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物価連動国債入門-基礎編-


東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1


1.はじめに
本稿は、物価連動国債について説明することを目的としています。我が国の物価連動国債は2004年に導入され、2008年の金融危機により一時的に発行が停止された後、2013年に再発行されました。国債発行総額からみれば、未だに小規模にとどまっていますが、近年は我が国においてもインフレ率が上昇傾向にあり、注目が集まっている国債といえます。物価連動国債は年金など長期の運用を行う主体が投資する金融商品とされ、先進国では普及しています。
本稿では、物価連動国債の商品性の概要について説明します。紙面の関係上、物価連動国債を用いて算出される期待インフレ率の詳細などについては次回以降の論文で議論する予定です。
本稿は日本国債や金利リスクに関する基礎的な知識をベースにしています。国債の商品性の概要は、筆者が記載した「日本国債入門」(服部, 2023)をご参照ください。筆者が記載してきた債券入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2.物価連動国債の商品性
2.1 物価連動国債のキャッシュ・フロー
服部(2023)で記載しましたが、金融商品を理解するために重要なのはそのキャッシュ・フローを把握することです。図表1. 物価連動国債のキャッシュ・フローが物価連動国債のキャッシュ・フローです。通常の国債(名目債)と比べた際の重要な特徴は、名目債の場合、クーポンおよび元本が固定されているところ、物価連動国債の場合、利子および元本が物価に依存する点です。図表1のように、例えば、物価が高くなれば受け取る利子や元本が増加する一方、物価が低下すれば利子や元本が減少するという商品性になっています。
このような商品性は、インフレが起こった場合のリスクをヘッジする機能をもたらします。例えば、名目債の金利が1%の場合、期中に1円を受け取り、満期で100円受け取ることになりますが、仮に毎年1%のインフレがおきたとしたら、同じ1円を受け取ったとしても、その購買力が低下することになります。これがインフレに伴うリスクになります。その一方、物価連動国債の場合、利子や元本が物価に連動するため、インフレに伴い利子や元本が増えますから、インフレリスクをヘッジすることができます。そのため、物価連動国債は、年金など長期の運用を行っている投資家がインフレリスクをヘッジすることを可能にする金融商品として説明される傾向にあります。
図表2. 物価連動国債のキャッシュ・フローが財務省のウェブサイトに記載されている物価連動国債のキャッシュ・フローです。左側に記載されているとおり、当初100億円の支払いがありますが、想定元金額が物価(ここではCPIとありますが後述します)に連動するようになっており、利子額および償還金額が物価に依存する商品性になっています。日本政府が出している物価連動国債は10年債になりますが、この背景には、短い年限の国債だと、インフレリスクをヘッジする意味が薄れることなどがあります。

2.2 物価連動国債の導入の経緯
我が国における物価連動国債は、2000年代における国債の商品性の多様化の中で、2004年に導入されました。図表3 2000年代になされた商品性の多様化を見ると、この時期に、例えば5年債や30年債など様々な商品が導入されていることが確認できます。
もっとも、2008年の金融危機時における暴落を踏まえ(その詳細はBOXを参照してください)、変動利付国債と共に、物価連動国債の発行は一時的に停止されます。その後、2013年に物価連動国債の再発行がなされますが、その際には元本保証が付されるなど、商品性が一部変わりました。物価連動国債が再発行された背景には、先進国では物価連動国債の発行が普及していることに加え、物価連動国債の発行により期待インフレ率の測定が可能になることなどがあります*3(ちなみに、市場参加者は元本保証の付された2013年以降の物価連動国債を「新型物価連動国債」、それ以前の物価連動国債を「旧型物価連動国債」と表現します)。

