このページの本文へ移動

齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)

野村資本市場研究所研究理事 齋藤 通雄/東京大学 服部 孝洋

本インタビューの目的

我が国における国債制度を理解しようとするにあたり、特別会計についての理解が必要になることが少なくありません。もっとも、特別会計は複雑であり、独力での理解が困難だと指摘されることも少なくなく、さらに、初学者に向けた文献がないのが実態です。本稿は、国債を専門とする経済学者である服部が、国債制度だけでなく、日本の財政制度についても造詣が深い、財務省前理財局長(現在は野村資本市場研究所研究理事)の齋藤通雄氏にインタビューし、特別会計の理解を深めることを目的としています。なお、本インタビューの活字化等にあたり、東京大学経済学部の安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。

はじめに

服部 特別会計(特会)はしばしば理解が困難だと指摘されます。国債を理解する上で、例えば、国債整理基金特別会計を理解する必要がありますし、復興債やGX経済移行債(GX債)など、特別会計と密接な関係を有する国債を理解する必要もあります。そこで、今回は、国債に造詣が深いだけでなく、主計局法規課でのご経験もある齋藤通雄前理財局長へお話を聞くことで、特別会計の理解を深めたいと思います。特別会計については、批判的に取り上げられることも少なくありませんが、いかがでしょうか。

齋藤 ご存知の方も多いかと思いますが、20年くらい前に、塩川正十郎さんという財務大臣が「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」という表現で、特会を批判したことがありました。「母屋」は一般会計のことで、国の予算のメインのところです。一般会計では、借金を減らさないといけない、国債発行を減らさないといけない、という中で一所懸命歳出を切り詰めている。それを「おかゆをすすっている」という言葉で表現しました。これに対し、この後お話ししますけど、「離れ」である特会は、特会としての固有の収入もあるので、一般会計ほど切り詰めずにゆとりのあるお金の使い方をしており、そちらをもっと切り詰めなければいけない、というのが当時塩川大臣が言っていたことです。このように、特会に対してネガティブなイメージがある方も多くいらっしゃると思います。

服部 私は当時まだ大学生でしたが、大臣の発言は当時マスコミでもかなり報道されていた印象です。

特別会計とは

服部 まず少し教科書的なことに触れると、財務省が発行している『特別会計ガイドブック』などに記載されている通り、政府の会計には一般会計と特別会計(特会)があります。特会を設置している理由は複数あると思いますが、大きな理解としては、別の財布にしたほうが分かりやすいから、と理解しています。

齋藤 そうです。国の予算について、若干大雑把にはなりますが嚙み砕いてお話をすると、国が1年間にどういうことに、いくらくらいお金を使うのか、それに必要な財源がどういう形で入ってくるのか、というのを全体で整理したものが予算です。国がどういう政策にどれくらいお金を使うのかについては、その全てが一つの表の形で整理されていたほうが、お金が使われている部分と使われていない部分を比較しやすく分かりやすいというのは確かです。全部が一つにまとまっている、すなわち一覧性・総覧性が確保されている方が分かりやすい、というのが、基本的な考え方です。
『特別会計ガイドブック』にも記載がありますが、「予算単一の原則」、つまり、できるだけ一つの表の中で整理しましょう、という考えがベースとしてあるわけです。ただ、何でも一つの表の中にまとめてしまうと、かえって分かりにくくなってしまうことがあるので、それは一般会計とは別に特会という形で、予算を分けて整理しましょうということになっています。

服部 『特別会計ガイドブック』でいえば、「国の行政の活動が広範になり複雑化してくると、場合によっては、単一の会計では国の各個の事業の状況や資金の運営実績等が不明確となり、その事業や資金の運営に係る適切な経理が難しくなりかねません。このような場合には、一般会計とは別に会計を設け(特別会計)、特定の歳入と特定の歳出を一般会計と区分して経理することにより、特定の事業や資金運用の状況を明確化することが望ましいと考えられます」と説明されている部分ですね。

