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特集 令和5年度補正予算及び令和6年度予算について


主計局総務課主計官 有利 浩一郎

1.令和5年度補正予算及び令和6年度予算編成の背景

日本経済は、コロナ禍の3年間を乗り越え改善しつつある。30年ぶりとなる高水準の賃上げや企業の高い投資意欲など、経済には前向きな動きが見られ、民需主導の持続的な成長とデフレからの脱却、成長と分配の好循環を実現するチャンスが訪れている。
(参考)
令和5年度の実質GDP成長率は1.6%程度、名目GDP成長率は5.5%程度と見込まれており、令和6年度はそれぞれ1.3%程度、3.0%程度と見込まれている。
一方、財政状況に目を転じれば、日本の財政は、これまでの新型コロナウイルス感染症への対応、最近の物価高騰への対応や累次の補正予算の編成等により、より一層厳しさを増している。
財政は国の信頼の礎であり、責任ある経済財政運営を進めるにあたっては、経済あっての財政という方針に沿って、経済再生と財政健全化の両立を図ることが重要である。引き続き、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(令和5年6月16日閣議決定)等における2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標等の達成に向けて、歳出構造の更なる平時化を進めるなど、歳出・歳入両面の改革を着実に推進していく。

2.令和5年度補正予算の概要

(1)令和5年度補正予算のポイント

昨年11月2日に、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が閣議決定された。
この経済対策は、低物価・低賃金・低成長に象徴される「コストカット型経済」から脱し、「持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済」に日本経済を移行させるためのものであり、令和5年度補正予算はこれを実行するために編成された(昨年11月29日成立)。


(2)令和5年度補正予算のフレーム

令和5年度補正予算の歳出においては、経済対策の実行に係る経費として13兆1,272億円を計上している。このほか、国債整理基金特別会計への繰入れ、地方交付税交付金の増額等を行うとともに、既定経費を減額している。なお、新型コロナ・物価予備費について、その使途を変更し、「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」へと見直すこととしている。
一方、歳入においては、租税等の収入について、最近までの収入実績や企業収益の動向等を勘案して1,710億円の増収を見込んでいる。また、税外収入について、7,621億円の増収を見込むほか、前年度剰余金3兆3,911億円を計上している。
以上によってなお不足する歳入について、公債を8兆8,750億円発行することとしている。
この結果、令和5年度一般会計補正後予算の総額は、一般会計予算に対して歳入歳出ともに13兆1,992億円増加し、127兆5,804億円となる。
また、令和5年度の公債発行額は44兆4,980億円となる。

3.令和6年度予算の概要

(1)令和6年度予算のポイント

令和6年度予算は、歴史的な転換点の中、時代の変化に応じた先送りできない課題に挑戦し、変化の流れを掴み取るための予算としている。
本予算は、前述の経済財政状況等を踏まえ、「令和6年度予算編成の基本方針」(令和5年12月8日閣議決定)に沿って編成が進められたものであり、具体的なポイントは以下のとおりである。

【賃上げの実現】

30年ぶりの経済の明るい兆しを経済の好循環につなげるには「物価に負けない賃上げ」の実現が必要である。
医療・福祉分野において率先した賃上げ姿勢を示す観点から、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬改定において、現場で働く幅広い方々の処遇改善として、令和6年度にベア2.5%(医療従事者の場合定昇分を入れれば4.0%)、令和7年度にベア2.0%(同3.5%)を実現するために必要な水準を措置する。賃上げ促進税制の強化とあわせ、公的価格のあり方を見直し、処遇改善加算の仕組みを拡充することで、現場で働く方々の処遇改善に構造的につながる仕組みを構築する。


【こども政策等】

少子化は我が国が直面する最大の危機であるとの認識の下、「こども未来戦略」に基づく「加速化プラン」をスピード感を持って実施する。
具体的には、児童手当の抜本的拡充、高等教育費の負担軽減など経済的支援の強化とともに、幼児教育・保育の質の向上に取り組むほか、貧困・虐待防止、障害児支援など多様な支援ニーズへの対応を拡充する。
加えて、今後増加が見込まれる育休給付の財政基盤強化も実現する。財源確保の取組として、改革工程に基づき、メリハリのある診療報酬改定や薬価制度の見直し、介護保険制度改革を実現する。


【デジタル・GX】

デジタルを活用し、地方の活性化や公的サービスの効率化等を推進するため、デジタル田園都市国家構想交付金により、デジタル行財政改革の先行モデル的取組や、観光・農林水産業の振興等を支援する。
また、2050カーボンニュートラルに向け、官民のGX投資を促進する。


【外交・安全保障】

我が国周辺の厳しい安全保障環境はもとより、ウクライナ侵略・中東情勢等の激動する外交環境に対応するため、外交分野において、安全保障対応や邦人保護・危機管理の基盤を大幅強化し、同時に、統合防空ミサイル防衛や機動展開能力の向上等、防衛力を着実に強化する。


【令和6年能登半島地震への対応】

令和6年能登半島地震への対応として、令和6年度においても復旧・復興のフェーズ等に応じた切れ目のない機動的な対応を確保しつつ、他の予見しがたい事態にもしっかりと備えるべく、令和6年度の一般予備費について5,000億円増額し、計1兆円を計上する(注1)。これにより、令和5年度の一般予備費の残額とあわせ、一日も早い被災地の復旧・復興に向けた支援に全力を尽くす。
(注1)令和6年1月16日の閣議決定により、令和5年12月22日に閣議決定した令和6年度予算の概算を変更。


