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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える

カンニング竹山さん(お笑い芸人)編


はじめに
阪井広報室長 本企画では、財政や税の役割等について、読者の皆さまにわかりやすく伝えられるよう、様々な方をお招きして、財政等にも触れながら、日本の未来やイマについてトークをしてもらいます。
第九回では、お笑い芸人であり、コメンテータとしても活躍されているカンニング竹山さんをお招きして、財務省の主計局・竹内補佐、主税局・長谷川室長と対談をしてもらいます。
竹山さんには、ぜひ日ごろから気になっている疑問点などをいただければ幸いです。

カンニング竹山さん 今日は、税や財政、財務省の皆さんが考えていることなど、聞いてみたいと思って対談の場に参りました。よろしくお願いします。

写真:1 右から二人目がカンニング竹山さん


財務省について聞きたいこと
カンニング竹山さん 冒頭いきなりですが、率直にお伺いします。中で働いている皆さんは、世間やメディアで財務省が言われていることについて、どう思っていますか。

竹内補佐 主計局の竹内です。よろしくお願いします。
財務省が皆さまから様々なご意見を頂くことは経済が悪くなった際や、税関連など関心の高いトピックに対し、常にあるという認識です。そうしたご意見の中には、私たちの情報発信が至らないために起きている部分もあると考えていて、こうした機会も含めて、わかりやすい説明など発信の工夫に取り組みたいと考えています。
ちなみに、竹山さんが財務省についてどのように思われているのかも気になります。

カンニング竹山さん 僕は霞が関の皆さんは大変な仕事をしていると思っています。夜遅くにこの辺りを通っても、結構電気がついていたり。また、実務を担っているという意味で、官僚の方がいないと国が回らないのに、どうしてメディアはそこまで敵視するんだろうと思うこともあります。
こうした中で、官僚を目指す人も減っていると聞きますが、どうして財務省に入ろうと思ったのでしょうか。起業したり、稼げる会社に入ろうとか思ったりしませんでしたか?

長谷川室長 主税局の長谷川です。
私は今30代後半なのですが、子供の頃から日本はずっと不景気で、何とかしたいと考えて国家公務員を志望しました。財務省を選んだ理由は、経済の血液であるお金というものに対して、様々なツールを用いて関わることが出来ると考えたためです。
就職活動の際には、外資系金融機関などからも内定はもらいましたが、やはり国の制度設計に関わりたいと考え財務省を選びました。実際、非常にやりがいのある仕事で、入省して15年経った今でも、その選択は間違ってなかったと思っています。


日本の財政について
カンニング竹山さん やはり今国民の皆さんは「税」について気になっていると思います。経済対策の中には減税も盛り込まれましたが、メディア等では様々な増税がなされていると指摘されていて、基本的には負担は増えていく流れだと理解しています。
僕自身は、みんなが老後まで幸せに暮らしていくために税は必要だと思っていますが、現状はどうなっているのでしょうか?

竹内補佐 この議論には様々な主張があると思うのですが、まずは財政の構造の部分をお話しします。
令和5年度当初予算では、歳出は約114兆円ですが、裏付けとなる歳入については税金等では足りず、約3割は国債発行、すなわち借金で賄っています。これが毎年積み重なって、現在1000兆円を超える借金となっていて、いつか返さなければなりません。
誤解を恐れずに言えば、「まだ返せるな」と市場から思われている間は大丈夫ですが、もしどこかのタイミングで財政の信用を失うと、金利が上がってしまうなどの恐れがあります。

カンニング竹山さん 国の「信用」ですよね。

竹内補佐 そうです。信用を失う形で金利が上がると、国の歳出のうち利払いに充てる費用が急増することで財政運営に支障をきたす恐れや、民間企業においても資金調達がしにくくなってしまう恐れなど、国民生活に悪影響が出ることが考えられます。
こうした状況になる前に、何とか持続可能な財政の仕組みを作っておかなければならない。これが私の考えです。一方で、この仕組み作りには、受益と負担のあり方の修正が必要で、その結果なんらかの負担増を伴う方もでてくるところ、「もしかしたら負担増を伴わないもっと楽な裏技があるのではないか」と思われてしまうと、なかなか仕組み作りの必要性がうまく伝わらず、具体化に向けた議論が進まなくなってしまうのが難しいです。

