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2023年IMF・世界銀行グループ年次総会およびG20財務大臣・中央銀行総裁会議等の概要


国際機構課長 木原 大策/係長 舟木 健/係員 西﨑 恵理奈
開発機関課長 津田 尊弘/係長 片山 周一
国際調整室長 齊藤 郁夫/係長 山﨑 健人
開発政策課参事官 城田 郁子/係長 磯崎 聡


2023年10月11日から10月14日にかけて、モロッコ・マラケシュにおいて、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF 合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された。これらの会議は、第78回世界銀行グループ・IMF年次総会に合わせて開催されたものである。一連の会議は、今なお続くロシアのウクライナに対する侵略戦争や本年10月7日に勃発したイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突によって世界経済の抱える課題が強く認識される中で行われた。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
1. G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2023年10月12日)
日本が議長を務め、対面形式でのG7を開催した。今回のG7においては、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の対面での参加を得て、ウクライナ支援等について議論を行い、会議後、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
まず、国際情勢に関連して、ハマスによるイスラエル国に対するテロ攻撃を断固として非難し、イスラエル国民との連帯を表明する点が確認された。
ロシア対応・ウクライナ支援については、ウクライナに対する揺るぎない支援を再確認するとともに、ロシアのウクライナに対する侵略戦争を非難することで結束した。また、ロシアがウクライナの長期的な再建の費用を支払うようにする取組を続け、それぞれの法制度と国際法に整合的に、ウクライナ支援のためのあらゆる可能な方策を探求することで一致した。加えて、引き続きウクライナの短期資金ニーズに対応し、ウクライナの復旧・復興を支援することにコミットするとともに、凍結されたロシアの国家資産を保有する民間事業者において、特別な収入が凍結資産自体から発生している場合、その収入をウクライナ支援に向け得る方策を探求することに合意した。
その他、低・中所得国がクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーンでより大きな役割を果たせるよう協力するパートナーシップ「RISE」(後述)について、成功裏の立上げを歓迎し、その実施を今後も支援することを確認した。
G20における取組への関与等に関しては、債務問題について、「共通枠組」の実施を強化するG20の取組を引き続き支持するとともに、スリランカの債務措置の合意に向けた債権国会合での大きな進展を歓迎し、その迅速な解決への期待を表明した。また、国際開発金融機関(MDBs)が既存資本の活用のための努力を継続することを強く求め、地球規模課題への対処・最貧国への支援のために、世界銀行において更なる資金余力と譲許的資金を共同で動員することを確認した。IMFクォータ見直しについては、本年末の期限までに増資を伴う見直しが完了するよう最大限の努力を継続することに合意した。為替については、過度な変動は望ましくないといった合意を再確認した。
上記の通り、日本が議長国としてリードしてG7間で率直な議論が行われた結果、多くの成果が得られたものと考えている。


2. G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2023年10月12~13日)
今回のG20は、2023年7月13、14日にガンディーナガルで開催された会議に続く、インド議長下における4回目の大臣・総裁級の会議となった。初日のMDBsセッションにおいては、MDB改革について議論を行った。2日目のセッションにおいては、世界経済の諸課題及び暗号資産等に関して議論が行われた。本セッションでは、日本を含む多くの国が、ウクライナとの連帯を改めて表明するとともに、ロシアを最も強い言葉で非難した。日本からは、モロッコ・アフガニスタンの地震及びリビアの洪水の被害者に哀悼の意を表し、イスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突に対する深刻な憂慮を表明した。加えて、ロシアによる侵略戦争の影響などにより世界経済の回復は緩やかなものにとどまる中、我が国では総合経済対策の策定に取り組んでいること、また、世界的に金融引き締めが継続される中、為替市場を含め、金融市場の変動が高まるリスクに留意すべきであり、為替相場の過度な変動は望ましくなく、場合によっては適切な対応を求められることもある、との立場を発信した。
会合では2022年2月以来7回ぶりに全てのメンバーの合意による共同声明が採択された。共同声明では、ウクライナにおける戦争が世界経済に悪影響を与えていることなどを含むG20ニューデリー首脳宣言の文言(核兵器の不使用を含む)が盛り込まれた。世界経済については、最近のショックに対する強靱性が示される一方、引き続きリスクは下方に傾いているとの認識を共有した。その上で9月のG20サミットで首脳から求められた為替政策を含む政策行動とアプローチについてのコミットメントを再確認した。MDB改革については、より良く、より大きく、より効果的なMDBsを実現するための首脳からの要請を再確認し、既存資金の効率的な活用の更なる実施をMDBsに要請するとともに、増資の必要性、タイミングは各MDBの理事会で決定するのが最も適切との考え方を確認した。また、限られた譲許的資金を配分するための明確な枠組みに沿った形で、世界銀行の能力を押し上げるための更なる資金余力と譲許的資金を共同で動員することも合意された。債務問題については、低中所得国の債務問題への対処の重要性が強調された。「共通枠組」の下でのザンビア及びガーナの債務措置に関する進展を歓迎するとともに、スリランカの債務状況の適時の解決に向けた進展を歓迎し、可能な限り早期の合意を要請した。また、債務の透明性向上に係る取組を歓迎した。金融セクターについては、「IMF‐FSB統合報告書」で提案された暗号資産についてのロードマップをG20として採択するとともに、ノンバンク金融仲介(NBFI)の強靭性向上のためのFSB等の作業への支持を表明した。
このように、今回のG20において、ますます複雑化する国際情勢にもかかわらず、多くの論点について建設的な議論を交わし、インド議長下での様々な主要論点について合意を見いだせたことは有意義であったと思われる。


