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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~27


中央アジア・コーカサスセミナー*1

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 国際交流専門官 上田 大介
同 企画交流係長 白石 達也
同 研究員 武本 啓佑
総務研究部 連絡調整係 係員 浅井 麻初


はじめに
このところ、米中対立、ロシアのウクライナ侵略など近年の国際情勢の緊迫化が進む中で、中央アジア・コーカサス諸国への注目が集まっていますが、財務総研は同地域向けの知的支援を1997年から継続して実施しています。
今月のPRI Open Campusでは、本セミナーの歴史や最近の動向を紹介するとともに、本セミナーへ最大の参加者を派遣するウズベキスタン金融財政アカデミー(Banking and Finance Academy 、以下「BFA」)のKhoshimov院長や、本セミナーで長期にわたり講師を務めていただいている上田衛門先生(慶應義塾大学教授)、アンドラディ久美先生(元・横浜国立大学准教授)にインタビューを実施し、本セミナーに対する思いなどを伺いました。

1.これまでの取り組み
(1)中央アジア・コーカサスセミナーの歴史
財務総研・国際交流課は、1992年の発足以来*2、途上国を対象とした知的支援活動を行ってきましたが、中央アジア・コーカサス地域向けの支援の一つとして、同地域の財務省等の若手幹部候補生を日本に受け入れる「中央アジア・コーカサスセミナー」を毎年8月~9月に開催しています。本セミナーは、日本の財政及び経済に関する知識・経験を提供することを通じて、対象国の人材育成を支援する事を目的として長きにわたり継続していますが、その起源は1997年まで遡ることができます。
1991年のソビエト連邦の崩壊に伴い独立したウズベキスタン共和国は、同国の財政金融分野の政策運営等を国際的水準に引き上げる事を目的として、1996年10月、ウズベキスタン金融財政アカデミー(Banking and Finance Academy、以下BFA*3)を設立させました。ウズベキスタン政府から支援を求める強い要請を受けた当時、カリモフ大統領は、段階的に混乱のない市場化を目指すため、日本からの支援を受ける強い方針を示し、このことがハミドフ蔵相(当時)やアジモフ銀行協会会長(当時)からの熱心な日本への支援要請に繋がりました。これに対して、財務省の千野忠男元財務官(当時。故人)及び榊原国際金融局長(当時。現、青山学院大学教授、(財)インド経済研究所長)の強いイニシアチブの下で中央アジアの支援に注力していく方針が示され、財務総研(当時は「財政金融研究所」)は、同機関への支援の一環として1997年にBFAの学生を対象とした「BFA夏期セミナー」を開始しました。
このBFA夏期セミナーは、開始当初(1997年)から2005年までの間は、BFAの学生のみを対象として実施していましたが、2006年からはより広範な人材育成に資することを目的として、参加対象者を中央アジア・コーカサス地域各国*4の財務省等の職員にまで拡大しました。(同時に名称を現在の「中央アジア・コーカサスセミナー」に改称)。その後、ウズベキスタン経済財務省職員も対象に加え*5、現在に至ります。
財務総研では、中央アジア・コーカサスセミナーの前身であるBFA夏期セミナーから現在に至るまで、累計で約350名(オンライン参加を含む。)の研修生を受入れてきました。彼らの中には、その後のキャリアにおいて保険市場開発庁長官や銀行協会会長、国内業界団体の幹部として活躍される方もいるなど、多くの卒業生が各国の政府内や経済・金融業界等で活躍しているとの情報に触れています。

