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コラム 海外経済の潮流148

トルコ経済概観


大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 原 伸年

1.はじめに

本年は我が国とトルコの国交樹立100周年の年である。親日国で知られるトルコでは、2023年5月に大統領選挙でエルドアン大統領が再選を果たし、3期目の政権運営に入った。
本稿では、EUや中東、北アフリカへのゲートウェイとしても魅力の高いトルコについて、近年の金融政策の変遷や足下のマクロ経済の状況を紹介し、同国の経済動向を概観する。


2.近年の金融政策と今後の動き

(1)金融政策の変更

トルコ中央銀行(以下、トルコ中銀)は2021年9月以降、景気拡大局面においても、継続的な利下げを行い、金融緩和政策を行ってきた。2022年はロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界的にエネルギーや食料価格が上昇したが、そのような状況下においても、景気刺激を優先した金融緩和政策が続いた。そのため、同国は急激なインフレーションに悩まされている。
大統領選挙後、エルドアン大統領は金融政策の変更を認めると表明し、トルコ中銀総裁に米国金融業界での経歴が豊富なハフィゼ・ガイ・エルカン氏を任命した。その後、トルコ中銀は大統領選挙前には8.5%であった政策金利*1を段階的に40%(2023年11月末時点)まで引き上げることを決定した。

(2)物価及び為替(トルコリラ)の動向

上述のとおり、伝統的な金融政策に舵が切られたものの、足下のインフレ率は依然として中銀目標*2を上回る水準で推移しているほか、政府による最低賃金の大幅引き上げもあり、コアインフレ率はインフレ率を上回る伸びで推移している。
世界経済の減速懸念により、原油相場は頭打ちの動きを強めており、今後物価への下押し圧力が加わることが期待されるものの、トルコでは依然として実質金利がマイナスに留まっていることで投資妙味が乏しく、結果的にリラ安の動きに歯止めが掛かりにくい一因になっている、との見方がある。


(3)今後の金融政策

トルコ中銀は2023年11月の金融政策決定会合の声明文において、「金利水準はディスインフレ軌道の確立に必要な水準にかなり近いと評価され、引き締めペースは減速するとともに、引き締めサイクルは短期間で終了する」という見方を新たに示し、利上げ局面の終了が近づいていることを示唆している。
また、物価の動向について、「金融引き締めが内需に影響を与える動きが示唆されるなか、インフレの基調的な低下がうかがわれる」との見方を示している。*3
今後の金融政策運営については、「インフレ動向を注視しつつ、あらゆる手段を断固として行使する」という従来からの考えを改めて強調しているが、先述した利上げ局面の終了を示唆する文言からも、利上げ幅の縮小と終了の方向性は市場関係者の間でも概ねコンセンサスとなっている。

3.足下のマクロ経済と今後の見通し

(1)足下のマクロ経済

トルコ経済は2020年前半のコロナショックを乗り越え、同年後半以降は景気拡大を続けている。
足下(2023年7-9月期)の実質GDP成長率は前年同期比で+5.9%となり、2023年6月から始まったトルコ中銀による利上げ後も、トルコ経済は堅調に推移している。
需要項目別でみると、家計消費の寄与度は+7.7%ptとなり、引き続き成長を牽引した。また、2023年2月に発生したトルコ南東部での大地震からの復興需要もあり、総固定資本形成の寄与度も+3.4%ptとなった。外需については、リラ安などを要因に輸入の伸びが輸出の伸びを上回っており、寄与度は▲2.6%ptとなった。
経済成長を牽引している消費動向であるが、月次ベースの指標である小売売上高をみると、足下では前月比で2ヶ月連続の低下となり、減速感が出始めている可能性はある。

(2)今後の見通し

家計及び企業のマインドをみると、足下で共に低下傾向にあることが分かる。金融引き締めが続く中においてもなお高水準にある物価の動向が家計のマインドを下振れさせているとみられる。企業のマインドについては、トルコの主な輸出先であるEUの景気に不透明感があることなどが要因とみられている。
OECDによる最新の経済見通しにおいても、控えめなマインドや高水準の物価の状況が家計消費を抑制するとして、2023年通期の経済成長率は前年比+4.5%と予測する一方、2024年通期の経済成長率は同+2.9%に減速すると見込んでいる。


4.おわりに

今後のインフレ率の状況次第では、堅調なトルコ経済を牽引している家計消費に更なる下押し圧力がかかることも考えられるため、金融政策の動向を中心に、状況を注視していく。
(注)文中、意見に及ぶ部分は筆者の私見である。
   また、誤りについては筆者に帰する。
(出所)
トルコ統計局、トルコ中央銀行、ブルームバーグ。


図表1. 政策金利、インフレ率、コアインフレ率
図表2. リラの推移
図表3. GDPと需要項目別内訳
図表4. 小売売上高
図表5. 家計と企業のマインド

*1) 一週間物レポ金利。
*2) 消費者物価上昇率の前年同月比+5.0%±2.0%pt。
*3) トルコ中銀は最新のインフレレポート(2023年11月2日付)において、今般の物価上昇の要因となっている通貨安や賃金上昇などの影響について、ほぼ物価に反映されたとしており、物価上昇率は2024年末に前年同月比+36%まで低下すると予測している。