このページの本文へ移動

第16回OECD税務長官会議 (於:シンガポール)

国税庁 国際業務課 課長補佐 深澤  舞

昨年10月11日(水)~13日(金)に、シンガポールにおいて、第16回OECD税務長官会議(FTA:OECD Forum on Tax Administration)が開催された。会議にはOECD非加盟国・地域を含む43か国・地域*1の税務当局の長官クラスが参加し、税務行政における様々な課題に関する議論が活発に行われた。我が国からは、住澤整国税庁長官ほかが出席した。本稿ではFTAの概要、今回の会議における主要議題の背景及び議論の概要について説明する。なお、本文中の意見は筆者個人の見解を示したものである。


1.OECD税務長官会議(FTA)の概要

FTAは、税務行政の幅広い分野における課題について、各国の知見・経験の共有や意見交換を行うことを目的として、OECD租税委員会の下に2002年に設置された、税務当局の長官級のフォーラムである。現在はOECD加盟38か国及び非加盟15か国・地域が参加している(2023年よりクロアチアが新規加盟)。当初は約1年半ごとに開催されていたが、税務当局間の協力の重要性が高まったことから、2019年以降は毎年開催されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け2021年まではオンラインにて開催されていたが、今回は前回会合同様、対面形式で開催された。
今回の会議には、合計43か国・地域の長官クラスが参加したほか、アフリカ税務行政フォーラム(ATAF)、米州税務長官会議(CIAT)、国際通貨基金(IMF)及び太平洋島嶼国税務行政協会(PITAA)といった国際機関のリーダーに加え、19の民間企業*2の代表が参加し、幅広い参加者により活発な意見交換が行われた。
写真1:長官集合写真

2.第16回FTAにおける主要議題の背景

今回のFTA本会合では、(1)税務行政のデジタルトランスフォーメーション、(2)2つの柱の解決策の実施と税の安定性、(3)税に関するキャパシティビルディングの3点が主要な議題として取り上げられた。以下では、税務行政に関する国際的な議論の場において、上記3点への関心が特に高まっている背景について簡単に紹介する。


(1)税務行政のデジタルトランスフォーメーション

2019年のFTA本会合において、経済のデジタル化に即した税務行政の在り方を検討すべきとの認識が共有され、以降のFTAの作業計画では、税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたプロジェクトである「税務行政3.0(Tax Administration 3.0)」(コラム1参照)が重要課題として位置づけられている。
これまでも税務当局は業務効率の改善と納税者サービス水準の向上の両立という課題に直面しており、FTAにおいても、税務当局による納税者へのサービス提供のあり方や税務行政の効率化に向けた各国の取組について情報共有が行われてきた。DXによって税務当局・納税者双方のコストが削減されることにより、納税者サービスの水準を高めるとともに、納税者の自発的なコンプライアンスの向上にもつながることが期待されている。


(2)2つの柱の解決策の実施と税の安定性

世界経済のグローバル化・デジタル化が進み、国境を越えた経済活動が複雑・多様化しているところ、経済実態やビジネス形態の変化を反映した国際課税制度への見直しが求められている。特に、経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題への対応については、近年G20をはじめとする各種国際会議で大きく取り上げられている。2021年10月にOECD/G20 BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework:IF)において国際的合意(コラム2参照)が成立して以降、その具体化に向けた作業が進められている。
条約と国内法制の整備が終わればいよいよ執行面の議論に移行すること、複雑な制度であり納税者の予見可能性の確保が重要であることから、FTAにおいても重要課題として取り上げてきた。各国当局の協力が前提となっている制度であるため、一層の協調が求められている。


(3)税に関するキャパシティビルディング

途上国にとっては、まずは歳入確保がDRM(国内資金動員)のために重要であり、また2つの柱といった複雑な制度導入にあたり、当局のキャパシティの向上と実務を担当する職員の能力向上が求められている。
先進国にとっても、MNE(多国籍企業)を含む企業の活動を円滑に進められるよう環境整備を行うという観点で重要である。加えて、2つの柱で求められる執行レベルの標準化を全世界レベルで達成していく必要があるところ、途上国の能力向上は先進国にも裨益する。FTAにおいても、国際機関とも協力しつつ、途上国の当局との緊密なパートナーシップを通じて積極的に活動している。