齋藤 例えば個人の家庭で考えた時には、収入が入ってきた上で、食費や住宅費、教育費など、何にどれくらいお金を使っているのかは、全体が一つに整理されている方が当然分かりやすいです。しかし、もしそのご家庭が何か事業や商売をやっているとしたら、商売の関連でもお金の出入りがあります。例えば、仕入れの経費や店員を雇う場合の給料などです。こういう状況であると、前述の日常生活の支出に加え、商売のための支出を一つの表の中で整理してしまうと、かえって分かりにくくなるわけです。商売の支出は商売で、生活の支出は生活で、と分けたほうが分かりやすいですよね。
国もこれと同じです。例えば、国として事業を営んでいる場合があります。現在は民間企業ですが、JRも昔は国鉄であり、また、NTTも民営化される前は電信電話公社でした。これらはさらに遡るとかつて特会だったわけです。もう少し最近民営化された例では、日本郵政も、私が係長として働いていたときはまだ特会でした。郵政民営化は小泉政権時代、21世紀になってからでしたので、比較的最近ですね。

服部 財務省が以前発行していた『特別会計のはなし』では、図表1. 区分経理の必要性の例(年金給付の場合)のように年金給付の事例が挙げられていますが、これは特別の会計を設けて、一般会計と区分することで資金の流れが整理される事例だと思います。特別会計には資金の流れを分かりやすくするというメリットがある一方で、特別会計の統廃合も進んでいますね。

齋藤 そうですね。私が係長の頃、1991年くらいですけれども、まだ郵政とかも特会でして、特会は全部で38個ありました(図表2. 特別会計の数の推移)。その後、国が事業として特会で行っていたものが民営化されて、特会でなくなっていったというのが一つの流れです。ただ、民営化の背景は、特会という仕組みに対する批判というよりは、国自身が事業を行うことで、「親方日の丸」と言われるようなコスト意識の欠如等が生じてしまったことから、民営化して経営の意識を高める、という理由が大きかったと思います。それから、服部先生が言われたように、先ほど触れた当時の塩川財務大臣の問題意識のようなことから、そもそも特会というものに対する批判もあり、特会の見直しも行われました。それまではそれぞれの特会ごとに法律がありましたが、現在は「特別会計に関する法律」という一つの法律に整理し直したうえで、特会の数をかなり減らすということをやってきています。

服部 特会の数はかなり減って、2024年度現在は全部で13個ですね(図表3. 特別会計(令和5年度))。

齋藤 特会の数自体は減っているのですが、国として事業をやっているものはもちろんまだあります。また、特定の収入と特定の支出を対応させたほうが分かりやすいといったケースでは、一般会計から切り出して、特定の収入と支出だけを一つの特会とする、という場合もあります。東日本大震災の復興関連のお金も、復興のための増税等を経て、収入を確保した上で復興のために支出をする、となった時に、一般会計と切り分けて整理をしましょうということで、東日本大震災復興特別会計が作られたという流れです。

服部 図表4. 特別会計改革については『特別会計ガイドブック』に掲載されている資料ですが、「国が自ら事業を行う必要性の検証」「区分経理の必要性の検証」「経理区分の適正化」「余剰金等の活用」という観点で、これまで特別会計の改革が進められてきました。

特別会計を作る目的

服部 前述のように特別会計には様々なものがあり、例えば、外国為替資金特別会計(外為特会)は為替介入により得た外貨を運用しているような側面もあります。特別会計を作る目的についてはどのように整理すべきでしょうか。

齋藤 『特別会計ガイドブック』に記載されているとおり、特別会計を作る場合は大きく三つあります。一つ目は、先ほどからお話しているような、国が特定の事業を行う場合です。二つ目は、国が特定の資金を保有してその運用をする場合で、資金運用特会といいます。今の特会で言うと、財政投融資特会と外為特会がこれに当てはまり、それぞれ財政融資資金と外国為替資金を運用しています。これらは、国としてある程度大きな規模の資金を運用して、その資金の運用に伴う収益や、資金の管理に伴う支出などを整理する目的で、一般会計に入れるのではなく特会として整理しています。資金運用に関連するお金の部分だけを切り分けて整理ができるように、というのが資金運用特会の役割です。そして三つ目は、一般的な書き方になっていますが、その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て一般の歳入・歳出と区分して経理する必要がある場合、というものです。これには後で説明する国債基金整理特会などが当てはまりますね。

