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だれもが主役になれるまちづくり。ベッドタウンから圧倒的ホームタウンへ

埼玉県杉戸町総合政策課 財政担当 主任 藥袋  秀明


1.はじめに
杉戸町は、埼玉県東部に位置し、旧日光街道の宿場町として、400年を超える歴史を持つ、水と緑の自然に恵まれた懐かしい田園風景のあるまちです。当町はベッドタウンとして発展を遂げてきましたが、2000年をピークに人口は減少傾向にあり、地域の活力の喪失と地域経済の衰退が課題となっています。
また、少子高齢化による税収の減少、社会保障経費の増加など、町行政を取り巻く環境はより厳しさを増すものと考えられ、新たなアプローチが求められています。
そこで当町は、地域のプレーヤー・地域の担い手・行政がタッグを組み、「みんなが主役になれる舞台=圧倒的ホームタウン」をキャッチフレーズに地域の活性化に取り組んでいます。本稿では、当町が進める新たな取り組みに焦点を当て、その実践例の一部を紹介します。


2.活躍する地域のプレーヤー
当町のプレーヤーの代表は、元町有施設をリノベーションした「ひとつ屋根の下」を拠点に、ひととまちをつなぐアクションを展開する女性ユニット「choinaca(ちょいなか)合同会社」です。“ちょっと田舎”で小さく愉(たの)しい自立の形を提案し、起業をめざすひとと地域の発展をつないでいます。自分が本当にやりたいことや得意なことを活かしながら、楽しく月に3万円稼ぐスモールビジネス「3ビズ」を提唱し、自分にも周りにも地域にもうれしい仕事を生み出す講座を実施しています。「3ビズ」は卒業生が約300人を超え、卒業後も切磋琢磨しながら活動するなど、地域に活力と経済循環を生みだしています。さらにその取組は、群馬県、静岡県、長野県など、全国的に広がりつつあります。その他にも「321の市(さんにいちのいち)」などのさまざまなイベントやワークショップを開催し、老若男女が笑顔で集うコミュニティを構築しています。
写真: choinaca(ちょいなか)合同会社 矢口さん


3.新たな担い手の誕生
当町が令和3・4年度に開催した「リノベーションスクール」をきっかけに地域の担い手が誕生しています。「リノベーションスクール」とは、町内に実在する遊休不動産を題材に、エリアの魅力や価値を高めるビジネスプランを作り出す実践型ワークショップです。その目的は、商業的に力のある店舗を誘致して「建物」をリノベーションすることではなく、ひとつの不動産とコミュニティの再生を通じて、「エリア」をリノベーションすることです。同スクールを契機として、次の3件が事業化されています。
(1)3兄弟が想いをサンドする本格グルメバーガー「UEMURA BROTHERS」、(2)顔なじみができる場所「杉戸おさんぽ立ち寄りカフェ chocont(ちょこんと)」、(3)築100年の古民家「旧渡辺金物店」を地域活性の拠点として活用する「八百宿(やおやど)」。
このように、自分のやりたいことと町が抱える課題に一緒に向き合いながら事業経営をする「事業者市民」が誕生しています。
また、その他の取組として、地域のゴミ拾いと清掃後のコーヒータイムを掛け合わせた活動「Cleanup & Coffee Club(CCC)」があります。東池袋を発祥とした同活動の目的は、町を綺麗にすることだけではなく、地域で仲間を作ること、そして、活動を始める人を応援することです。毎月の活動では、大人だけではなく、子どもたちも一緒にゴミを拾い、その後はコーヒーを片手に皆で語らい、遊ぶ、憩いの場となっています。
写真: UEMURA BROTHERS
写真: 杉戸おさんぽ立ち寄りカフェ chocont
写真: 八百宿