(コラム1)FTAにおける税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する議論の経緯

2019年3月の第12回FTA本会合(於:チリ)

DXの方向性及び技術的・組織的な礎を定めるための枠組みである「Tax administration 2030」の公表に向け協調することに合意。報告書では、各国・地域によってデジタル化のステージが異なることを踏まえ、システム化された税務行政がどのような姿となりうるか、その中核となる要素を抽出し描写するとした。


2020年12月の第13回FTA本会合(オンライン)

ディスカッションペーパーとして「税務行政3.0(英題:『Tax Administration 3.0』)」が公表され、今後の税務行政におけるDXに関するFTAでの作業の優先分野を特定すること及びロードマップ(アクションプラン)を2021年初めに作成することが承認された。ペーパーでは、現在の税務行政(Tax Administration 2.0)に対して、Tax Administration 3.0では、納税者が日頃利用する業務システムとの連携により、負担感なく正確な納税が可能となるといった世界が描かれている。


2021年8月、アクションプラン公表

デジタル・アイデンティティ、電子インボイスの発行、各国間でのDXに係る知見の共有など、FTAでの今後の検討事項(Action)を七つ*3に整理し、アクションごとに随時検討状況を共有することとされた。


2021年12月、「DX成熟度モデル」公表

上記アクションプランにおけるAction 1として、税務行政における現在のDX成熟度を確認するため、また他の税務当局との比較によって自国の位置を理解するために、各国が自己評価を行う「DX成熟度モデル」が作成され、2021年12月に匿名形式で結果が公表された。


2022年9月、第15回FTA本会合(シドニー)

優先すべき分野に効果的にリソースを投入するための戦略的枠組を作成するためのワーキンググループの設立が提案され、承認された。


(コラム2)経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題に対応するための2つの柱の解決策

(1) 第1の柱/利益A

第1の柱のうち利益Aは、新たな多数国間条約の締結により、グローバル企業グループが物理的拠点(恒久的施設、Permanent Establishment:PE)なしに活動する市場国に対しても、新たに課税権を配分する制度である。恒久的施設によって課税権を基礎付け、独立企業原則によって利益の帰属を決定してきた従来の考え方を一部見直し、市場国での収入閾値に基づく課税根拠(ネクサス)と収入の源泉(レベニューソース)ルールにより、グローバル企業グループの一定の利益を市場国へ配分する内容となっている。当初は全世界収入が200億ユーロ超かつ利益率が10%超のグローバル企業グループを対象とし、条約発効の7年後にレビューを行い、円滑な制度実施を条件に、収入閾値を100億ユーロに引き下げることを予定している。令和6年6月末までに多数国間条約の署名式の実施、令和7年中の多数国間条約の発効を目標として引き続き議論が行われている。なお、このルールが実施される際には、一部の国において実施されているデジタルサービス税のようなその国独自の課税措置(一方的措置)は撤廃されることとなっている。


(2) 第1の柱/利益B

第1の柱のうち利益Bは、キャパシティの低い国のニーズに焦点を当てつつ、「基礎的マーケティング・販売活動」として、一定の基準を満たした取引に対して独立企業原則の適用の簡素化・合理化を目的とした措置である。その成果物が、令和6年2月にIFにおいて合意され、その合意内容が、OECD移転価格ガイドラインへの追加事項として公表された。これにより、利益Bの適用を選択した国は、令和7年1月以降に開始する事業年度における自国内の適用対象取引に対して、利益Bを適用できることとなった。


(3) 第2の柱

第2の柱は、税制面における企業間の公平な競争条件を確保すること、及び各国・地域による法人税の引下げ競争に歯止めをかけることを目的として、軽課税国において国際的に合意された最低税率(15%)での課税を確保する制度で、軽課税国に所在する子会社等の税負担が最低税率に至るまで、親会社所在地国で課税する制度(所得合算ルール)を基本のルールとしている。グローバル・ミニマム課税(Global Anti-Base Erosion Rule:GloBEルール)と呼ばれており、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象としている。OECDより、令和5年2月にグローバル・ミニマム課税の一部の取扱いを明記した執行ガイダンス第1弾が、同年7月に執行ガイダンス第2弾及びGloBE情報申告書(情報交換のための申告書様式及び記載情報を他国へ提供する際のルール等を定めたもの)が、同年12月に執行ガイダンス第3弾がそれぞれ公表された。日本においては、令和5年度税制改正において、基本のルールである所得合算ルールが法制化され(各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の創設)、令和6年4月から施行される。


