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アーティストが切り開く、都市の可能性


杉山 央(すぎやま おう)


アートイベントのプロデューサー。2018年 『MORI Building DIGITAL ART MUSEUM:EPSON teamLab Borderless』企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。2023年『TOKYO NODE』エグゼクティブ・プロデューサーとして没入型ライブパフォーマンス「Syn:身体感覚の新たな地平 by Rhizomatiks x ELEVENPLAY」、体験型アート「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」を実施。2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター。2027年横浜国際園芸博テーマ事業館展示ディレクター。

加速する技術革新を背景にアートと都市の関係も大きく変容しています。
世界中でコンピューターが空間を制御する「体験型アート」が人気を博しています。鑑賞者の行動によって空間が変化し新しい体験を生み出していくアートの登場は、作品づくりの環境にも影響を及ぼしました。アーティストにとってはリアルの場(=都市)を手に入れないと作品づくりができない状況に陥ってしまったのです。表現の自由度が高まる代わりに作品づくりに至るまでのハードルが上がってしまったとも言えます。
一方、都市では、どのような変化がおきているのでしょうか。
近年、再開発が活況となり新しい街並みが形成されています。どれも素晴らしいプロジェクトです。しかし同じような店舗が並び、似た街並みになっているという意見もあります。選ばれる都市になるためには、その場所に行かないと体験することができない価値をつくり出す必要があります。いかにして感性を刺激する体験をつくり出すかが、これからの街づくりに求められる要素になります。
このように「新しい体験をつくり出す」ということでは、アーティストと都市が目指す方向は合致します。ここで、私が担当した2つのプロジェクト事例をご紹介します。
2018年6月にお台場に誕生した世界最大規模のデジタルアートミュージアム『MORI Building DIGITAL ART MUSEUM:EPSON teamLab Borderless』では、アーティストと不動産オーナーが1つの事業体をつくり、共同で企画から運営までを一貫して行いました。業界の垣根を超えてタッグを組むことで「ここに来ることでしか体験することができない価値」を創り出し、開業初年度の時点で世界170ヶ国以上から230万人/年の来館者記録を打ち出し、異例のスピードで東京の新名所となりました。当ミュージアムは、2024年2月により都心部である麻布台ヒルズに移転オープンすることで麻布台に来訪する楽しみの1つになるでしょう。
また、2023年10月に開業した虎ノ門ヒルズ ステーションタワー内に同時オープンした文化施設『TOKYO NODE』では、開業記念企画として、世界で活躍するデジタルクリエーターのRhizomatiksや、アーティスト蜷川実花による「体験型アート」を企画し、虎ノ門エリアにいない客層を街に呼び込み大きな話題と集客を実現させました。これからもTOKYO NODEは、アーティストの発想で新たな体験価値をつくりだしていくユニークな施設を目指していきます。
アーティストによる表現が都市へと広がりつつある中、更なる進化の動きが出てきています。これからの世界はリアルとデジタルが重なることが当たり前になってきます。メタバースやマルチレイヤード・リアリティにより、リアルとデジタルがお互いに干渉する世界に突入します。アートを表現する手法も多様になり、それを受け入れる街も対応していく必要があります。本当の意味で生活空間のあらゆるシーンがアーティストのキャンバスになる時代が到来しつつあります。
私は、アーティストが持つ自由な発想に都市や技術が結びつくことが、新たな未来を切り開いていく原動力だと信じています。こうした時代の変化の変わり目にいることを楽しみつつ、これからも《都市・アート・技術》が織りなす可能性を、表現者に寄り添いながら追求していきたいと思います。

写真:「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM : EPSON teamLab Borderless」©teamLab
写真:「Syn : 身体感覚の新たな地平 by Rhizomatiks x ELEVENPLAY」
写真:「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」