3. 国際通貨金融委員会(IMFC)
(2023年10月13日~14日)
年次総会の終盤である10月13日から14日にかけては、国際通貨金融委員会(IMFC)が開催され、日本からは鈴木財務大臣と植田日銀総裁が出席した。IMFCは、国際通貨及び金融システムに関する問題について、IMF総務会に助言及び勧告を行う役割を持ち、各IMF理事選出母体から1名ずつ選出された24名の大臣級委員から構成されている(日本の委員は鈴木財務大臣)。IMFCは通常春と秋の年2回開催され、本会合は、4月に米国ワシントンDCにて開催されたものに続く今年2度目の会合である。
会合では世界経済の動向やIMFの果たすべき役割等について議論が行われた。日本からは、世界経済への認識や為替に関する日本の立場のほか、世界経済が複合的な危機に直面する中、IMFをその資金規模、機能、ガバナンスの観点から強化するための改革の必要性を主張した。また、IMFは低所得国に対して譲許的貸付を行う基金である貧困削減・成長トラスト(PRGT)を通じて途上国支援を行っており、日本は、その取組を支援すべく、SDRチャネリングを最大限活用し、譲許的融資に必要となる利子補給金について、約4.1億ドルの追加貢献を行うことを表明した。これにより、2021年7月に設定された世界全体の利子補給金調達目標の20%を超えるシェアとなり、同目標の達成に大きく貢献した。
以下、発出された成果文書の概要について紹介したい。IMFCにおける議論の結果はコミュニケとして発出されることとなっているが、2021年10月の会合以来、ロシア非難の文言を巡って加盟国間で合意が得られず、コミュニケは発出されていない。今回の会合においても、各国間で粘り強い調整と交渉が続けられたものの、ロシア非難の文言を巡る意見の相違により、コミュニケ発出の合意には至らず、G20デリー首脳宣言を引用したうえで、ほとんどの加盟国がロシアによる戦争を非難した旨を記載し、議長声明として発出された。IMF改革については、第16次クォータ一般見直しを本年12月15日の期限までに完了するとのコミットメントを再確認するとともに、「有意義なクォータ増資」を行うことに合意した。また、IMFの各種融資制度の見直しや、サブサハラ・アフリカ地域のために25番目のIMF理事を設けること等、IMFの機能・ガバナンスの強化に取組むことにも合意した。