2.3 消費者物価指数
前述のとおり、物価連動国債は利子や元本が物価に連動する点が特徴です。物価連動国債では、物価指数の中でも、生鮮食品を除いた全国消費者物価指数(Consumer Price Index, CPI)がその対象になっています(生鮮食品は価格の変動が大きいことから、生鮮食品を除いた指数が用いられています)。ちなみに、生鮮食品を除いた全国消費物価指数をコアCPIと呼びますが、コアCPIは、日銀の物価目標でも用いられています。
そもそも物価指数は、財・サービス等の価格を捉える指数であり、消費者物価指数以外にも様々な物価指数が存在します。例えば、企業が直面している物価を測る企業物価指数などですが、多くの物価指数があるところ、物価連動国債では、生鮮食品を除いた消費者物価指数が利用されているわけです。消費者物価指数は、家計簿にその消費を記入してもらい、典型的な財の価格をトラックすることで物価指数を構築しています。物価指数の詳細について知りたい読者は、渡辺(2022)などを参照してください。

2.4 物価連動国債を利用した期待インフレの測定:ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
前述のように、物価連動国債を発行することで、期待インフレ率を測定することが可能になります。投資家としては、例えば、10年間の投資をするにあたり、10年の名目債に投資することもできれば、10年の物価連動国債へ投資することもできます。もし高いインフレ率が実現されると予測されるなら、物価連動国債を購入したほうがよいですし、そうでない場合は、名目債を購入したほうがよいということになります。物価連動国債の価格には投資家のインフレの予想が反映されていることを踏まえれば、名目債との価格を比較することで、投資家がどの程度、将来のインフレを見込んでいるかが推測できるということになります。
フィッシャー方程式の観点でいえば、「名目金利=実質金利+期待インフレ率」が成立します(フィッシャー方程式についてはマクロ経済学のテキストなどを参照してください)。通常の国債の市場価格より「名目金利」が得られますが、物価連動国債の価格が得られれば、「実質金利」を算出することができます*4。したがって、「期待インフレ率=名目金利-実質金利」という関係から「期待インフレ率」を算出することができます。
上述で算出した期待インフレ率は、名目債と物価連動国債のどちらに投資をしてもリターンが同じになる(ブレーク・イーブンになる)インフレ率と解釈できることから、ブレーク・イーブン・インフレ率(Break Even Inflation rate, BEI)を呼ばれます(BEIの時系列の推移は図表4. ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の推移のとおりです)。例えば10年の物価連動国債を用いて算出したBEIが2%であることの解釈は、コアCPIの上昇率が向こう10年にわたり平均2%となった場合、名目債で運用した場合と物価連動国債で運用した場合のリターンが同じになるというものです。したがって、読者が将来のコアCPIがBEIを上回ると考えるならロング、下回ると考えるならショートという形で投資判断をすることができます。
もっとも、2013年以降に発行された物価連動国債には償還時の元本保証(フロア)があり、フロアの価値分だけ、BEIは期待インフレ率から乖離します*5。また、物価連動国債から算出されたBEIには流動性プレミアムが含まれる点にも注意が必要です。BEIを計算するうえでどの年限の物価連動国債を用いるのかという論点もあります。これらについては紙面の関係上、次回以降の論文で議論します。


3.物価連動国債発行の実際
3.1 物価連動国債の発行量
前述のとおり、物価連動国債は2004年に導入されましたが、2008年の金融危機で一時的に停止され、その後2013年に再開されました。図表5. 物価連動国債の発行額および市中発行額に占める割合が国債発行計画における物価連動国債の発行量の推移ですが、物価連動国債の発行は国債発行全体に対して小規模にとどまっています。2004年に発行が開始されて以降、増加傾向にあったところ、金融危機時に発行が停止され、2013年以降発行が再開されるものの、コロナ禍で発行が減少して今に至ります。
物価連動国債の発行回数は3か月に1回と、発行頻度も抑えられています(通常の2年から30年債は毎月、40年債は2か月に1回の発行です)。また、物価連動国債は原則リオープンです(リオープンについては服部(2023)を参照してください)*6。

