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国有財産行政の過去・現在・未来~くらしに役立つ国有財産~


理財局国有財産企画課長 坂口 和家男

0.はじめに

(まず、頭の中で上沼恵美子さんが話している姿を思い浮かべてください。)
「皆さん、年末は実家でゆっくり過ごしたいですよねえ。私の長年の夢なんです。一度でいいからやってみたい。けれども無理なんです。毎年毎年、国内外の大物ミュージシャンなんかがコンサートするとか、イベントする、いうて実家を使うんです。もう騒がしくて騒がしくて。 えっ、私の実家? 大阪城」
というのは上沼恵美子さんの鉄板ネタであるが、実は、大阪城が立っているのは国有地である(ちなみに建物は大阪市が所有している。)。
※大阪城公園には大阪城ホールがあり、令和5年12月には、1万人が第九を歌ったり、THE ALFEEがコンサートをしたりした。
本稿では、国有財産行政の移り変わりについて見ていきたい。令和5年度の財務省職員1万6894人(外局である国税庁を除く)のうち、財務局管財部門で実際に国有財産の管理や処分に従事する職員は約1,600人*1であるなど、財務省の業務の中で国有財産行政は大きなウエイトを占めている。ただ、財務局の職員も目の前の業務に忙殺され、これまでの国有財産行政の経緯であるとか、今後の方向性ということについては、必ずしも詳しくない方もおられる。
理財局国有財産企画課は国有財産行政のとりまとめ役であるが、これまでも歴代の課長によって折に触れ、「ファイナンス」に国有財産行政について寄稿してきた(近年では令和3年3月号の石田課長、令和元年8月号の嶋田課長など)。私も、尊敬する諸先輩に倣って、国有財産行政についてのあれこれを紹介することで、「ファイナンス」を読まれる方々に国有財産行政とはこういうものですよ、と知っていただくとともに、財務局管財部門の職員に対しても、過去・現在・未来の時間軸を持って仕事をしていくことができるように情報共有したいと考えている。なお、本稿を書こうと決意するに当たっては、財務局に出張した際に意見交換した若手職員のやる気に溢れた姿勢が大きなモチベーションとなったことを付記したい。

写真:大阪城公園(敷地を大阪市に貸付中)


1.国有財産の全体像

国有財産というと、皆さんはどのようなものを思い浮かべるだろうか。
国道1号線?
国会議事堂?
皇居?
自衛隊千歳基地?
羽田空港敷地?
網走刑務所?
万博公園?
在アメリカ日本国大使館?
これらは全て国有財産である。もちろん、私が職場で使っているデスクや椅子も国有財産ではあるが、こちらは物品管理法で規定されているので別管理になる。理財局が所管しているのは、国有財産法で規定されている国有財産であり、すなわち、土地・建物に加え、自衛隊の艦船や、物納された有価証券、特許権などの知的財産権などとなる。
国有財産は国有財産台帳で管理されており、その総額は令和4年度末で131.8兆円に上る。どういう国有財産がどこに所在するか、については「国有財産一件別情報」として財務省ホームページで公開されている。
土地に着目すれば、日本の国土総面積が3779.7万ha*2であるが、その約半分の1807.1万haが国有地・公有地である。その内訳は、道路・河川等が610.7万ha、地方公共団体所有の公有地が319.6万ha、国有地が876.8万haであり、国有地について見れば97.2%が国有林となっている(国有林として有名なのは世界遺産に登録された白神山地など)。
国有財産は国民共有の貴重な資産であり、地域・社会のニーズに対してきめ細やかに対応しつつ、処分できるものはより高く処分し、また、行政に必要な財産を見極めた上で、保有して管理するものはより効率的に管理を行うなど、個々の状況を踏まえて、最適な形で管理・処分を行っていくこととしている。
それに当たっては公平・公正なルールに基づいて国有財産を扱うこととなっており、その根幹を成すのは財政法第9条第1項である。
第9条 国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
この規定に従い、国有財産の売却や貸付けを行う際には、法律に基づく場合を除き、適正な対価を徴収している。この「法律に基づく場合」として、国有財産法等により、特に公共性の高い用途(例えば、公園、緑地、ごみ処理施設等)に供する場合に、無償又は減額して売却・貸付けを行うことができるとされている。
手続きについては、国有地の処分に当たっては公用・公共用の利用を優先することから、最初に各省庁や地方公共団体等の利用要望を聞き、なければ一般競争入札により売却することとなる(留保財産(後述)を除く。)。一般競争入札には、どなたでもご参加いただくことができる。
一般競争入札に際しては、財務局のホームページで各物件の詳細や入札スケジュールについて紹介しており、財務省ホームページから「国有財産物件情報メールマガジン」にご登録いただくと、入札情報などが随時メール配信されてくるので、是非ご登録いただきたい。
入札を行った結果、落札されなかった物件については、一定期間、先着順で購入いただくことができる。売却価格も財務局ホームページに掲載されている。
また、国有財産を最も効率的に運用するなどの観点から、国有財産法第7条において、財務大臣に国有財産の総括権が認められている。「国有財産の総括」とは「国有財産の適正な方法による管理及び処分を行うため、国有財産に関する制度を整え、その管理及び処分の事務を統一し、その増減、現在額及び現状を明らかにし、並びにその管理及び処分について必要な調整をすることをいう。」(国有財産法第4条)。
具体的には、法令の適切な解釈等を行うとともに、各省庁から新たな庁舎を建てる要望があったときにはその必要性を審査し、どこの役所がどこの庁舎に入るか、という調整をしたり、各省庁が実際に国有財産を効率的に使用しているか、について実地監査をしている。また、国有財産が年間でどれだけ増減し年度末の現在額がいくらであったかということを毎年国会に報告するとともに、どういう国有財産がどこに所在しているのか公表している。
これらの事務の一部は、国有財産法第9条第1項及び第2項により、財務大臣から財務局長に委任されており、実際に国有財産を売ったり、貸したりする場合には、財務局長の名において行うこととなる。
国有財産総括事務処理規則(昭和29年大蔵省訓令5)では、「財務局長等は、管轄区域内にある各省各庁の所管に属する国有財産について、常にその状況に留意し、各省各庁の部局等の長に対して、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わせるとともに、国民経済及び国家施策の総合的見地において、公平適正な処理を図るように、国有財産の総括をしなければならない。」と定められている。こうした規定を常に念頭に置きつつ、財務局管財部門の職員は全国津々浦々で国有財産の管理・処分に日々従事している。
財務局は、北から、北海道財務局、東北財務局、関東財務局、北陸財務局、東海財務局、近畿財務局、中国財務局、四国財務局、福岡財務支局、九州財務局が存在する。なお、沖縄県については、内閣府の沖縄総合事務局において管財業務を行っている。
余談だが、先日、地元の図書館のホームページで新着案内を見ていて、「るるぶ もふ旅」とあったので、速攻で予約した。遂にるるぶも財務局巡りのガイドブックを出すようになったか、ニッチなところを狙ったな、と感慨深かったが、実際に借りてみると、「自然の中でのびのび暮らす動物に出会える離島&観光地をご紹介」ということだった。それはそうだよな、と、そっとページを閉じた。

