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特集 令和6年度 防衛関係予算について

主計局主計官 後藤 武志



1.令和6年度防衛関係予算の全体像

令和6年度の防衛関係予算は、令和4年(2022年12月16日の国家安全保障会議及び閣議において決定された「防衛力整備計画(以下「整備計画」という。)」等を踏まえて編成を行った結果、全体で7兆9,496億円(対前年度比+16.5%)を計上している*1。このうち、SACO関係経費*2、米軍再編関係経費*3等を除く防衛力整備計画対象経費については、整備計画を踏まえ7兆7,249億円(対前年度比+17.0%)を措置している。(図表1.:防衛関係予算の推移)
また、国庫債務負担行為による新規契約額については、9兆6,803億円(対前年度比+1.1%)を計上しており、このうち防衛力整備計画対象経費は、整備計画で規定された新規契約額の上限(43兆5,000億円程度)を踏まえつつ、9兆3,625億円(対前年度比+4.6%)を措置している。(図表2.:新規契約額の推移)


2.価格低減等の取組

令和6年度防衛関係予算編成においては、内外の物価上昇や為替の減価に加え、装備品の調達価格の仕組みも影響する中で、装備品等の価格上昇が大きな課題であった。過去の中期防衛力整備計画とは異なり、今回の防衛力整備計画では防衛力整備の水準に係る総額等が名目値で記載されていることを踏まえれば、装備品等の価格低減を図からなければ計画時に想定された調達が実現できないことは明白であり、財政制度等審議会の「令和6年度予算の編成等に関する建議」においても、「防衛力の抜本的強化を達成するためには限られた財源の中で装備等を最大限に充実させる必要があり、価格低減等のコスト削減に努めなければならない」とされたところ。
以下、予算編成過程における価格低減等の取組例について紹介する。*4

ア 大型輸送ヘリCH-47(チヌーク)

(陸自12機 2,106億円、空自 5機982億円)
  • 官給品の活用等により、計▲213億円を低減(陸自▲9億円/機、空自▲20億円/機)。なお、今後、チヌーク以外のライセンス生産品も含め、官給品の更なる活用の取組を実施することとしている。

イ イージス・システム搭載艦(2隻 3,731億円)

  • 搭載システム及び搭載装備品の価格精査や建造費用の合理化を図ることで、計▲66億円を低減。今後、ライフサイクルコスト抑制の観点から実効的なプロジェクト管理を強化することとしている。
その他、部材価格の見直しの精緻化や整備器材の効率化等による価格低減の主な例は、以下のとおり。
  • 新型FFM(2隻 1,740億円)【▲7億円低減】
  • P-1(哨戒機)(3機 1,036億円)【▲3億円低減】
  • SH-60L(哨戒ヘリ)(6機 665億円)【▲4億円低減】
  • 12式地対艦誘導弾能力向上型の地上装置等の取得(130億円)【▲14億円低減】
  • PAC-3の再保証(204億円)【▲32億円低減】
  • Xバンド通信衛星(きらめき3号機)の試験・管理役務(12億円)【▲30億円低減】
  • Ⅴ-22(オスプレイ)維持整備費(244億円)【▲45億円低減】
  • Ⅴ-22(オスプレイ)シミュレータ購入(44億円)【▲10億円低減】
  • 次期PFI船舶の契約(305億円)【▲19億円低減】
  • 先進揚陸支援システムの研究(33億円)【▲23億円低減】
  • 無人水陸両用車の開発・将来EMP*5装備技術の研究(294億円)【▲11億円低減】


3.人的基盤の強化への取組

自衛官の予算上の人員数の上限としていた自衛官の「実員」を廃止し、人員数を見込む際に根拠とする採用数を過去の実績を踏まえたもの等に変更する一方で、自衛隊員の任務や勤務環境の特殊性を踏まえ、艦艇の乗組手当、特殊作戦隊員手当等の諸手当の増額(96億円 ※歳出額)を行うことで、具体的な処遇改善を実現。
また、厳しい募集環境の中においても、優秀な人材を確保するための募集業務(30億円 ※歳出額)や、自衛隊員の生活・勤務環境の整備として自衛隊員の宿舎の老朽対策工事等(479億円)に必要な予算を措置するとともに、女性自衛官の活躍を推進するため、隊舎における女性用区画、女性用トイレや浴場などの生活勤務環境の改善のための整備(139億円)に必要な予算を措置している。


4.令和6年度予算における主要事業

令和6年度予算は、防衛力の整備等に必要な事業を着実に推進しているところ、その主な内容は以下のとおりである。

(1)防衛力整備計画対象経費

ア スタンド・オフ防衛能力

  • 我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して、対空ミサイル等の脅威圏外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化するため、新地対艦・地対地精密誘導弾の開発(323億円)、12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型・空発型)の開発(176億円)・製造態勢の拡充等(486億円)等を実施。


