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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 24

税関の「輸出入申告官署の自由化」は、災害時の業務継続にどのような影響を与えたか?
~「行政データ」を活用した財務省職員による政策効果の検証事例~

財務総合政策研究所 総務研究部 主任研究官 伊藤 史治/主任研究官 根岸 辰太朗


近年、自然災害が激甚化・頻発化する中で、サプライチェーンの寸断による国民生活への影響や経済活動の停滞が生じています。25年ぶりに非常に強い勢力で日本に上陸した2018年の台風21号(以下「台風」)は、死者14人の人的被害をもたらしただけでなく、暴風で流されたタンカーが関西国際空港の連絡橋に衝突し、人と物の流れがストップするなど、経済活動に大きな影響を与えました。物流拠点の災害対応能力の確保が求められています。
財務省・税関では、適正な通関を確保しつつ迅速な通関を図るための貿易円滑化に資する様々な取り組みを実施していますが、その代表例である2017年に導入した「輸出入申告官署の自由化」制度(以下、「自由化制度」)(☞制度の概要については、P.86のコラム1をご覧ください。)については、物流を担う関係者から、「台風発生時における事業者の事業継続にも活用できた」との声があがりました。新規に導入した施策の効果を知る上で、このような「現場の声」に耳を傾けることはもちろん重要ですが、客観的なデータを元に政策の効果を「定量的に」裏付けることができれば、今後の政策の検討・実施に大いに資するものとなります。
そのような問題意識の下、財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)に所属する職員が、税関が保有する輸出入申告データを利用し、台風災害時において自由化制度が貿易事業者の業務継続に与えた影響を因果推論の手法を用いて実証し、本年6月にリサーチ・ペーパー「『輸出入申告官署の自由化』制度の利用実態について」を公表しました。*1税関の輸出入申告データのように、行政機関が職務上の目的で取得した情報に基づくデータを「行政データ」と呼んでいますが、本取り組みは、財務省職員が、財務省の行政データを用いて、財務省の業務遂行のために有用な分析結果を得た上で、論文の形でまとめたものです。このように、行政データを活用した政策分析を行うことは、財務省再生プロジェクト*2の中でも、職員の経済分析能力強化の一環として位置付けられています。
このリサーチ・ペーパーでは、上記の分析に加え、自由化制度の詳細な利用実態についても明らかにしています。今回のPRI Open Campusでは、本リサーチ・ペーパーに焦点を当て、研究実施者へのインタビュー等を通じ、分析結果の概要を紹介するとともに、本取り組みの意義や今後の展望等をお伝えします。*3

[執筆者プロフィール]
伊藤 史治 主任研究官
2010年4月に東京税関に入関。財務省関税局において国際協力や国際交渉業務等に携わりました。2023年7月より財務総研で勤務しています。
根岸 辰太朗 主任研究官
2014年4月に東京税関に入関。財務省関税局や内閣官房において国際交渉業務等に携わった他、英国へ留学しデータサイエンスを学びました。2022年7月より財務総研で勤務しています。


1.研究実施者へのインタビュー
本節では、今年7月に財務総研に着任した伊藤主任研究官(以下、「伊藤」)が、実際に研究を実施した根岸主任研究官(以下、「根岸」)と、関税局関税課の大塚課長補佐(財務総研の主任研究官に併任)(以下、「大塚」)にインタビューを行った内容を紹介します。

[プロフィール]
大塚 高規
関税局関税課課長補佐 兼 財務総研総務研究部主任研究官
2011年4月に東京税関に入関。これまで主に、財務省関税局で関税政策や税関行政の企画立案を担当しました。現在は、関税局関税課で貿易統計等に基づく分析を主に担当しています。

伊藤:リサーチ・ペーパーの作成、大変お疲れ様でした。財務省の職員自身が行政データを活用して行った分析を「内部職員研究」と呼んでいますが、今回の内部職員研究の概要や意義について、教えてください。