3.2 物価連動国債の入札
物価連動国債は、他の名目債と同様、入札を通じて発行されています。入札方法の重要な特徴は、2004年から原則ダッチ方式が用いられている点です*7。入札の方式については服部(2023)や石田・服部(2020)を参照していただきたいのですが、日本国債の入札ではコンベンショナル方式とダッチ方式が併用されており、40年国債および物価連動国債はダッチ方式、それ以外はコンベンショナル方式が用いられています。物価連動国債についてダッチ方式が用いられる背景には、40年債と同様、他の国債に比べて投資家の層が限定的であるなど、流動性の懸念があることなどが指摘できます。
40年国債はイールド・ダッチ方式が用いられていますが、物価連動国債については、プライス・ダッチ方式が用いられています(イールド・ダッチ方式については服部(2023)を参照してください)。プライス・ダッチ方式とは、ダッチ方式で入札を実施するものの、入札の参加者は、「金利」でなく「価格」で応札するという入札です。例えば、入札ではプライマリー・ディーラー(Primary Dealers, PD)を中心に札をいれますが、PDは例えば10億円分の物価連動国債について100.01円という価格で応札します。
物価連動国債の導入当時は、入札の方式としてイールド・ダッチ方式が用いられていました。プライス・ダッチ方式になった背景として齋藤(2013)は、再開時における物価連動国債の金利がマイナスであることから、表面利率をマイナス金利とすることはできず、「プラスの表面利率を国の側で設定した上で入札参加者は妥当と考える価格を入札する価格入札方式を新発債・リオープン債ともに採用するとされた」(p.36)と説明しています(表面利率が決まって、入札を実施する具体例については次節で説明します)。

3.3 買入消却の仕組み
物価連動国債の特徴は、買入消却(バイバック)も定期的に実施されている点です。買入消却とは、財務省が入札を実施して、既発の国債を市場から買い入れる政策です。債務管理リポートでは、「現在では、恒常的な需給の不均衡が生じているという見方や流動性プレミアムが拡大しているといった指摘を踏まえ、需給改善や流動性向上を目的として物価連動国債の買入消却を実施しています」と説明しています。
流動性が枯渇した銘柄に対する措置という観点では、財務省は流動性供給入札も実施しています(流動性供給入札については、服部・齋藤(2023)を参照してください)。買入消却は、市場から国債を買い入れることを通じて需給バランスを改善し流動性等を向上させることを企図した政策ですが、その反対側の政策として、流動性が枯渇した国債を投資家のニーズに応じて供給する流動性供給入札と呼ばれる施策も実施されています。流動性供給入札と買入消却の関係について比較したものが図表6 流動性供給入札及び買入消却の仕組みです。
買入消却とは、いわば国債を前倒して償却するという側面を有します。そのための原資は、一般会計から国債整理基金特別会計(特会)に債務償還費として繰り入れ、国債整理基金特会を通じて買い入れを行います*8。もっとも、現在の運用では、その見合いで借換債を発行するため、ネットとしての国債供給量は変化しません。その意味で、買入消却とは、流動性が枯渇した銘柄を流動性がある銘柄に入れ替える措置とみることもできます。
買入消却は、歴史的にはその使途は限定されていましたが、2003年から機動的に実施されるよう制度整備がなされました*9。その背景には、平成20年度に集中していた国債の償還の平準化(いわゆる平成20年度問題*10)などに対応することがありました。その後、2008年の金融危機時における変動利付国債と物価連動国債の流動性低下に対応するため、より一層機動的に買入消却は実施されました。また、2013年に新型物価連動国債が発行される中で、既発債から新発債への乗換需要にこたえるための追加買入が実施されました*11。

図表7. 物価連動国債に対する買入消却額の推移は物価連動国債に実施された買入消却額の推移になりますが、2008年の金融危機時に増加する一方、その後、その金額を減少させていき、物価連動国債の再発行がなされた2013年以降はおおむね横ばいであることがわかります。コロナ禍では流動性の懸念があったことから買入消却が一時的に増えましたが、現在は減少傾向にあります(金融危機時における買入消却についてはBOXを参照してください)。なお、物価連動国債の買入消却と物価連動国債に対する日銀の買いオペは、その目的やタイムスケジュールなどが異なるものの、入札を通じて購入していることや、入札においてコンベンショナル方式を実施していること、さらに入札において複数の銘柄をオファーするなど類似点も少なくない点に注意してください。
買入消却時の入札では、通常の国債と同様、コンベンショナル方式を実施しています。流動性供給入札と同様、複数の年限の国債を対象としていることから、売買参考統計値をベースに安く応札された札から順番に落札していく方式が取られています(この詳細を知りたい読者は服部(2023)を参照してください)。