(2)2023年の中央アジア・コーカサスセミナー
中央アジア・コーカサスセミナーは、その前身のセミナー(1997年開始の「BFA夏期セミナー」)も含め、研修生を東京に招聘する形で実施してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大に伴い、2020年は中止、2021、22年はオンライン方式での開催とし、期間や参加数を大幅に縮小し実施しました*6。
2022年秋以降、新型コロナウイルス感染症の拡大抑制対策が大幅に緩和されたことを受け、2023年の当セミナーについては、約4年ぶりの対面開催で実施することを決定しましたが、対面開催の再開にあたっては、所内において従来のカリキュラムや参加要件等の見直しを実施しました。結果的に、2023年の当セミナーは、期間を従来から1週間程度短縮した約3週間とし、ウズベキスタンをはじめとする6カ国*7から合計15名*8の参加者を東京に招聘しました。参加者はセミナー期間中(2023年8月17日~9月8日)、「政策講義」、「一般講義」、「グループワーク」、「視察」の4項目からなるカリキュラム(詳細は下記)を通じ、日本の財政及び経済に関する知識や経験、更には日本の文化や社会について集中的に学びました。
オンライン開催であった2021年及び2022年とは異なり、多くの参加者が積極的に質問を講師に投げかけるなどしており、講義中はもちろん講義後においても活発に講師を巻き込んで議論が行われる光景が非常に印象的でした。
また参加者は、講義による知識の習得に加え、様々な財務省関係機関や民間企業、文化的施設への訪問や、滞在中の電車利用や買い物、食事といった日々の生活を通じて、様々な“日本”を体感することで日本への理解を深めていきました。
我々セミナー運営にあたったスタッフ一同は、こうした参加者の生き生きとした様子を目の当たりにし、改めて対面(東京)でセミナーを実施することの重要性を実感する機会となりました。


写真1: 政策講義の模様
写真2: グループワークの模様
写真3: グループワーク発表会の模様
参考:セミナーカリキュラム
1.政策講義:日本の経済、財政、税制、金融等に係る制度や経験に関する講義
主な講義:「日本の財政の現状と財政健全化の取り組み」、「国際課税の最近の動向」、「金融庁におけるプルデーンス政策」
2.一般講義:わが国の文化・社会に関する理解を深めてもらうことを目的とした講義
主な講義:「日本の社会と文化」、「日本語研修」、「英語プレゼンテーションの技法」
3.グループワーク:事前に財務総研が設定した財政課題等に関するテーマから参加者が関心のあるテーマを選択。同一テーマを選択した参加者でグループを組成し、指導教官の下、課題の解決方法につき議論を行い、最終成果物としてプレゼン資料(グループポリシーペーパー)を作成し発表。
テーマ:「財政の持続可能化(財政政策、税収の流動性等)」、「公共支出管理」、
「各国固有の財政課題克服への取り組み(インフラ投資、社会保障制度等)」
4.視察:日本経済・社会情勢について理解を深めてもらうため、日本の財政・経済部門の主要機関や民間企業、及び、歴史文化的施設等への視察を実施。
主な視察先:東京上野税務署、東京証券取引所、造幣局、京セラ本社、清水寺等


2.中央アジア・コーカサスセミナーに関わる方々へのインタビュー
今回、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大という歴史的にも困難な状況を乗り越え、約4年ぶりに中央アジア・コーカサスセミナーを対面開催(2023年8月~9月)した経験は、財務総研の知的支援の意義を改めて考えさせられる良い機会にもなりました。
そこで、中央アジア・コーカサスセミナーに関わる外部の方々の本セミナーについての思いを通じ、改めて本セミナーの意義を見つめ直すことを目的として、これまで本セミナーに最大の参加者を派遣してきたウズベキスタンBFAのKhoshimov院長や、長年本セミナーにおいて講師を務めていただいている上田衛門先生(慶應義塾大学)、アンドラディ・久美先生(元・横浜国立大学准教授)に対するインタビューを実施しました。