4.地域に飛び出す町職員
当町にはプレーヤー、担い手と共に、町を活性化させようと、積極的に地域へ飛び出す職員がいます。町の空き物件や公共空地を把握し、地域のプレーヤーや担い手と行政のハブとなる者、自らリノベーションスクールに参加し、地域での活動を実践する者、自身のスキルを活かし、イベントでノンアルコールカクテルバーを出店する者など、積極的に地域に飛び出す町職員が、地域との信頼関係を築いています。
今年の6月には、町職員と関東財務局職員有志による私的「杉戸町ツアー」を開催しました。地域のプレーヤーとの交流や町の取組に触れていただき、後日の「杉戸町流灯祭(※)ツアー」の開催につながるなど、大変好評をいただいたところです。これは町の魅力を知り尽くした職員が、熱意を持って伝えることで、当町の魅力が外部の方にも伝わった証だと思います。町職員と国家公務員が杉戸町をプライベートで巡る体験は、地域の活性化を目指す者同士の、立場を超えた貴重な交流となりました。
写真: 杉戸町ツアーの様子
写真: 杉戸町流灯祭ツアーの様子


5.おわりに
本稿で紹介した取組は、最初は小さな“点”から始まりましたが、現在、可能性を感じる仲間や賛同者を増やしつつあります。今後、点をさらにつなげて“線”、より大きな“面”となるように取り組んでいきます。
まちづくりの全てを行政がまかなうには人的・財政的に厳しく、町民や民間と連携することが必要です。目指すのはまちづくりに関心を持ち、「自分ごと」として活動する人が増えること、すなわち「だれもが主役になれるまちづくり」です。本稿の取組をとおして、「このような町に住み続けたい」「まちづくりに参加することが楽しい」という町民を増やしていきたいと考えています。
最後に、本稿で紹介しきれなかった、魅力的な「プレーヤー」「担い手」「職員」が当町には存在します。ぜひお立ち寄りいただき、当町の魅力を感じていただければ幸いです。
※流灯祭・・・『地上に降りた天の川』と呼ばれる、畳一畳ほどの大型灯ろうを約250基、古利根川に浮かべる(係留)杉戸町の夏を代表するお祭りの一つ。


みんなが主役になれるまちづくりの取組に期待

地方創生コンシェルジュ
関東財務局総務部総務課 地域連携推進官 髙梨  誠


杉戸町は、都心から40km圏内という利便性からベッドタウンとして発展してきた一方、江戸時代の宿場町の面影を残し、歴史と自然に恵まれた町です。
人口減少による地域経済の衰退が全国的な課題となっているなか、杉戸町では町民、企業、行政が連携して、地域にもうれしい事業や地域のにぎわいの創出に取り組んでいます。
地域の関係者が連携したまちづくりに遊休不動産などの資源を活用する杉戸町の地域活性化を目指した取組は、同じ課題を抱える団体にとっても参考となるのではないでしょうか。


官民連携による「まちなか古民家」活用について

美濃市総合政策課 課長補佐 篠田  啓介


1.美濃市の概要
美濃市は、日本の中央に位置し、天下の名川である長良川や緑濃い山々など豊かな自然と1300年の伝統を誇る「美濃和紙」、中心市街地には、江戸時代に築かれた伝統的な建造物が多く残り、歴史的景観が保たれるなど伝統文化が息づくまちです。
市内には、美濃和紙の里会館や、江戸時代から明治・大正時代の歴史的建造物が建ち並ぶ「うだつの上がる町並み(国重要伝統的建造物群保存地区)」などがあり、年間を通じて多くの観光客が訪れています。また、毎年開催される美濃和紙あかりアート展は、「美濃和紙」と「うだつの上がる町並み」のコラボレーションとして、数多くの独創的なあかりの作品が展示され、幻想的な世界が醸し出されます。


