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特集 特集 令和6年度 地方財政対策について


主計局主計官 小澤 研也

1.はじめに

(1)地方交付税交付金制度の仕組み

国の一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会計(以下「交付税特会」という。)へ繰り入れられる地方交付税交付金(入口ベース)は、国税収入の一定割合(所得税及び法人税の収入額の33.1%、酒税の収入額の50%、消費税の収入額の19.5%)であるいわゆる国税4税の法定率分*1に、以下2点の処理を行った上で決定される。
  • 過去の地方財政対策における国と地方の貸し借りなどに起因して、地方交付税法附則等によって後年度に加算することが定められている額の加算(法定加算等)及び過年度の精算による加減算
  • 地方財政全体の収支見通しにおける財源不足額のうち、国・地方が折半して補塡する「折半対象財源不足」の半額の加算(国による特例加算)
これに、地方法人税や借入金元利償還といった交付税特会の財源・支出を加減算することで、実際に地方公共団体に交付される地方交付税交付金(出口ベース)が決定される。

(2)地方一般財源総額実質同水準ルール

地方財政計画*2においては、平成23年度以降、地方の歳出水準について国の一般歳出の取組と基調を合わせつつ、交付団体をはじめ地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源*3の総額について、前年度を下回らないよう実質的に同水準を確保することとされてきた(「地方一般財源総額実質同水準ルール」)。
政府は平成30年6月15日に「新経済・財政再生計画」を含む「経済財政運営と改革の基本方針2018」を閣議決定し、令和7年度(2025年度)の国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指す旨を掲げた。この財政健全化目標の実現に向けて、地方一般財源総額実質同水準ルールを令和6年度(2024年度)まで維持することとしている*4。

2.令和6年度地方財政対策の概要について

令和6年度の地方財政対策においては、交付団体をはじめ地方が安定的な財政運営を行うために必要となる一般財源総額について、前述した地方一般財源総額実質同水準ルールを堅持することを基本として地方財政対策を講ずることとした。その結果、地方公共団体に交付される地方交付税交付金(出口ベース)は18.7兆円(対前年度+0.3兆円)、地方の一般財源総額は62.7兆円*5(対前年度+0.6兆円)とし、前年度と実質的に同水準を確保した。また、前年度に引き続き折半対象財源不足は生じておらず、臨時財政対策債は過去最低の0.5兆円(対前年度▲0.5兆円)とするともに、交付税特会借入金について0.5兆円の償還を行うこととするなど、地方財政の健全化に資する内容としている。
また、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(令和5年11月2日閣議決定)において実施することとされた令和6年度定額減税に伴う個人住民税の減収分0.9兆円については、その全額を地方特例交付金によって補塡することとし、所得税減収分のうち交付税の法定率分にあたる0.8兆円については、繰越金と自然増収により対応し、後年度に交付税特会借入金の償還円滑化のために0.2兆円を加算することとしている。
あわせて、歳出に、人事委員会勧告に伴う給与改定や会計年度任用職員への勤勉手当の支給等に要する経費を計上するとともに、地域独自のこども・子育て施策実施のため、一般行政経費を0.1兆円増額するなど、現下の課題にも対応するものとしている。

3.令和6年度地方財政対策(通常収支分)について

(1)地方の歳出の見込み

ア.給与関係経費

令和6年度の地方の給与関係経費については、人事委員会勧告等を踏まえた地方公務員の給与改定に要する経費の増加などを反映し、20兆2,292億円(対前年度+3,239億円)を計上している。

イ.一般行政経費

地方の一般行政経費については、補助事業として25兆1,417億円(対前年度+1兆1,686億円)、地方単独事業として15兆3,861億円(対前年度+4,177億円)を計上している。
内訳として、「こども・子育て支援加速化プラン」実施に必要な経費を計上しているほか、地域独自のこども・子育て施策実施のための単独事業に要する経費を増額して計上している。また、会計年度任用職員への勤勉手当の支給等に係る経費や、新型コロナウイルスワクチンの定期接種化に伴い発生する経費を新たに計上している。
この他、「地方創生推進費」と「地域デジタル社会推進費」を内訳とする「デジタル田園都市国家構想事業費」については、前年度に引き続き1兆2,500億円を計上している。
これらの結果、一般行政経費は、43兆6,893億円(対前年度+1兆6,052億円)となっている。