(1)Elmurod Khoshimov BFA院長
(ウズベキスタン)へのインタビュー(書面)
(財務総研)
「中央アジア・コーカサスセミナー」の前身である「BFA夏期セミナー」は1997年に始まりましたが、セミナー立ち上げ当時の議論や当時ウズベキスタンが直面していた課題などについて教えてください。
(Khoshimov院長)
ソビエト連邦からの独立後、ウズベキスタン政府は複雑な社会経済や政治情勢を舵取りする必要性に迫られており、ウズベキスタン国内の経済改革や近代化などに向けた道筋を模索中でした。国内の指導者層は、国際的な知見を得た次世代の人材がウズベキスタンの成長に貢献しうることを理解しており、こうした認識のもと、BFAの学生が変化する世界秩序に対する洞察を得て、国際情勢の力学をより深く理解する土台を作ることを目的としてBFA夏期セミナーが開始されたと理解しています。
(財務総研)
BFA全体の教育課程において、中央アジア・コーカサスセミナーはどのような位置づけになっているのでしょうか?
(Khoshimov院長)
BFAでは、財務総研による中央アジア・コーカサスセミナー以外にも、海外の政府機関や大学、金融機関等と提携し学生が学べる機会を多く提供していますが、中央アジア・コーカサスセミナーは、BFAの教育プログラムの中でもユニークかつ重要な位置を占めています。中央アジア・コーカサスセミナーでは、各分野における日本の著名な学者や政策担当者、専門家から貴重な見識を得て、政治・経済等の様々な面で相互に影響し合う国際社会を正しく理解するために不可欠な国際的な視座を養うことができます。そして、当該セミナーを通じて得たこれらの知見が、BFAの学生が将来的に政策の立案・実施の中核を担うにあたっての糧となり、ひいては彼らがウズベキスタンの経済成長や財政安定を実現するための重要な役割を果たすものと期待しています。
(財務総研)
これまでBFAから中央アジア・コーカサスセミナーに参加したセミナー卒業生は、その後どのようなキャリアを歩んでいるのでしょうか?具体的な例があれば教えてください。
(Khoshimov院長)
過去のセミナー修了生は皆、その後の産学官の様々なフィールドで要職に昇進しており、ウズベキスタンの政策策定に関与し同国の成長に多大な貢献をしています。特に現職で顕著な活躍を見せているのが、保険市場開発庁長官と皮革・履物・毛皮産業企業協会*9の副会長です。両名は、現在、幹部級のポストでウズベキスタンの経済財政政策の策定において重要な役割を果たしており、ウズベキスタン経済への貢献が大きいです。
(財務総研)
中央アジア・コーカサスセミナーに何を期待しますか?
(Khoshimov院長)
中央アジア・コーカサスセミナーは、BFAからの参加者が日本の経済政策や金融システムなどに関する総合的な知見を得る貴重な機会を提供してくれており、我々にとっては非常に重要な機会と認識しています。更には、BFAからの参加者が、同様の関心を持つ他国の学識者や政策担当者と繋がる機会を得ることができる事も大きな利点だと思います。今後もセミナーを通じてBFAの学生たちが国際経済の動向、経済政策、そしてグローバルな視点について深く理解できるようになること、参加者が他国の仲間たちとの貴重なネットワークを育む機会を持つことを期待しています。
写真4: ウズベキスタンBFAのKhoshimov院長

