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第152次製造貨幣大試験について


理財局国庫課長 山川 清徳/国庫課通貨企画調整室長 奥村 健治

令和5年11月27日、独立行政法人造幣局(大阪市北区)において、瀬戸財務大臣政務官を執行官として、第152次製造貨幣大試験を実施した。

1.製造貨幣大試験の意義
貨幣は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に基づいて、財務省の発注により造幣局が製造している。人々が貨幣を日常的な買い物などで日々安心して使うためには、貨幣に対する信頼の維持が不可欠であり、そのためには、一つ一つの貨幣の品質が一定していること、また、容易に偽造できないものであることが必要である*1。
このため、造幣局では一般に流通している1円から500円までの通常貨幣のほか、皇室の御慶事や国際的な行事などを記念して発行する記念貨幣の製造工程の中で、これらの貨幣の量目(りょうめ)(重さのこと)・品位・直径・厚さについて厳重なチェック(検査)を行っている。これに加え、発注者である財務省としても、貨幣に対する信頼維持の観点から、毎年1回、実施日の14日前までに製造された通常貨幣及び記念貨幣の量目が「製造貨幣大試験要領」*2に定めた公差の範囲内にあるかどうかを検査しており、これを製造貨幣大試験(以下「大試験」)と呼んでいる。


2.大試験の歴史
大試験の歴史は古く、大蔵省(現在の財務省)のもとで造幣寮(現在の造幣局)が操業を開始した翌年の明治5年(1872年)に初めて開催された。明治維新直後の当時、市中には徳川期に発行された量目や品位がまちまちな貨幣や地方の藩札、さらには外国貨幣などが流通し、国内における安定的な経済活動を阻害していたことから、これらを整理し、統一的な貨幣制度を整えることは明治新政府の喫緊の課題であった。このため、政府は、明治4年(1871年)に「新貨条例」を制定し、新通貨の呼称を「円」とすることや1円=金1.5グラムとすることを定めた*3。そして、この新たな貨幣に対する信頼を確保するため、造幣寮において、日々行われる検査とは別に、貨幣が定められた基準のとおりに製造されていることを公に示す場として大試験が行われることとなった。
「造幣局百年史」によると、第1次の大試験は、明治4年5月28日制定の「毎年製貨試験分析定則」*4に基づき、明治5年5月に大蔵大輔兼造幣頭井上馨が執行官となり、試験委員に造幣首長キンドル(T.W.Kinder)*5らが指名されて行われ、当時の製造貨幣がその品位及び量目についてすべて公差内にあることが証明された。
その後も、松方正義(明治10年など11回)、桂太郎(明治41年~43年)、高橋是清(大正2年、8年)、浜口雄幸(大正13年~14年)らを執行官として回数を重ね、先の大戦中も実施され、今回が152回目となった。
写真: 第1次製造貨幣大試験の結果を伝える当時の新聞記事(明治5年7月6日)
※上段末尾に「右検査して正しきものなり。トーマス・ウヰルリヤム・キンドル(当時の造幣首長)造幣権頭 益田 孝」と記載がある。
写真 第71次製造貨幣大試験 執行官:賀屋 興宣(かや おきのり)大蔵大臣(昭和17年11月)


3.大試験の実施方法
(1)対象貨幣の選定
造幣局では、日々の製造枚数に応じて、種類ごとに一定割合(例:500円バイカラー・クラッド貨幣の場合、20,000枚又はその端数につき1枚の割合)の貨幣を選取し、袋に封入・保管しており、大試験の当日、この袋を開封し、試験を実施する。
第152次大試験において秤量(ひょうりょう)試験を受けた貨幣は、前回の大試験実施以降に製造された通常貨幣(1円から500円までの6種類)及び記念貨幣(資料1 【資料1:第152次製造貨幣大試験の対象(記念貨幣)】の2種類)である。記念貨幣の一部については、瀬戸財務大臣政務官が、大試験の会場で貨幣の入った袋を直接開封し、その中から種類ごとに定められた枚数を選定した。
(2)大試験貨幣の秤量
秤量試験は、貨幣の種類に応じて、大型の両皿天秤により一定枚数の貨幣の重さを量る集合秤量と、電子天秤により1枚ごとの重さを量る個別秤量で行う。
それぞれの秤量によって計測された量目と法定量目との差が、定められた公差の範囲内(例:法定量目が1枚あたり7.1グラムの500円バイカラー・クラッド貨幣の場合、1,000枚を集合秤量し、法定量目7,100グラムとの差が±13グラムの範囲内)にあるかどうかを確認する。
秤量結果が公差の範囲内にあることが確認されれば、前回の大試験の実施以降に製造された貨幣は、すべて適正であったと認めることができる。
写真: 執行官による対象貨幣の選定
写真: 両皿天秤による秤量
写真: 電子天秤による秤量


4.大試験の結果(確認宣言)
第152次大試験においては、1,000円銀貨幣について個別秤量を行うとともに、それ以外の通常貨幣を集合秤量によって計測したところ、法定量目との差が個別秤量で最大0.14グラム、集合秤量で最大5グラムであったため、すべての貨種が基準を満たし「適正」と認められた。
この結果を受けて、執行官である瀬戸財務大臣政務官が執行結果確認宣言を行うとともに、今後とも製造技術の向上に努めるよう造幣局に期待を表明しつつ、第152次大試験は終了した。
写真: 執行結果確認宣言

図表. 【資料1:第152次製造貨幣大試験の対象(記念貨幣)】
図表. 【資料2:製造貨幣大試験年表】

*1) 容易に偽造されないよう、貨幣には、たとえば角度を変えると数字が見えたり隠れたりする加工技術(潜像加工)など、様々な偽造防止技術が採用されている。さらに、造幣局では偽造防止技術の一層の向上のための研究等も行っている。現在の貨幣に採用されている偽造防止技術の具体的内容については造幣局ホームページをご覧いただきたい。(https://www.mint.go.jp/operations/production/technology/technology_index.html)
*2) 財務省と造幣局は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第4条第2項に基づき、毎年度貨幣の製造に関する事務に係る契約を締結しており、その仕様書において、同要領を規定している。
*3) 明治政府は、旧貨幣等と円との交換レートを定める布告も発布した。金札については1両=1円とし、旧貨幣については、慶長小判、享保小判、天保小判といった種類ごとに、金や銀の含有量(品位)を基準として個別に定めた。
*4) イギリスのロイヤル・ミント(造幣局)の「Trial of the Pyx」をモデルとしたもの。
*5) 元香港造幣局長。いわゆるお雇い外国人として、明治3年に造幣首長として雇用され明治8年に退職。