ウ.投資的経費

投資的経費については、11兆9,896億円(対前年度+165億円)を計上している。このうち、国の直轄事業、補助事業に係る経費は、5兆6,259億円(対前年度▲335億円)となっている。
地方単独事業に係る経費については、こども・子育て支援機能強化に係る施設整備や子育て関連施設の環境改善(ハード)を速やかに実施できるよう、新たに「こども・子育て支援事業費」として500億円を計上し、6兆3,637億円(対前年度+500億円)となっている。

エ.その他の経費

公債費は10兆8,961億円(対前年度▲3,653億円)、維持補修費は1兆5,344億円(対前年度+107億円)、公営企業繰出金は2兆3,202億円(対前年度▲772億円)、不交付団体の水準超経費は2兆9,800億円(対前年度+900億円)が計上されている。
これらの結果、地方の歳出総額は93兆6,388億円(対前年度+1兆6,038億円)となっている。

(2)地方の歳入の見込み

ア.地方税収等

令和6年度の地方税収等(地方税収及び地方譲与税収の合計額)は、45兆4,622億円(対前年度▲130億円)を計上している。

イ.地方特例交付金等

地方特例交付金等について、令和6年度においては、1兆1,320億円(対前年度+9,151億円)を計上している。地方特例交付金については、住宅ローン減税による個人住民税の減収を補塡するため「住宅借入金等特別税額控除減収補塡特例交付金」を1,974億円、定額減税による個人住民税の減収額を補塡するため「定額減税減収補塡特例交付金」を9,234億円計上している。
また、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)における税制上の措置として講じた、生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置の拡充・延長に伴う減収を補塡するため、「新型コロナウイルス感染症対策地方税減収補塡特別交付金」を112億円計上している。

ウ.地方交付税交付金(出口ベース)

地方交付税交付金については、(3)で述べるとおり、18兆6,671億円(対前年度+3,060億円)を計上している。

エ.その他の地方歳入

国庫支出金(補助事業の実施のため国が地方公共団体に交付する補助金等)については、15兆8,042億円(対前年度+7,957億円)が計上されている。
地方債(臨時財政対策債を除く)については、令和6年度の発行額は5兆8,559億円(対前年度+342億円)となっている。
臨時財政対策債については、前年度に引き続き、折半対象財源不足は生じていないことから、新規発行額はゼロとし、過去に発行した臨時財政対策債の元利償還金の借換えに相当する部分についても発行額を大幅に抑制し、過去最低である4,544億円(対前年度▲5,402億円)となっている。これにより臨時財政対策債の令和6年度末残高見込みは45兆7,750億円(対前年度▲3兆2,369億円)となっている。
これらの他、使用料及び手数料として1兆5,625億円(対前年度▲21億円)、雑収入として4兆7,182億円(対前年度+1,315億円)などが計上されている。

(3)地方交付税交付金・地方一般財源総額

国の一般会計から交付税特会には、国税4税の法定率分16兆8,188億円(対前年度▲1,313億円)に、法定加算等3,488億円(対前年度+3,334億円)を加算し、過年度の精算に伴う5,133億円*6(対前年度▲2,699億円)を減じた額16兆6,543億円(対前年度+4,720億円)を地方交付税交付金(入口ベース)として繰り入れる*7。
交付税特会においては、まず地方法人税の見込額1兆9,750億円(対前年度+831億円)と令和5年度からの繰越金4,843億円*8等を加算する。また、交付税特会借入金については、5,000億円を償還し、この結果、交付税特会借入金の令和6年度末残高の見込みは、28兆1,123億円となる。交付税特会において、入口ベースの地方交付税交付金にこうした加減算を行った18兆6,671億円(対前年度+3,060億円)が、出口ベースの地方交付税交付金となる。
そして、地方交付税交付金(出口ベース)に地方税、地方譲与税、地方特例交付金等及び臨時財政対策債を加えた地方の一般財源総額(水準超経費を除く)については62兆7,180億円(対前年度+5,545億円)とし、前年度と実質的に同水準を確保している。
また、一般財源総額(水準超経費を含む)に国庫支出金や地方債(臨時財政対策債を除く)等の特定財源を加えた歳入総額は93兆6,388億円(対前年度+1兆6,038億円)となり、歳出総額と同額となる。