(2)上田衛門先生*10(慶應義塾大学)へのインタビュー
(財務総研)
先生には、2018年以降中央アジア・コーカサスセミナーの講師(「日本経済について:概観」)をお務めいただいていますが、講師として各国からの参加者と接する中で、彼らの熱意や特色などをどのように感じておられますか。
(上田先生)
私は講義中、自身が説明する内容がしっかり伝わっているのかどうかを感じ取るため、参加者の表情や反応をよく観察するようにしています。日本の経験から学びたいという熱意が高い参加者は概して講義中のレスポンスが良く印象に残るものです。こうした参加者は今年のセミナーでも多く見られました。一方、参加者の熱意について、私がもう一つ講義を担当するセミナー(主に東南アジア諸国向けの「財政経済セミナー」)と比較すると、財政経済セミナーへの参加者の方が日本の経験に対しより強い切迫感を持っていた印象があります。つまり、中央アジア・コーカサス諸国が現在直面している問題に対し、日本の経験がどのような処方箋となり得るのかを的確に伝えるためには、中央アジア・コーカサス地域が現在置かれた状況を的確に理解した上で、日本の経験を伝える必要があるということです。そのため、我々(講師)が当該地域の情勢等についての知識を更に蓄積していく必要があると感じています。講師側がこうした知識の蓄積を続ける事で、先方の立場に立って日本の経験に基づいたより適切な処方箋を提示できるようになっていくと信じています。
(財務総研)
中央アジア・コーカサスセミナーを通じた中央アジア・コーカサス諸国との交流の意義等について先生のお考えをお聞かせください。
(上田先生)
財務総研が実施する中央アジア・コーカサスセミナーは、知的支援としての意義は勿論ですが、セミナー参加者の多くは各国政府の職員等である事を踏まえると、海外の政府関係者等との人的ネットワーク作りの場として大変重要な機会だと思います。こうした機会を通じて日本を知ってもらい日本のファンを増やしていくことは日本の国益にも叶うことだと考えられます。
(財務総研)
中央アジア・コーカサスセミナーの将来のあり方についての示唆についてお伺いします。
(上田先生)
新型コロナウイルス感染症抑制のための水際措置の緩和に伴い、対面方式のセミナーが再開できたことは大変喜ばしいです。と言うのも、私が本セミナーにおいて担当する日本経済に関する講義(「日本経済について:概観」)では、日本経済の明るい話ばかりではなく「バブル崩壊」や「失われた20年」、といったテーマにも触れます。そのため、座学のみで終わってしまう場合、日本の現状について荒廃したイメージを植え付けて終わってしまいます。しかし、彼らが実際に日本に足を運び、自ら便利で安全、かつ効率的な生活等を経験すると、日本に関する印象がガラリと変わるようです。そういう意味では、日本は過去の様々な困難を経験し、現在、このような経済社会を維持しているという実態を直接目で見て肌で感じてもらうことは非常に大切だと思います。先ほども申しあげましたが、実際の日本を見てもらい日本のファンを増やしていく機会となり得るこのセミナーは貴重であり、今後も是非継続していって欲しいと考えます。
一方で、セミナー開始当時と現在では内外の社会・経済状況は大きく変化しています。そのため、セミナー主催者として財務総研は、中央アジア・コーカサスセミナーを通じ、同地域の各国に支援を続ける意義はなにか、ということを常に考え続けることが重要だと思います。
写真5: 上田先生へのインタビューの模様

(3)アンドラディ久美先生*11(元・横浜国立大学准教授)へのインタビュー(書面)
(財務総研)
先生には長年中央アジア・コーカサスセミナーの講師を務めていただいておりますが、各国からの参加者と接する中で、セミナー参加者の熱意をどのように感じておられましたでしょうか。
(アンドラディ先生)
私は2007年から中央アジア・コーカサスセミナーにおいて、「日本の社会と文化」*12の講義を担当させて頂いていますが、参加者の皆さんは、日本の文化的背景から国民性、生活習慣まで多くのことを学びたいという強い思いを持っており、意欲的に講義に臨んで下さっています。こうした印象は当時もからほぼ変わってはいません。
(財務総研)
「中央アジア・コーカサスセミナー」(主に中央アジア向け)と「財政経済セミナー」(主に東南アジア向け)の参加者の違いなどについて感じられたことなどはございますか。
(アンドラディ先生)
中央アジア・コーカサス地域からの参加者の多くは日本を経済大国との認識を持っています。一方で、実際の日本人や日本社会に対する認識はややおぼろげであり、日本を未知の国と感じる人も一定程度いるように感じています。この点は、私がもう一つ講義を担当する主に東南アジア諸国向けセミナー(財政経済セミナー)の参加者と異なると感じる部分です。彼ら(財政経済セミナーの参加者)は、研修で来日する以前に既に来日経験がある方やマンガやアニメなどのコンテンツを通じて日本の文化にも慣れ親しんでいる方も多くいらっしゃいます。こうした違いが中央アジア・コーカサス地域からの参加者の日本に対する認識の曖昧さに繋がっている部分があるように感じます。そのため、私の講義が彼らの日本の社会や文化に対する理解を助けるきっかけとなるよう注意を払いながら参加者に接してきました。
(財務総研)
先生がこれまで中央アジア・コーカサスセミナーの講師をご担当いただいた中で、何か興味深いエピソードなどがあればご教示ください。
(アンドラディ先生)
以前、ウズベキスタンを訪問した際、過去のセミナー参加者に偶然再会したことがあります。ウズベキスタンの首都であるタシュケント訪問時、そこでかつてのセミナー参加者から声を掛けられ大変驚いた経験があります。再会の場は第二次大戦中に日本人捕虜によって建設された国立ナヴォイ劇場が隣接している広場であり、日本人にもゆかりのある場所ということで思いがけない嬉しい再会となりました。現在、そのセミナー卒業生も含め、複数の卒業生とSNSを通じた交流を続けています。
写真6: アンドラディ先生(前列中央)

