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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~30

・「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています

財務総合政策研究所では、「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています。

今回は、第3回(1月16日)と第4回(2月13日)の議論の模様をご紹介します。

「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」メンバー

○座長
・宇南山卓(京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官)
○委員(50音順)
・古賀麻衣子(専修大学経済学部教授)
・佐々木百合(明治学院大学経済学部教授)
・田中賢治(帝京大学経済学部教授)
・戸村肇(早稲田大学政治経済学術院教授)
・松林洋一(神戸大学経済学研究科教授)
本研究会の発表資料等は、財務総研のウェブサイトからご覧いただけます。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html
※なお、研究会における報告内容や意見はすべて発表者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

1.第3回:2024年1月16日(火)

「マクロ経済理論から見た日本経済の資金循環表」
齊藤 誠 名古屋大学経済学研究科教授

ゲストスピーカーの齊藤教授からは、⽇本経済の資⾦循環が、実体経済に望ましい影響をもたらさないままに、政府と家計の間で資⾦が空回りしている背景についてご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
  • 政府の債務残高が増加し続けている中で、なぜ金利が上がらないかを考えると、家計が「貸しっぱなし」の状態(一定の金融資産を使わずに持ち続ける状態)があり得るならば、こうした状態が説明できる。
  • 家計は貯蓄を生み出すために消費を抑制していれば、家計が「貸しっぱなし」を続ける状態が生じる。その場合、政府が「借りっぱなし」をしていても、金利は上がらず、インフレも生じず、国債残高は発散しない。
  • 財政規律を棚上げにすればインフレが起こるというのは、長い目で見れば正しい主張ではあるが、政府の「借りっぱなし」と家計の「貸しっぱなし」が四つに組んでいる構図を整理して議論してこなかったため、規律の棚上げと規律の維持をそれぞれ主張する議論がかみあってこなかった。
  • また、近年、対外資産と対外負債が両建てで増加しており、「日本国債は日本国民が持っている」という状態から離れつつあることに留意が必要。
ディスカッサントの土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授からは、以下のコメントがありました。
  • 「借りっぱなし」の政府と「貸しっぱなし」の家計の状態は、ある種の時限爆弾であり、この状態が成り立たなくなった際に大きな不安定性が生じることになる。財政出動してもGDPギャップは解消しない中で、財政出動が人々の助けになるか、人々の幸福を増大させるかというと、そうではない。


「信用創造過程から考える日本の資金循環構造の変化と政府債務の維持可能性」
戸村 肇 早稲田大学政治経済学術院教授

委員の戸村教授からは、信用創造過程から考える政府債務の維持可能性に関するご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
  • 民間向けの与信(貸出)の拡大と、政府による国債発行(国内の銀行による国債購入)は、いずれも信用創造を通じたキャッシュフローの増加をもたらすものである。しかし、1990年代以降は、民間需要の減少の下で財政支出が拡大し、輸入も拡大する一方で円高傾向が続いたので、慢性的な財政赤字の下でも物価上昇は生じてこなかった。
  • 民間向けの銀行与信は、未来を変えるための投資と結びつく健全なキャッシュフローであるのに対して、政府向けの信用は現状維持のための所得移転が大きい。日本経済は財政赤字という点滴を受け続けて生体維持している状況であり、元気がなくなるのは当然といえる。
  • 日本の公債GDP比率に上限があるかについては、家計の金融資産が国債発行の裏側の動きとして増加しているのに対して、家計の総資産が増えていない。このため、貯蓄全体を見たときに、日本の家計が国債残高の増加をそのまま受容したとは言えず、財政赤字の増加が継続すると、どこかで日本の家計が受け切れなくなって、海外で消化する必要が生じる。

2.第4回:2024年2月13日(火)

「企業行動から見た資金循環の論点」
田中 賢治 帝京大学経済学部教授

委員の田中教授からは、企業の貯蓄超過と投資を巡る状況に関するご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
  • 日本ほど企業の貯蓄超過が一貫して続いている国はほかに見当たらない。貯蓄超過は設備投資の弱さを反映している。
  • 堅調な利益の結果、内部留保は増えており、この間、現預金と投資有価証券・その他投資が増えてきた。純粋持ち株会社による株式保有の影響を除くと、投資有価証券・その他投資は主として対外直接投資であり、日本企業は、海外ではリスクと向き合っていることになる。
  • 日本企業の「社齢」の上昇は、国内での設備投資へネガティブに影響している。成長期待のある海外でのビジネス展開が合理的である一方、日本国内では労働市場が流動的ではないため、雇用維持を優先すると新領域への展開が内部人材スキルの範囲にとどまり、新陳代謝が進まない。
  • 企業の自己変革のためには柔軟な労働市場が必要である。


「日本の賃金変化」川口 大司
東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授

ゲストスピーカーの川口教授からは、日本における賃金の変化と決定要因に関するご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。
  • 賃金の決定要因として、内部労働市場(企業の中)と外部労働市場(企業の外)の影響がある。日本型雇用慣行に変化が見られており、内部労働市場では、賃金に対して下落する圧力がかかっている。
  • 一方、外部労働市場では、急激な労働力人口の減少、労働時間規制、労働市場の引き締まりにより、賃金上昇圧力が生じている。ただし、女性と高齢者の就業率が上がってきたため労働力そのものはそれほど減っておらず、これまでは賃金上昇を抑制してきた。
  • 今後の賃金の変化は、産業、雇用形態、年齢等によって大きく異なることになるだろう。例えば、外部労働市場の圧力が働きやすい若年層やITエンジニアなどの専門職では賃金が上昇する一方、多くの産業で大企業正社員の賃金上昇は頭打ちになるのではないか。
第1回(2023年11月21日)と第2回(同年12月5日)の模様については、ファイナンス2024年2月号に掲載しております。合わせてご覧ください。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f10_28_2.pdf

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html