カンニング竹山さん 国といえども借りたままにはできず、いずれ返さなきゃいけないというのは間違いないのですよね。そして、未来の子どもたちの世代が返すことになるというのも間違いない。でも、世の中にはいろいろな意見を持つ人がいて、それは「財務省だからいずれ返さなきゃいけないって言うんだろう」と思われてしまっていますよね。財務省の皆さんが得するわけでもなく、皆さんも同じく税金を払っているのに。(笑)
(一同、なんとも言えない感じで笑う)

長谷川室長 財政については、何とか分かりやすく伝えようと簡単に説明し過ぎると誤解が生まれてしまうし、詳しく説明しようとすると小難しい話になってしまい聞いてもらえないというのが、悩ましいところです。
おっしゃる通り私たち財務省職員であっても一国民として税を負担しています。負担と言いましたが、税は「社会共通の費用を賄う会費」のようなもので、負担の反対側では、受益、すなわち教育や医療、警察といった公共サービスや公共インフラが提供されているということを改めて伝えたいです。
水道水が飲料水として安全に飲めたり、医療をすぐ受診できて自己負担は小さく済むなど、日本の公共サービスはものすごく充実しているとアメリカで生活していた時に実感しました。こうした公共サービスを将来にわたって維持していくために、税を負担していただいています。
また、税にはこうした財源確保機能の他、所得再分配機能や経済安定化機能といった大切な役割もあります。

カンニング竹山さん 国民からするとやはり税は「とられる」という印象が強くて、それを簡単に理解してもらうのは難しい側面もあると思います。ただ、ごみを持って行ってもらうのにもお金がかかっているなど、身近にわかるポイントはありますよね。

竹内補佐 とある情勢不安のある国に行って、その国の方々に状況を伺う機会があったのですが本来公共サービスとして提供されるものも十分提供されず、富の再分配機能も不十分で、お金持ちだけが十分なサービスを自己調達できる、という状況でした。
日本では広く国民が利用できる公共サービスが当たり前に存在していることは幸せなことだと思います。一方で、当たり前であるが故に、少しでもサービスが低下することに抵抗感を感じる人もいると思います。少子高齢化が進む中で、サービス水準と負担のあり方について、色々な工夫をして仕組みを作って意思決定しなければいけない、という難しい状況について、どうすれば上手く理解してもらえるだろうか、と悩んでいます。

カンニング竹山さん 社会を維持していくために税金は必要だと思いますが、負担のあり方には議論があるのではないでしょうか。例えば、税によっては、貧困層の方が負担感の大きいものもあると思います。
歴史的に決まってきているものだと思いますが、例えば個人ごとに負担を変えるなど、税の形を見直していくような議論はあるのでしょうか。

長谷川室長 税制は毎年改正を行っていて、社会の変化に適応できるよう議論を行っています。変化が速いので追いつけていない部分もありますが、政治家も含め様々な方々とも議論しながら、少しずつ税の形は見直されています。

竹内補佐 社会に合わせて変える、というのは支出、すなわち公共サービスの部分も同じようにあります。
例えば高齢者は基本的に医療・介護サービスの自己負担が現役世代より小さくなっていますが、高齢者の中には多くの資産を持っているなど、今以上の負担が可能な方がいます。そうした方に能力に応じた負担をいただくことで、子育て世代の負担を軽減したり、将来世代のために制度の持続可能性を高めるための改革に取り組んでいます。
お話しいただいた受益と負担のバランスのとり方は、常に考えています。