3.おわりに
2023年は4年ぶりに対面方式でのセミナー開催を実施することができ、講義を通じて日本の財政及び経済に関する知識・経験を伝えるだけではなく、実際に日本での生活を体験することで、日本の素晴らしさを実感してもらい、日本ファンを増やしていくことの重要性を感じました。
世界経済の回復は継続しているもののその勢いは弱く、依然として高水準のインフレや中東情勢をはじめとした地政学的緊張、中国経済の減速懸念など、先行き不透明な状況も続いており、各国は多くの課題に直面しています。財務総研における知的支援の担当者としては、中央アジア・コーカサスセミナーの意義を常に考えながら、支援対象国の課題解決に資することを矜持としつつ、より効果的なセミナーの企画・運営に努めていきたいと考えています。

【コラム】日本と中央アジア・コーカサスとの関係
(Ⅰ)中央アジア・コーカサスとは
中央アジア・コーカサス諸国とは、中央アジア5カ国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)、コーカサス3カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)を指します。ユーラシア大陸のほぼ中央部に位置し、古くはヨーロッパとアジアを結ぶシルクロードの拠点として物資の移動、文化交流が盛んに行われ繁栄しました。これらの国々は19世紀にロシアに併合された後、1991年のソビエト連邦解体を経て独立、日本は1992年9月までにこれら8カ国すべてと外交関係を開設しています。同地域は、共通の課題として旧ソ連時代の経済インフラの老朽化等のための人材育成、保健・医療などの社会システムの構築等の問題を抱える一方、国により差はあるものの、石油、天然ガス、ウラン、レアアース等の豊富な天然資源を有しており、様々な利害がぶつかり合う戦略的に重要な地域です。同時に、同地域は周辺を取り囲むロシアや中国等の大国の動向や、紛争など近隣諸国の情勢による影響を受けやすい地域でもあり、地政学的な要衝としてユーラシア地域全体の発展と安定に大きな意義を有しています。直近では、2022年のロシアによるウクライナ侵略の影響により、物流の制約を含め、経済的・社会的な影響を受けており、各国は対応を迫られています。現在日本としては、中央アジア・コーカサス地域の自由で開かれた持続可能な発展に向けた様々な協力を行っています。
(Ⅱ)日本の取り組み
日本は、中央アジア・コーカサス諸国の課題解決に向けた取組を支援するため、インフラ整備、人材育成、保健・医療を始めとする基礎的社会サービスの再構築など多様な分野で支援を行っています。特に、中央アジア諸国との関係では、2004年から「中央アジア+日本」*13対話を立ち上げ、自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーである中央アジアの平和と安定に寄与することを目的とした域内協力を促進しています。また、コーカサス諸国との関係では、2018年に発表した「コーカサス・イニシアティブ」*14に基づき、基本方針として(1)国造りを担う人造り支援、(2)インフラ整備やビジネス環境整備を通じた魅力的なコーカサス造りのための支援、を協力の2つの柱としています。
2023年9月に米国バイデン大統領と中央アジア5カ国首脳との間で、安全保障、経済及びエネルギー面でのパートナーシップを通じた協力強化で一致するなど、世界的に中央アジアへの注目が高まる中、上川外務大臣がカザフスタンのヌルトレウ副首相兼外務大臣と会談し、脱炭素化やエネルギーの分野で中央アジア各国との連携強化について協議しました。
現在日本は、これまで閣僚級で実施していた「中央アジア+日本」対話を、2024年に初の首脳会合として実施することを念頭に、中央アジアとの関係強化に向けた取組を進めています。

(参考文献)
・外務省 「中央アジア・コーカサスと日本 さらに深化したパートナーシップに向けて」
・独立行政法人 国際協力機構 キーワードは多様性 中央アジア・コーカサスってどんな所?
・開発協力白書・ODA白書(2022年) 「第III部 地域別の取組 6 中央アジア・コーカサス地域」
・令和5年版外交青書(外交青書2023) 「コラム:日本と中央アジア・コーカサス諸国との外交関係樹立30周年」
・中央アジアと首脳会談、24年に初開催へ 対中国の要衝―日カザフスタン外相会談で確認(日本経済新聞電子版 2023年9月21日)

