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特集 令和6年度税制改正(関税)について


関税局関税課 関税企画調整室長 田中 林太郎


令和6年度の関税改正は、与党における税制改正プロセスを経て、「令和6年度税制改正の大綱」(令和5年12月22日閣議決定)に盛り込まれている。本稿においては、「令和6年度税制改正の大綱」のうち関税改正の主な内容について説明したい。

1.暫定税率等の適用期限の延長等

暫定税率は適用期限を定めて基本税率を暫定的に修正する税率である。令和6年3月31日に適用期限が到来する、とうもろこしや麦芽等412品目に係る暫定税率について、国内の生産者及び消費者等に及ぼす影響、国際交渉との関係、産業政策上の必要性等を考慮し、ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋(PVC手袋)を除く411品目に係る暫定税率の適用期限を1年延長する。
ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて関税化された米、麦、乳製品等については、輸入数量が一定の水準を超えた場合等に関税率を一時的に引き上げる特別緊急関税制度が設けられている。国内産業保護等の観点から、令和6年3月31日に到来する同制度の適用期限を1年延長する。
国内産糖と競合関係にある加糖調製品(砂糖と砂糖以外のココア粉やミルク等の混合物)については、WTO協定税率の範囲内で関税と糖価調整制度における調整金が設定されている。国内産糖への支援の原資となる調整金の取り幅を拡大することが可能となるよう、加糖調製品のうち5品目の暫定税率を引き下げる。
PVC手袋については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による世界的な需給逼迫に伴う調達価格の高騰を受け、関税負担の軽減を図るため、令和3年度から関税を無税とする暫定税率を設定している。現在、PVC手袋の需給逼迫は解消し、調達価格も新型コロナウイルス感染症の発生前と同水準となっている。また、国内にPVC手袋を常時生産する者はいない一方、用途の一部が重複し競合関係にあるポリエチレン手袋については国内産業保護のために関税有税となっており、需給逼迫が解消した状況においてPVC手袋に係る無税の暫定税率を維持することは、ポリエチレン手袋の国内生産に影響を及ぼす可能性がある。これらのことを踏まえ、PVC手袋の暫定税率を撤廃する。
(参考1)PVC手袋
医療等の現場において、感染症対策や清掃、汚物処理等のような衛生確保が必要な場合に幅広く使用されているもの。
沖縄振興特別措置法に基づく税制上の特例措置の一環として、沖縄の市中又は空港等の免税店において、沖縄から本邦の他の地域へ出域する旅客向けに販売される物品(外国貨物)について、20万円の範囲内で関税を免除する特定免税店制度が設けられている。沖縄の観光振興に一定の効果があること等に鑑み、同制度の適用期限を沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画の次の見直し期限である令和9年3月末まで3年延長する。


2.個別品目の関税率の見直し

HS委員会(関税分類の国際会議)における決定に従い、関税分類の変更を行うこととなるルイボスについて、引き続き国内産業を保護する観点から、税細分を新設した上で、現行と同じ水準の関税率を設定する。
(参考2)ルイボス
ルイボスとは、南アフリカの一部地域に自生するマメ科の落葉低木であり、2~3mm幅に切った葉がルイボスティーの原料となるもの。
写真: 【ルイボスの例】


3.輸入手続の利便性向上

国際物流を取り巻く環境がめまぐるしく変化する中で、税関として、AEO制度の利用拡大やAEO事業者とのパートナーシップ強化を通じて国際物流のセキュリティ確保と更なる貿易の円滑化の両立を図り、安全・安心な社会の実現及び我が国の国際競争力の向上に貢献することが求められている。
越境電子商取引の拡大に伴い輸入許可件数が大幅な増加傾向にあることを踏まえ、税関の限られたリソースを相対的にリスクが高い輸入者の貨物検査等に集中的に投入することを可能とする観点からもAEO制度の利用拡大を進めることが重要である。
この点に関し、AEO事業者の一つである特例輸入者が行う特例申告の納期限延長に係る担保の取扱いを緩和することは、輸入手続に係るコストの低減等のメリットがあり、特例輸入者の増加及びAEO制度の利用拡大の効果が見込まれる。
特例輸入者は、貨物のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された者として税関長の承認を受けた輸入者であり、税関は、承認の際に当該輸入者の資質や財務状況、納税に関する法令遵守の状況を十分に審査しており、また、承認後も納税手続の履行状況及び財務状況を確認している。加えて、特例輸入者が納税義務を怠った場合にはその承認を取り消すことが可能となっている。したがって、特例輸入者が行う特例申告の納期限延長に係る担保の取扱いを緩和したとしても、適正な納税の確保に特段の支障はないと考えられる。
これらのことから、特例輸入者が行う特例申告の納期限延長に係る担保について、現行の、税関長が必ず提供を求める「必要担保」から、税関長が関税の保全のために必要があると認めるときに限り提供を命ずる「保全担保」へと緩和する。
(参考3)特例申告
通常は併せて行うこととされている輸入申告と納税申告を分離し、貨物を引き取った後に行う納税申告。


4.納税環境の整備

現行制度では、過少申告加算税又は無申告加算税が賦課される場合に、納税義務者が、課税標準等又は納付すべき税額の計算の基礎となるべき事実を仮装・隠蔽したところに基づき納税申告等をしていたときは、過少申告加算税又は無申告加算税に代え重加算税(過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%)を賦課することとされている。他方、納税義務者が、納税申告等をした後に、仮装・隠蔽したところに基づき更正の請求をしていた場合については重加算税を賦課することができず、過少申告加算税(10%)又は無申告加算税(15%)の賦課にとどまっている。
納税申告と更正の請求という税務当局に対する手続の違いによって仮装・隠蔽行為が行われた場合の行政上の制裁の水準が異なることは、納税義務違反の発生の防止という重加算税の趣旨に照らして適切ではなく、更正の請求に係る仮装・隠蔽行為を未然に抑止する必要があることから、内国税の改正に合わせ、仮装・隠蔽したところに基づき更正の請求を行った場合を重加算税の賦課の対象に加える。

図表. 【特例申告納期限延長に係る担保の取扱いの緩和】