4.令和6年度地方財政対策(東日本大震災分)について

東日本大震災の復旧・復興にあたっては、令和3年度からの第2期復興・創生期間においても、復旧・復興事業及び全国防災事業について、それぞれ別枠で整理し、所要の事業費及び財源を確保することとされている。その財源については、改正された復興財源確保法*9において、必要な措置が講じられている。
令和6年度地方財政対策においては、復旧・復興事業費として、(1)補助事業の地方負担分(公営企業債等により賄うこととされている地方負担額を除く)として534億円、(2)地方単独事業分(単独災害復旧事業及び中長期職員派遣等)として122億円、(3)地方税の特例減税措置等に伴う減収分への対応として248億円、合計904億円を計上した上で、その財源として、過去の繰入分のうち交付税特会からの支出見込みがなくなった293億円(年度調整分)を除く611億円を震災復興特別交付税として措置*10している。このほか、国庫支出金等を含めた復旧・復興事業の総額は2,631億円となっており、東日本大震災からの復旧・復興への対応に万全を期すこととしている。
なお、全国防災事業については、平成27年度までの実施に伴って発行した地方債の元利償還金(公債費)250億円を計上している。

5.おわりに

以上のとおり、令和6年度地方財政対策は、地方公共団体の多様なニーズに対応するための一般財源総額を適切に確保しつつ、臨時財政対策債の発行を過去最低額である0.5兆円に半減させるとともに、交付税特会借入金を償還計画どおり0.5兆円償還するなど、地方財政の健全化を進める内容としている。
今後の地方財政を考えると、賃上げの実現に伴う給与関係経費の増加や社会保障分野の歳出増などが見込まれる中でも、地方財政計画に計上された事業の実績や効果について「見える化」を進めながら不断に検証し歳出改革を進め、持続可能性を確保していくことが求められる。令和7年度以降も、地方一般財源総額実質同水準ルールの下で、国・地方を通じた財政健全化を目指して取り組んでいくことが必要である。

図表.【資料:地方一般財源総額と折半対象財源不足の推移】
図表.【資料:地方交付税総額(マクロ)の算定と「地方一般財源総額実質同水準ルール」】
図表.【資料:令和6年度地方財政対策のポイント(概要)】
図表.【資料:令和6年度地方財政計画の概要】

*1) 地方交付税法第6条第1項
*2) 地方交付税法第7条の規定に基づき作成される地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類。
*3) 地方税、地方譲与税、地方特例交付金等、地方交付税交付金及び臨時財政対策債の総額。
*4) 「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)
*5) 水準超経費(2兆9,800億円)を除いている。
*6) 令和2年度国税減額補正精算の前倒し分2,223億円を含む。
*7) これに地方特例交付金等1兆1,320億円を加えた17兆7,863億円(対前年度+1兆3,871億円)が、入口ベースの地方交付税交付金等である。
*8) 令和5年度補正予算において、令和4年度決算と令和5年度の国税収入の補正に伴う地方交付税法定率分の増+8,584億円及び交付税特会借入金償還繰延+3,000億円について、地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金1,000億円の活用時期を見直すとともに、令和5年度の普通交付税の調整額分の追加交付に加え、地方公共団体が「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の事業を円滑に実施するために必要な財源等を確保するため、令和5年度の地方交付税を5,741億円増額した。その上で、4,843億円について、令和6年度の地方交付税の財源として活用するために繰り越すものとしていた。
*9) 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成23年法律第117号)
*10) この震災復興特別交付税の財源は、東日本大震災復興特別会計から交付税特会に繰り入れられることとされている(返還金41億円を除く)。