イ 統合防空ミサイル防衛能力

  • 高度化する弾道ミサイル等の脅威から我が国を防護することを主眼として、イージス・システム搭載艦(2隻:3,731億円)の建造に着手。
  • 極超音速滑空兵器に対し、滑空段階において対処するため、GPI*6の日米共同開発(757億円)に着手。
  • これらのほか、弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速滑空兵器等への迎撃能力を強化するため、SM-3ブロックⅡA(弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル)(699億円)やSM-6(長距離艦対空ミサイル)(357億円)等を取得するとともに、PAC-3、PAC-2GEMの再保証(204億円、755億円)を実施。


ウ 宇宙領域における能力強化

  • 国民生活及び安全保障の基盤である宇宙領域把握の強化を図るため、令和8年度に打上げを予定しているSDA*7衛星を整備(172億円)するほか、民間事業者が運用する光データ中継衛星を利活用し、静止軌道間での光通信データ伝送実証(48億円)等を実施。
  • 宇宙領域を活用した情報収集能力の強化を図るため、周辺地域の画像解析用データを取得(247億円)。

エ サイバー領域における能力強化

  • 防衛省・自衛隊全体の情報システムの合理化(クラウド化等)やセキュリティ強化に向け、必要なシステム経費(1,012億円)を措置。
  • 防衛省・自衛隊のサイバー分野における教育・研究機能の強化に向け、陸上自衛隊システム通信・サイバー学校や陸上自衛隊高等工科学校におけるサイバー教育基盤の拡充のための経費(20億円)、部外力を活用したサイバー教育のための経費(16億円)を措置

オ 電磁波領域における能力強化

  • 相手の通信機器やレーダーが発する電波を妨害し、相手の通信や索敵などの能力を低減または無効化する能力を強化するため、ネットワーク電子戦システム(1式:90億円)や対空電子戦装置(2式:62億円)を取得するほか、低電力通信妨害技術の研究(31億円)・将来EMP装備技術の研究(88億円)を実施。
  • 電子妨害や電子防護に必要となる、電磁波に関する情報を収集する能力を強化するため、電波情報収集機RC-2(437億円)を取得するほか、電子作戦機(141億円)を開発。

カ 陸海空領域における能力

  • 機動戦闘車等と連携し、機動的に侵攻部隊対処を行うため、共通戦術装輪車(歩兵戦闘車)(24両:242億円)、共通戦術装輪車(機動迫撃砲)(8両:80億円)を取得。
また、96式装輪装甲車の後継として、装輪装甲車(人員輸送型)(28両:200億円)を取得。
  • 対潜戦能力の強化等各種海上作戦能力が向上した新型のFFM(2隻:1,740億円)、探知能力等が向上した潜水艦「たいげい」型潜水艦の8番艦を建造(950億円)。
また、水中、水上目標の探知・識別能力等を強化した能力向上型P-1(3機:1,036億円)や搭載システム等の能力等を向上させた回転翼哨戒機(SH-60L)(6機:665億円)を取得。
  • 我が国の航空戦力の質・量をさらに洗練・強化するため、戦闘機F-35A(8機:1,120億円)・戦闘機F-35B(7機:1,282億円)を取得するほか、戦闘機F-15の能力向上(133億円)・戦闘機F-2の能力向上(8機:131億円)を引き続き推進。

キ 弾薬の確保、装備品等の維持整備、施設の強靱化

  • 継続的な部隊運用に必要な各種弾薬を確保(9,249億円)するとともに、部品不足等による非可動を解消し、保有装備品の可動数を最大化するため、十分な部品を確保し、確実に整備(23,367億円)。
  • 自衛隊施設について、部隊新編及び装備品導入等に伴う施設整備等(2,593億円)、火薬庫の整備(222億円)、主要司令部等の地下化、戦闘機用の分散パッド、電磁パルス攻撃対策等(176億円)を行うとともに、老朽化対策及び耐震対策を含む防護性能の付与等のため、建物の構造強化、施設の再配置・集約化等を実施(3,233億円)。