写真:万博公園に所在する「太陽の塔」


2.国有財産行政の変遷

「国有財産」という概念は、地租改正の過程において誕生したものである。明治維新以前は土地所有権が法制度上定められておらず、従って土地の国有・民有の区別も存在し得なかった。地租改正の実施に当たり土地種目の区別、名称の統一が必要となったため、明治6年3月から、民有財産と国有財産の別が明確にされた。その後、大正10年に旧国有財産法が制定され、国有財産の管理は各省大臣が、その全体調整は大蔵大臣が行うこととされた。その際、初めて大蔵省に国有財産の事務処理のための部局*3が新設された。また、国有財産について利用目的ごとに(1)公共用財産、(2)公用財産、(3)営林財産、(4)雑種財産*4の分類がなされ、国有財産制度の原型をここに見ることができる。
その後の現在までの国有財産行政を見ると、国有財産の管理・処分の大きな方針の転換点として、(1)戦後処理に係る国有財産の増加、(2)高度経済成長と石油危機、(3)バブルの発生、(4)平成18年財政制度等審議会答申、(5)令和元年財政制度等審議会答申(以下、「令和元年答申」という。)が挙げられる。なお、このように、国有財産行政の方針に関する検討に当たっては、随時、財政制度等審議会国有財産分科会で御議論いただいており、そこで出される答申において、国有財産行政の大きな方向性を示していただいている。

(1)戦後処理に係る国有財産の増加

第2次世界大戦中、国有財産行政については、その担当は1係4名のみとなり、昭和19年度の国有財産に係る法定の国会報告が省略されるなど、最小限度に縮小されていた。一方、戦争終了後には、陸海軍省の廃止によって旧陸海軍省の大量の財産が大蔵省に引き継がれたほか、インフレ対策としての財産税導入に伴い大量の不動産が物納されたことを背景に国有財産が急激に増加し、こうした財産の管理・処分の必要が生じたため、昭和20年10月に大蔵省国有財産部が設置された。
政府は、これらの引継財産の管理・処分については、食料増産、民生安定等のために活用する方針を打ち出したが、原則として一件ごとにGHQの許可を取る必要があったことから、その処分に当たっては制約もあった。


(2)高度経済成長と石油危機

昭和40年代になると大都市への人口集中が一層進んだことなどを背景に、都市問題が深刻化するとともに、道路や学校などの公共用地を確保することが困難となってきた。そのため、都市及び都市周辺における未利用国有地はできるだけ都市の再開発に寄与するような形で処理することを基本的な方針とした(昭和47年3月国有財産中央審議会答申「都市及び都市周辺における国有地の有効利用について」)。これにより、従来国有地の売払処分に重点が置かれていたものが、都市部における国有地の売払いを停止し、公的利用により現有の国有地の有効利用を図る方針に転じた。
その後、2度の石油危機等を経て国の財政が急速に悪化したことを受け、国有地の処分による税外収入の確保が要請されることとなった。このため、公用・公共用優先の原則を損なわない範囲で売却を促進することとし、地方公共団体に対し、一定期間(原則3年)以内の買受けを勧奨することとし、それを徒過した場合には原則として一般競争入札を行うなど、国有地の有効利用と財政収入の確保の両立を図ることとした(昭和58年1月国有財産中央審議会「当面の国有地の管理処分のあり方について」)。


