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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える


大空 幸星さん(NPO法人あなたのいばしょ理事長)編

令和5年6月9日(金)開催(対談者の肩書は同日現在)


はじめに
原田広報室長 皆さんどうぞよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、読者のみなさまにわかりやすく伝えられるよう、様々な分野の方をお招きして、財政等にも触れながら、未来やイマについてトークをしてもらいます。
第七回として、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんをお招きして、財務省の主税局・成田係長、主計局・吉岡主任、総合政策課・寺井係員と対談をしてもらいます。
大空さんからはお仕事を通して政府に聞きたいこと、言いたいことなどがあればぜひおっしゃっていただければと思います。
大空幸星さん どうぞよろしくお願いします。
「あなたのいばしょ」というNPO法人の理事長をしておりまして、政府の審議会の委員等やテレビでコメンテーター等もしています。今日は、自身が孤独・孤立政策に関わる中で感じた悩ましさみたいな部分も共有しながらお話しできればと思います。
写真1:中央が大空幸星さん(NPO法人あなたのいばしょ理事長)

政策の効果検証について
大空幸星さん まず、自身の仕事について説明させてもらうと、一人で苦しんでいる人などが24時間いつでもチャット相談できる窓口を開いています。「いのちの電話」のチャット版と認識してもらえばいいと思いますが、チャット相談を選んだ理由は、若い人が電話をあまり使わないからです。
相談者の7割が29歳以下となっていますが、あらゆる年代から相談が寄せられていて、平均年齢は徐々に上がってきています。僕らは世界約30か国に約700名の相談員を配置し、時差を利用して24時間体制で相談を受け付けていて、これを通じて主に自殺対策や孤独・孤立対策の活動を行っています。
成田係長 主税局の成田です。国内の税制の調査等を担当しています。「あなたのいばしょ」の資料を見ると、相談情報を詳細に分析されているなと思いましたが、どのようなお考えがあるのでしょうか。
大空幸星さん 相談者の傾向等について把握し、分析することは非常に大事だと思っています。
例えば、相談者の約7割が女性ですが、自殺者の7割弱は男性です。いろいろな分析の仕方があると思いますが、性別ではなく、これまで男性が多く就いてきた管理職という立場が、人に頼ることにためらいを感じる傾向を生み出し、それが男性による相談のしにくさに繋がり手遅れになるケースが多いのではないかと考えています。
「あなたのいばしょ」では、AIを利用してチャットに寄せられた内容を基にリスク判定も行っており、自殺や虐待などのリスクが高いと判断された方に対しては、重点的に対応しています。
SNS等が発達した現代は昔よりもコミュニケーション量は確実に増えており、理論的には、コミュニケーション量が増えれば人の社会的な繋がりは強くなるはずです。しかし、そうなっていないのは、コミュニケーションの質や形態に問題があるのではないかと思っています。
吉岡主任 主計局文部科学係の吉岡です。私は私立学校予算の査定を担当しています。
自殺白書を見ると様々な自殺対策の施策が盛り込まれていますが、個々の施策が具体的にどのような効果を持つのかはあまり分析されていないように思います。自殺者数については、金融危機が起きた1998年頃に3万人超まで一気に増えた後、2000年代は横ばいで推移していましたが、2010年代は減少傾向に入って足もとでは2万人まで減ってきています。自殺者数は社会経済情勢などに大きく左右される点は考慮しなければなりませんが、この時期にとられた政策が自殺者数の減少にどのような効果をもったのか検証することも重要だと思います。
大空幸星さん 2006年に自殺対策基本法ができたので、それ以降減っているということだと思いますが、個々の政策の効果検証はあまり行われていないというのはおっしゃる通りだと思います。