根岸:輸出入申告データを用いた内部職員研究は、簡単にいえば「内部職員による行政データを用いた政策分析研究」です。財務省の研究機関である財務総研の職員自らが、税関の輸出入申告データを用い、財務省各部局のニーズや職員自身の問題意識に基づき設定したテーマについて、研究を実施します。
職員自身が実施するため、当然ながら研究のレベルは職員の経験やスキルに左右されますが、研究実施に必要な知識やノウハウ、研修の機会等は、財務総研が有するアセットを最大限活用することができます。また、研究テーマに関係する部局の職員が、財務総研に併任され、メンバーに加わることで、政策担当者の持つ問題意識や専門知識を、よりダイレクトに研究に活用することも積極的に行うこととされています。
もちろん、内部職員研究は財務総研職員であればどんなテーマでも簡単に実施できる、という訳ではありません。輸出入申告データが有する秘密情報の保護に万全を期するのはもちろんのこと、例えば税関の施策に関する分析等、研究テーマが真に財務省の行政目的の範囲内である必要があります。具体的には、内部職員研究の実施に当たっては、研究計画の策定や輸出入申告データの利用、成果の公表等に関して定めたルールに、厳格に従う必要があります。

伊藤:では、この内部職員研究のテーマとして自由化制度を選んだ理由をお聞かせ下さい。

根岸:現在、輸出入申告データを用いた「共同研究」(☞共同研究の概要については、P.87のコラム2をご覧ください。)のスキームで行われている研究は、国際貿易や国際金融等の分野における、学術的な関心の高いテーマが選ばれており、より実務的な観点からの関心が高い税関の各種施策を直接取り上げた研究は行われていません。かねてより、税関の保有しているデータを活用できるのであれば、税関の施策に着目した研究を実施し、研究成果として税関にお返ししたいと思っていました。
自由化制度は、日本税関にとって、近年行われた非常に大きな制度改正だったことから、研究のテーマに選びました。制度導入から5年が経過した区切りの年であったことや、制度が導入された2017年が、分析に用いる2014年~2021年のデータセットのちょうど中間地点に当たり、うまく制度導入前後の比較ができるかなと考えた、という点も理由としてあります。更に、財務省や業界団体の公表資料で、自由化制度を台風発生時における企業の事業継続に活用した、と言及されており、これを定量的に示すことができれば、本制度の価値を更に高めることができるな、とも考えました。

伊藤:本研究ではどのような成果や政策的インプリケーションが得られたのでしょうか。

大塚:本研究では、まず自由化制度を利用した申告(以下、「自由化申告」)が申告全体に占める割合(以下、「自由化率」)がどのように変化してきたかについて、いくつかの切り口から検証しました。その結果、自由化制度がどのように利用されてきたか、という実態が明らかになったという点は、一つの成果だと思います。また、輸出入申告を行う税関官署(以下「申告官署」)や輸出入貨物が置かれている場所を所轄する税関官署(以下、「蔵置官署」)の数が自由化制度導入の前後でどのように変化したかという動きを明らかにしましたが、自由化制度利用に伴い申告官署だけでなく蔵置官署も集約される傾向にあるという、予想していなかった結果が見えたりしました。これらの結果は、現時点では、直ちにこのような政策を採るべきという政策的なインプリケーションを与えるものではないかもしれませんが、本研究により、議論のための基礎的なデータを整理し、示すことができましたので、今後議論を深める一助となるのではないかと思っています。

根岸:今回の研究は、議論をするために必要なバックデータを示したものですので、政策的なインプリケーションを求めるのであれば、例えば官署集約の傾向を深掘りした分析や、貿易事業者による自由化申告の選択メカニズムの解明等、更に踏み込んだ研究が必要になると感じています。

伊藤:本研究について、担当部署をはじめ関係部局から何か反応はありましたか。

大塚:研究構想段階、研究の途中、最終発表の3回程、関税局の関係部局と議論する場を設けたり、個別に担当者と議論を行ったりしました。有り難いことに、担当部局は忙しい中でも時間を割いてくれ、こういう見方はできないか、こういうデータは取れないか等の有益なサジェスチョンを頂きました。こうしたやり方は、政策担当者及び分析担当者双方にとって有意義だったのではないかと考えています。日々各種業務で忙しい政策担当者は、膨大なデータを整理し、分析する時間がなかなか持てない一方、日々の業務を通じた現場感覚やニーズ等の生の情報があります。他方で、分析担当者には、そうしたデータを超えた情報がないところ、政策担当者と対話しながら進めていけたことで、地に足の着いた分析作業を進めていけたのではないかと思います。