服部 たしかに財投を担う財政投融資特別会計や外為特会は、まさに図表5. 特別会計の設置要件における「特定の資金を保有してその運用を行う場合」ですね。財政投融資特別会計や外為特会の2つは、一般会計からは分けて整理したほうが、その運用規模や損益が明確ですね。図表6. 設置要件別に分類した特別会計の種類(平成21年度:21特別会計)は少し古いものですが、エネルギー対策特別会計(エネ特)や国債整理基金特会は三つ目に分類されています。

齋藤 社会保険は保険事業として行っているので、それに関連する特会はまさに一つ目の「特定の事業を行う」という区分ですね。三つ目の区分は、国債整理基金特会と、あとは地方交付税の特会(交付税及び譲与税配付金特別会計)も整理区分特会という分類だと思います。私が係長として業務を行っていた頃、よく参照していた小村財政法(小村武『予算と財政法』)の当時の版だと、エネ特はたしかに三つ目のその他に分類されています。どの特会が三つの分類のどれにあたるかは、昔は小村財政法に書いてあったのですが、今ではその辺りが曖昧になってきたからか、最新版では記載がないようですね。

特別会計が難しいと指摘される理由

服部 資金の流れを分かりやすくするという議論をしましたが、一般的に、特別会計は複雑であると指摘されることも多いとおもいます。例えば、『特別会計ガイドブック』では「特別会計が多数設置されることは、予算全体の仕組みを複雑で分かりにくくし、財政の一覧性が阻害されるのではないか」などと指摘しており、このことも特別会計の統廃合が進んだことの一因と考えられます。特会が複雑だと指摘される原因についてはどのように考えられていますでしょうか。

齋藤 私自身は特会が必ずしも分かりにくいとは思いませんが、分かりにくいという指摘があるとすれば、その理由は、特定の事業を行うなど、それぞれの特会に固有の歳入と歳出があり、どういうお金が入ってきて、それをどういう目的のために使うというのが、特会ごとに決まっていることがあると思います。それが特会ごとに違うので、特会を理解しようと思うと、それぞれの特会の設置目的や収入支出の特色を一つ一つ理解する必要があります。
例えば、今の特会のなかで金額的に大きいのは年金や健康保険などの社会保障関係の特会ですが、これらをなぜ一般会計から切り離しているかというと、社会保険の制度には別に社会保険料という固有な収入があって、それに加えて国庫負担と呼ばれる一般会計から繰り入れられるお金があって、それらによって年金や健康保険という社会保障を給付しているわけです。そういう社会保険の仕組みやそれに伴うお金の流れを理解しないといけないので、一般会計に比べて、特会は分かりにくいところがあるのかなと思います。

服部 一般会計から切り離している特会にしたほうが資金の流れが分かりやすいという側面はあると思います。一般会計だと色々な税収がまとめて収入として入ってきて、それを財務省が各省庁に振り分けるというイメージになります。それに比べて、特別な目的があって、収入をその範囲で使う場合、それを特会とし、その開示がなされていればその資金の流れは整理しやすくなります。
『特別会計ガイドブック』でも「特定財源と特別会計の関係」について説明があり、特別会計の中には、「特定の歳入をもって特定の歳出に充てることにより、安定的な財源を確保することを目的として設置された特別会計もあります」と説明されています。図表7. 特定財源の種類(令和5年度当初予算)がその概要ですが、『特別会計ガイドブック』では、「特定財源は、(1)受益者や原因者に直接負担を求めることに合理性がある、(2)一定の歳出につき安定的な財源を確保できる」などの点で意義はあるものの、「(1)財政が硬直化するおそれがある、(2)歳入超過の場合に資源が浪費されたり余剰が生じたりするおそれがある、などの弊害もあることから、特別会計のあり方を考える際には、この特定財源にも十分に留意する必要があります」と注意を促しています。

