歳入・歳出の部分に出てくることになり、エネ特は複雑です。
服部 図表7 エネルギー対策特別会計の仕組みがエネ特の仕組みですが、これを見るだけでもその複雑さがわかります。エネ特の所管官庁は経産省だけでなく、環境省と、内閣府も含まれていますよね。
齋藤 どの特会をどの省庁が所管しているかは、特会の予算書を見ると、全部書いてあります。エネ特全体としては、内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省の所管ですね。先ほど申し上げたGX推進法が、GX・脱炭素を政府として進めていくためのベースになる法律です。この法律は経産省の所管で、その中にGX経済移行債の規定もあり、そういう意味では予算関連法案でもあるので、主計局ももちろんチェックしていますけど、法律を実際に国会に提出して国会審議で答弁をするのは主として経産省になります。
服部 先ほど借換債の話をしましたが、GX経済移行債の償還にも借換債が関係してくるのでしょうか。
齋藤 令和4年度(2022年度)の第二次補正予算で、GX関連を先行的に措置したときには、統合発行か個別発行かという整理の前に、そもそも、GX経済移行債発行の法的根拠(GX推進法)がありませんでした。このため、その時点では、GX関連の予算は一般会計の歳出予算の一部となっており、その財源としてはお金に色はないとはいえ、特例公債が充てられていたと考えられます。GX推進法を立法する時点で、令和4年度(2022年度)二次補正段階での歳出権限や、その財源となった公債の(償還)負担を、一般会計からエネ特に引き継がせる措置が講じられることになり、GX推進法の附則第2条で経過措置としてその旨が規定されています。当該規定にある約1.1兆円という金額が、トランジションボンドとして発行される国債のうち借換債としての発行額になる額で、令和4年度(2022年度)に短期債でつないでいたもののロールオーバーです。
今度新しく発行されるトランジション国債については、今年度(令和5年度)の発行額は1.6兆円(5年債・10年債各0.8兆円ずつ)ですが、このうち0.5兆円(令和5年度(2023年度)当初予算時の根拠法別発行計画でGX経済移行債とされていた額)はエネ特のエネルギー需給勘定の歳入となるのに対し、1.1兆円は借換債として整理基金特会の歳入となり、令和4年度(2022年度)第二次補正対応で発行された(と整理される)短期国債の償還に充てられる、というのが正確なお金の流れになります。
大まかな考え方としては、GX経済移行債イコールGXのための支出に充てられるクライメート・トランジションボンドと考えても良いのですが、法律的に細かくいうと、GX経済移行債は新規にエネ特の歳入として発行される部分だけで、その借換債まで含めてトランジションボンドとして発行され得るということは一応押さえておいた方がよいかもしれません。
財政投融資特別会計
服部 財務省のウェブサイトでは、国債について「普通国債」と「財政投融資特別会計国債(財投債)」という分類がなされています*8。普通国債は主に税財源等により償還財源が賄われているのに対して、財投債は貸出先の返済が原資であるという点で分かれているということですよね。
齋藤 先ほどお話ししたように、税かどうかはおいておくとして、普通国債は何らかの形で償還のために国民に負担をお願いするような形になるものです。GX経済移行債だとカーボン・プライシングなどが償還に使われます。一方、財投債だけはやや特殊な国債で、財投債を発行して調達したお金は、財政投融資で独立行政法人や地方自治体向けの貸付にあてられますので、財投の目線から見ると、財投債を発行して借りたお金を別の人に貸して、貸した先からお金が返ってくる、あるいは利払いをしてもらえることになります。そうすると、自分たちが貸した先から返ってくるお金や払ってもらう金利で、財投債の返済や利払いができる仕組みになります。税などの形で国民に負担を生じさせずに、政府が行っている純粋な金融活動として、まず資金を調達してそれを誰かに貸して、貸したお金が返ってきたところで、調達した資金を返済することができるわけですから、財投債だけは性質が違う国債として整理されることが多いですね。
服部 財投の資金は財政投融資特別会計(財投特会)で管理されていますが、国債として出てきた財投債が、財投特会に直入されるわけですね。
齋藤 そういうことですね。
服部 例えば財投債を発行して調達したお金を、DBJ(日本政策投資銀行)などに5年などの期間で貸し付けるわけですよね。DBJはその資金を5年後に返済して、それが財投特会に入り、それを償還費として国債整理基金特会に繰入れて、財投債を返済するということですね。これは貸し出しをしている金融機関そのものですね。
齋藤 今は無くなりましたが、昔は長期信用銀行という業態があって、金融債といわれる債券を発行して資金調達をして貸付を行っていました。まさにそれと似たようなことを財投特会がやっているということです。
服部 財投には、産業投資もありますよね*9。
齋藤 産業投資は特会としては財投特会ですが、前述の貸出を行う勘定とは分かれていますし、投資の財源も違っていて、財投債の発行で調達した資金は専ら財政融資の貸付にだけ使っていて、産業投資の部分は、NTTやJTといった政府が保有している株式の配当収入などを財源としているので、お金の流れが違いますね。
