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財政制度等審議会「令和6年度予算の編成等に関する建議」について


主計局調査課長 横山 好古/課長補佐 竹内 雅彦 當間 和幸
調査第一係長 梶 颯人/同調査主任 砂田 恭希/同係員 髙木 雄太郎 原 由姫乃


財政制度等審議会・財政制度分科会は、2023年9月から8回にわたって審議を行い、「令和6年度予算の編成等に関する建議」をとりまとめ、11月20日に鈴木財務大臣に手交した。
本建議では、令和6年度予算編成の指針となるものとして、総論に加え、社会保障、地方財政をはじめとする10の歳出分野における具体的な課題と方向性、国家公務員等の旅費制度の改正の方向性が示されている。
詳しい内容は建議本文をご覧いただくこととし、ここでは、特に財政総論の中でポイントとなる点をご紹介したい。
まず、冒頭において、我が国の足もとの経済状況等に鑑みれば、物価高等の足もとの課題への対応は必要とはいえ、経済が平時化する中にあって、既定の政府の方針に従って歳出構造を平時に戻し、財政を健全化していくことは当然のことであるとしている。その際、単に現状維持志向の政策を講じるのではなく、将来を見据えた財政措置を制度改革や規制緩和とあわせて講じることで、企業や個人の行動変容や産業の新陳代謝等を促すとともに、労働生産性の伸びを確保し、民需主導の自律的・持続的な経済成長を実現できる環境を整えていくことが政府の重要な役割であると述べている。
また、財政や社会保障はもとより国家の運営に当たっては、将来世代の利益にもつながる対応を選択し、持続可能な社会・経済を未来に残していかねばならないと指摘している。
令和6年度(2024年度)予算については、こうした基本認識を踏まえ、また国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化目標の期限は令和7年度に迫っている中で、財政健全化目標の達成に向けた道筋をしっかりと示し、経済・財政運営に対する市場の信認を確保するとの覚悟を持って編成に臨むことが求められるとしている。

1.経済・市場動向
(1)平時に戻った経済
この一年間を振り返ると、新型コロナに伴う制限が順次緩和・撤廃され、本年5月にはその位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類感染症に変更された。こうした中、我が国の経済情勢は平時に戻り、さらに一部ではコロナ禍以前の水準を超えて経済活動が活性化していると述べている。
個人消費や民間設備投資の回復により、内閣府が本年7月に公表した年央試算によれば、令和5年度の名目GDPは587兆円と過去最高を更新する見込みであり、実質GDPもコロナ禍以前の水準を回復する見通しとなっていると指摘している。

(2)経済の潮目の変化
本年春の建議で、グローバルな経済・金融環境は大きく変化しており、これまで続いてきた低インフレ・低金利基調から高インフレ・金利上昇基調へと経済の潮目が変わっていることを指摘したが、足もとでもその傾向に変化はないとしている。物価動向を見ても、欧米では令和4年末ほどではないにせよ、依然としてインフレが継続しており、物価上昇やこれに対応するための金融引締め等の影響も相まって長期金利も上昇している点を指摘している。
我が国の物価も、その主たる要因がエネルギーから生鮮食品を除く食料等に変化しているにせよ、依然として上昇傾向にある点、また、金利は長期債・超長期債を中心に一層上昇傾向にあり、10年債の利回りは、11月1日の終値で0.955%と、11年7か月ぶりの水準となった点を指摘している。このような状況を踏まえると、今後は我が国においても物価高や金利上昇が常態化する局面に入っていくことも想定され、それによる経済・財政への影響についても十分留意が必要であると述べている。
一方、コロナ禍から経済が回復してきたことに伴い、労働市場ではコロナ禍直前と同様に人手不足が顕在化していると指摘している。今後とも労働供給上の制約に直面していく可能性が高いことを踏まえれば、人への投資、DX化、省力化などの一層の推進等を通じて、諸外国と比べて低い伸びに止まっている我が国の一人当たり労働生産性の向上を図っていくことが急務であるとしている。
写真: (十倉会長から鈴木財務大臣への建議手交。左から、吉川洋委員、武田洋子委員、土居丈朗委員、十倉雅和会長、鈴木俊一財務大臣、増田寛也会長代理、河村小百合委員、中空麻奈委員。)