3.第16回FTA本会合の概要

以上の背景を踏まえ、今回のFTA本会合においては、上記三つの議題を中心に、以下のような議論が行われた。


(1)税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)

最も重要な分野に効果的にリソースを投入できるよう、前回会合において、戦略的枠組み作成のためのワーキンググループが設立されたが、そのワーキンググループより、新たな5つのプロジェクト案について発表がなされた。プロジェクトAでは、当局間で安全かつ自動的に、適時の情報交換を可能にする仕組みを模索する。プロジェクトBでは、税務当局と国際的なプラットフォーム・ギグエコノミー間の情報交換を発展する方法や、リアルタイムで電子的な顧客情報を共有する可能性を検討する。プロジェクトCでは、各国の税務行政3.0実現のための戦略について、実現へのロードマップ、順序を検討する。プロジェクトDでは、税務当局におけるAI活用の方法を探る。最後に、プロジェクトEでは、デジタル・アイデンティティについて扱い、納税者の居住性に関する情報を把握するための方法を検討する。
これらの新たなプロジェクト案について、プロジェクト間の重複やバランスについて問題視する声も上がったが、評価する声が多数派であった。また、ビジネス界からは、税務当局側と民間側の協力が重要であるとの発言もなされた。


(2)2つの柱の解決策の実施と税の安定性

2つの柱の解決策の実施にあたり、税務当局としての課題を議論した。特に、より議論の進んでいる第2の柱の執行に関して税務行政が直面する課題やルールの導入に向けた準備状況について共有・意見交換が行われた。
第2の柱の導入における主な課題としては、税務当局職員の能力向上及び事務負担を軽減するための技術ツールのアップデート、企業からの理解を得ることが挙げられた。第2の柱は単に国内の問題ではなく、実施においては他国の制度を理解する必要があり、各国の会計基準や税制等様々な知識が求められる。このための人材育成が各国において課題となっている。これまで以上に国際協調や途上国支援が重要となる。そのためにも、各国の取組を共有してお互いから学ぶ場としてFTAを活用することの重要性が確認された。
本件に関しては、企業側出席者より、2つの柱政策はあくまで納税者のためのものであり、税務当局はその政策が企業に与える影響について理解しなければならない旨の発言があった。アカデミック側出席者からも、2つの柱の目的は、多国籍企業のより活発な活動を促進することであり、政策決定の折にはその政策が企業に与える影響を想像することが重要といった発言があった。


(3)キャパシティビルディング

税務当局のキャパシティビルディングにおいては、事務局より、第2の柱の実施に向け、知識の交換及び直接的な支援のための新しい知識共有ネットワークの立ち上げを行ったことや税務当局間のみならず地域の税務組織・国際機関・非FTAメンバー国間とも継続的な協力を行っている旨の発言があった。
出席者からも、途上国がグローバルスタンダードルールに参加するためのコストが非常に高く、キャパシティビルディングが肝要であること、ニーズを把握した上での支援が重要であることについて発言がなされた。またIMFからは、全てのニーズを実現することは出来ないものの、FTAのような場で知見を共有することは重要であること、また、もう少し非公式な、バイラテラルの協力も重要である旨の指摘があった。


(4)徴収共助を含む徴収業務

事務局より、世界全体における滞納額が2021年から増加傾向にあり、その増加率も年々高まっている旨の説明があった。ギリシャからは、データの分析や納税者のプロファイリングを活用した徴収活動に力を入れている旨、発言がなされた。
条約締結国間で租税債権の徴収につき相互に協力し合う制度である「徴収共助」について、住澤長官と中村審議官が、日本の経験を踏まえた当該ネットワーク拡充を唱えるプレゼンを行い、FTAメンバー国の長官らと徴収共助の重要性を確認し合った。議場からは、徴収共助により実際に徴収が成功したことに言及しつつ、当該制度の重要性を更に強調するといった反応もあった。
写真2:プレゼンを行う住澤長官・中村審議官