カンニング竹山さん 誰がどう負担するか、税金も含めて、個別に決めることは難しく、やむを得ず一定程度、一律で対応してきたのがこれまでだと思います。一方で、社会が多様化する中で、一律に対応することも限界にきているのではと感じることもあります。
ちなみに、メディアは社会の変化に敏感でどんどん論点を出してきますが、実際に仕組みに落とすには何年もかかることが多いです。「もっと早く対応してよ!」と思うこともありますが、スピード感に大きな差が出てしまうのはなぜなのでしょうか。

長谷川室長 税制は法律ですので、最終的には、政治家、すなわち国民の皆さまに決めていただくことになります。国会での審議という民主主義的なプロセスを経る以上、どうしてもスピーディーに対応できないという難しさはあります。よく、財務省が裏で操っているといったことも言われますが、少しでも現実社会に即した政策にすべく、我々としても多くの方々の意見を聞き、日々悩んで、様々な議論を経た上で作り上げているものであり、初めから答えが一つに決まっているわけではありません。

カンニング竹山さん 多くの方との議論で方向性を出し、政治で決まるからこそ、何かを変えていくために国民は選挙を通じて政治家を選ぶプロセスに参画していくしかないということですね。選挙に行く人が少ないという状況は日本が平和で、飯が食える状況の裏返しなのかなとも思いますが。

写真:2 カンニング竹山さん
写真:3 主計局調査課 課長補佐 竹内 雅彦


負担のあり方について
カンニング竹山さん ちょっと答えづらい質問になるかもしれませんが、日本は税を上げなければまずい状況にあるのでしょうか?

竹内補佐 現在も国の借金は積み上がっていて、少子高齢化で、社会の支え手である生産年齢人口が減る中、今の構造を維持したら、借金はより積み上がっていってしまう形になっています。

カンニング竹山さん それはアナログに考えても、どこかで「もうお金はありません」となりますよね。そうならないための対策はあるのでしょうか

竹内補佐 先ほども少し触れた、負担できる方に負担していただく、支援すべき方には支援する、といったシステムに変えていくことが一つだと思います。
ただ、こういった対応は誰かの負担を伴うことなので合意を得るのが難しく、現在に至っているという状況だと、私自身は考えています。

カンニング竹山さん そのような中、税負担のあり方について、消費税は広く個人への影響が大きいと思いますが、北欧などは日本よりも消費税率が高い代わりに、他の税負担が低かったりします。このように税の構造を大きく変えることは日本でも可能なのでしょうか?

長谷川室長 税制の在り方については、国民の皆さまで議論をして決めていくのだと思います。例えば、消費税は社会保障の重要な財源になっていますし、法人税率は日本企業の国際的な競争力にも影響するように、税は私たちの社会に大きく関わってくるので、一方を下げる分、もう一方を上げるというような一筋縄の議論ではいかない難しさがあります。
ただ、どういった形にせよ、少子高齢化の中で増える社会保障関係費をどう賄っていくかは課題です。

カンニング竹山さん たしかに少子高齢化は大きな課題で難しいですね。諸外国も同じ状況なのでしょうか。

竹内補佐 多かれ少なかれ、諸外国でも様々な問題が起きています。最近では例えばフランスでは年金に関係する政策が社会的な問題となっていました。
日本についてみると、この30年くらいの当初予算の推移について、社会保障関係費は、それ以外の経費に比べて、大きく伸びています。また、歳出の伸び程には歳入が伸びていません。これらが財政悪化の原因になっています。

カンニング竹山さん なるほど。こう見ると少子高齢化、社会保障が大きなポイントだとわかりますね。
怒られてしまうかもしれませんが例を挙げて言うと、年金は、今の高齢者は僕たちより年金を払っていないのに多くもらっていますよね。
こうした構造を変えていかなければならない時代の流れのように感じます。タモリさんが今の時代を「戦後ではなく、新しい戦前です」と表現したように、今は時代の変革期ではないかと思う時があります。
変えることによって生じる格差や弊害も考えると悩ましいですが、社会保障も税も、働き方やエンタメも含めて、時代の変革に合わせて、いろいろ変わって進化していかなきゃいけない時期にあるのではないでしょうか。