齋藤 特会についての理解は、それぞれの特会の性格や目的が分かれば決して難しくないとは思いますが、それがなかなか見えにくい部分があります。また、マスコミ・メディアの取り上げ方もあると思います。一般会計の予算だけでなく、特会の予算も8月末の概算要求から始まって、12月の政府予算案の決定まで同じようなプロセスを経て査定されて、予算の政府案としてできていきます。にもかかわらず、12月に予算の政府案ができた時のメディアの報道はほとんどが一般会計の話題で、例えば一般会計の予算規模が何年連続で100兆円を超えましたとか、その中で国債の発行額はこんなに多くて引き続き国債の発行に頼っていますといった話は、新聞でもテレビのニュースでも報道されるわけですけど、個々の特会の予算に関してはほとんど報道がないわけです。そういう意味では、特別会計が一般の方の目に触れる機会は非常に限られています。それが、特会が何をやっているか分からないと言われる一つの原因だと思います。

服部 考え方としては、社会保険料等の収入を特別会計ではなくて、一般会計に入れて財務省が各省庁に振り分けるという形もあり得るわけですよね。でも、基本的な考え方としては、これらの流れを理解するために、すべて一般会計に入れるのではなくて、例えば、年金は別の財布で管理することで、その流れを理解しやくするということですよね。

齋藤 そうですね。収入と支出の対応関係をはっきりさせたい時には、一般会計という大きな財布に一緒に突っ込むよりは、特会として分けた方が分かりやすいということになります。

服部 報道のあり方がもう少し違う形であれば、違った印象を持つのかもしれませんね。とはいえ、特会としてかつては30個以上あり、現在も13個あって、その一個一個が違う収入・支出があり個性もあるので、それを一つ一つ詳細に追うということが簡単ではないのも事実です。その結果、分かりにくいという批判が起きるわけですね。

齋藤 それぞれの特会の性格や目的、支出の使い道などは、情報としては隠されておらず、むしろはっきりと公開されていて、それを見ればわかるので、決して特会が分かりにくいとは思いません。もし分かりにくいところがあるとすれば、それぞれの特会のなかに更に勘定区分のようなもの、ミニ特会みたいなものがあることです。勘定間で相互にお金を出し入れしていることもあり、それは制度を細かく調べないと分かりません。それも隠されているわけではないのですが、丹念に調べる必要があり、それを面倒臭いと思う人が分からないといって批判をしている気がします。

服部 特別会計について学ぶ場合、あまりよい文献がないという印象なのですが、どうでしょうか。

齋藤 たしかに特別会計について全体的・網羅的に記載されたものは、財務省の『特別会計ガイドブック』くらいしかないですね。

服部 これまでのお話ですと、特別会計を理解するには、個別性のある特別会計をそれぞれ理解する必要があります。もっとも、例えば、復興関係の特別会計のように使途が単一であるものに対して、勘定が複数あるエネルギー対策特別会計のようなものもあります。特に勘定区分が複数あるものについては、時間をかけないと理解は難しいという印象があります。一個一個、個別の特会に対して丁寧に追えば理解は可能なのですが、一つ一つ個性があるので理解が簡単ではないということになるのかもしれません。

齋藤 それぞれの特会について正確に理解しようと思うと、時間がかかるのはたしかですね。

服部 特会が複雑とされる背景には、一般会計と特別会計がそれぞれ完全に独立しているわけではなくて、相互に関連している点もあると思います。図表8. 「総額」と「純計」の違いの左側が日本の財政を「総額ベース」でみたものですが、その概念として一般会計と特別会計のやり取りだけでなく、特別会計どうしのやり取りもあります。図表8の右側にあるとおり、その相互のやり取りをネッティングした「純計ベース」である場合、国の財政規模は253.6兆円(総額ベースの場合、563.6兆円)であるため、一般会計と特会間、特会同士のやり取りの合計が差額の300兆円程度となることが分かります。したがって、個別の特会の個別性を理解することに加え、特別会計間のやり取りがあるというところは、見逃されやすいポイントかもしれません。
結局、特会について理解しようと思うと、『特別会計ガイドブック』を読みながら、それぞれの特徴について丹念に追うということですね。ただ、頭から読もうとしても、やはり淡々とした説明が続き必ずしも分かりやすいとは言えない中、別途分かりやすい書籍があるわけでもない、というのが現状だと思います。したがって、特別会計に関心を持った方が、今回の「ファイナンス」の文章を読んでもらい、その後『特別会計ガイドブック』などを参照し、特会についての理解を深める第一歩としていただければと思っています。