2.寄贈された古民家
市内には3つの世界遺産(ユネスコ無形文化遺産「和紙 日本の手漉和紙技術」、世界農業遺産「清流長良川の鮎」、世界かんがい施設遺産「曽代用水」)を含め様々な地域資源を有し、多くの観光客が美濃市へ訪れています。
市としても新たな体験・滞在型ツーリズムの創出は課題であったところ、今回の古民家を再生した宿泊施設の企図に至りました。
そもそも、この古民家は市に寄贈されたものです。いままでにも寄贈を受けた古民家や施設がいくつかありました。しかし、活用方法がなかなか決まらず、何年も手つかずの施設も存在していました。
今回の物件は、代々和紙問屋を営む地元の名士が所有する邸宅と蔵です。邸宅は長年、使用していなかったこともあり傷みはありましたが、来客をもてなす別邸であったこともあり、すべての部屋から中庭が見える造りや、趣向を凝らした建具が備えられた大変立派なものでした。
蔵がまるごと金庫となっていたり、茶室が備わっていたりと豪勢なつくりとなっています。数年前まで倉庫として実際に使用されていた蔵は、すべて2階建てで当時の隆盛をうかがい知るものとなっています。
写真: 改修前の古民家

3.どのように活用すべきか
寄贈を受ける建物は、「町並みの賑わいを創出する施設」、つまり、観光産業の拡大につながり、地域の賑わい創生に繋がる施設にするということ、また、「うだつの上がる町並み」の歴史や文化の継承に資する用途にすべきであるという基本的な方針は決まりました。
とはいえ、具体的にどのような施設にすべきか、大きな課題に直面しました。
そこで、具体的な活用策の検討にあたっては一般財団法人地域総合整備財団が実施している「公民連携アドバイザー派遣事業」や内閣府の「PPP/PFI専門家派遣事業」を活用して、外部有識者の意見を聞くこととしました。
実際に寄贈の打診があった建築物を外部有識者に見てもらった上で得たアドバイスを参考に、公募型のプロポーザルで事業者を選定し、民間事業者との連携によって寄附を受けた古民家を30年の定期借家契約による普通財産の貸付によって活用することとしました。これは美濃市初めての取り組みです。
優先決定した事業者のプランは、ホテルとフロントを別で設置、また、美濃和紙を販売する店舗も併設するといった「分散型ホテル」として運営するという点が特徴的で、かつ、当該古民家の間取りにマッチしていたことが評価の対象となっています。
写真: 完成した古民家ホテルNIPPONIAの外観
写真: 金庫扉のある居間
写真: 古い梁がそのまま残る客室


4.民間主導による活用
改修経費は、プロポーザルで選ばれた事業者が自身で調達しています。
改修費用は約1億4,500万円で、うち5,000万円が農林水産省の補助金です。
今回の事業は、「市が改修費用を出さないかわり、運営方法等に口を出さない」という美濃市では類を見ない手法を活用しました。
この事業が軌道に乗ったのは、建物そのものが立派で魅力あるものであったことに加え、民間事業者のノウハウと熱意が建物にマッチしたことがその理由と考えられます。
今後、この施設「分散型ホテル」が、移住者の増加や新規店舗の開業等による賑わい創出につながることを願っています。


民間主導での古民家再生による地域活性化

地方創生コンシェルジュ
東海財務局岐阜財務事務所長 石川  哲才


歴史的に価値のある建物であっても空き家の老朽化は免れないところ、美濃市では、民間主導による再生で地域活性化につなげています。全国的な課題である空き家活用の優良事例としてぜひ参考にしていただきたい取組です。



身近な島のまちづくり 江田島市

中国財務局理財部融資課 上席調査官 山本  光一


1.はじめに
江田島市は、広島県南西に浮かぶ江田島・能美島とその周辺に点在する島々で構成されている面積100.72km2のまちで、約21,000人の人々が暮らしています。
広島県の都市圏である広島市や呉市と近接しており、海上距離で広島市から南に約7.5km、呉市から西に約6.0kmの位置にあります。
江田島市へのアクセスは、呉市から音戸大橋、早瀬大橋を通るルートと、広島市及び呉市から海上交通を利用するルートがあり、広島港からフェリーに乗って約30分と、広島市からのアクセスが良好な島です。
写真: 江田島市の位置(地図提供:Map-It)


