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特集 令和6年度 国土交通省・公共事業関係予算について

主計局主計官 尾﨑 輝宏


1.基本的考え方

令和6年度の国土交通省・公共事業関係予算については、主に以下の考え方により、編成を行った。

(1)防災・減災、国土強靱化の推進等

  • 公共事業関係費は、6兆828億円(対前年度+26億円)を安定的に確保(5年度補正予算は2兆2,009億円(対前年度+1,996億円))。ハード整備に加え、新技術を活用した線状降水帯の予測強化などソフト対策との一体的な取組により、防災・減災、国土強靱化を推進。
  • 防災・減災効果を効率的に高めるため、災害の危険性の高い地域への住宅支援の引下げや、立地適正化計画の未策定地域への支援措置を見直しつつ、土地利用規制の導入と組み合わせた治水対策や津波・高潮対策を推進。
  • 水道事業の国土交通省への移管を契機に、上下水道一体による効率的な事業実施に向けた計画策定等を支援する新たな補助事業を創設。

(2)持続的な成長に向けた取組

  • インフラ整備を通じた成長力の向上のため、国際コンテナ戦略港湾等の機能強化や、空港の国際競争力の強化などを推進。
  • 訪日旅行消費額の更なる拡大や地方訪客の促進に向け、国際観光旅客税を活用し、円滑な出入国・通関等の環境整備、多言語対応や、地域の自然環境・文化財を活かした付加価値の高いコンテンツの創出などを推進。

(3)担い手の確保・賃上げへの対応

  • 公共工事の設計労務単価は、6年度まで12年連続引上げ。6年度は賃金上昇の実勢等を反映して5年度を上回る+5.9%の引上げ。また、下請事業者に対して適切な労務費が支払われるよう法改正予定。
  • トラックドライバーの賃上げに向け、法律に基づく「標準的な運賃」を引き上げるとともに、トラックGメンによる監視を強化。

(4)国民の安全・安心の確保

  • 「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、尖閣領海警備能力などの海上保安能力の強化を推進。


2.総額の水準

令和6年度の一般会計予算の公共事業関係費は、前年度比+26億円(+0.0%)の6兆828億円としている。
国土交通省関係予算については、前年度比+444億円(+0.8%)の5兆9,537億円としている。


3.主な施策の概要

令和6年度の国土交通省予算において重点的に措置している主な施策は以下のとおりである。
※以下、計数は令和5年度当初予算⇒令和6年度当初予算

(1)防災・減災、国土強靱化の推進

ア.ハード・ソフト一体による防災・減災、国土強靱化対策

(ア)公共事業関係費
60,801億円⇒60,828億円(+26億円、+0.0%)
(参考)令和5年度補正予算 22,009億円
6年度の公共事業関係費は、5年度補正とあわせて安定的に確保。ハード整備に加え、新技術を活用した線状降水帯の予測強化などソフト対策との一体的な取組により、防災・減災、国土強靱化を推進。
※ 国土強靱化への重点化
公共事業関係費のうち国土強靱化関係予算は、前年度比+632億円(+1.6%)の4兆330億円としており、防災・減災、国土強靱化関係予算として、国土強靱化基本計画(令和5年7月閣議決定)に関連した事業へ重点化。
(イ)線状降水帯の予測精度向上等に向けた取組の強化等
198億円⇒204億円(+6億円、+2.9%)
(参考)令和5年度補正予算(デジタル庁込み)290億円
近年頻発する線状降水帯の予測精度向上等を行うため、大気の3次元観測機能などの最新技術を導入した次期静止気象衛星の製造、気象庁スーパーコンピュータ等を活用した予測技術の開発等を着実に推進。令和6年からは、県単位で半日前から線状降水帯の予測が可能となる見込み。
(ウ)ダムの事前放流の取組を踏まえた事業採択プロセスの見直し
ダムの事前放流の取組の進展等を踏まえ、今後のダムの改造・新設の検討に当たっては、事前放流の更なる活用や放流操作の最適化など既存のダムを最大限活用することを検討・検証することとし、検討結果を踏まえて、新規採択の適否の評価を行うよう事業採択プロセスを見直し。
(エ)地方整備局等の執行体制の強化
23,753人⇒23,835人(+82人)
大規模自然災害からの復旧・復興や自然災害発生時におけるTEC-FORCEの被災自治体への派遣に加え、地域の防災・減災、国土強靱化の取組の推進を図る観点から、地方整備局等の人員を増員し体制を強化。