財務省における特別会計と主計局法規課

服部 前回のインタビュー(齋藤・服部, 2023)では、財務省の中でも、特に理財局の役割についての話をしていたわけですが、財務省には予算を担う主計局があります。主計局は、厚労係や文科係などの形で、各係が各省庁の予算の査定をするという構図です。この主計局の中に法規課が存在し、予算などに関する法令を扱っているところだと理解しています。
私がしばしば聞くのは、財務省の職員にとっても、特別会計は必ずしも簡単ではなく、その制度を深く理解するには、主計局法規課での経験が必要であるということです。齋藤様は係長時代に主計局法規課をご経験されていますが、主計局における法規課の位置付けについてお聞きしてもいいでしょうか。業務としてどういうことをやっていらっしゃったか、その中で特会がどう関わってくるか、ということをお聞きしたいです。

齋藤 主計局がやっている仕事の中で一番大きい部分は、国の予算をまとめることです。翌年度の予算は前年の8月末に各省庁から、来年度これだけの予算が欲しい、という概算要求が出されてきて、年末までの数ヶ月をかけて、査定と呼ばれるプロセスを行います。これは、各省庁の予算を担当する財務省の担当者と、各省庁の会計課やそれぞれの政策の担当者の間で議論をしながら、来年度の予算の金額を具体的にいくらにしましょうということを決めていくということです。そして、12月に予算の政府案が取りまとめられて、来年度の社会保障費はいくら、防衛費はいくら、文教予算はいくらというのが決まっていきます。

服部 その後、閣議決定がされて、国会で審議されて、予算が成立するという流れですね(図表9. 予算編成の流れ)。

齋藤 そうです。それで、主計局全体の職員の人数を見ると、内訳としては予算の数字を作っていく担当者が一番多いわけです。法規課経験がなくても、予算係にいれば、自分の担当する特会についてはかなり詳しくなれると思います。予算係は、それぞれの特会を所管する相手省庁に内容を説明してもらいながら予算を作るわけですからね。ただ、担当以外の特会の仕組みや、特会制度全体を理解することは難しいかもしれません。
一方、法規課というのは、主計局にありますが、予算の数字とはほぼ関係ない仕事をしています。法規課という名前の通り、予算や財政に関する法規、法令を担当しているのが主計局の法規課です。まず、予算や財政に関する全般的な制度を規律している法令があります。一番中心となる法律でいうと「財政法」という法律と、「会計法」という法律があって、財政法は、例えば予算をどういう項目立てで作るのか、どういうプロセスで編成するのかといった、予算と決算を作っていく段階を中心に、財政の一番基本的な決まり事を書いている法律です。決算は残念ながら予算ほどには注目されません。
予算では、どういう政策にいくらまでなら使って良いのかが、金額として決まっているわけですが、国の予算は国会の議決により承認をしてもらって決まっていくので、我々が普段日常生活で使う予算という言葉よりも、非常に厳格にできています。例えば我々が私生活でパソコンを買おうとして、予算を決めて実際にお店に行って性能とかデザイン・大きさなどを色々見てみたら、ちょっと予算オーバーだけどこれがほしいな、と思って買うこともあると思いますけど、国の場合、予算オーバーは1円たりとも厳禁です。国会で承認された上限なので、絶対に許されません。そのため、予算のお金を実際に支出していく段階で、二段階でチェックするような仕組みがあります。
特会も全て国会を通ります。一般会計も特会も、予算としては切り分けて整理していますが、概算要求があり、財務省が査定をして、年末に政府案を作るという予算の編成手続きは、一般会計も特会も同じですし、予算の政府案ができたら、予算書として国会に提出して、国会で議論・承認してもらうという点でも、特会も一般会計も同じです。