【歳出の効率化】

同時に、「経済財政運営と改革の基本方針2023」等に基づき、歳出改革の取組を継続し(注2)、歳出構造の更なる平時化を進める中で、前年度当初予算と比較して、新規国債発行を減額している。(令和5年度(当初):35.6兆円⇒令和6年度:35.4兆円)
(注2)歳出改革の対象となる経費のうち、社会保障関係費の伸びは+3,700億円程度(年金スライド分+3,500億円程度を除く)、社会保障関係費以外の伸びは+1,600億円程度となっている。
また、行政事業レビューや予算執行調査等の反映に取り組むなど、予算の質の向上にも努めている。


(2)令和6年度予算のフレーム

令和6年度予算の一般歳出については、67兆7,764億円であり、これに地方交付税交付金等17兆7,863億円及び国債費27兆90億円を加えた一般会計総額は、112兆5,717億円となっている。
歳入については、租税等の収入は69兆6,080億円、その他収入は7兆5,147億円を見込み、公債金は35兆4,490億円となっている。


(3)主要な経費の概要

社会保障関係費については、児童手当の抜本的拡充など、「こども未来戦略」に基づく政策をスピード感を持って実行するために必要な経費を確保するとともに、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬改定において、現場で働く方々の処遇改善に構造的につながる仕組みを構築する。他方、市場価格を反映した薬価改定など、様々な改革努力も行っている。これらの結果、社会保障関係費の実質的な伸びを高齢化による増加分におさめつつ、37兆7,193億円を計上している。
文教及び科学振興費については、小学校高学年における教科担任制の推進等のため必要な措置を行うほか、「科学技術立国」の観点から、AI・量子等の重要分野の研究開発を戦略的に推進するとともに、基礎研究・若手研究者向け支援を充実することとしている。これらの結果、5兆4,716億円を計上している。
地方財政については、臨時財政対策債の発行額の縮減を行うなど、地方財政の健全化を図りつつ、地方の一般財源総額を適切に確保することとしている。これらの結果、地方交付税交付金等として17兆7,863億円を計上している。
防衛関係費については、厳しい安全保障環境の中で、防衛力整備計画に基づき、防衛力の強化を着実に進めるとともに、引き続き、防衛力を安定的に維持するための財源を確保することとしている。これらの結果、7兆9,172億円を計上している。
公共事業関係費については、ハード面の整備とソフト面の対策との一体的な取組により、防災・減災、国土強靱化を推進するとともに、持続的な生産性の向上に向けたインフラ整備等についても重点的に取り組んでいくこととしている。これらの結果、6兆828億円を計上している。
経済協力費については、厳しい国際情勢の中で、「自由で開かれたインド太平洋」をはじめとする取組を戦略的に実現しつつ、ODAは現下の国際情勢に効果的に対応できる予算を確保することとしている。これらの結果、5,041億円を計上している。
中小企業対策費については、価格転嫁対策、事業再生・事業承継支援など、中小企業等の経営課題に対応することとしている。これらの結果、1,693億円を計上している。
エネルギー対策費については、8,329億円を計上するとともに、エネルギー対策特別会計において、GX経済移行債を発行し、カーボンニュートラル目標の達成に必要な民間のGX投資を支援する等により、1兆8,433億円を計上している。
農林水産関係予算については、食料安全保障の強化に向け、水田の畑地化支援による畑作物の生産等を推進するほか、農林水産物の輸出先国の多角化のための販路開拓等の推進、林業・水産業の持続的成長に向けた生産基盤の強化、資源管理等に取り組むこととしている。これらの結果、2兆2,686億円を計上している。
東日本大震災からの復興については、第二期復興・創生期間において、復興のステージの進行に応じたニーズにきめ細かに対応するとともに、「創造的復興」を成し遂げるため、令和6年度東日本大震災復興特別会計の総額を6,331億円としている。
また、物価と賃金の好循環の実現に向け、賃上げ促進の環境整備を含め、物価高対策に必要となる経費に予期せぬ不足が生じた際に機動的に対応するため、万全の備えとして、原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費を1兆円計上している。
加えて、一般予備費については、前述のとおり、令和6年能登半島地震の復旧・復興のフェーズ等に応じ切れ目なく機動的な対応を確保するため、前年度当初予算に対し、5,000億円増額し、1兆円を計上している。


4.結び

前述のとおり、令和6年度予算は、歴史的な転換点の中、時代の変化に応じた先送りできない課題に挑戦し、変化の流れを掴み取るための予算としており、関連法案と合わせて、国会での御審議を経て速やかに成立することが期待されている。
希望ある日本社会を次の世代に責任を持って引き継いでいけるよう、先送りできない課題に挑戦していくとともに、日本経済をしっかり立て直し、財政健全化に向けて取り組んでまいりたい。
(以上)

図表. 令和5年度補正予算(第1号)の概要
図表. 令和5年度一般会計補正予算(第1号)フレーム
図表. 令和5年度補正後予算フレーム
図表. 令和6年度予算フレーム(概要)
図表. 主要経費別内訳