この法律は、NPOが声掛けをして、議員立法として作られたもので、ストーリーで動かされてきた面があります。当時は自殺者が年間3万人を超えたという緊急事態の中で、「効果検証は後回しでとにかく目の前の人々を救う」というスタンスでやってきたもので、それ自体は間違ってはなかったと思います。ただ、政策の構造としては、効果検証のできるやり方を組み入れるべきだったし、今からでもエビデンスを元に検証していく必要があるとは思います。
成田係長 政府が出す統計を見ると、自殺の原因・動機などの集計や分類がなされていますが、こうしたデータについて何か問題に感じていることはありますか。
大空幸星さん 強いて言えば発表する省庁によってデータに乖離がある場合があります。
ただ、世界と比べたら日本は、データが非常に充実しているとは思います。日本中のどこであっても自殺が起きた場合は原票が作成され、それらが取りまとめられ翌月には統計データ化される、こんな国は他にありません。このデータを使って分析できる状況にあるのに、それを活かせていないのは非常にもったいないと思います。
吉岡主任 国の予算では、当初想定されていなかった事態が発生した場合、補正予算が編成されます。通常は数兆円規模ですが、コロナ禍では数十兆円規模の補正予算が編成されました。時間をかけてじっくりと議論する当初予算と異なり、極めて限られた時間でそれだけ大きな予算を組まなければならないため、ここでも効果検証の議論は後回しになっていたと思います。
もちろん、危機対応ですからやむを得ない面はありますが、もどかしい気持ちもありました。
大空幸星さん 孤独・孤立対策に関わっていて、先日、孤独・孤立対策推進法が成立しました。ここに関わるにあたって、自殺対策の教訓も踏まえて、ちゃんと政策の目的をはっきりさせようと、すなわち政策のアウトカムをしっかりと定めて効果検証をやる形にしましょうと思いました。そのためにはまず、「孤独」とはこういう状況で、「孤立」とはこういう状況であるといった定義づけが不可欠だと主張してきました。しかし、行政にあっては定義づけを行うと、定義から外れる人が出てきてしまい、なかなか難しいという側面にぶち当たりました。
孤独や孤立とは誰しもが感じることがある普遍的なものであり、だからこそ客観的な指標を用いて定義づけを行うことが必要と思ったのですが、それができていない点は課題だと考えています。
必ずしも全ての政策に対して効果検証すべきという訳でもないと思いますが、例えば一定額以上の予算が使われているものは実施するなどの基準は必要ではないかと思います。
吉岡主任 全ての政策で一律に同じような効果検証をできるわけではないと思います。分野によって違った難しさがあると思いますし、例えば教育投資の効果を測ることは簡単なことではないはずです。
EBPM(証拠に基づく政策立案)と言うのは簡単ですが、実際はとても労力がかかるものなので、事業を作る段階で、どのようにデータを集め、どのように効果検証を行うかを予め検討して組み込んでおくことも大事だと思います。
成田係長 コロナ対応においては、エビデンスがない中で政策を実行していかなければならないということも往々にしてありました。
大空幸星さん たしかに、緊急の場合は走りながら考えなければならないので、エビデンスの取得等のために機動力がなくなってしまっては元も子もないですね。
例えば民間の財団の中には、エビデンスの収集のために事業規模に比して膨大なリソースを投入している例も見たことがあります。効率の良いエビデンスの収集方法とセットでなければEBPMも回っていかないと思います。
寺井係員 総合政策課の寺井です。経済調査を担当しています。
効果検証ができているということを説明する資料作成に時間と労力をかけている例を見たことがありますが、そのような資料作成をすることが目的となっては、EBPMの理念から遠ざかっていくことになると思います。
大空幸星さん そういった資料作成の業務についても、過去の検証をすることによって新しいことを考えたり生み出せたりできるような仕組みにしていけるとよいですよね。
写真2:大空幸星さん(NPO法人あなたのいばしょ理事長)
写真3:主税局調査課内国調査第二係長 成田 旭宏