2.「『恵み多き島』えたじま」
江田島市は、瀬戸内海の温暖な気候と豊かな自然環境に恵まれ、柑橘やオリーブといった農作物の栽培が盛んであり、また、四方を海に囲まれていることから水産業も活発で、その中でもカキの生産量は全国のトップクラスを誇っています。
このほか、自然環境を生かしたキャンプ場やマリンスポーツなどの体験施設や、サイクリングコースが整備されており、全国的なアウトドアスポーツのイベント「SEA TO SUMMIT」の開催地にもなっているなど、アウトドアの島としても注目されています。
江田島市では、こうした豊富な地域資源や自然環境を強みに「『恵み多き島』えたじま」をスローガンとして、地域に暮らす人々の満足度を高めていく「市民満足度の高いまちづくり」と、交流人口の増加を図る「未来を切り開くまちづくり」の2つを基本戦略としたまちづくりが進められています。
写真: サイクリングロード「かきしま海道」(筆者撮影)


3.まちづくりに欠かせない海上交通
海に囲まれた江田島市にとって、まちづくりを進めるうえで、海上交通の整備は欠かせません。
特に、近接している広島市や呉市とは、通勤・通学、通院や買い物などの日常生活において、移動が活発となっています。
島内各所には、海上交通の拠点となる港や桟橋があり、広島市との間に4航路,呉市との間に3航路が設けられています。運航主体は、民間事業者と江田島市となっており、一部の航路は市所有の船舶を市の指定管理者が運航しています。
今年5月に、市が所有する旅客船が約30年ぶりに更新されました。
更新にあたっては安全性を第一にしつつ、顧客利便性向上の観点から、高齢者等に配慮して客室がバリアフリー化されているほか、客席をやや外向けに配置することで、穏やかな瀬戸内海の景色が楽しめるよう観光面にも配慮されています。
この新しい旅客船は、親しみを持ってもらい利用促進を図る主旨から、一般公募で船名を募集し、「瀬戸ブルー」と名付けられました。
昨今、地方の公共交通は、人口減少や自家用車の利用増加などから利用者が減少傾向にあり、交通事業者の経営環境は厳しさを増しています。こうしたなかで、新造船は、最大定員数を抑えた代わりに、利便性向上やサービス拡充の工夫がなされており、これまで以上に、多くの方々に親しまれるのではないかと期待しています。
写真: 航路(地図提供:Map-It)
写真: 市が約30年ぶりに建造した汽船「瀬戸ブルー」(写真提供:江田島市)


4.定住人口・交流人口の増加に向けて
全国的に少子高齢化、人口減少が進むなか、江田島市においても人口減少に歯止めをかけるため、子育てしやすい環境づくりなどの定住促進や、企業誘致や空き家を活用した住宅確保支援などによる移住促進に取り組まれています。
こうしたなか、令和5年6月に、市が誘致した水産加工事業者の牡蠣加工品工場が開業しました。
新工場では、地元出身者を中心に35人が雇用され、令和6年1月までにさらに30人の採用が予定されており、地域の雇用拡大にも大きく寄与しています。さらに、新工場では見学者の受け入れを行うほか、牡蠣をその場で楽しめるオイスターカフェ、BBQ広場が併設され、牡蠣の産地としての観光振興も期待されています。
また、島内の空き家を活用したサテライトオフィス等の誘致にも積極的に取り組まれています。豊かな自然の中で仕事のできる環境を強みとしてアピールするとともに、サテライトオフィス開設等に係る経費の一部を助成するなどのサポートを行い、企業や人の呼び込みを行っています。
江田島市の令和4年度の移住者数は、34世帯73人で、過去最多だった令和3年度(22世帯47人)をさらに更新しているそうです。江田島市のまちづくりの取り組みに対する成果の一端と言えるのではないでしょうか。


5.おわりに
今回ご紹介した新造船「瀬戸ブルー」の建造費やサテライトオフィス等誘致促進事業補助制度の資金に財政融資資金が活用されています。
このほかにも、海上交通と陸上交通の一体的な公共交通を構築するための公共交通協議会の運営費や、通学者の定期券補助制度の財源などにも財政融資資金が活用されています。
財務局では、こうした地域の実情や地方公共団体のニーズを把握しつつ、財政融資資金の活用により、地域活性化の取り組みが一層進展するよう、引き続き力添えしていきたいと思っています。