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コラム 経済トレンド118

金融機関における生成AIの成長性について
大臣官房総合政策課 河野  愛/伊藤  恭平


本稿では、金融機関における生成AIの成長性について考察する。

生成AIの現状

生成AIが多くの職業の生産性を向上させるとの期待が近年高まっている。生成AIとは、学習データから文章、音楽、画像、動画、ゲーム、アプリ、コードなどの新しいコンテンツの生成ができる、一連のアルゴリズムを指す。従来のAIが「決められた行為の自動化」であったのに対し、生成AIは「新しいコンテンツの生成」を可能とし、日常生活からビジネスにまで浸透し始めている(図表1. 従来のAI・生成AIの比較)。
生成AI市場は、今後10年間で高成長が見込まれ、年平均42%で売上が増加し、2032年までに売上高ベースで1兆3,000億ドル(約195兆円)規模にまで成長する見通しもある(図表2. 生成AI市場の推移)。
業種別で見ると、生成AIを含むAIの登場により銀行業では2,000億ドル(約30兆円)から3,400億ドル(約51兆円)(銀行業の営業利益の9~15%)の付加価値の向上が見込まれ、特にリスク管理でAIが付加価値を生み出すと想定されている(図表3. 銀行業で期待されるAIの付加価値)。
(出所)野村総合研究所「生成AIはビジネスをどう変えるのか」、みずほ銀行「生成AIの動向と産業影響【総合編】」、McKinsey&Company「Capturing the full value of generative AI in banking」

国内金融機関における生成AI動向

日本の労働市場では、総就業者数の約80%が生成AIの影響を受ける可能性があり、約40%の就業者が仕事の半分以上を自動化できるとの推計もある。生成AIはデータ分析・プログラムコードの生成・文章の要約等を扱うオフィスワーク中心の産業で影響が大きく、金融業の生産性向上に大きく寄与すると考えられている(図表4. 生成AI導入によるタスクの自動化対象率(産業ベース)の一部抜粋)。
国内金融機関は、業務効率化・新たなサービスの開発・与信判断能力の向上・投資判断の向上・リスク管理とコンプライアンス対応の高度化に生成AIを活用していくことが見込まれ、実際に各社生成AIの活用が進んでいる(図表5. 国内金融機関の生成AIの活用事例)。生成AI活用によるバックオフィスのスリム化、人的リソースの配置の見直しが図られ、新たな成長機会を生み出していくことが期待される。
国内金融機関の生成AI関連の投資額は、2023年の114億円から2028年に1,041億円まで拡大する見通しである(図表6. 国内金融機関における生成AI関連の投資額の予測)。
(出所)大和総研「生成AIが日本の労働市場に与える影響(2)」、総務省「令和2年国勢調査」、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)職業情報データベース「簡易版数値系ダウンロードデータ ver4.00」、「解説系ダウンロードデータ ver4.00」、日経クロステック「ChatGPT対応に温度差、メガバンクなど大手金融7社が明かすAIへの取り組み」、各社HP、日経BP「金融DX戦略レポート2024-2028」

生成AI活用に向けた課題

一部の国内金融機関では既に生成AIを業務に組み込んでいるが、生成AI利用の懸念事項として文書の無断利用や情報漏洩が挙げられる。実際に国内金融機関与信審査やデューデリジェンス(資産査定)において、社内ルールに反したChatGPTの利用が問題となった。生成AIの活用に当たりガバナンスをどう引き締めるかが課題である(図表7. ChatGPTを社員が利用する際に企業が留意すべき3ヵ条)。
生成AIは今後さらに多くの範囲で活用が期待される革新的な技術である一方、誤情報の生成を始めとする企業のリスクや雇用への影響といった社会的懸念も高まっている(図表8. 企業活動に際しての主なリスクと社会全体への懸念)。
2023年6月、EUで世界初となるAI規制案が採択された。AIから人間の自由は守られるべきという基本思想に基づき、リスクレベルに応じて禁止事項や要求事項、義務を定める罰則規定の合意がなされている。欧米を中心に各国でAI規制が進展しており、我が国においてもAI規制の制定が進むことが予想される(図表9. 生成AIに対する主要各国のスタンス)。
(出所)日経ビジネス「【ChatGPTの衝撃】ChatGPT、広がる社員の不正利用 内規に反した銀行員23人」、PwC「生成AIを巡る米欧中の規制動向最前線 欧州「AI規則案」の解説」、三菱総合研究所「生成AIをめぐる世界の議論と日本の役割」、みずほ銀行「生成AIの動向と産業影響【総合編】」

展望

2022年12月に日銀がYCCの運用の変更を行って以降、国内金利の上昇で銀行の利ざや改善や国債運用による収益拡大の見込みにより国内銀行株は増価基調にあり、リーマンショック以来の水準にある(図表10. 銀行業の株価推移)。
2023年3月に東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業に対し改善の働きかけを行っており、資本規制や業務の制約を受ける国内金融機関は低い傾向にあるが、PBRは1倍の水準に近づいている。しかし、日欧米の主要大手行と比較した場合でも、国内金融機関はPBRとROE(自己資本利益率)が相対的に低い傾向にある(図表11. 日米欧の主要大手上場金融機関の企業価値評価)。
PBRとROEの向上を目指す金融機関の多くは、自社株買い等の株主還元による資本水準のコントロールにより、PBRとROEの改善に取り組んでいる。一方、中長期的には、生成AIを含むデジタル化などの成長投資にも資金を投入することで、事務部門の改善や人員配置の最適化による収益機会の拡大が重要になってくるであろう(図表12. 生成AIにて作成した「生成AIと金融機関の発展」のイメージ図)。国内金融機関もPBR改善に向けた取り組みの2年目であり、生成AIを使いどのように経営していくのかに引き続き着目したい。
(出所)Bloomberg、大和総研「なぜ米国の金融機関の企業価値は高いのか~金融機関の企業価値経営再考~」、COPILOT


(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。