政策決定の在り方について
成田係長 大空さんは審議会の委員も務められていますが、一般的な政策決定の在り方について、どういう風に見えているのかお伺いしたいです。
大空幸星さん 役所は業務のプロセスが、かなり個人に依存しているところがリスキーだなと思います。行政の仕組みは外から見るとシステマティックに見えて、実は個人の裁量が大きいですよね。
また、法案作成のプロセスである審議会には20人もの委員がいることがあります。時間に限りがあるのはわかりますが、会議の中で一人あたり数分程度しか発言できません。飲み会の方が実質的な話をできたりすることも…(笑)。
時間の使い方という意味では、審議会の調査で関連団体へヒアリングをする際、その多くが委員が代表を務める団体だったことも。より多様な意見を集めるために、委員の団体ではなく、地方の団体等へのヒアリングをすべきと思いました。
吉岡主任 飲み会の場の方が意見を言いやすいということもあるのかもしれませんが、国民から見るとやっぱり不透明に見えるし、政策形成過程の可視化のためには審議会という場が重要ですよね。
大空幸星さん もちろん審議会の場で発言することによって変わることもあります。地方の関連団体へヒアリングしたらどうかという件も、自分が発言したことで、他の団体へもヒアリングすることになりました。変えられるのはこういった小さなことばかりかもしれませんが、それが積もって大きな変化になっていくのだと思います。
また、審議会といえばこれまでは弁護士や学識経験者を中心に選任するケースが多かったのだと思いますが、審議会によっては大学生を委員に選任するなど、ちょっとずつ変わってきてはいると思いますね。
吉岡主任 気になったことがあれば、是非ご発言いただければ良いのかなと思います。役所は大きな船なので、中の職員が動かすには調整に大きな労力がかかりますが、委員等の外の人がオフィシャルな場で言ってくれることによってスピーディに動かすことができる場合もあると思います。
大空幸星さん 議事録に残る形で言うことが大事だとは思いつつも、1週間前の打合せで自分が何を話したのか、忘れていることがあったりもします(笑)。
写真4:主計局文部科学第一係調査主任 吉岡 拓野

現場の声を聴くことについて
大空幸星さん みなさんは現在霞が関の本省で働いていますが、地方に異動することもあるのでしょうか。
寺井係員 若手のうちも含めて、地方で勤務する機会はあります。
本省では、日本や世界の全体像を見て仕事をしていますが、都道府県ごとに見たら全く異なると思いますし、個別の企業などへのヒアリング等を通して現場で何が起きているのかを見る機会になると思っています。
成田係長 私も、大阪府庁へ出向していたのですが、地元企業やNPO等と連携して事業をさせていただいたことは、とても勉強になりました。
大空幸星さん 地方への異動は、ヒアリング等を通して実際に現場で起きていることを知るなど、いろいろな情報に接することができる良い仕組みだと思います。一方で、現場の当事者が言っていることが必ずしも全体を代表する意見とは限らないので、難しさはありますよね。
当事者性を持っている人、例えば「本当に経営が厳しいんです」と言う人の話は耳に残るし心にも響きます。ただ、それに応えることが必ずしも正しいわけではないときもあって、会社自体は倒産しても良いというケースも実際にはあると思います。仮に会社が倒産したとしても、そこで働いている人が別の職にありつければ良いわけなのですが、日本では補助金などによってとりあえず「会社を救おう」という方向性になってしまっています。
吉岡主任 直接話を聞くことで、数字を見たときに、人の顔と言うか、現実社会で何が起こっているのかということを想像できるようになることが重要だと思っています。
写真5:大臣官房総合政策課 寺井 理子