(3)バブルの発生

昭和60年前後からのいわゆるバブル経済において不動産価格の高騰が続き、国有地の管理・処分についても関心が寄せられるようになった。都心に存在する資産価値の高い国有地の入札結果が地価高騰の一因となっているとの指摘もあり、昭和62年頃から地価高騰区域内での入札を見合わせるといった対応を行った。なお、こうした指摘を受けた事案の一つとして、旧司法研修所跡地の一般競争入札による売却(昭和60年8月8日)が挙げられる。場所は紀尾井町であったが、その土地の来歴については「東京の地霊」(鈴木博之著 ちくま学芸文庫)に詳しい。(なお、本図書については親友であり国有財産に詳しいN氏に推薦してもらった。)
また、平成2年1月の国有中央審議会答申「大都市地域を中心とした今後の国有地の管理処分のあり方について」においては、
・未利用国有地が残り少なくなっていることを考えると、大量の未利用国有地の存在を前提として処分の促進を図ったこれまでの方針を今後とも続けていくことは適当ではない
・未利用国有地については、国の政策遂行に必要な施設の整備や道路等広域的な波及効果をもたらすものへの活用を優先する
とされ、より一層、公用・公共用優先の考え方が重要視されるようになった。
一方、バブル経済の崩壊に伴い不動産価格が急落し、相続税の納付に当たり不動産が物納される件数が急増した*5。物納不動産は相続税の金銭に変えて納付されたものであるため、早期の売却処分が求められるものであり、物納財産の売却促進は物納財産が急増した平成6年から平成10年代にかけて国有財産行政の大きな課題の1つとなった。ピーク時の平成11年度には未利用国有地のストックは1.8兆円にも上ったが、売却促進の取組や地価回復による物納減少もあって平成10年代後半には急速に減少(平成18年度0.4兆円)した。


(4)平成18年財政制度等審議会答申

平成10年代後半には物納財産の処理に目処がついてきた一方、アジア金融危機等に端を発する景気の深刻な低迷や「小さくて効率的な政府」への志向を受け、国有財産行政は次のとおり大きな転機に直面していた。
・経済活性化のために、国有財産を有効活用するべき
・極めて厳しい財政事情を踏まえると、市場性に劣る財産であっても売却・有効活用していくべき
このような状況の下、効率性を一層重視した国有財産行政へと転換するため、制度面・運用面の両面から幅広い見直しを行った(平成18年1月財政制度等審議会答申「今後の国有財産の制度及び管理処分のあり方について-効率性重視に向けた改革-」)。
この答申に盛り込まれた改革のうち、法律改正を必要とする事項について、国有財産法等を改正したが、これは約40年ぶりの大きな改正であった。その主な内容は以下の通り。
・市場性に劣る不整形地なども売りやすくするため、隣接地との交換を可能とする(国有財産特別措置法)。
・行政財産は国が直接使用するものであることから貸付け等は原則禁止されているが、行政目的を効果的に達成することに資するものを新たに貸付対象に追加(国有財産法)。例えば、行政財産である空港用地に、民間所有の空港ビルなどの堅固な工作物を設置する場合など。
・国以外の者とのいわゆる合築*6について、地方公共団体等に限定されていたが、国有地隣接の民有地を活用した合築を可能とする(国有財産法)。


(5)令和元年答申

未利用国有地のストックが大幅に減少してきたほか、人口減少・少子高齢化に伴い、地域・社会のニーズの多様化や所有者不明の土地や空き家問題を含めた引き取り手のない不動産に関する問題が新たな課題として顕在化してきた。こうした状況の変化を踏まえ、国有財産を「最適利用」していくための見直しを行った(令和元年答申「今後の国有財産の管理処分のあり方について-国有財産の最適利用に向けて-」)。


【具体的見直しの例】

・有用性が高く希少な国有地については将来世代における行政需要に備え、国が所有権を留保しつつ、定期借地権による貸付により活用を図る(留保財産制度)。
・中央官衙地区及びその周辺という庁舎が不足する地域において、一定規模の権利床の取得が見込まれる場合には、庁舎需要や経済合理性等を勘案の上、庁舎として活用を図る。
・宿舎については、地域によっては不足し、また、全体的に老朽化が進んでいることを踏まえ、宿舎が不足する地域においては、借受や建設により宿舎を確保し、また、計画的かつ効率的な改修を進めていく。
現在は、この令和元年答申の方針に沿って、具体的な国有財産の管理・処分を実施に移しているフェーズにあり、その具体的内容について以下に記していきたい。


3.国家公務員宿舎

国有財産は、国有財産法第3条第1項に基づき、大きく2つに分けることができる。すなわち、行政財産と普通財産である。
行政財産とは、イメージとしては、国の役所が使用中の財産であり、庁舎とか公務員宿舎がこれに該当する。一方、普通財産とは、未利用の国有地などのことである。以下、まずは行政財産のうち公務員宿舎から見ていきたい。


(1)公務員宿舎の制度と現状

あれは私が、とある公務員宿舎に入居したときのことだった。そのときの管理人さんとの会話は、20年以上経った今でも鮮明に覚えている。

管理人「ここが入居する部屋です。」

私「4階だけど、エレベーターはないんですね。」

管理人「公務員宿舎ですから。」

私「えっと、、台所の壁に丸い穴が開いていて、外が見えるのですが・・・、これは?」

管理人「ここに換気扇を付けてください。ホームセンターで売ってます。」

私「えっ、換気扇は自分で付けるんですか?」

管理人「(当然だろ、という顔で)はい。退去のときは取り外してもらいます。」

私「その穴の横に木の板が打ち付けてありますが・・・、これは?」

管理人「ここに給湯器を付けてください。ホームセンターで売ってます。」

私「えっっ、それまでお湯は?」

管理人「使えません(キッパリ)。」

私「お風呂はどう使うのでしょう?」

管理人「ここのハンドルを回して着火してお湯を沸かしてください。床はコンクリートがむき出しなので、簀の子でも置いてください。ホームセンターで売ってます。」
※正式には「バランス釜」と呼ばれる、湯沸し装置が横に付いているお風呂。

私「お風呂場の中にある洗面台で顔を洗うと、足に排水がかかるのですが。」
※想像しにくいでしょうが、洗面台から下に伸びているパイプが途中で途切れていて、排水はバシャバシャとお風呂場の床に垂れ流される構造でした。