(5)租税回避、租税犯罪、その他の犯罪への取組み強化

租税回避・租税犯罪の傾向やそれらに対応するための国際協力についての議論も行われた。議場では、新しいデジタルサービスのビジネスモデルを悪用した不正還付や支払いのデジタル情報を悪用した租税回避が発生している旨の発言がなされた。出席者からは、コロナ禍においてコロナの支援制度を悪用した租税犯罪も行われたとの報告や、リアルタイムで各租税犯罪に対応することが理想であるとの発言があった。また別の国からは、新しい犯罪モデルについては、発覚次第、国家間で情報を共有し被害を最小に抑える必要があるとの意見が出された。


(6)新たな取組み-ハッカソン(新しい税務行政の課題についてのプレゼン大会)

今回のFTA本会合では新たな取組みとして、ケニア及びインドネシアにおけるシャドーエコノミーに関連した課題への解決策についてのプレゼンテーションを行う「ハッカソン」が開催された。これは、FTAメンバーの18か国で6チームに分かれて半年弱オンラインで議論を続け、その成果を本会合にて発表するものである。日本からは筆者が、インドネシアの検討課題「ソーシャルメディアプラットフォームを利用した経済活動を行う納税者の課税所得の把握」について、オーストラリア・シンガポールとチームを組み、ハッカソンに参加した。このインドネシアの課題は、要するにインフルエンサーへの課税を今後税務当局はどのように行っていくべきかといった問である。この課題は一律に解決できるものではないという観点から、我々のチームは、解決策に至るまでの戦略としての「概念的枠組み(Conceptual Framework)」を提案した。他のチームからは、内部告発プログラム、リスクプロファイリング人工知能モデルや若手起業家救済プログラムといった解決策が提示された。
このハッカソンの取組みは、新たな問題解決方法として各国長官より非常に高い評価が得られたため、今後のFTA本会合においても継続される可能性がある。



4.最終声明

会議の締めくくりにあたり、上記議論を総括した最終声明(コミュニケ)が採択された(コラム3参照)。また、次回会合は本年11月にギリシャで開催される予定。


(コラム3)2023年FTA本会合コミュニケ(仮訳)

我々、43か国の税務当局の長官及び代表は、10月11日から13日に、シンガポールで開催された第16回OECD税務長官会議(FTA)本会合に参加した。世界中から先進国及び途上国両方の税務当局が集まった53か国のFTAメンバーは、公務の財源を賄うため年間13兆ユーロを超える金額を調達する責務を負っている。
この本会合のテーマは、我々がグローバルな税務当局の未来を形作り、新しいグローバルな合意を実施し、グローバルなキャパシティビルディングの取組を支援するために協働する際の、税務当局間のみならず、ますます広範なステークホルダーとのコラボレーションとパートナーシップである。我々は以下について合意した。
  • コンプライアンスをさらに組み込み、タックスギャップを是正し、コンプライアンス負担を大幅に軽減するための新しいテクノロジーツールを活用する「税務行政3.0」のビジョンの実現を促すための野心的な一連のプロジェクトにコラボレーションすること。
  • グローバル・ミニマム課税の運用におけるコンプライアンスやコラボレーション、安定性をサポートするための税務当局間の協調の深め方の検討を含む一貫した第2の柱の効果的な実施を確保するために協働すること。
  • 他の国際機関や地域組織との緊密なパートナーシップを通じたグローバルなキャパシティビルディングの取組の有効性と到達度を向上させること。


〈税務行政のデジタルトランスフォーメーション〉

我々は、納税者が通信や取引、事業活動に使用しているシステムに税務プロセスがますます組み込まれるような、よりシームレスな税務行政モデルへと時間をかけてシフトすることを可能にする、デジタルトランスフォーメーションがもたらす大きな機会を認識している。デジタルトランスフォーメーションのためのFTAの「税務行政3.0」のビジョンに示されているように、納税者の時間とリソースを節約することによる大きな経済的利益に加え、FTA全体で見た場合、1%の歳入の増加は年間1,300億ユーロ超の金額を生じさせるだろう。
これは旅であり、完全な利益を実現するために多くのピースを組み合わせなければならないだろう。これには、複数のデジタルトランスフォーメーションのビルディングブロックを、政府の他の組織や民間と、また国際的に共に開発することが含まれる。そこで我々は、「税務行政3.0」のビジョンの主要なビルディングブロックを進展させることを促すため、ビジネス界や学界のステークホルダーとともに、一連の先駆的なプロジェクトに取り組むことに合意した。
  • デジタル・アイデンティティの相互運用性に基づく、税務当局間及び第三者との双方で、シームレスに国境を越えた電子的な税務プロセスを可能にすること。
  • デジタル・アイデンティティやデジタル戦略、人工知能の分野で、デジタルトランスフォーメーションを周知するのに役立つ重要な共通課題について、ソートリーダーシップを育てること。
さらに我々はデジタルトランスフォーメーションがもたらす行政の抜本的な変化と、税務当局の職員全体における新たなスキルの必要性についても議論を行った。我々は、これらの課題に共に取り組んでくれるFTAのネットワークや有志グループ(Communities of Interest)を通じた進行中の活動を支持した。