服部 国債の発行収入金を産業投資に回すことはなく、株式の配当収入などを用いることで、国債の信用力に及ばない仕組みになっている訳ですね。図表9 財政投融資特別会計投資勘定の資金の流れ(令和5年度予算)が投資勘定の資金の流れですが、基本的には配当金や前年の剰余金に加え、一定の納付金が投資勘定に繰り入れられ、その範囲で投資されているということですね。
齋藤 そうですね。おっしゃるように産業投資は若干リスクが高いことをやっていて、回収ができないリスクもあります。ですから、産業投資はNTTなどから得られる配当収入といった、返す必要のないお金を原資にしています。
特会による借入金と公債発行
服部 以前のインタビュー(齋藤・服部, 2023)でも議論になりましたが、国の資金調達には公債発行だけでなくて、借入れも用いられています。「特別会計ガイドブック」では、図表10 借入金の借入れ等と公債の発行のように特会ごとに公債発行となるか、あるいは、借入金による調達となるかの規定が説明されていました。
齋藤 特会のなかで債券発行によって新規財源を調達できるのは、現時点では財投・復興・エネルギー対策となっていて、いずれもそれぞれちゃんと償還財源が手当できるような仕組みになっています。つまり、単に徒に発行して、償還できるかが担保できない場合は、債券としては出せない、ということになっているんです。
もちろん、借入金であっても、ただ足りないからといって、自由に借入れができるわけではありません。毎年の予算の中で、国会でそれぞれの特会の債券の発行額、借入れの上限額が決められていますので、債券だからさらに発行できるとか、借入れだからもっと借りられる、というようなことはないですね。予算で元々予定していたように収入が入ってこないので、足りない部分をどこからか借りてしまおう、ということはできないわけです。
服部 そこの借入の窓口も、理財局の国債課がやっているわけですね。
齋藤 そうですね。先ほども(本インタビュー前編)お話ししたように、特会に関する法律のなかで、資金調達周りや借りた後の返済・利払いの段階のいろいろな事務は、理財局がやるということになっていますね。
特会への批判とその払拭
服部 特会については、分かりにくいなど、一定程度批判があるという事実はあると思います。そのあたりの批判を減らすためには、政府としてどういう努力をしていく必要があるとお考えでしょうか。
齋藤 それぞれの特会を所管している各省庁で、それぞれの特会がどういう目的があって、どういう役割を担っていて、そのためにどのようにお金が入ってきて使われているのか、ということをきちんと説明することだと思います。財務省の主計局と各省庁の予算のプロセスで歳出が決まるわけですが、無駄がないようにチェックをしているということも、きちんと伝えていくということですね。
服部 これまで特会の統廃合を進めているわけですが、今後も時勢に合わせた統廃合が必要かもしれません。本日お話しした特会は、主に、国債に関係するところだけを取り上げているため、本稿を読んで特別会計に関心を持った方は「特別会計ガイドブック」などを手に取ってほしいです。
齋藤 たしかに、特会全体についてお話をしたというよりは、国の資金調達と返済・利払いを巡る資金の流れに一般会計・特会がどう絡んでくるのかを中心にした話でしたね。
服部 今回は、予算の中でも、特別会計についてお話をしていただきました。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
齋藤 ありがとうございました。
参考文献
[1].齋藤通雄・服部孝洋(2023)「齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(後編)」『ファイナンス』26-35.
[2].齋藤通雄・服部孝洋(2024)「齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)」『ファイナンス』
図表1 東日本大震災復興特別会計の仕組み(資金の流れ)
図表8 財政投融資特別会計(財政融資資金勘定・投資勘定)の仕組み
*1) 例えば、朝日新聞「復興予算の特会化、安住財務相が理解示す 自公が要求」(2011年10月24日)などを参照。
*2) 例えば、佐藤主光「経済を見る眼「コロナ復興特別会計」をつくるべき理由」『週刊東洋経済』(2020年8月22日)などを参照。
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm(令和5年4月現在)
*4) 下記を参照。
https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/(令和5年4月現在)
*5) 下記を参照。
https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/03.pdf
*6) 当該法律の第69条に復興債の発行根拠規定がありますが、平成23年度分の第1項と平成24年度以降分の第4項が書き分けられており、更に「特別会計に関する法律」第228条において、復興財源確保法第69条第4項の復興債(=平成24年度分以降)だけが復興特会の負担とされています。
*7) 下記を参照。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000032
*8) 下記を参照。
https://www.mof.go.jp/jgbs/summary/kokusai.html
*9) ここでは財政融資資金勘定と投資勘定を取り上げていますが、特定国有財産整備勘定も含め、3勘定あります。