管理人「簀の子を置けば大丈夫です。」

私「お風呂場に換気扇が付いてないような。。。」

管理人「ありません。ですので、お風呂場の窓を開けてしっかり換気してください。そうでないと黒カビが生えます。通気のために居間の窓も開けることをお勧めします。」

私「確かに、すでに黒カビが生えてますね。というか、お風呂上りに居間の窓を開けるって、冬でも?」

管理人「冬でも(キッパリ)。」

そのほか、きちんと閉まらない襖、テニスボールを置くと転がっていく傾いた畳、体育座りをしないと入れない狭いお風呂、洗濯機置き場が存在しない、など、衝撃的なことはたくさんあった。この宿舎は、今では取り壊されて存在しない。最近建てられた宿舎は、さすがに換気扇や給湯器は最初から付いているが、上記のような宿舎も、減少しつつあるとはいえ未だ存在している。
「公務員宿舎に入居する必要があるのだろうか?」と思われる方もいるかもしれない。もちろん公務員宿舎に入ることは、一部職員を除いて義務ではない。
公務員宿舎は、国家公務員宿舎法第1条に規定されているとおり、「職務の能率的な遂行を確保し、もって国等の事務及び事業の円滑な運営に資することを目的」としており、入居できるのは以下の類型に該当する者だけである。
ⅰ)離島、山間へき地に勤務する職員。自然保護官事務所やダム管理事務所職員等、離島や山間へき地に勤務する職員は、職場まで通える場所に自宅を所有していないことがほとんどである。
ⅱ)頻度高く転居を伴う転勤等をしなくてはならない職員。国は公平で均一な行政サービスを全国で提供する必要があり、国家公務員の勤務地は、全国に広く点在している。こうしたことに加え、不正や癒着の防止、適材適所の人材配置といった観点のほか、職務に熟達した能力の高い職員の育成のため、国家公務員は一定の地域に限定されることなく勤務しなければならない。
ⅲ)居住場所が官署の近接地に制限されている職員。国家公務員の中には、その職務の要請から、居住場所を官署の近接地に制限されている職員がいる。例えば、危機管理要員、刑務官、一部の自衛官等は、テロ、災害、暴動等の発生時に迅速に官署に駆けつけ、適切に対処することが求められている。令和6年元日に発生した能登半島地震では、直ちに出勤した職員も多かったと思われる。
ⅳ)各省庁が定めるBCP(業務継続計画)等に基づき緊急参集する必要がある職員。国は、災害、テロ、経済危機、武力攻撃等の事件・事故等の発生に対しても、迅速かつ適切に対処し、国民生活及び経済活動等に支障が生じないよう業務を継続していくことが要請されており、緊急参集要員は、仮に交通インフラや通信手段が遮断された場合であっても、迅速に登庁することが求められている。
ⅴ)国会対応等のために、深夜・早朝における勤務をしなければならない本府省職員。中央省庁における業務は、国会質問への対応など国会の様々な活動と密接に関係するものが多い。本省勤務をされた方であれば、予算審議中や自ら担当する法案審議中には帰宅できなかった経験のある方も多いだろう。
逆に言うと、これら入居が認められる類型に該当しない公務員については、公務員宿舎に入居することはできない。公務員宿舎は「職務の能率的な遂行」を目的とするものであって、職員の福利厚生を目的とするものではないからである。入居する宿舎についても、希望は受け付けていると思うが、原則として職場の指定による。そして、転勤や退職などの場合には20日以内に退去しなければならない。(相当の事由がある場合には一定の明渡猶予期間が設けられているものの、借地借家法上の借家権などは存在しない。)
また、公務員宿舎のクオリティについて、長らく新規建設を抑制してきたため、築50年を経過するような老朽化が著しい宿舎も現役で稼働させなければ需要に応えられず、建設当時の「必要最低限の仕様」となっている。上記私が経験したような宿舎は減少しつつあるが、最新の公務員宿舎でも、エアコン、ガスコンロなどは付いておらず、必要あれば自分で設置し、退去のときには取り外さなければならない。最近は、民間企業や地方公共団体の方が、人事交流として霞が関の中央省庁で勤務されることも多いが、公務員宿舎を紹介すると、「えっ、築40年なの?」、「えっ、空調ついてないの?」など、ほぼ例外なく驚かれる。
公務員宿舎を巡っては、かつて事業仕分けで「公務員宿舎のあり方については、速やかに関係省庁間において検討を行い、宿舎の建替えについては、その検討を踏まえ実施することとし、それまでの間、継続案件や東京周辺以外の緊急建替えを除き凍結するべき」という指摘がなされるなど、厳しい批判を受けることが多くあった。国家公務員宿舎の必要性等については、これまで記載したような実情をお伝えすると、ご理解いただけることがほとんどではあるが、それでも国民に誤解を招くようなことは極力避ける必要がある。こうした観点から、比較的地価の高く、公務員の福利厚生だと誤解を招きやすい立地である千代田区、中央区、港区に所在する宿舎は、危機管理要員等が入居するものを除き全て廃止し、今では存在しない*7。