3.4 入札のタイムスケジュール
図表8. 物価連動国債入札のタイムスケジュールが物価連動国債における発行と買入消却の入札に係るタイムスケジュールです。発行の入札については、通常の利付国債と同様、10:30オファー、11:50締切、12:35結果発表というスケジュールになります。物価連動国債について、第Ⅰ非価格競争入札は実施されていませんが、第Ⅱ非価格競争入札は実施されています(第Ⅰ非価格競争入札と第Ⅱ非価格競争入札については、服部・石田・早瀬・堀江(2022)を参照してください)。第Ⅱ非価格競争入札についても、通常の利付国債と同様、14:00にオファー、14:30締切、15:15結果発表となっています。
買入消却に係る入札については、発行の入札より若干早く、10:10オファー、11:30締切であり、12:35結果発表です。ちなみに、物価連動国債の再発行後、旧型物価連動国債から新型物価連動国債への移行期には、投資家の乗換ニーズに対応して「新発債落札額-買入消却入札落札額」を買入額の上限とし、入札の後場に追加買入消却入札を実施していましたが、現在は実施していません。


4.物価連動国債入札の実際
4.1 入札結果の事例
ここからは、物価連動国債の入札および買入消却について具体例を用いて、その流れを概観します。
図表9. 10年物価連動国債の発行条件(2023年8月10日)は2023年8月に実施された10年物価連動国債の事例ですが、これは入札当日の10時30分に公表された条件です。下記の通り、入札前に、表面率(0.005パーセント)が公表され、発行予定額は2,500億円程度ということがわかります。入札方式についても、前述のとおり、価格競争入札によるダッチ方式(プライス・ダッチ方式)であることが記載されています。
図表10. 10年物価連動国債の入札結果(2023年8月10日)が入札の結果です。募入最高利回りが-0.510%と記載されていますが、これは実質金利になります(この計算については次回の論文で議論します)。ダッチ方式による入札であるがゆえ(落札者が全員同じ価格で購入するため)、テールを計算することはできません。入札結果の解釈には、その時の結果の予測との乖離に加え、応札倍率なども用いられる傾向があります(国債の入札結果の解釈は服部(2023)の8章を参照してください)。

4.2 買入消却の事例
上記が国債発行に係る入札の結果ですが、次に買入消却の事例を取り上げます。図表11. 国債の買入消却の条件(2023年8月10日)は入札の実施前にリリースされた情報ですが、額面で200億円程度の規模であり、対象は第18回債から第28回債であることがわかります。入札方式がコンベンショナル方式であることも確認できます。
図表12. 国債の買入消却の入札結果(2023年8月10日)が買入消却の結果になります。買入消却はコンベンショナル方式であるため、応札額が買入額のギリギリに達する「買入最大価格較差」だけでなく、平均的な購入額である「買入平均価格較差」も開示されています(その両者の差をとることでテールを計算することができます)。図表12.にある通り、入札結果は価格較差で公表されていますが、公社債店頭売買参考統計値(入札当日付の平均単価)を用いて、その価格較差が算出されています(詳細については服部(2023)や服部・齋藤(2023)を参照してください)。
流動性供給入札と同様、図表13. 買入消却入札における詳細及び累計の通り、どのような銘柄が落札されたかも開示されています。


