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特集 令和6年度政府経済見通しについて


内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官補佐(経済見通し担当) 古川 健


令和6年1月26日に「令和6年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(以下「政府経済見通し」という。)が閣議決定された。政府経済見通しは、翌年度の経済財政運営に当たって政府がどのような基本的態度をとるのか、及び、それを踏まえて経済はどのような姿になるのかを示した政府文書であり、内閣府が作成の上、財務省の税収見積もり、延いては予算の前提として用いられたのち、予算の国会提出と同時期に閣議決定されることで最終的に政府見解となる。
今回の政府経済見通しでは、令和5年度の我が国経済は、半導体の供給制約の緩和等に伴う輸出の増加やインバウンド需要の回復等から外需がけん引し、GDP(国内総生産)成長率は実質で1.6%程度、名目で5.5%程度と見込まれている。
令和6年度については、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(令和5年11月2日閣議決定。以下「総合経済対策」という。)の進捗に伴い、個人消費や設備投資等の内需がけん引する形で、GDP成長率は実質で1.3%程度、名目で3.0%程度と見込まれる。
本稿では、令和6年度政府経済見通しの具体的な内容について紹介する。GDPの内訳項目等の詳細な見通しについては、文末の表 主要経済指標を参照されたい。

1.政府経済見通しの位置づけ

政府経済見通しは、政府による公式な経済予測であるのみでなく、今後政策的に実現を目指していく経済の姿を示しているということができる。これは、政府経済見通しが、足元の経済情勢を踏まえて翌年度の経済を予測するのはもちろんのこと、我が国政府が経済財政運営の基本的態度に基づき実行する各種の施策による効果を織込んでいるためである。すなわち、政府経済見通しは、(1)翌年度の経済財政運営に当たって、政府がどのような基本的な態度をとるのか、(2)そのような基本的態度に基づいて経済財政運営を行うことによって、経済はどのような姿になるのか、という2点について、政府の公式見解を閣議決定により表明する。


2.令和5年度の日本経済(実績見込み)

我が国経済は、コロナ禍の3年間を乗り越え、改善しつつある。30年ぶりとなる高水準の賃上げや企業の高い投資意欲など、経済には前向きな動きが見られ、デフレから脱却し、経済の新たなステージに移行する千載一遇のチャンスを迎えている。
他方、賃金上昇は輸入価格の上昇を起点とする物価上昇に追い付いていない。個人消費や設備投資は、依然として力強さを欠いている。これを放置すれば、再びデフレに戻るリスクがあり、また、潜在成長率が0%台の低い水準で推移しているという課題もある。
このため、政府は、デフレ脱却のための一時的な措置として国民の可処分所得を下支えするとともに、構造的賃上げに向けた供給力の強化を図るため、令和5年11月2日に総合経済対策を策定した。その裏付けとなる令和5年度補正予算を迅速かつ着実に執行するなど、当面の経済財政運営に万全を期す。また、令和6年能登半島地震の被災者への生活支援及び被災地の復旧・復興を迅速に進める。
こうした中、令和5年度の我が国経済については、GDP成長率は実質で1.6%程度、名目で5.5%程度、消費者物価(総合)は3.0%程度の上昇率になると見込まれる。


