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特集 令和6年度国債発行計画について


理財局国債企画課長 佐藤 伸樹


本稿では、令和5年12月22日に公表(令和6年1月16日に一部変更)した令和6年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。

1.現下の国債市場の状況

令和4年12月下旬に、日本銀行が長期金利の変動幅を「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大したことを受け、令和5年1月上旬にかけて金利は上昇基調で推移した。これに対し、日本銀行は、通常の国債買入オペに加え、臨時の国債買入オペ、0.5%の利回りでの10年物国債の指値オペ等を実施し、金利の上昇は小康状態となった。3月には、米国を中心に金融システム不安が強まり、景気後退懸念から米金利が低下したことや、日本銀行が金融緩和の維持を決定し、金融政策修正期待が剥落したことなどを受けて、国内金利は低下した。7月下旬には、日本銀行の政策修正観測が強まり、国内金利に上昇圧力が強まる中で、日本銀行は、金融緩和の持続性を高めるため、長期金利の変動幅について「±0.5%程度」から、「±0.5%程度を目途」とすることとし、10年物国債の指値オペの利回り水準を1.0%に引き上げ、長短金利操作についてより柔軟に運用することを決定した。その後、10月にかけては、米インフレ率の高止まりを背景とした米金利の上昇につられる形で国内金利も上昇した。10月下旬には、日本銀行が長期金利の上限を「1.0%を目途」とすることとし、長短金利操作の運用を更に柔軟化したことを受けて金利は更に上昇し、11月初頭に長期金利は一時、2013年5月以来となる0.97%を記録した。しかし、11月中旬には、米CPI(消費者物価指数)の伸びが鈍化し、FRBによる利上げの停止観測が強まったことを主因として米金利が低下したため、国内金利も低下傾向で推移した。12月上旬には、日本銀行がマイナス金利政策を解除するという見方が強まり、一時金利上昇する場面も見られたものの、12月下旬に日本銀行が金融緩和の維持を決定したことを受けて金利低下が一段と進行した。足元では、長期金利は0.6%近辺で安定的に推移している(図1. 各年限の金利の推移)。


2.令和6年度国債発行計画の概要

市場環境や債務管理上の課題を踏まえつつ、昨年12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施し、令和6年度国債発行計画を策定した。以下にその概要を述べる。

(1)発行根拠法別発行額

令和6年度の国債発行総額は182.0兆円となっており、前年度当初比▲23.8兆円と減少傾向にはあるものの、依然として極めて高い水準が続いている。
発行根拠法別の内訳(表1 令和6年度国債発行計画の概要 左)をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比▲0.2兆円の35.4兆円となっている。
復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和6年度は0.1兆円の発行を予定している。
GX経済移行債は、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現すべく、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行するために創設され、令和6年度は0.7兆円の発行を予定している。
子ども特例債は、こども・子育て政策の抜本的な強化に当たり、令和10年度にかけて安定財源を確保するまでの間に財源不足が生じないよう、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和6年度から発行を行い、令和6年度の発行額は0.2兆円の予定となっている。
財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和6年度は前年度当初比▲2.0兆円の10.0兆円の発行を予定している。
借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、国債発行総額の大半を占めている。令和5年度国債発行計画において短期国債を前年度比で大幅に減額したこと等により、令和6年度の借換債発行額は前年度当初比▲22.0兆円の135.5兆円となっている。

(2)消化方式別発行額

消化方式別の内訳(表1右)をみると、まず、カレンダーベース市中発行額は、前年度当初比▲19.3兆円の171.0兆円となっている(図2. カレンダーベース市中発行額の推移)。減少分の大半は、コロナ禍前は発行していなかった短期国債(6か月)を皆減するなど、短期国債の減額に充当した。さらに、市場のニーズを踏まえつつ、2年債・5年債・10年債・20年債を減額するなど、年限構成の平時化を図っている。20年債は令和6年1月から前倒しで減額した一方、30年債・40年債は現在の発行額を維持し、ニーズを踏まえたメリハリのある発行とした。
また、クライメート・トランジション国債は、GX経済移行債及びその借換債のうち、資金使途等を定めたフレームワークに基づいて個別銘柄として発行するものである。令和6年度は1.4兆円の発行を予定しており*1、その年限・発行回数等については、今後、市場参加者との意見交換を踏まえ、市場環境や投資ニーズ等に応じて決定していく。
「その他」には、個人向け販売分や公的部門(日銀乗換)が含まれる。
個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度当初と同額の3.5兆円としている。
また、公的部門(日銀乗換)は、日本銀行が保有する国債が満期を迎えた際に、その一部について借換債を引き受ける制度であり、令和6年度は1.7兆円を予定している。


3.おわりに

令和6年度国債発行総額は、依然として極めて高い水準となっており、国債発行残高についても、令和6年度末に約1197.2兆円に達すると見込まれている(図3. 国債発行総額及び残高の推移)。
今後も借換債を含めた国債の大量発行を余儀なくされる中、これらの国債を確実かつ円滑に発行しつつ、中長期的な調達コストの抑制を図っていく観点から、国債管理政策は一層重要となっている。
国債発行当局としては、引き続き国債市場の動向を注視しつつ、市場関係者との緊密な対話を行い、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行に努めていく所存である。

*1) 令和6年度のクライメート・トランジション国債の発行額は、令和5年度補正予算見合い分の発行等を考慮した金額。なお、令和5年度の発行額は1.6兆円。