(2)今後の公務員宿舎の方向性

平成23年の「国家公務員宿舎の削減のあり方についての検討会」における国家公務員宿舎の削減計画策定以降、5.6万戸の宿舎を削減するとともに、新規の建設を抑制してきたことから、既存宿舎の老朽化が進んでいる。また、宿舎削減計画策定から10年以上が経過し、国家公務員の全国的な人員配置も変わってくるなど、時代が変化し、公務員宿舎もそれにキャッチアップする必要がある。こうした背景の下、令和元年答申において、(1)地域ごとの需給のミスマッチ解消を図ること、(2)住戸規格のミスマッチ解消を図ること、(3)老朽化への対応を計画的に実施すること、(4)緊急参集体制の確保を図ること、という指摘がなされている。こうした方針に沿って、理財局において、公務員宿舎がどの地域で不足しているか、また、余剰が生じているかを把握した上で、引き続き長く使用していく宿舎とそれ以外の宿舎に仕分けし、引き続き長く使用していく宿舎については、長寿命化を図る観点から、壊れてから壊れたところだけ修繕するのではなく、予防保全の考え方に立ち、長期的な修繕計画を立て、それに沿った維持管理を行っている。また、築年数は古いものの立地条件が良いなどを理由に貸与率の高い宿舎は、水回りを中心としたリノベーション工事を計画的に行っている。さらに、特に宿舎不足が顕著である東京23区を中心に、合同宿舎の新規設置を検討し、今後整備を進めるとともに、霞が関に勤務するBCP職員用の宿舎の確保に努めていく。以上の取組等を通じて、地域ごとに必要とされる宿舎を確保し、需給のミスマッチを解消していきたい。
近年、マスコミでは「ブラック霞が関」とも言われ、長時間残業などが喧伝されている。実際、国家公務員採用試験申込者(総合職試験と一般職試験申込者数)は、平成24年度と比べ、令和4年度においては1万8356人減少しているなど、国家公務員を志望する学生が減少している状況にある。それに対して宿舎行政ができることは些少ではあるが、法目的に沿いつつ、国家公務員が少しでも働きやすい環境を作るために尽力していきたい。


4.庁舎

(再び、上沼恵美子さんを想起してください。)
「私、旅行に行くたびに衝動買いをしてしまうんです。東京に行ったときに気に入ったビルがあったから、小銭入れにあった1千万円で手付を払っておいたんですね。そしたら主人もビルを衝動買いしたんですが、ちょうど私のビルの隣。せっかくなのでつなげた。それが国会議事堂です。」
全国各地に行政財産としての庁舎が存在する。国会議事堂も庁舎である。霞が関の官庁街のほか、刑務所等の行刑施設や自衛隊の防衛施設も庁舎に含まれる。

写真:国会議事堂(行政財産)(参議院HPより)


(1)庁舎の整備について

庁舎も、老朽化が進んだり、耐震性能が不十分だったりするものが存在することから、計画的に建替えを行ってきている。役割分担としては、実際に庁舎を建設するのは国土交通省官庁営繕部(防衛施設や行刑施設など一部の庁舎は所管省庁が建設)、庁舎建替えの必要性や合理性を審査するのは財務省理財局、それを踏まえて予算査定を行うのが財務省主計局、ということになる。具体的には、要求省庁から理財局に対して取得要望が提出されるとともに、国土交通省に対して営繕計画書が提出される。主計局に対しては整備のための予算要求がなされる。庁舎の建て替えというのは時間とお金がかかるものであるため、計画的に進める必要があり、取得要望に関しては、要求年度の3年以上前から地方整備局や財務局と調整を行っている。
理財局・財務局は、各省庁からの取得要望を受け、取得の必要性・緊急性・規模の合理性などを審査し、審査結果を要求省庁に通知するとともに、主計局に意見を送付する。年度末の予算成立後、理財局は「取得等調整計画」を策定し、各省庁は当該計画に沿って庁舎等の取得手続を進めることとなる。
近年のトピックとしては「地方都市における既存庁舎の徹底した活用」(令和元年答申)がある。国の庁舎については、特に地方都市において、組織改編や統廃合等により余剰スペースが生じている場合があり、これまでも官署の入替えなどを行ってきた。一方、地方公共団体においても、コンパクトシティ構想等による新たなまちづくりが進められたり、公共施設の統合・廃止に関する方針が定められたりする動きが見られる。このため、最適利用の対象を国の庁舎等に限定せず地方公共団体の所有する公有財産まで拡げることとし、具体的には、国と地方公共団体が参画した協議会を設置し、「国公有施設の移転集約化」や「国公有施設の相互活用」などの観点から議論し、国公有財産の最適化を図っている。例えば、国(税務署等)・東京都(都税事務所)・世田谷区(図書館等)の3者を集約した世田谷合同庁舎などがその一例として挙げられる。


(2)庁舎の有効活用について

また、行政財産としての庁舎は、国の事務・事業実施のために各省庁が使用しているものであるが、玄関ホール部分や利用頻度の高くない駐車場、空地部分など、敷地の中で常に使っているわけではない場所もある。国有財産法第18条第6項で「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」とされており、空いているスペースは、各省庁の判断で民間事業者などに使用を許可することができる。近年は不動産事業者や鉄道事業者が、所有する土地・建物の空きスペースを貸し出して、少しでも収益に繋げられるよう努力していると聞くが、国としても、民間と同じく経営努力していく必要がある。この使用許可は有償であり、使用料は税外収入として国の歳入となる。
使用許可は、これまで売店、食堂や自動販売機等の設置がほとんどだったが、令和元年答申において、使用許可は「活用可能な財産の情報を積極的に発信し、地域社会による更なる活用を促すことで、一層の有効活用を図り、更なる収益確保」を目指すための政策ツールとして新たに定義された。これを受けて、多様な政策課題の解決に貢献するような使用許可用途の発掘に取り組んでいる。これまで、脱炭素社会の実現、DX・働き方改革推進等を進めるため、シェアサイクル、カーシェアリング、電気自動車用充電器、5G基地局、BOX型サテライトオフィス等の使用許可を行っており、導入件数も増加しつつある。さらに、地域活性化への貢献を目指してつくば市にある研究者向けの研究交流施設の会議室をスタートアップ向けオフィスに改装し、実際に3事業者の入居に至った例もある。使用許可に関する募集や許可といった各種事務手続きは各省庁が行うものであるので、理財局・財務局は、行政財産のうち活用できそうなスペースを調査したり、事業者が活用できるスペースについて知ることができるようHP上で資料を公表したり、関心を持った事業者と各省庁をつないだりといった取組を行っている。
https://lfb.mof.go.jp/kantou/kanzai/katsu2/pagekt_cnt_20240404001.html