服部 そして、予算通りきちんとお金が使われているのか、チェックをするということですね。

齋藤 二段階のチェックのうち一つ目が、お金を出す元になるような契約をする段階です。これは会計法とか財政法の世界では「支出負担行為」という言葉を使いますが、分かりやすく考えてもらうと、契約を結ぶ段階と思ってもらえればよいです。その段階で、契約する金額が予算の範囲内に収まっているかをチェックするのが一段階目です。その後、実際にその契約に基づいてモノを買い、契約通りのモノが正しく納品されて機能することを確認した上で、契約していた金額を実際に支払うのが「支出行為」です。ここが二段階のうちの二つ目で、もう一回予算の範囲内に収まっているかをチェックするという手続きを踏みます。このような、予算を執行していく手続きについて規定している一番ベースになる法律が会計法です。

服部 つまり、財政法は予算や決算策定についての法律で、会計法が予算執行手続きについての法律ですね。

齋藤 財政法・会計法は主計局法規課が所管をしていて、もし何か必要があれば改正などをする、ということになります。国債の話で言うと、財政法では、国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入をもって賄うことと規定していますが、一方で、ただし書きにより、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、例外的に国債発行が認められていて、この例外規定に基づいて発行されるのが、いわゆる建設国債です。財政法に書かれているのはここまでです。
ただ、今の日本の財政状況では、国債の発行額としては建設国債だけでは足りなくて、いわゆる赤字国債(特例国債)を出しています。赤字国債(特例国債)を出すために、特例法が別途必要になってくるわけですが、この特例法の原案を作って国会に提出して審議してもらうという法案作業も、主計局法規課が担当する仕事になってきます。
主計局法規課の仕事の一つは、ここまでお話ししたように、予算や国の会計手続きを取りまとめる財務省として必要な法律あるいはその法律の下の政省令などを所管し、改正等を行うことです。法規課の仕事としてもう一つあるのは、他省庁が作成する予算関連法案のチェックです。予算関連法案とは、予算を支出する前提になる制度を作るような法律のことで、各省庁が国会に提出するものです。先ほどお話したような予算編成・査定のプロセスの中で、主計局の予算担当者と各省庁の間で、こういう制度にしてこれくらいのお金を出しましょう、ということを決めるわけですが、それが実際に制度を規定する法律に落としこまれたときに、元々約束されていた通りの内容で法律に書かれているのか、もっと言えば、将来的に国の余計な支出が発生するようなおそれがないかどうか、各省庁の予算関連法案を審査するというのも、主計局法規課の仕事になります。

服部 ちなみに、法規課係長時代はどういうことをやっていらっしゃったのでしょうか。

齋藤 私の係長時代は1990年代前半で、バブルが弾けた後ではありましたが、まだ特例公債を出さずに済んでいた時代で、したがって特例公債の法律の作業もありませんでした。
そうはいってもバブルが弾けた後で景気が悪化し少しずつ財政が苦しくなっていたので、一般会計の決算剰余金の半分以上を国債の返済にあてなければいけない、という財政法の条文の適用を、特定の年度については除外して、剰余金の全額を補正予算で一般会計の財源に使えるようにするための特例法を提出する、といったことをやっていました。

服部 法律に関する高い専門性が必要そうですね。係長で法規課に配属になるケース、つまり、例えば財務省に入って4年目などで法規課に配属され、各省庁の法令チェックなどを担当するということもありますよね。

齋藤 そういう意味では法律について親しみがある人、法学部出身者のほうが馴染みやすい仕事だとは思います。ただ法規課にいる人が全員法学部出身者かというと、全然そんなことはないですね。

服部 内閣法制局という、法令をチェックする機関も別にありますよね。主計局法規課は、予算に一貫性があるかを財務省の内部でさらにチェックするというイメージでしょうか。

齋藤 各省庁からすると、予算関連法案は主計局法規課と内閣法制局から二重にチェックを受けなければいけない形にはなるので面倒かもしれません。ただ、両者のチェックは視点が違うんですよね。主計局法規課のチェックは、予算編成の中で決まったことが法律・法令に正しく落とし込まれているかどうか、翌年度以降に余計な財政負担を生じさせる恐れがないかどうかが、チェックポイントとして一番重要なところです。
それに対して内閣法制局は、政策的なことをチェックするというよりは、法令として表現が正確かどうか、曖昧な書き方になっていて色々な解釈が生まれないように、意図することが正確に、誤解・誤読のおそれがないように表現されているかどうかを中心に徹底的にチェックするということになります。言葉の使い方について、既存の法令との整合性などが厳しく審査されます。