イ.防災・減災効果を効率的に高める取組

(ア)災害の危険性の高い地域への住宅支援の見直し
防災・減災効果を高める観点から、新築住宅に対する各種支援に関し、市街化調整区域かつ災害イエローゾーン(土砂災害又は洪水浸水想定3m以上の区域)といった災害の危険性の高い地域に建てられる新築住宅への補助額を半額とする。
(イ)立地適正化計画の未策定地域への支援措置の見直し
自治体による立地適正化計画の策定を促し、防災・減災に配慮した居住誘導を進める観点から、立地適正化計画を策定しておらず、策定に向けた具体的な取組等も行っていない自治体については、原則として、令和7年度以降は社会資本整備総合交付金について、道路事業、下水道事業、市街地整備事業(※先行して6年度以降)など分野横断的に、その重点配分対象としないこととする。
(ウ)防災集団移転促進事業の拡充
1億円⇒6億円(+5億円、+346.3%)
津波による災害の危険性の高い地域において、事前防災の観点から住居の集団的移転を促進するため、防災集団移転促進事業について、津波災害特別警戒区域への指定等を行った場合に、5戸以上の小規模な移転を可能とするとともに、補助対象経費の限度額を引き上げる。
(エ)土地利用規制等を組み合わせた治水対策
73億円⇒180億円(+107億円、+145.7%)
特定都市河川・流域の指定を通じて総合的な流域治水対策を加速させるため、指定地域を対象とする事業に重点化。更に、治水対策にあたり、特定都市河川法の浸水被害防止区域等の設定による土地利用規制と、輪中堤・宅地の嵩上げ等を組み合わせることにより、治水対策の時間を短縮し、コストを縮減できるよう事業メニューを拡充。
(オ)土地利用規制等を組み合わせた津波・高潮対策の推進
海岸堤防等の津波・高潮対策については、ハード面の対策と土地利用規制等のソフト面の対策を組み合わせた総合的な対策を推進するため、高潮浸水想定区域や津波災害警戒区域の指定等を実施した地域を対象とすることを要件化。

ウ.上下水道一体での効率的な事業の推進

30億円(皆増)
令和6年4月より、水道整備・管理行政が厚生労働省から国土交通省に移管されることを契機に、上下水道一体による効率的な取組を推進するため、上下水道一体での効率的な事業実施に向けた計画策定、上下水道一体でのウォーターPPPの取組や新技術を活用した業務効率化などを支援する、新たな補助事業を創設する。

(2)持続的な成長に向けた取組

ア.国際コンテナ戦略港湾等の機能強化

633億円⇒639億円(+5億円、+0.8%)
国際コンテナ戦略港湾(京浜港・阪神港)に寄港する国際基幹航路の維持・拡大を図り、我が国立地企業のサプライチェーンを安定化すること等を通じて、我が国産業の国際競争力を強化するため、
(ア)船舶の大型化に対応したコンテナターミナルの整備等を集中的に実施するとともに、
(イ)AIの活用等による港湾業務の自動化・省力化や物流手続の電子化、コンテナターミナルの一体利用の促進を通じて、港湾物流における生産性向上を促進。

イ.空港の国際競争力の強化等

(ア)空港の国際競争力の強化
756億円⇒864億円(+107億円、+14.2%)
【自動車安全特別会計(空港整備勘定)】
羽田空港において、京急空港線引上線やJR東日本羽田空港アクセス線等の整備を引き続き実施するほか、中部空港の現滑走路の大規模補修に向けた代替滑走路の整備等を実施。
(イ)空港使用料の軽減
航空旅客需要が回復しつつある中、航空会社の安定的な事業運営の下、インバウンド増大に向けた航空会社の機材投資等を引き続き後押しするため、国内線の空港使用料(着陸料及び航行援助施設利用料)を軽減(100億円)。
※ 令和3年度から令和6年度における空港使用料の減免による特会の歳入の減少を踏まえ、その回復を図るため、令和7年度から令和18年度にかけて空港使用料を適正な水準に設定。

ウ.整備新幹線の整備の推進

(ア)整備新幹線の着実な整備
804億円⇒804億円(±0億円、±0.0%)
北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)について、整備を着実に推進。
(イ)北陸新幹線事業推進調査
12億円⇒14億円(+2億円、+16.2%)
北陸新幹線(敦賀・新大阪間)について、従来、工事実施計画の認可後に行っていた調査も含め、施工上の課題を解決するための調査を先行的・集中的に実施。

エ.都市鉄道ネットワークの充実

148億円⇒153億円(+5億円、+3.2%)
大都市圏の中心部における移動の円滑化や通勤・通学混雑の緩和等を図るため、なにわ筋線の整備や東京メトロ有楽町線・南北線の延伸整備を推進するほか、地下鉄バリアフリー化等を推進。

オ.インバウンド消費額の更なる拡大等に向けた観光施策の推進

310億円⇒540億円(+231億円、+ 74.4%)
うち国際観光旅客税財源
200億円⇒440億円(+240億円、+120.0%)
訪日旅行消費額の更なる拡大や地方訪客の促進に向け、国際観光旅客税を活用し、円滑な出入国・通関等の環境整備、多言語対応や、地域の自然環境・文化財を活かした付加価値の高いコンテンツの創出などを推進。