写真:シェアサイクルとしての活用事例(東京の湯島地方合同庁舎)(関東財務局提供)


5.未利用国有地


(1)未利用国有地の現状

次に普通財産のうち、未利用の国有地についてである。国が使う予定がなく、特に用途が決まっていない国有地については、地方公共団体や個人等に対して売却や貸付けをすることによって、土地の最適利用を通じてまちづくりに貢献するとともに、国の財政健全化にも資することを目指している。
未利用国有地のストックの推移をみると、既述のとおり、ピーク時の平成11年度末には1.8兆円だったものが、積極的に国有地の売却を進めてきた結果、令和4年度末には0.5兆円となっている。さらに、未利用国有地といっても、その内訳を見ると、境界が不明確などの理由ですぐには売却できない土地が1,172億円、地方公共団体等が利用を検討している土地が3,835億円あり、すぐに売却できる土地(一般競争入札を予定している土地)は275億円に過ぎない。


(2)留保財産制度について

これまでの売却促進の結果、国有地のストックが極めて少なくなってきたとともに、都市部にあるまとまった土地は、一度売却してしまうと再び入手することは困難であり、将来、まちづくりのためにまとまった土地が必要となった場合に対応できないこととなる。こうした観点を踏まえ、令和元年答申にあるように、有用性が高く希少な国有地については、売却するのではなく「留保財産」として国が所有権を留保し、地域・社会のニーズを踏まえながら、定期借地権を活用した貸付けを行うこととしている。すなわち、まとまった国有地を、今の地域・社会のニーズに応じて活用していくとともに、所有権を国が留保し続けることで、将来の多様化する地域・社会のニーズにも対応が可能なようにしていく、ということである。
現在、全国で63(令和5年末時点)の留保財産を選定し、地方公共団体との議論等を踏まえて、定期借地権による貸付けを前提とした最適利用を図るための利用方針の策定を順次進めており、特別養護老人ホームや学校施設などでの活用が見込まれている。都市部にある「有用性が高く希少な国有地」については、まちづくり等の観点から、地方公共団体の考えが重要であり、財務局は地方公共団体と十分なコミュニケーションを図りながら、どのような利用の仕方が最も望ましいか、について、日々検討を深めている。
国有財産行政では、こうした留保財産に関する取組に加えて、人口減少や少子高齢化といった現代社会が抱える課題に積極的に対応してきており、例えば、保育所や介護施設の整備における国有地の活用を推進してきた。これまでに国有地を定期借地により貸し付けることによって、保育16,365人、介護10,624人の受け皿確保を実現したところであり、これからも、各時代の地域・社会のニーズを適切に把握し、柔軟に対応していきたいと考えている。


6.最近のトピックス


(1)災害対応

地震や台風等の災害対応に当たって、国有財産を活用していただくという取組は以前から継続している。
財務局は、平時から、ここに国有地がありますよ、というリストを地方公共団体と共有しており、災害が発生したときや、災害が発生する蓋然性が高いときには地方公共団体の求めに応じて無償で国有地を提供し、避難場所や廃棄物仮置き場などに活用いただけるようにしている。時々刻々と土地の利用状況等は変わるので、リストについては定期的に更新している。また、災害が発生したときには、一時的に空いている国家公務員宿舎についても被災地方公共団体に情報提供し、みなし仮設住宅として、被災者の方の一時的な避難場所として活用していただくことを可能としている。
今年元日に発生した能登半島地震においては、上記対応を行い、令和6年2月末現在で、石川県内の合同宿舎105戸について石川県に無償で使用許可を行い、順次希望する被災者の方に入居いただいている。
このほか、北陸財務局は、石川県庁の現地災害対策本部への連絡調整要員の派遣をはじめ、避難所の設営支援などに多くの職員を派遣しているほか、各財務局も職員を派遣し罹災証明書の発行等の支援を行っている。
大災害に当たっては国を挙げて対処する、という大方針に沿って、国有財産行政を担当する部局としても、被災地・被災者のために何ができるか、という観点から引き続き取り組んでいきたい。