国債整理基金特別会計とGX経済移行債の今後

服部 ここから徐々に国債の話題に入っていきたいのですが、特別会計の支出を見ると、図表10. 特別会計歳出総額の推移に記載してある通り、その大部分が国債整理基金特会ですね。特会の中での国債整理基金特会の特徴についてお聞きしたいです。

齋藤 先ほど指摘したとおり、特会を作る目的というものが三つありまして、そのうちの一つが、その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て一般の歳入・歳出と区分して経理する必要がある場合、というものです。収入・支出にある程度対応関係があって、一般会計とは分けた方が分かりやすいとき、特別会計として管理しましょうということです。国債整理基金特会も、必ずしも収入と支出の対応というわけではないですが、支出の部分で、債務の償還や利払いという点に着目して、政府としてトータルするといくらになるかを見えるようにしましょうというのが国債整理基金特会の役割です。特会というものを一般会計とは別に作って、切り離して整理したほうが分かりやすいので、収入・支出は特会として別に整理する、ということですね。
国債整理基金特会はその名前が示しているように、収入と支出の対応関係を明確にするというよりは、政府の債務すなわち国債全体についてその利払いと償還がどれくらいあるのか、ということの全体が把握できるように整理している特会です。なので、国債整理基金特会の歳出については、過去の借金・債務で満期が来るものを返済するための支出というものが金額的には一番大きいです。それから、過去に負担してきた債務の利払費があり、これがその次に大きいです。それ以外に細々したものもありますが、基本的には債務の償還と利払いが国債整理基金特会の歳出の中心をなしていると思っていただければいいです。
政府の債務残高は巨額になっており、満期を迎える金額も非常に大きいので、服部先生が指摘されたように、国債整理基金特会の歳出規模も大きくなっているわけです。
では歳入の方はどこから入ってくるかというと、それぞれの債務を負担している会計が、返済や利払いに必要なお金を繰り入れてくるので、一般会計であったり、復興債であれば復興特会ですし、今度のGX債であればエネ特、という対応があるわけです。それ以外にも国債だけではなくて借入金という債務もあるので、一般会計に加えて、債務を負っている様々な特会から返済と利払いのための資金を繰り入れてもらって、それを支出しています。

服部 図表11. 国債、国の借入金に係る主な資金の流れ(概念図)*1のように、新規財源債としての国債の発行収入金は、その多くは一般会計に入りますが、特別会計にも資金が流れます。例えばGXに関する資金の流れであれば、GX債を発行した収入金はエネ特に入ります。一方、一般会計の国債やGX債などの利払いや償還については、一般会計や他の特会から国債整理基金特会にそのための資金を繰り入れて、統括して返済していくというイメージですね。
出口(歳出)で国債整理基金特会が統括して返済する支出が出てくるわけですが、その一方で、図表11にあるとおり、国債を発行した収入はそれぞれの特会に直入されます。国債の発行にせよ、借入にせよ国債業務課が統括してやっていますよね。これは単なる事務として、国債業務課がまとめて対応しているのでしょうか。

齋藤 理財局の国債業務課が事務をやっているかどうかということと、お金が全て国債整理基金特会を通るかどうかは別の話です。繰り返しになりますが、国債整理基金特会は、借金の返済と利払いをしていくための特会なので、国としてはお金が出ていく方を国全体についてまとめて整理しています。一方、国債に関する事務は、利払い・償還だけではなく発行のところも全て財務大臣、具体的には理財局の国債担当部署でやることになっているので、一般会計の国債だけでなく、財投債や復興債、今度のGX債などの発行収入金や借入金などのように収入が各々の特会に入るような場合であっても、資金調達の手続きは全て理財局の国債業務課でやる、という形になっています。
これは会計としてのお金の出入りとは必ずしも関係はないのですが、「特別会計に関する法律」の16条に、「各特別会計の負担に属する借入金及び一時借入金の借入れ及び償還並びに融通証券(年度内の資金繰りの証券)の発行及び償還に関する事務は、財務大臣が行う」という規定がありまして、政府としての資金調達・返済の事務は全て財務大臣が行うということになっています。これは「特別会計に関する法律」第一章の総則において、全ての特会に共通する事項として規定されているので、どの特会に入るお金であろうが、資金の調達と返済の事務は財務省が行うということになっており、それを理財局の国債課が行っているわけです。