5.おわりに
今回は物価連動国債の概要について説明しました。次回は物価連動国債から算出されるBEIや連動係数などの説明を行います。


参考文献
[1].石田良・服部孝洋(2020)「日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―」PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) .
[2].齋藤通雄(2013)「物価連動国債について」『証券アナリストジャーナル』 51 (9), 32-40.
[3].齋藤通雄・服部孝洋(2023)「齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(前編)」『ファイナンス』695, 34-45.
[4].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情研究会.
[5].服部孝洋・石田良・早瀬直人・堀江葵(2022)「非価格競争入札入門―基礎編―」『ファイナンス』682, 14-23.
[6].服部孝洋・齋藤浩暉(2023)「流動性供給入札入門」『ファイナンス』694, 22-29.
[7].渡辺努(2022)「物価とは何か」講談社

BOX 金融危機時における物価連動国債の暴落
2008年の金融危機時、物価連動国債が暴落しましたが、外国人投資家の多さがその一因とされています*12。図表14. 金融危機時における物価連動国債の価格推移が物価連動国債の価格の推移になりますが、特にリーマン・ショック時に大幅に低下していることがわかります。その理由として、国債市場特別参加者会合(PD会合)では、「レラティブバリュー系がかなり市場から撤退したことにより、市況の悪化を招いている。主要な買い手だった海外勢の一部が最近では投げ売りしている一方、国内投資家の間では引き続き投資が広がらなかったことにより、スパイラル的な市況の悪化に繋がっている」、「物価連動債の価格下落は、海外の商品安などの影響もあるが、最大の要因は需給のバランスが崩れていることであろう」などと指摘されています*13。
この時期は金融危機であったことから世界的にインフレ期待が低下しており、各国でBEIが低下しています。図表15. WTI価格と物価連動国債のBEIの推移はBEIとWTI先物の推移を示していますが、WTIの低下に伴い、BEIが低下していることがわかります(PD会合では、「市況の悪化は主要国の物価連動債に共通していえることでもある」*14としており、WTIの低下に伴い、各国のBEIが低下していることを指摘しています)。この暴落に対応するため、財務省は、需給関係等を改善させるため、変動利付国債と共に、物価連動国債の買入消却を実施しました。