(2)相続土地国庫帰属制度

長期的な人口減少や高齢化の進展、東京一極集中等を背景に、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える方が増えている。確かに、意図せずして田舎の土地を相続したけれども、東京で家も買ったし、あまり田舎に帰ることもないし、管理するのは負担だ、と感じる方がおられることは、私の身近な事例としても聞いている。平成30年度土地白書によれば、土地所有を負担に感じたことがあると答えた方は約42%に上った。
こうした状況の下で、土地の管理不全や、所有者不明の土地の増加という問題が顕在化している。これらの問題は、例えば、公共事業を行う際に所有者の探索に多大の時間と費用がかかるとか、雑草が伸び放題となって隣接する土地に悪影響が及ぶなどの問題を引き起こしている。
所有者が不明である土地の面積は九州よりも広いと言われており、今後高齢化の進展による相続機会の増加等により、こうした問題はますます深刻化すると見込まれている。このため政府は「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」(平成30年6月)を策定し、土地所有者の責務の明確化など土地所有に関する基本制度の見直し、登記制度・土地所有権の在り方等に関する検討、所有者不明土地の円滑な利活用、土地所有者情報を円滑に把握する仕組みといった所有者不明土地問題への包括的な対応方針を示し、政府一体となって総合的な対策を推進している。
このうち不動産登記制度の見直しについて見ると、相続登記や住所等の変更登記はこれまで任意だったので、相続した土地の売却が難しいような場合には、費用等をかけてまで登記の申請をしないといったことも起こっており、所有者が不明の土地が全国各地に生まれてきた。このため登記を義務化することとし、相続登記の申請は令和6年4月から、住所等の変更登記の申請は令和8年4月から施行されることとなった。
引き取り手のない土地の問題は国有財産行政に大きく関係する。民法第959条では、相続人が不存在の場合、民法の所定の手続を経てもなお残余財産があれば国庫に帰属する、と定められており、最終的に土地の引き取り手が出てこなければ国有財産となるからだ。相続人不存在による国庫帰属件数は年間100件を超えて推移しており、増加傾向にある。中には、老朽家屋の解体が行われなかったことから、そのままの状態で国有財産となったため、近隣住民の不安を解消すべく、財務局が解体撤去工事を行った事例もある。
こうした引き取り手のない土地の発生を防止するため、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定され(令和3年4月)、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が土地を手放して国庫に帰属させることが可能となり、令和5年4月より運用が開始された。
この制度においては、相続した土地を国庫に帰属させることを希望する方は、法務局に申請し、その土地が要件に合致するか否かの審査を受ける。
国庫に帰属する場合、その土地が農地や森林であれば農林水産省や林野庁が、宅地や雑種地などであれば財務局が管理・処分を行うこととなる。また、帰属に当たっては、土地の管理費として一定の負担金を納付する必要があり、例えば、市街地の宅地200平米であれば約80万円となっている。
申請件数と国庫帰属件数は、令和6年1月末現在の速報値で、申請件数1661件、国庫帰属件数117件(うち宅地・その他88件)である。
この相続土地国庫帰属制度は、動き出したばかりの制度であるが、国庫に帰属した土地の管理・処分を行う財務局にとっては、多くの土地が帰属することによる管理コストの増加が想定される。このため、必要な予算・定員の手当をさらに進めていきたいが、それと同時に、国庫に帰属した土地の効率的な維持管理を行いつつ有効に活用にする術はないか、帰属した土地を地域のまちづくりのために使えないか、などの検討を積極的に行っていく必要があると考えている。


(3)重要土地等調査法


(国土利用の実態把握等に関する有識者会議)

近年、我が国の安全保障を取り巻く環境が不確実性を増す中で、外国人や外国資本による土地の所有・利用に関する懸念・不安が広がっている。
こうした状況の中、内閣官房に「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」が設置され、同有識者会議の「国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について 提言」(令和2年12月)においては、
・国境離島や防衛施設周辺等における土地の所有・利用を巡っては、かねてから、安全保障上の懸念が示されてきた。経済合理性を見出し難い、外国資本による広大な土地の取得が発生する中、地域住民を始め、国民の間に不安や懸念が広がっている。
・国民の不安や懸念は、当事者以外には、どのような者がどのような目的で土地を取得又は利用しているのか分からないという「情報の非対称性」から生じているものと考えられる。
と問題の所在を示した上で、
・土地を巡る安全保障上の不安や懸念としては、外国資本等による土地の取得・利用を問題視する指摘が少なくない。しかしながら、経済活動のグローバル化が進展する中、外国資本等による対内投資は、イノベーションを生み出す技術やノウハウをもたらすとともに、地域の雇用機会創出にも寄与するものであり、基本的には、我が国経済の持続的成長に資するものとして歓迎すべきである。
・今般の政策対応の目的は、安全保障の観点からの土地の不適切な利用の是正又は未然防止であり、土地の所有者の国籍のみをもって差別的な取扱いをすることは適切でない。
・専ら外国資本等のみを対象とする制度を設ければ、内国民待遇を規定した、サービス取引に関する国際ルールであるGATS(General Agreement on Trade in Services)のルールにも抵触する。以上を踏まえ、新しい立法措置を講ずる場合には、内外無差別の原則を前提とすべきである。
との見解を示し、今後の方向として、
・安全保障上のリスクに適切に対応するためには、まずは、政府が重要な土地の所有・利用状況を確実に把握することが必要である。
・仮に、安全保障の観点から、不適切な利用実態が明らかになる、又は、そうしたリスクが顕在化する可能性が高い状況が明らかになる場合には、土地の不適切な利用を是正する、あるいは、未然防止するといった、実効的な枠組みを整備することが求められる
としている。


(重要土地等調査法)

この提言を踏まえ、令和3年6月に、重要土地等調査法(正式には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」)が制定された。本法律は以下のようなものである。
・重要施設(防衛関係施設や原子力関係施設等)及び国境離島等の機能を阻害する土地等の利用の防止を目的とする
・重要施設の周辺土地及び国境離島等において、注視区域、特別注視区域を設ける
・注視区域においては土地の利用状況を調査し、調査結果を踏まえ、施設等の機能を阻害する行為(機能阻害行為)が行われている場合には勧告・命令(罰則あり)を行う。必要がある場合には、国による土地の買取りを行う。特別注視区域においては、それらに加え、所有権移転等に際しての事前届出を義務づける。
・機能阻害行為が問題であることから、それを行う主体が外国人であるか日本人であるかは問わない。
本法律が令和4年9月に施行されてから、第1回の区域指定が令和4年12月、第2回が令和5年7月、第3回が12月、第4回が令和6年4月と、順次、区域の指定が進められた。これまでに、全国で583か所が指定されており、例えば、国境離島では対馬、西表島、鳥島、北硫黄島などが、重要施設では千歳基地や福岡空港、川内原子力発電所などが指定された。なお、本法律の担当省庁(内閣府)によれば、第4回の区域指定をもって、現時点で区域指定が必要なものは一通り終わるとのことである。