服部 脱炭素社会に向けた支出を一般会計の中だけでやりくりした場合、ファンディングしてきた資金を一般会計の中に繰り入れて、財務省が例えば経産省や環境省に予算をつけるということがあり得ます。一方、エネ特の中の一つの勘定に、GX債を発行した収入を直接入れる方法があり、エネ特の場合、税だけによるものではないので単純には比較できない気がしますが、現在、後者の形をとっています。

齋藤 GX債については特会として分けて整理されていますが、予算の査定として緩くなりにくいというのもポイントの一つです。なぜかというと、GX債というものを発行して、脱炭素のための事業をやるわけですが、GX債を償還するために、カーボンプライシングや賦課金を導入して事業者からお金を徴収して、最終的に返済するというスキームになっているからです。経産省からすると、GX債を発行させてもらえるからといってどんどん事業をやってしまうと、事業者に対してたくさんの賦課金・負担金を課さないと返済ができなくなってしまいます。GX債の発行会計であるエネ特は経産省の所管ですが、賦課金・負担金を課す時に経産省自身が苦労することになるので、予算の規模を膨張させようという圧力はそれほど働かないと思います。
それに対して、特会が批判されがちなのは、特会固有の収入がある場合、本当はそこまでの額を支出する必要がないのに、これだけお金が入ってくるのだから全て使ってしまおうとなるおそれがあるということです。特別会計に関する法律の中に、それぞれの特会で剰余金があれば、一般会計に納めるという規定は一応あります。しかし、特会の予算を査定するときに、来年の収入を見通しながら支出を削っていって、余りを一般会計に繰り入れてください、というのは簡単ではありません。特会を所管する省庁の側からすると、自分たちが使えるお金だと思っていたものを財務省にとられる、という感覚になりますから。そうしたことから、特会の固有の収入が既得権益化してしまっているケースがあり、そういう場合は支出が緩みがちになる恐れがあります。一般会計の場合はそれがない、つまり、各省庁が要求するのは歳出だけで、歳出全体に対して歳入が足りない部分は国債を発行して賄うしかないので、歳出は可能な限り切り詰めて国債発行額をできるだけ減らそうという圧力が働きます。そういう意味では、特別会計と比べると一般会計の方が、より厳しい目線で査定される、というところはあると思います。

服部 GX債についてですが、債券償還の元手を調達する方法としてのカーボンタックスや有償オークションは、現時点ではまだ構想段階ですよね。そのため、一定の不確実性があるのではという意見もあります。政府がGX関連予算として2兆円超を概算要求した、という報道もありました。

齋藤 詳細は現時点で具体的に決まっていないとはいえ、GX債は将来的なカーボンプライシングや事業者への負担金で返していくことになり、経産省の側でも直ちには事業を膨らませにくかったり、GX経済移行債の発行額を増やしにくかったりということがあると思います。元々GXの話を始めた時には官民合わせて150兆円投資して、その中で政府が20兆円を、先行的に今後10年で投資していくということで、これが毎年2兆円(20兆円÷10年)という数字の根拠なわけです。ただ実際に発行が始まったGX債の数字を見ると、令和5年度(2023年度)は補正で増やしたけれども1兆5千億円、令和6年度(2024年度)の当初予算ベースは6,600億円で、毎年2兆円ずつには達していません。そういう意味では支出の部分も抑制されていると思いますね。

服部 GXをやるために、そこから得られる収入を一般会計に入れて財務省の経産係がお金をつけるのがいいのか、国債を発行したお金や事業収入が特会に入ってそこから返済するというのがいいのか、どちらがいいのかという問題がありますが、分けた方が分かりやすいのではないかという側面もありますね。

後編に続く

*1) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/02.pdf