(3)担い手の確保・賃上げ等への対応

ア.建設業の担い手の確保

(ア)公共工事における賃上げ等への対応
公共工事の設計労務単価は、12年連続で引上げ、6年度は賃金上昇の実勢等を反映して本年2月に+5.9%の改定。また、民間工事を含め、下請業者に対して適切な労務費が支払われるよう、法改正案を通常国会に提出。
(イ)建設業の働き方改革の推進
2億円⇒2億円(△0億円、△4.6%)
(参考)令和5年度補正予算 2億円
建設業の「2024年問題」への対応や魅力的な産業の実現に向け、働き方改革の推進に関する実態調査や処遇改善に向けた周知・啓発等を実施。

イ.物流の革新の実現に向けた取組

2億円⇒2億円(+0億円、+5.4%)
この他、財政融資112億円(+92億円、+460.0%)、産業投資10億円(皆増)
(参考)令和5年度補正予算 159億円
(ア)物流の停滞が懸念される「2024年問題」に対応するため、「物流革新に向けた政策パッケージ」(令和5年6月2日関係閣僚会議決定)等に基づき、商慣行の見直しや物流の効率化等について、抜本的・総合的な対策を推進。
(イ)トラックドライバーの賃上げに向け、法律に基づく「標準的な運賃」を平均約8%引き上げるとともに、その浸透・徹底のためトラックGメンによる荷主・元請事業者への監視を強化。

ウ.内航海運業への支援及び船員養成

内航海運業への支援 2億円(皆増)
物流の「2024年問題」を踏まえてモーダルシフトを進める中、内航海運がDXやGXといった社会変容や船員の高齢化といった課題に対応するため、内航海運の生産性向上等に資する技術開発や質の高い船員教育を支援。

エ.地域公共交通の維持・活性化

(ア)地域公共交通確保維持改善事業
207億円⇒208億円(+1億円、+0.3%)
(参考)令和5年度補正予算 319億円
従来の乗合バス等の運行費支援に加え、地方自治体が交通事業者に一定エリアの公共交通を一括して長期で運行委託(エリア一括協定運行)する場合への支援を実施するほか、賃上げ等のための運賃改定を実施する乗合バス事業者に対する支援を強化。
(イ)地域公共交通再構築事業
社会資本整備総合交付金(地域公共交通再構築事業) 5,065億円の内数
地域づくりの一環として、持続可能性・利便性・効率性の高い地域公共交通ネットワークの再構築に必要な鉄道・バス施設のインフラ整備等に取り組む地方自治体を支援。

オ.空港業務(保安検査、グランドハンドリング)の体制強化

保安検査の量的・質的向上の推進
79億円⇒135億円(+55億円、+70.1%)
【自動車安全特別会計(空港整備勘定)】
空港受入環境整備等の推進
3億円⇒3億円(+1億円、+17.9%)
(ア)今後の航空需要の回復・増大に対応するため、旅客の利便性向上を図りつつ、確実かつ効率的に保安検査を実施できるよう、国管理空港等の保安料の引上げ等により、保安検査員の処遇改善に関する支援や先進的な検査機器の導入を促進。
(イ)空港業務を担うグランドハンドリング事業者について、エアラインからの委託料引上げによる処遇改善を促すとともに、事業者の系列の垣根を超えて人材確保・育成や資機材調達などを支援。

(4)国民の安全・安心の確保

ア.海上保安能力の抜本的強化

2,431億円⇒2,611億円(+180億円、+7.4%)
「海上保安能力強化に関する方針」(令和4年12月16日関係閣僚会議決定)に基づき、尖閣領海警備能力や広域海洋監視能力の強化などの海上保安能力の強化を推進。
(ア)尖閣領海警備や広域海洋監視などの能力強化
    • 大型巡視船8隻の増強
    •  中型ヘリコプター1機の増強 等
(イ)業務基盤の整備
    •  ヘリコプター搭載型巡視船2隻の代替
    • 能力強化に必要な定員など、107人の純増 等


イ.一般会計から自動車安全特別会計への繰戻し

60億円⇒65億円(+6億円、+9.2%)
(参考)令和5年度補正予算 13億円
令和3年12月に財務大臣・国土交通大臣間で合意された内容(※)を踏まえ、被害者支援事業等が安定的、継続的に将来にわたって実施されるよう、引き続き繰戻しを実施。
(※)財務大臣・国土交通大臣間合意(令和3年12月22日)(抄)
    • 毎年度の具体的な繰戻額については、令和4年度予算における繰戻額の水準を踏まえ、(中略)財務省及び国土交通省が協議の上、決定することとする。
    • 般会計からの繰戻しに継続して取り組む
(注)令和4年度予算における繰戻額:54億円


ウ.通学路における交通安全対策の推進

555億円⇒555億円(±0億円、±0.0%)
令和3年に実施した通学路合同点検の結果も踏まえて実施している、速度規制等のソフト対策と歩道整備等のハード対策を適切に組み合わせた効果的な交通安全対策を着実に推進。(令和5年9月末時点において、約8割の箇所について対策済。)

図表 《公共事業関係費》
図表 《国土交通省関係予算》