2.経済・財政運営の在り方
(1)国際的な認識と諸外国の状況
IMFは、本年4月に公表した財政に関するレポート「Fiscal Monitor」の中で、先進国の財政政策に関し、「最近の危機は、財政政策が強靱性を促進する強力なツールであることを示した。しかし、そのためには、各国政府は財政余力の再構築に、より重点を置くことが必要になる。」等と提言している。
主要先進国は、こうした認識を共有し、経済の平時化に伴い財政健全化に向けた取組を進めていると指摘している。こうした取組を通じ、各国の基礎的財政収支対GDP比はコロナ禍以降着実に改善しつつあると述べている。

(2)民間主導の経済と財政運営に対する信認の確保
我が国の足もとの経済状況等を踏まえ、「「経済財政運営と改革の基本方針2023」(令和5年6月16日閣議決定)」に基づき歳出構造を平時に戻し、財政を健全化していくことは当然としている。
物価高や供給力強化といった課題への対応は必要であるが、現在の経済情勢の下でそうした課題に対応していくためには、真に必要で効果的な施策に的を絞って講じていくことが必要であり、単に現状維持志向の政策を講じるのではなく、将来を見据えた財政措置を制度改革や規制緩和とあわせて講じることにより、企業や個人の行動変容や産業の新陳代謝などを促し、民需主導の自律的な経済成長を実現していくことが望ましいと述べている。
また、財政支出に当たっては、定量的な政策目標を明確にするとともに、その政策効果(アウトカム)を厳しく問うEBPM(証拠に基づく政策形成)を徹底していくことが重要である点も指摘している。将来に向けてより有用な施策を実行していくために、有用であっても効果が小さい既存の施策を恐れずに取り止めていくべきであり、こうしたスクラップ・アンド・ビルドの考え方を徹底することを通じて、選択と集中によるメリハリの効いた財政運営を行い、成長と分配の好循環を実現していくことが可能となるとしている。
この30年間、我が国の政府支出対GDP比は諸外国と比べて顕著に増加し、さらに令和2年度以降は新型コロナへの対応から補正予算の規模を著しく拡大させた結果、平成26年度から令和5年度にかけての10年間で普通国債債務残高は300兆円近く増加し、令和5年度末には1,068兆円に達する見通しとなっているとしている。
1980年代以降、金利(普通国債の利率の加重平均値)は基本的には低下してきたため、債務残高の増加にも関わらず利払費は総じて減少傾向で推移してきたが、足もとではいわゆる「金利のある世界」が再び現実のものとなりつつあると指摘している。
巨額の政府債務残高を抱える中で金利が上昇すれば、利払費が急増し、市場から追加のリスク・プレミアム、すなわち国債金利の上乗せを求められることとなりかねず、そうなれば、財政運営に支障を来し、他の歳出予算を圧迫するおそれがあるほか、我が国の事業会社や金融機関などの資金調達にも悪影響を及ぼし得ると述べている。
こうした事態を回避し、中長期的な財政の持続可能性に対する国際社会や市場の信認を確保していくためには、利払費が急増することによるリスクも念頭に置きながら、責任ある財政運営を行っていくことが一層重要であるとしている。
令和6年度予算は、経済活動が平時化していく中で、基礎的財政収支を黒字化し、同時に債務残高対GDP比を安定的に引き下げるという財政健全化目標の達成に向けた道筋を国内外にしっかりと示し、経済・財政運営に対する市場の信認を確保するとの覚悟を持って予算編成に臨むことが求められると指摘している。物価・金利動向等我が国の経済の現況に鑑みれば、今がまさに財政健全化に軸足を移すべき時であると述べている。
政府としては今回の建議を、厳粛に受け止めて令和6年度予算編成に臨んだところであり、今後の財政運営にもしっかりと活かしてまいりたい。
(図. 財政制度等審議会「令和6年度予算の編成等に関する建議」(概要))