(国有財産行政における対応)

次に国有財産行政における対応だが、まず、国境離島に関しては「最適利用に向けた未利用国有地等の管理処分方針について」において、「国境離島、森林・水源地、その他の保全の対象となる土地」に該当する財産については、・・・当分の間、売却せずに保有し、適切に保全・管理を行う」とされており、この方針の下で、各財務局において適切に管理されている。
また、重要施設周辺の注視区域及び特別注視区域内にある国有財産の売却等については、安全保障と、まちづくりや地域の経済活動に与える影響の、いずれをも尊重したバランスのとれたものとする観点から、
・国有地の売却や貸付けといった方針を判断するに当たっては、重要施設を所管する省庁(防衛省など)及び重要土地等調査法を所管する内閣府に意見を聞き、その意見を踏まえて管理・処分を行う。
・売却や貸付けを行う際の契約に当たっては、重要土地等調査法に基づく命令が発せられた場合には、国が土地等の「買戻し」又は「貸付契約の解除」ができる特約条項を付す。
という対応を行うこととしている。
財務局においては、こうした方針の下、指定された注視区域及び特別注視区域内にどのような国有財産が存在するのかをリストアップした上で、関係省庁に管理・処分に関する意見照会を順次行っているところである。
重要土地等調査法は施行されてまだ1年半ほどの法律であり、施行から5年後に状況を検証し必要に応じて制度の見直しを行う旨の附則も存在することから、今後の推移を見極めていく必要があるが、財務省としては、この法律の趣旨を踏まえた適切な国有地の管理・処分を行っていく方針である。


7.今後の方向性

以上が国有財産行政の過去・現在・未来の概要である。当面見通せるニーズへの対応としては、上記のように、
・多発する災害に備える観点から、国有地に関する情報を地方公共団体と共有する
・高齢化の進行によって需要が増加する介護施設の設置に関して国有地を活用する
・様々な地方公共団体においてコンパクトシティの検討が進んでいることを受け、まちづくりに国有地を活用する
・直ちに売却や貸付が難しい国有地であっても、適正かつ効率的な維持管理を行いながら、地域での有効活用につなげる
ことなどが考えられ、いずれのテーマについても、地方公共団体や地域との密接な意思疎通が重要である。
現時点では見通せない地域・社会のニーズに対しては、留保財産制度を積極的に活用し、新たなニーズが生じた段階で、国有地を利活用できるようにしていきたいと考えている。
国有財産行政は、他の監督行政とは異なり、民間の方々と対等の立場で契約を結ぶことになるため、財務局職員は、まず地域の信頼を獲得することが何よりも重要であると心得ている。その上で、国有財産行政の在り方如何が、その地域の活性化を左右する、という自負を持って業務を遂行している。この基本的考え方をきちんと押さえることによって、変化していく地域・社会のニーズに、柔軟に対応していくことができると考えている。


8.終わりに

(三たび、脳内に上沼恵美子さんを召喚してください。)
「皆さん、滋賀県の人がよく「琵琶湖の水止めたろか。」って言いますよね。でも安心してください。琵琶湖も上沼家の財産です。」
琵琶湖は、もう皆さんお分かりと思うが、国有財産である。ちなみに、琵琶湖は法律上は「一級河川」という位置づけであり、川が流れている途中で水が溜まったところ、という理解のようである。
このように、皆さんの暮らしのそばに国有財産はあり、知らないところでお役に立っている存在である。「くらしに役立つ国有財産」。これは、理財局・財務局が活用するロゴマークである。
国有財産行政は、法令に則り、時代の要請に従って常に変化していくべきものである。そのためには、これまでの国有財産行政をきちんと理解し、同時に、その時々の社会情勢、経済情勢等を的確に把握し、その上で、前例踏襲ではない、斬新な発想で国・地域のために対処していく必要がある。本稿が、その一助となれば幸いであるし、国有財産行政に関心を持った若い方が、財務省・財務局の門を叩いてくれれば、これに勝る喜びはない。
※本稿内の意見に関する部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。また、大阪出身の筆者は上沼恵美子さんのファンであるため、テレビで見た上沼さんの話芸を記憶から引っ張り出しました。記憶違いがあったとしたら、すべて筆者の責任です。

写真:国有財産のロゴマーク。国有財産審理室のドアにも貼られている。

*1) 令和5年度の全国の財務局職員は4,684人。
*2) 土地面積については令和2年の数値。
*3) 大蔵省に臨時国有財産整理部が設けられたほか、各税務監督局長が地方機関として国有財産の総括と雑種財産の管理の事務を担うこととされた。
*4) 現行国有財産法の普通財産に相当する。
*5) 不動産価格が下落し、当該不動産の時価が相続税を計算する際に用いられた価額を下回る状態になった場合、当該不動産を現金化して相続税を払うより、当該不動産をそのまま物納した方が有利になるため。物納引受件数は平成元年度は102件だったものが、平成6年度には6053件へと増加した。
*6) 庁舎等の一棟の建物を国と国以外の者が区分して所有するための建築
*7) 宿舎跡地については売却の上、東日本大震災の復興財源となった。