情報の発信と伝わり方について
成田係長 現場の声の一例として、Twitter等のSNSもよく見るのですが、政府が打ち出したメッセージと、その伝わり方の間には大きなギャップがあると感じています。
大空幸星さん SNSの世界では、財務省って何かと陰謀論に紐付けられちゃっていますよね。
成田係長 そのように見られていることは認識しておく必要があり、その上で自分たちの仕事をどう正しく伝えていくかという点において、職員が顔と名前を出して広報していく機会を増やすことは財務省としても大切だと思っています。
吉岡主任 多くの人は財務省と聞くと、ニュースでよく流れる正門前の看板を思い浮かべると思います。個々の職員の顔が浮かぶ人はあまりいないのではないでしょうか。「組織が言っている」というのと「あの人が言っている」というのでは、情報の伝わり方はやっぱり違うと思うので、こういった形での情報発信は大事だと考えています。
大空幸星さん 職員の人がメディアに対して直接発信していく機会を作っていっても良いと思います。
成田係長 大空さんが情報発信をしていく上で、何か気を付けていることはありますか。
大空幸星さん 陰謀論やデマ等に対しては、真面目に対応するとそのデマの価値を逆に高めてしまうので、影響力のある人がデマを拡散しないようにすることにだけ注意するようにしています。
OECDによる調査*1では、日本での政府に対する信頼度は他の国と比べてとても低く、「国が言っているのだから」と言って信頼してくれない人たちが一定数いるということは認識しておく必要があると思います。
その場合、政府から直接正しいメッセージを発信し続けることも諦めてはいけないですが、信頼度を高めるため、理解者を増やしていく工夫も大事だと思います。
税も国の政策決定と国民の生活の結節点ですよね。自分の支払った税が何にどれくらい使われているのかという興味関心は間違いなくあると思いますので、そのニーズに応える広報・情報発信を考えると良いと思います。
例えば、先ほど挙げたOECD調査では、日本よりも税率が高い国々での政府への信頼度が日本よりも高く、それは恐らく「税金がどう使われているか」ということが可視化されているため納得感があるのだと思います。そのあたりは日本でも力を入れていくことが不可欠だと思います。
吉岡主任 身近なところにも公共サービスがあり、例えば学校教育でも、義務教育が税金や借金等を元手にして行われているということは分かりやすく伝えていく必要があると思いますね。
国の予算の3割を借金で賄っていて、累積では国の予算の10倍の借金を抱えているにも拘わらず、議論が先送りになりがちです。もちろん重要な政策にはしっかりと取り組まなければなりませんが、負担の一部は将来世代が負っていて、それがどんどん膨らんでしまっていることは、しっかりと問題意識を共有していかないといけないと思います。
大空幸星さん その点は、国家観に哲学があるかが重要だと思います。後の世代に負担をお願いしたとしても、こういう国を作らなきゃいけない、100年後の子どもたちにもこれくらいの生活基準を享受してもらいたい、といった考えが重要だと思います。
この時代に役人を職業として選んでいる人は、その国家観や社会像というものがきっとあるのではないでしょうか。権力欲のある人もいるかもしれませんが、一人の人間としての何かしらの矜持があり、そういったものが表に出てくると、もっと面白くなりますし、特に20代とかの若い人達にはそういった気持ちをどんどん膨らませていって欲しいなと思います。
ちなみに、皆さんはどうして財務省を志望したのですか。
寺井係員 なるべく多くの人、みんなのために、この国に資するインパクトのある仕事をしたいと思っていた時に財務省の話を聞き、予算・税制の面からあらゆる政策にコミットできることの可能性の広さに魅力を感じて志望しました。職員の話を聞く中で「しんどいことはあるかもしれないけど、こういう人たちと働きたい」と思ったことが、財務省を選ぶ決め手になりました。
吉岡主任 自分がしんどいときに、それが社会や人のためであれば頑張れそうだなと思い、この職場を選びました。自分が取り組んできた仕事は、自信を持って人に話せるかなと思います。
成田係長 大空さんは、ご自身でNPOを立ち上げられているので、人を集める立場だと思いますがどういったマインドで取り組まれていますか。
大空幸星さん そうですね。常にビジョンを示し続ける必要があり、それは情熱のようなものなのですが、情熱がありすぎると長続きしないとも思っています。
NPOを立ち上げた当初は、人を集めるため強い情熱を語って惹きつける必要はありました。しかし長く続く組織にしようとすると、ビジョンを他の人にもどんどん浸透させていかなければならず、そうなるとただ大きな声を上げて突き進んでいくだけではダメで、「仕事としてやっていて、休む時は休みます」という見せ方も必要だと思っています。

おわりに
原田室長 本日はお集まりいただき、若い視点から率直なご意見等をお聞かせいただきありがとうございました。また次回、違った切り口でもお話を聞ければと思います。
写真6:左側が大空幸星さん

*1)https://www.oecd.org/coronavirus/jp/data-insights/strengthening-public-trust