〈2つの柱の解決策の実施と税の安定性〉

我々は、グローバル・ミニマム課税の実施により生じる課題と機会について議論した。この一連の共通ルールに基づき、我々は既にGloBE情報の収集及び交換のための効果的なメカニズムを提供する標準化された申告書について合意している。さらに我々は、リスク評価の分野を含む協調的なコンプライアンスを通じてなど、グローバル・ミニマム課税の執行を合理化する方法を検討することに合意した。
また、多国間の相互協議手続(MAP)及び事前確認(APA)の取扱いに関するマニュアルの本年の公表を受け、我々は税の安定性を向上させるための共同作業の次のステップに期待する。次回のFTA税の安定性デー(Tax Certainty Day)は、来年度の優先事項を検討する機会として、11月14日にオンラインでの開催が予定されている。
〈税に関するキャパシティビルディング〉
我々は、全ての税務当局がFTAの作業の成果から確実に利益を得られるようにする重要性を認識している。最近では、以下のようなキャパシティビルディングプログラムを通じて実現してきた。
  • 第2の柱の実施に向けて共に進む際に、知識の交換及び直接的な支援のための相互フォーラムを提供する新しい知識共有ネットワークの立ち上げ。この知識共有ネットワークには、開発援助を受ける資格のある41の法域を含む98の法域から既に400名近い税務職員が参加している。
  • 税務行政のデジタル化に関する国境なき税務調査官(TIWB)プログラムの新しいパイロットの実施。これによりデジタル化イニシアチブにおける多くの戦略的・実務的側面について、守秘を保ったハイレベルな関与が可能となる。
  • 現在世界58か国の税務当局が完了した「デジタルトランスフォーメーション成熟度モデル」と、80の税務当局のデータを掲載した「税のテクノロジーイニシアティブ目録(ITTI)」の推進。
  • FTAメンバーとその他の関係者間でのキャパシティビルディング活動を切り開く税務当局のための知識共有プラットフォーム(KSPTA)といった、キャパシティビルディングを支援するツールの継続的な開発。
  • プログラムの設計やプログラムのコラボレーション、モニタリング及び評価、ないしその国特有の課題や機会に関する相互の議論から利益を得られる、二国間の長期のキャパシティプログラムに焦点を当てたFTAのキャパシティビルディングネットワークの新しいサブグループ。
我々は、FTAのキャパシティビルディングネットワークが主導するFTAの税のキャパシティビルディング作業を、地域の税務組織や国際機関、途上国の税務当局との緊密なパートナーシップの構築を通じて、引き続き強化することに合意した。我々はこの本会合において、アフリカ税務行政フォーラム(ATAF)、米州税務長官会議(CIAT)、国際通貨基金(IMF)、太平洋島嶼国税務行政協会(PITAA)からの代表者及びブルネイ・ダルサラーム、ブルガリア、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナムの長官やシニア級職員を歓迎できたことを喜ばしく思う。
我々はこの本会合において、税務行政が直面する主な生じつつあるリスク、信頼の維持・構築に関する課題、徴収共助を含む徴収業務、租税詐欺・租税犯罪との闘い、及び税の透明性に関する認識を高めるためにシドニー本会合以降取り組んできた作業の進展についても議論した。我々はまた、無意識の偏見への対応やジェンダーバランスの改善といった、組織の課題についても議論した。これらの議論の成果は、関連するFTAの作業プログラムや有志グループ(Communities of Interest)に還元され、今後の作業の参考となるだろう。我々はまた新しい多国間のハッカソンという取組の試行結果についても聞いた。多国間のハッカソンは18の異なるFTAメンバー国から成るチームが、数か月にわたってオンラインで共に作業を行い、ケニア及びインドネシアがシャドーエコノミーに関連して特定した現実の課題について革新的な解決策を生み出した。
最後に、この本会合を主催し親切にもてなしてくれたシンガポールに、また、2024年の本会合の開催を申し出てくれたギリシャに心から感謝する。
「税務行政2023」を含む、オーストラリアでの2022年本会合以降に公表されたFTAの報告書に関する情報は、本会合参加者のリスト及び議題と同様、本成果に関する声明の付属文書に掲載されている。