4. 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)
(2023年10月12日)
世界銀行・IMF合同開発委員会*1では、世銀改革について議論が行われた。世銀改革とは、地球規模課題への対応強化を目的に、世界銀行のビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを図る一連の取組のことで、前回4月の開発委員会に続き議題に設定された。
以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、まず、「居住可能な地球(livable planet)」という新たな要素が追加された、世界銀行の新たなビジョンとミッション*2への支持が表明された。業務モデルの見直しでは、8つの地球規模課題*3への合意含め、国別支援モデルの強化が確認された。財務モデルについては、ドナー国が世界銀行の融資全体に保証を提供するポートフォリオ保証プラットフォーム(PGP)や、ハイブリッド資本といった新たな金融手法が開発され、世界銀行の融資能力を強化するものであることが認識された。また、国際金融公社(IFC)及び多数国間投資保証機関(MIGA)による取組を含め、民間資金動員強化に向けた提案などが歓迎された。次回会合に向けては、中所得国が地球規模課題に取り組むための譲許的資金の配分原則の策定をはじめ、世界銀行がより良く、より大きく、より効果的な銀行になるための改革を更に進めていくことが合意された。さらに、低所得国支援を拡大するための野心的な国際開発協会(IDA)第21次増資の必要性も認識された。
日本国ステートメントでは、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、今後もウクライナの財政・復興需要に対応していくため、世界銀行グループと連携しながら支援を行うことを表明した。また、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標を維持しつつ、これらと地球規模課題への対応との相互補完関係を明確化した新しいビジョンとミッションを歓迎した。さらに、PGPが資本と同様にレバレッジ効果を持つ点も踏まえ、PGPへの拠出を通じ、数十億ドル規模の融資余力の拡大に貢献する用意がある旨を表明し、日本として世銀改革を後押しする姿勢を示した。


5. 「RISE(強靱で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」の
立上げイベント(2023年10月11日)
年次総会の機会に、G7議長国として日本が策定を主導してきたRISE(Resilient and Inclusive Supply-Chain Enhancement)を公式に立ち上げるための大臣級イベントを世界銀行と共催した。RISEはサプライチェーン強靱化に向けた新たなイニシアチブであり、今後世界的に需要の大幅な増加が見込まれるクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーンにおいて、低・中所得国がより大きな役割を果たせるよう協力する取組である。
本イベントでは、鈴木財務大臣と世界銀行のバンガ総裁の共催のもと、韓国、カナダ、インド、チリ、イタリアの代表が参加し、RISEの創設を宣言するとともに、RISEに対する期待や今後の展望について意見交換を行った。日本のほか、カナダ、ドイツ、イタリア、韓国、イギリスも拠出を表明しており、当初拠出総額は5,000万ドルを超える。更に多くの国々からの資金貢献を期待するとともに、RISEの実施に向け、被支援国、RISE参加国の政府関係者や開発金融機関・輸出信用機関、産業界等が参加して協調投融資に資する現場レベルの情報共有を行う現地情報プラットフォームの試行等を通じ、引き続き世界銀行や関係機関、同志国と協力して取組を進めていく。


6. G7-アフリカラウンドテーブル
(2023年10月14日)
アフリカ諸国との対話を強化する観点から、大臣級イベントとしてG7-アフリカラウンドテーブルを主催した。本総会開催国のモロッコやアフリカ連合(AU)議長国のコモロ、ナイジェリア、ザンビア等のアフリカ諸国の財務大臣に加え、G7各国、G20議長国、アフリカ開発銀行等も参加し、アフリカ諸国への資金動員について議論を行った。
気候変動、パンデミック、食糧安全保障といった複合的かつグローバルな課題から特に打撃を受けているアフリカ諸国がこうした課題に対応するためには、公的資金・民間資金の両方を一層動員していくことが必要になる。
公的資金に関しては、税収の増加によるアフリカ諸国の国内資金動員の必要性が指摘される一方で、G7各国による支援やRISEなどの取組の重要性も認識された。また、MDB改革や次回のIDA増資の確保等が重要であることも認識された。
民間資金に関しては、投資の予見可能性と透明性を高める観点から、アフリカ諸国が投資家保護やガバナンス改革を進める必要性が認識された。さらに、債務持続可能性と透明性が投資判断の重要な要素であり、債権国が債務措置を迅速に実施する必要があることも認識された。
*1) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第108回目。
*2) 新たなビジョンは、「居住可能な地球で貧困の無い世界を創る」。新たなミッションは、「居住可能な地球で極度の貧困を撲滅し繁栄の共有を促進する」。
*3) 気候変動への適応及び緩和、脆弱性及び紛争、パンデミックの予防及び備え、エネルギーへのアクセス、食料・栄養安全保障、水の安全保障及びアクセス、可能性を広げるデジタル化、生物多様性及び⾃然の保全。