長谷川室長 大きな変革が必要な時期ではあると思いますが、政策は継続性や予見可能性も大事なので、何かをいきなりゼロにすることや急ハンドルを切ることは難しいといった問題も現実にはあります。

写真:4 主税局調査課 税制調査室長 長谷川 実


情報発信について
カンニング竹山さん 最後に伺いたいですが、少子高齢化などを考えたときに、増税をしないと日本は厳しいのでしょうか。これは個人的な見解でも結構です。

竹内補佐 少子高齢化など社会構造の変化を踏まえると、仮に一定以上の公共サービス水準を求める場合には、そのタイミングがいつか、方法がどうかといった議論はあると思いますが、どこかでそれに見合う負担増も必要になると思います。サービス水準を見直すのか、負担を増やすのか、の議論が必要になると思います。

長谷川室長 もちろん、負担をできる限り抑えられるよう様々な工夫をしていくことは大前提ですが、受益と負担の関係について、「こういう公共サービスのために税金を払っているんだ」という「納得感」を皆さまに持っていただくことも非常に大事だと思います。最近ではEBPMという考えの下、税制の効果検証という取組も進めており、税制に対する皆さまの「納得感」に繋がればと思っています。

カンニング竹山さん ありがとうございます。やはり一定の公的サービス水準を求める場合、どこかで負担をしなきゃいけない未来があるということですね。
その中で、今日見えたのは、できるのかどうかは別として、例えば税の仕組みをもっと細かくして対応するなど工夫の仕方を変えていくなどの対応ができるのかなと思いました。

竹内補佐 私たちも、国民の皆さまへの情報の伝え方も、もっと工夫しなければいけないなと思っています。

カンニング竹山さん 情報発信で、役所は細かい部分を説明していないため、「何をやっているんだ!?」と誤解を生むことがあると思います。
例えば、インボイスは「大変な人たちが多いのに何をやっているんだ!」となっていて、これがメディアの論調の多くだと思います。どうしてこうなっているのでしょうか。

長谷川室長 インボイス制度は複数税率の下で適正な課税を確保するために必要な制度ですが、これについては平成28年には決まっており、財務省・国税庁としても様々な機会で説明をしてきましたが、開始直前で大きく取り上げられました。

カンニング竹山さん 他の政策もそうですが、前から説明していてもその時点では関心がなく、いざその時になったら炎上といった現象は起きがちですよね。
東京電力福島第一原発の処理水放出について、最近大きく取り上げられました。あれも「何年も前から説明をしていたものなのに!」と個人的には強く思います。これを繰り返していては、国民・メディア・省庁もだめだと思いますが、どうやって関心を得ていけば良いのでしょうか?

竹内補佐 「普段関心のない人」にどう説明をしていくかは非常に難しく、日々頭を悩ませています…。

長谷川室長 因みに、竹山さんの周りでこうした財政の問題に関心のある芸能人の方はいらっしゃいますか?

カンニング竹山さん 関心のある人は少ないと思います。これは芸能人がどうこうという話ではなく、国民一般としてそうなのだと思います。

竹内補佐 竹山さんは、コメンテータをされる中で、いろいろな意見を聞くと思いますが、どういった価値観で、意思決定をして話されているんですか?

カンニング竹山さん 自分が正しいと思えるかどうかだと思っていて、もちろん反対の意見の人にも話を聞いたりします。
社会にはいろいろな意見があって、みんなに意見を聞いていたら前に進めない部分もあると思います。それは国だったり政治だったりが決めなきゃいけないのではないでしょうか。


おわりに
阪井広報室長 話が尽きませんが、本日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。竹山さんの厳しい追及もありましたが、興味深いお話を聞けました。また次回、違った切り口でお話を聞ければと思います。

写真:5 左がカンニング竹山さん

図1. 令和5年度一般会計当初予算
図2. 財政構造の変化