*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 齋藤(2013)では、物価連動国債の発行の再開に向けた変化が見られたのは2012年としており、この背景として、「1つは、発行停止の状態をこのまま続けていると、わが国物価連動国債の市場が投資家から完全に見放されるおそれがあるという危機感である」、「もう一つは、発行を再開しようとしても直ちに再開できるわけではなく、あらかじめ準備を進めておく必要があったという点である」(p.33-34)としています。また、齋藤・服部(2023)で、齋藤前理財局長は「当時はデフレ環境下でしたから、物価連動国債もそこまでニーズが強かったわけではないですね。ただ、国債の基本的な品揃えとしてあった方がいいということになりました。マーケットの物価上昇に対する予想というか期待インフレ率、いわゆるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)を計測するという意味でも、物価連動国債があった方がいい」(p.28)というコメントをしています。
*4) 詳細は次回の論文で説明しますが、期中と満期の想定元本が100円とした場合の金利を計算することで実質金利が計算できます。
*5) その背景として、当時の担当課長であった齋藤氏は、「我々発行当局は、品揃えの観点で物価連動国債をなんとか再開、復活できないかなと考えました。その結果、フロアをつけるという形になりました。昔の物価連動国債は、インフレになれば額面が増えますし、デフレになれば額面が減って、投資家からすると額面割れになるようなリスクを伴うものになってたわけです。なので、額面割れしないように、言い換えれば、フロアをつけて、損はしない商品にしました。もちろんその分だけ、マーケットのインフレ予想を計測するという意味では不正確になる部分が出るわけですけど、それでも商品としてあった方がいいし、海外の物価連動国債を見てもフロアをつけている国があるわけですから、別に日本だけが特殊なことをするわけではありません」(齋藤・服部 2023, p.28)と指摘しています。
*6) 2015年以降は原則、年間1銘柄でのリオープン発行となっています。
*7) 旧型物価連動国債はコンベンショナル方式で発行されたことがあります。具体的には、2007年8月、2008年2月、2008年8月の計3回のリオープン債はコンベンショナル方式で発行されました。また、旧型物価連動国債は2006年8月、2007年2月、2007年8月、2008年2月、2008年8月の計5回リオープンされていますが、当初2回はイールド・ダッチ方式、残りの3回がプライス・コンベンショナル方式で発行されています。
*8) 実務では、買入消却代金のうち、オーバーパーの部分は債務償還費として繰り入れるものの、額面は債務償還費の繰り入れではなく国債整理基金特会の借換債収入で対応します。例えば、ある銘柄を105円で額面200億円分買い入れた場合、償還費は合計で210億円必要になります。その財源は、10億円分が一般会計国債費から国債整理基金特会への繰り入れ、残り200億円分が国債整理基金特会の借換債収入となります。
*9) 債務管理リポートでは、「従来、国債の買入消却は、相続税法に基づき国に国債が物納された場合や、公職選挙法に基づき立候補者が国に供託した国債が落選とともに没収された場合などに限って実施されてきましたが、平成14年6月に国債証券買入銷却法を改正するなど制度面を整備し、平成15年2月からは、発行当局側のニーズからも機動的に実施しています」と指摘されています。
*10) 日本国債ガイドブック2006では、「『平成20年度問題』とは、平成20年度に国債の満期償還が集中し、特段の対策をとらなかった場合、同年度において借換債の発行額が急増するという問題のことで、近年、国債管理政策上の大きな課題の一つとなっていました。そもそも、平成20年度に国債の満期償還が集中することとなったのは、(1)平成10年度当初予算において、国鉄及び国有林野の債務承継に係る借換債が発行されたことなどにより、10年債の発行額が平成9年度当初予算に比べて6.6兆円増額されたこと、(2)平成10年度に3次にわたる補正予算の編成を行い、10年債の発行額が平成10年度当初予算に比べ、7.9兆円増加したこと等により、平成10年度中に発行され平成20年度中に償還される10年債の発行額が40.6兆円と非常に多額に上ったからです。借換債の発行が急増した場合、国債の需給環境を悪化させ、国債の安定消化を危うくする可能性があります。このため、これまで『平成20年度問題』に対する直接の対応として、平成14年度以降、平成20年度に償還をむかえる国債の買入消却を実施してきたほか、発行年限の長期化や前倒し発行の活用による年度間の国債発行額の平準化などに取組んできました。
さらに、平成18年度において、特別会計改革、資産・債務改革、財政健全化の観点から、財政融資資金特別会計から国債整理基金特別会計に12兆円繰入れられることとなり、これを原資として、既発国債を買入消却(市中から約1兆円、財政融資資金と日銀からそれぞれ約5.5兆円)し国債残高の圧縮を図ることとなりました。この買入消却の対象の大半を平成20年度までに償還される国債とすることにより、また、上に述べた今までの国債管理政策上の努力と合わさって、『平成20年度問題』は解決されることとなりました」(p.41-42)としています。
さらに、平成18年度において、特別会計改革、資産・債務改革、財政健全化の観点から、財政融資資金特別会計から国債整理基金特別会計に12兆円繰入れられることとなり、これを原資として、既発国債を買入消却(市中から約1兆円、財政融資資金と日銀からそれぞれ約5.5兆円)し国債残高の圧縮を図ることとなりました。この買入消却の対象の大半を平成20年度までに償還される国債とすることにより、また、上に述べた今までの国債管理政策上の努力と合わさって、『平成20年度問題』は解決されることとなりました」(p.41-42)としています。
*11) 例えば、読者が旧型物価連動国債を保有していた場合、それをバイバックで財務省に売却すると同時に、新型の物価連動国債を入札で購入するなどが可能になります。
*12) 例えば、国債市場特別参加者会合(第22回)議事要旨では「物価連動債の参加者は、海外のレラティブバリュー、レバレッジ系の参加者が占める保有比率も大きい」と指摘されています。
*13) 国債市場特別参加者会合(第22回)議事要旨を参照。
*14) 国債市場特別参加者会合(第22回)議事要旨を参照。