3.令和6年度の経済財政運営の基本的態度

続いて、政府経済見通しにおける翌年度の経済財政政策の基本的な態度について述べる。
令和6年度の経済財政運営に当たっては、引き続き、「新しい資本主義」の旗印の下、社会課題の解決に向けた取組それ自体を成長のエンジンに変えることによって、民間需要主導の持続的な成長とデフレからの脱却、「成長と分配の好循環」の実現を目指す。
まずは、総合経済対策を着実に実行し、物価高対策とともに、国民の可処分所得を下支えするための対策を講じる。また、持続的で構造的な賃上げの実現に向け、その環境整備や中小企業等の価格転嫁の円滑化、リ・スキリングによる能力向上の支援など、三位一体の労働市場改革等に取り組む。
併せて、生産性向上・供給力強化を通じて潜在成長率を高めるための国内投資の拡大を促進する。科学技術の振興及びイノベーションの促進、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、半導体・AI等の分野での投資促進、新技術の社会実装、海洋や宇宙等のフロンティアの開拓、スタートアップへの支援等に取り組む。
人口減少の中でも持続的に成長できる経済構造の構築に向けて、「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023改訂版)」(令和5年12月26日閣議決定)を推進するとともに、「デジタル行財政改革」を起動・推進し、利用者起点に立って、デジタル技術の社会実装や制度・規制改革に取り組む。
「こども未来戦略」(令和5年12月22日閣議決定)に基づき、少子化対策・こども政策の抜本強化を図るとともに、包摂社会の実現に取り組む。
防災・減災、国土強靱化の取組、防衛力の抜本的強化、経済安全保障の推進、食料安全保障及びエネルギー安全保障の強化など、国民の安全・安心確保のための取組を推進する。
経済財政運営においては、経済の再生が最優先課題である。経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組むとの考え方の下、財政への信認を確保していく。賃金や調達価格の上昇を適切に考慮しつつ、歳出構造を平時に戻していく。政策の長期的方向性や予見可能性を高めるよう、単年度主義の弊害を是正し、国家課題に計画的に取り組む。データを活用したEBPMやPDCAの取組を推進し、効果的・効率的な支出(ワイズスペンディング)を徹底する。
日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。


4.令和6年度の日本経済(見通し)

最後に、以上のような政策態度を掲げたのちに見込まれる令和6年度の日本経済の姿を概説する。令和6年度については、総合経済対策の進捗に伴い、官民連携した賃上げを始めとする所得環境の改善や企業の設備投資意欲の後押し等が相まって、民間需要主導の経済成長が実現することが期待される。
令和6年度のGDP成長率は実質で1.3%程度、名目で3.0%程度、消費者物価(総合)は2.5%程度の上昇率になると見込まれる。
ただし、海外景気の下振れリスクや物価動向に関する不確実性が存在すること、令和6年能登半島地震の影響、金融資本市場の変動の影響等には、十分注意する必要がある。
具体的な項目別の計数は以下の通りである。

(1)各項目の見通し

(ア)実質国内総生産(実質GDP)

(i)民間最終消費支出

所得環境が改善する中で、定額減税等の効果もあって、増加する(対前年度比1.2%程度の増)。

(ii)民間住宅投資

総合経済対策等の効果が下支えとなるものの、資材価格の高止まり等の影響により、減少する(対前年度比0.3%程度の減)。

(iii)民間企業設備投資

企業の高い投資意欲の下、総合経済対策等の効果もあって、増加する(対前年度比3.3%程度の増)。

(iv)政府支出

総合経済対策に伴う政府支出等により、増加する(対前年度比0.7%程度の増)。

(v)外需(財貨・サービスの純輸出)

世界経済の緩やかな回復に伴い輸出が増加する一方で、国内需要の増加に伴い輸入が増加することにより、減少する(実質GDP成長率に対する外需の寄与度▲0.1%程度)。

(イ)実質国民総所得(実質GNI)

海外からの所得増加が見込まれることにより、実質GDP成長率を上回る伸びとなる(対前年度比1.4%程度の増)。

(ウ)労働・雇用

民間需要主導の成長が進む中で、雇用者数は増加し(対前年度比0.2%程度の増)、完全失業率は低下する(2.5%程度)。

(エ)鉱工業生産

国内需要や輸出が増加することから、増加する(対前年度比2.3%程度の増)。

(オ)物価

消費者物価(総合)上昇率は、輸入コスト上昇に伴う価格転嫁が一巡するものの、民間需要主導の成長が進む中で、2.5%程度となる。GDPデフレーターについては、対前年度比1.7%程度の上昇となる。

(カ)国際収支

所得収支の黒字が続く中、経常収支の黒字はおおむね横ばいで推移する(経常収支対名目GDP比3.7%程度)。

図表. (参考)主な経済指標