5.おわりに

FTAは喧々諤々の議論をするような場ではなく、各国それぞれが抱える課題を共有し、よりよい税務行政の実現に向けて協調できる道を探る場である。それゆえ、具体的成果が見えづらい面があるが、FTAを通じて学ぶことは多い。例えば、税務行政のDXについて、進展度合いも事情も国によって異なるが、抱える課題は、セキュリティ確保、リソース不足、他行政機関とのシステム統合など似通っている。今回のFTAにおいては、シンガポールGovTechより、同国のスマート国家イニシアチブについて紹介されたが、その際にも上記課題についての質問が各国より相次ぎ、GovTechより回答を得た。このように、FTAは先進的取組を行う国から課題解決のヒントを得られ、また同時に各国の課題についてもやり取りの中で窺い知ることが出来るという点で有意義な機会である。
また、FTAメンバーに対し国際協調へのコミットメントを促したことも重要な成果の1つである。今回のFTA会合では、徴収共助について住澤長官・中村審議官がプレゼンテーションを行い、徴収共助のネットワークへの参画を各国に呼び掛けた。現状、徴収共助制度の導入に慎重な国が一定数あり、その事情はFTAのメンバー国においても見られる。しかしながら、当該制度をより効果的に機能させ、各国の利益に繋げていくためには、今後より多くの国が当該ネットワークへ参画することが肝要である。今般の呼び掛けを通じ、FTAメンバー国等に当該制度の有効性や必要性に対する認識がさらに広まり、ネットワーク拡大への機運向上の一助となったのであれば幸いである。
個人的にも、ハッカソンというFTAの新たな取組において、インフルエンサーへの課税について各国の長官の前でプレゼンテーションを行ったのは非常に貴重な経験であった。その後の議場で意見を求められたり、声を掛けてもらったりする場面もあり、オーディエンスとしてではなくプレイヤーとして参加しているという実感を得ることが出来た。また、会議期間中にはハッカソンのチームメイトを含め他国のカウンターパートと親交を深めた。税務行政における国際協力の更なる促進のためにも、引き続き良好な関係を続けていきたい。
写真3 住澤長官とカナダのハミルトン長官(FTA議長)
国税庁としては、FTAの議論に引き続き積極的に貢献していくとともに、国際的な場で議論されていることを国内の税務行政にフィードバックしていくことも重要である。特に、我が国と同様の課題に直面している各国税務当局の経験は、我が国にとっても非常に有益である。国際的な議論を国内の税務行政に活かしていくことを意識しながら、引き続き業務に取り組んでいきたい。


*1) 43の参加国・地域は以下のとおり。
・OECD加盟国31か国(豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ(議長)、チリ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、韓国、スロヴェニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国)
・OECD非加盟12か国・地域(ブラジル、ブルネイ(招待国)、ブルガリア、カンボジア(招待国)、クロアチア、ジョージア、香港、インド、インドネシア、ラオス(招待国)、マレーシア、中国、フィリピン(招待国)、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、ベトナム(招待国))
*2) 参加企業は以下のとおり。
Agoda(Booking Holdings Group)、Anglo American、Baker McKenzie、DBS Bank Ltd、Deloitte Consulting、EY、Grab、IBM、KPMG Advisory LLP、Procter & Gamble、PwC、RAJAH & TANN SINGAPORE LLP、SAP、Siemens AG、Singapore Chartered Tax Professionals、Singapore Telecommunications Ltd、Sony、Temasek International Pte Ltd、Unilever
*3) Action 1:税務行政におけるDX成熟度モデル、Action 2:税務に関する先端技術の共有、Action 3:デジタルアイデンティフィケーション、Action 4:国際的な電子インボイスの普及、Action 5:シェア・ギグエコノミーへの対応、Action 6:途上国のデジタル化支援、Action 7:知見の共有