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コラム 経済トレンド117

サステナブルファッションの動向について

大臣官房総合政策課 調査員 胡桃澤  佳子/西村  海生

本稿では、環境負荷の高いファッション業界が持続可能な産業になるために必要な改革について考察する。


概要

  • ファッション業界は環境負荷の高い産業と言われており、ファッション分野におけるサステナビリティ(サステナブルファッション)についての関心が高まっている。特に近年、SDGsやESG投資等の影響もあり、「コト消費」や「新たな価値観」が求められるようになった結果、社会のトレンドや消費者の意識が変化していると考えられる。
  • 「サステナブルファッション」とは、原材料の調達から生産、流通、着用、廃棄されるまでのライフサイクルにおいて、将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境、ファッションに関わる人や社会に配慮した取り組みを指す。
  • 繊維製品は海外拠点での生産の割合が高く、国際展開によって産業競争力を維持してきた背景がある。今後、グローバルに産業競争力を維持・強化していくためには、環境負荷の低減や人権への配慮等が不可欠である。
    図表1: ファッション業界と環境負荷
    図表2: 製造段階での環境負荷総量(年間)
    図表3: 世界で利用される水消費
    図表4: 日本における衣類輸入浸透率

(出所)時事通信「ファッションの環境負荷減らせ=廃棄、CO2ゼロに―官民で取り組み」、朝日新聞「サステナブルファッションとは? ~ファッションとSDGsの基礎知識~」、環境省HP、日本化学繊維協会「繊維ハンドブック2023」、経済産業省「生産動態統計調査」、日本総合研究所「環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務」


問題の根源・構造

  • 環境負荷の根源になっているのは、需要をはるかに上回る商品を製造するという商慣習である。2020年以降はコロナの影響もあり、外出自粛に伴う衣類供給量の低下が見られるものの、1990年代から比較すると、衣類供給量は高止まりする一方、衣服1枚あたりの価格は低下し、市場規模は縮小傾向にある。価格低下は生産性向上の側面もあると考えられるが、大量生産・大量消費が拡大しており、衣服のライフサイクルの短期化による大量廃棄への流れが懸念される。
  • 需要をはるかに上回る製品を生産しようとするために、一枚当たりの生産コストを低く抑えようとする力が働き、低賃金、長時間労働などの劣悪な労働環境の問題が浮上することにもつながっている。
  • 企業はセールを前提にマークアップを付けて定価を設定していると言われている。セールをせず、定価で売ることが前提となれば、定価に乗るマークアップを下げることができ、企業、消費者双方にとって有益になるはずだが、セール価格で購買することが広く浸透している中で、この値付けの慣習を変えられない企業が多くあると考えられる。
    図表5: 国内アパレル供給量・市場規模の推移
    図表6: 衣服一枚当たりの価格推移
    図表7: 繊維業界 生産性推移
    図表8: 製品の価格構造イメージ
    図表9: 定価販売比率比較

(出所)環境省HP、KDDI総合研究所「セール抑制が始まった~セールが日常だったアパレルブランドの挑戦」、日本化学繊維協会「統計情報(製造品出荷額、従業者数)」、繊研新聞「AIを活用したアパレル業界の収益構造改革」


現在の取組み事例とそれに対する考察

  • 日本国内で店舗展開されているブランドにおいて、定価販売比率の向上を掲げる企業が現れている。余剰在庫を減らすことや利益率向上を狙ってこうした戦略が取られており、売れ残った在庫品の量を減らすという観点で、持続可能性のための取組みの一つと言える。価格競争で競争力を上げているSPA(※)以外の企業は選択しにくい戦略であるが、ブランドの特性によってはこうした戦略を選択することも有効と考える。
(※製造から販売まで一貫して行う業種:UNIQLO、ZARA等)
  • 環境負荷低減のために、世界的に様々な取組みが施行されている。フランスでは2020年に事業者に対して衣服の廃棄を禁止する法律が公布された。それに続く形でEU全体においても昨年12月に同様の法案が大筋合意された。
  • 一方、日本では衣類の廃棄やリサイクル等について定められた法律はない。これに対し、規制を設けるべきという考え方もできるだろう。しかし規制により事業者の負担するコストが増加するため、規制を逸脱して廃棄物を処理しようとする事業者が現れる可能性がある。例えば、家電リサイクル法施行直後、数年間は家電の不法投棄が増加傾向にあったと考えられている。日本においては個社ごとに図表13 リサイクルやリユース等に関する企業の取組みのようなリサイクル、リユース等に関する取組みが行われている。企業の自主性に依拠するとともに、環境負荷低減に対する取組みを活性化させることが重要であると考える。
  図表10: 定価販売比率向上に向けた各社の動向まとめ
  図表11: 海外のファッション業界に対する廃棄規制の流れ
  図表12: 家電不法投棄数の推移

(出所)環境省「令和3年度ファッションと環境に関する調査業務【海外動向調査】」、環境省「令和3年度廃家電の不法投棄等の状況について」、UNIQLO HP、H&M HP、無印良品 HP、ZARA HP、KDDI総合研究所「セール抑制が始まった~セールが日常だったアパレルブランドの挑戦」、株式会社ユナイテッドアローズHP


サステナブルファッションをより浸透させるために

消費者が服を選択する際に重視するポイントを見ると、「ブランド名」や「流行・トレンド」を重視している割合は比較的低位に留まる。また図表15 ファッションはブランドより「テイスト」を重視するか(n=205人,15~24歳が対象)の通り、若者を対象とした意識調査では若者はブランドよりも衣服のテイスト(ファッションの系統)を基準に選んでいることが分かる、すなわち自身のなりたい「理想のイメージ」が念頭にあり、それに合致する服が選好されていると言えるのではないか。環境負荷の少ない商品を身に着けることを「理想のイメージ」に昇華することが、サステナブルファッションをより浸透させる、一つの手段と考える。これには企業によるイメージ戦略が重要になってくると言えるだろう。
持続可能な消費行動が重要であるという認識は広がっているが、具体的な取組みを行っている層は11.9%に留まる。「サステナブル製品かどうかが分かりやすくなってほしい」、「手近なお店でもサステナブルな製品を置いてほしい」と回答する消費者も多い。サステナブルな製品や取組みを行っている企業をより分かりやすく周知することも必要と考える。
価格は衣服を選ぶ上で最も重視するポイントではあるが、一方でセール商品に対する消費者の関心が低下したと見るアパレル業界の関係者は5割近くに達する。衣服を選ぶ基準として「価格」の優先順位を下げる消費者が増加する可能性がある。持続可能性への消費者の関心が高まる中、今後、一層企業独自の取組みが活性化されることやサステナブルな商品、取組みを実施している企業が消費者に分かりやすく周知されることを期待する。
図表14: 衣服購入時に重視する点(n=2,000人)
図表15: ファッションはブランドより「テイスト」を重視するか(n=205人,15~24歳が対象
図表16: サステナブルファッションの認知度と具体的な取組み実施割合(n=1,908人)
図表17: 衣類のサステナブルに対しての要望上位5項目抜粋(n=1,100人)
図表18: コロナ前と比較したときのセールへの関心(n=5,000人,アパレルメーカーの経営者・役員が対象

(出所)環境省「令和3年度サステナブルファッションに関する意識調査」、株式会社SHIBUYA109エンタテインメント「Z世代のファッションに関する意識調査」、環境省HP、クロスマーケティング「衣類のサステナブルに関する調査(2021年)」、シタテル株式会社「【調査リリース】「年始の初売り・セールは過去の風物詩に「コロナ禍前と比べてセールの売上減少を実感」が7割超え」


(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。