プロフィール
財務総合政策研究所 国際交流課 国際交流専門官
上田 大介
2002年関東信越国税局に入局、
2006年に財務省に出向し、
2021年7月より現職。

財務総合政策研究所 国際交流課 企画調整係長
白石 達也
2016年に大阪国税局に入局。
2019年7月に財務省に出向、
2023年7月より現職。

財務総合政策研究所 国際交流課 研究員
武本 啓佑
2020年にリベラ株式会社に入社。
2023年4月より財務総合政策研究所に出向。

財務総合政策研究所 総務研究部 連絡調整係 係員
浅井 麻初
2020年に東海財務局に入局。
2022年7月より財務総合政策研究所に出向。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

図表 中央アジア・コーカサス諸国

*1) 文中、意見に及ぶ部分は全て筆者の私見である。
*2) 財務総研国際交流課は、国際交流室として1992年7月に発足し、2015年7月の機構改正により国際交流課と名称変更され現在に至る。
*3) BFAとは、ウズベキスタンの金融・財政・税務行政各分野の政策運営等を国際的水準に引き上げることを目的として、1996年5月の大統領令に基づき設立され、各部門の専門家の育成のためのプログラムを実施。現在、ウズベキスタン政府や金融機関等より選抜された幹部候補生等が、主に1年間の修士課程を履修。なお、BFAは、以前は財務省(現在は経済財務省)の直下にあったが、2019年よりNBU(「国立対外経済活動銀行」、経済財務省の直下に位置する国立商業銀行)傘下へと所管が変更。
*4) アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、ジョージア、タジキスタン、トルクメニスタンの8カ国。
*5) 中央アジア・コーカサスセミナーへのウズベキスタン経済財務省の招聘は2020年から。
*6) 期間は従来約1ヶ月であったところを約1週間に、参加者についても従来は20人程度であったものを8名程度に縮小。
*7) ウズベキスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン。
*8) 各国財務省から1名、BFA(Banking and Finance Academy of Uzbekistan)より9名。(引率1名含む。)
*9) 皮革・履物・毛皮産業企業協会は、ウズベキスタンにおいて主要輸出品である革製品等を製造する企業が加盟する業界団体であり、政府の政策策定にも影響力を有する。https://uzcharm.uz/en/static/12/
*10) 上田衛門先生は、1981年に大蔵省(現財務省)に入省され、本セミナーの前身の「BFA夏期セミナー」開始時には国際交流室長として勤務されておりました。その後、慶應義塾大学大学院商学研究科教として御活躍であり、2018年以降本セミナーで講師を務めていただいております。
*11) アンドラディ久美先生は、2007年以降本セミナーで講師を務めていただいており、研修生に対して日本の伝統文化、社会、生活について講義いただいております。
*12) 開講当時は「日本の伝統文化」
*13) 日本は、中央アジアの安定と発展には地域共通の課題の解決に向けた地域協力が不可欠との観点から、2004年に「中央アジア+日本」対話を立ち上げました。現在では他の主要国も同様の枠組みを設けており、「中央アジア+日本」対話はこれらの先駆け的存在です。
*14) 河野大臣(当時)は、2018年9月に日本の外務大臣として初めてアルメニアとジョージアを、19年ぶりにアゼルバイジャンを訪問しました。コーカサス3カ国訪問の際に、日本は対コーカサス地域外交の考え方と具体的な協力方針を「コーカサス・イニシアティブ」として発表しました。これは、コーカサス地域を(1)アジア、欧州、中東をつなぐゲートウェイの潜在性、及び(2)国際社会の平和・安定に直結する戦略的重要性、の両方を備える地域として位置づけ、以下の2本の協力の柱を示したものです。〈協力の柱〉(1)「国造り」を担う「人造り」支援(人材育成)(2)「魅力あるコーカサス」造りの支援(インフラ、ビジネス環境整備)