ク 研究開発

  • 防衛イノベーションや画期的な装備品等を生み出す機能を抜本的に強化するため、新たに防衛イノベーション技術研究所(仮称)を設置し、大学等に革新的・萌芽的な技術についての基礎研究を公募・委託する安全保障技術研究推進制度(104億円)を引き続き実施するほか、外部の研究者等を活用し、将来の戦い方を大きく変える機能・技術をスピード重視で創出していくブレークスルー研究(仮称)(102億円)*8を新たに実施。
  • 射程等の特徴が異なるスタンド・オフ・ミサイルの研究開発を推進するため、新地対艦・地対地精密誘導弾の開発(323億円)【再掲】等を実施するとともに、多様化・複雑化する経空脅威に適切に対処するため、GPIの日米共同開発(757億円)【再掲】等の統合防空ミサイル防衛能力に関する研究開発を推進。
  • 次期戦闘機に係る日英伊共同開発を推進するため、機体及びエンジンの設計等を実施(640億円)するほか、次期中距離空対空誘導弾の開発(184億円)を実施。

ケ 防衛生産基盤

  • 国内の防衛生産・技術基盤を維持・強化する観点から、防衛装備品の安定的な調達に関するリスク(設備の老朽化、企業撤退等)への対応を促進するため、防衛装備品等の生産基盤強化のための体制整備事業(251億円)を実施。
  • 安全保障上の観点から行う移転対象装備品の仕様・性能の調整に必要な資金を企業に助成するため、防衛装備移転円滑化のための基金(400億円)に必要額を措置。

(2)米軍再編、基地対策等の推進

ア 米軍再編等関連軽費(2,247億円)

米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄県をはじめとする地元の負担軽減を図るため、在日米軍の兵力態勢の見直し等についての具体的措置を着実に実施。
  • 米軍再編関係経費[地元の負担軽減に資する措置](2,130億円)
  • 普天間飛行場の移設、自衛隊馬毛島基地(仮称)の施設整備、嘉手納以南の土地の返還等を推進。
  • SACO関係経費(117億円)
  • 沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告に盛り込まれた措置を着実に実施。

イ 基地対策等関連経費(5,108億円)

防衛施設と周辺地域との調和を図るため、基地周辺対策を着実に実施するとともに、在日米軍の駐留を円滑かつ効果的にするための施策を推進。
  • 基地周辺対策経費(1,370億円)
  • 自衛隊の行為や防衛施設の設置等により発生する障害の防止等を図るため、住宅防音や周辺環境整備を実施。
  • 在日米軍駐留経費負担(「同盟強靱化予算」)(2,124億円)
  • 特別協定等に基づき、在日米軍従業員の給与の負担、提供施設の整備、訓練資機材の調達等を実施。
  • 施設の借料、補償経費等(1,581億円)
  • 防衛施設用地等の借上や水面を使用して訓練を行うことによる漁業補償等を実施。



5.今後の課題

令和4年12月に策定された整備計画では、令和5年度から令和9年度までの5年間における計画実施に必要な防衛力整備の水準に係る金額を43兆円程度、新たに必要となる事業に係る契約額(物件費)を43.5兆円程度と定めるとともに、本計画を賄い、防衛力を安定的に維持していくための財源確保の必要性について言及している。
防衛力強化に係る税制措置については、令和6年度税制改正の大綱において、たばこ税の取扱いや令和6年度の税制改正法案の附則における対応を明確化し、一定の方向性が示されたところであり、今後も、歳出・歳入両面について、この整備計画を踏まえた防衛力整備を着実に進めていく必要がある。そのためにも、整備計画で定められた金額を最大限効率的に活用するため、価格低減や事業の抜本的見直し等の取組を続けていかなければならない。
「3文書」では安全保障の観点から見た経済・金融・財政の在り方についても言及されており、財政当局として、予算編成等を通じ、実効的な防衛体制の確立に貢献していくこととしたい。

*1) 防衛省情報システム関係経費のうちデジタル庁に計上する324億円を含む。
*2) SACO関係経費とは、沖縄に関する特別行動委員会(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告(平成8年12月2日)に盛り込まれた措置を実施するために必要な経費を指す。
*3) 米軍再編関係経費とは、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」(平成18年5月30日閣議決定)及び「平成22年5月28日に日米安全保障協議委員会において承認された事項に関する当面の政府の取組について」(平成22年5月28日閣議決定)に基づく再編関連措置のうち、地元の負担軽減に資する措置を実施するために必要な経費を指す。
*4) 予算額は「(2)米軍再編、基地対策等の推進」を除き契約額ベース。なお、初度費(専用治工具費や初度設計費等)は含まない。
*5) EMP(Electro Magnetic Pulse)とは、電磁パルスのことである。
*6) GPI(Glide Phase Interceptor)とは、滑空段階迎撃用誘導弾のことである。
*7) SDA(Space Domain Awareness)とは、宇宙領域把握のことである。
*8) 評価手法を確立し、成果の見込みの薄い研究については、途中段階であっても早期に中止を判断できる仕組みを構築。