根岸:政策担当者から、自分が携わった施策をこのように研究してもらえるのは嬉しい、という言葉を頂き、研究を行った身として光栄に思いました。

伊藤:大塚さんは、関税局での本務もある中で、財務総研の主任研究官として任命され本研究に従事されましたが、その感想を聞かせて下さい。

大塚:実際にやってみて楽しかったです。本務に加えて業務が増えて、嫌々やっていたということは全くありませんでした。構想を練ったり、担当部局と相談したりしたのは2022年内でしたが、併任のための手続きや分析データの準備等もあり、実際にデータを用いた作業を行ったのは、2023年に入ってからでした。なお、私の場合は、本務としても貿易統計等のデータ分析を行っているため、本研究活動は非常に親和的だったと思いました。一方で、所属部署によっては、それなりの時間のコミットを必要とする研究に従事するのは難しいかもしれないと思いました。

伊藤:職員が実際にデータ分析を行うことの意義についてどのように思いますか。

根岸:データ分析の手法は、教科書を読むだけでなく、自分で手を動かさないと身につかないと実感しました。その意味において、研究の成果を出すことに加えて、その過程でデータ分析のスキルアップに繋がるものですので、人材育成という観点からも、このような内部職員研究の取り組みは継続的に実施していく必要があるのではないかと感じました。
また、研究成果を発表して終わりではなく、実際に税関の現場で本制度に係る業務に携わっている職員等と意見交換を行い、フィードバックをもらい次の研究に繋げるということも大切だと思っています。これは、財務省の研究機関である財務総研だからこそできることだと思います。

大塚:職員が実際にデータ分析を行うことで、分析スキルを上げるということにも繋がりますが、それに加えて、関税局の職員といっても、実際に輸出入申告データに触れたことがある人や更にはその加工をしたことのある人は限られていると思います。また、膨大なデータにそもそもどのような項目が含まれているかを詳細に知っている人は、実はそんなに多くはないのではないかと思っています。自ら手を動かしてこうした分析作業を行うことは、税関が保有しているデータについて勉強することになります。加えて、税関の制度や施策の導入経緯や中身を勉強したりすることも必要になるので、改めて税関行政について勉強する良い機会になるのではないかと感じています。更に、近年ビックデータやEBPM(証拠に基づく政策立案)という言葉が飛び交ってはいますが、日々業務が忙しい中、腰を据えてデータ分析を行うことは、なかなか難しい面もあるのではないかと思います。もっといえば、税関のデータを用いた分析のアウトプットが税関行政の企画立案にとって有用である、ということを実感する機会がないと、ただでさえ忙しい中では、手間のかかるデータ分析を詳細に実施しようという意識になりにくいのではないかと思います。仮にそうだとすれば、データ分析を一層行うように意識が向いて行くためには、役に立つ、興味深い等とポジティブに思ってもらえるように、少しずつ目に見える実績を積み重ねていくことが大事なのかなと思います。今回の内部職員研究により、その第一歩を踏み出せましたので、このスキームでの研究にはそのような意義があるのではないかと思っています。

伊藤:今後の展望等があれば教えて下さい。

根岸:自由化制度については、先ほども少し触れましたが、関係部局との議論の中で頂いた示唆を踏まえ、もう少し深掘りした分析を行いたいと考えています。また、税関は自由化制度以外にも様々な施策を実施していますので、あれもこれもと今すぐに手を広げることは難しいですが、それらについても色々と分析してみたいとも思っています。財務総研の職員として、そして税関からの出向者として、自身ができる貢献を、輸出入申告データを用いた政策分析研究という形で果たしていきたいと考えています。

写真: [インタビューの様子]


2.研究成果紹介
本節では、リサーチ・ペーパー『「輸出入申告官署の自由化」制度の利用実態について』のポイントを解説します。
(1)分析に利用したデータ・手法
本研究では、2014年から2021年まで計8年間の輸出入申告データを用いています。輸出入申告データには多種多様なデータ項目が含まれているのですが、本研究ではそのうち、自由化申告の特定に加え、輸出入貨物や税関官署等の申告情報の把握に必要なデータ項目を主に用いました(図表1. 分析に利用した主なデータ項目)。
分析ではまず、自由化制度利用の経時的変化を把握するため、自由化率の四半期毎の推移をグラフ化しました。その際、輸送形態(航空貨物か海上貨物か)や申告価格、貿易相手国等の貨物の特性によってカテゴリー分けを行い、各カテゴリーにおける自由化率の推移も確認しています。また、自由化申告を行った企業に着目しつつ、自由化制度を特徴づける「AEOの取得」及び「申告官署・蔵置官署」という2つの切り口から見た自由化申告の特徴について、ヒストグラムや箱ひげ図、散布図等のグラフを用い可視化しています。最後に、自由化制度の災害時の事業継続への活用に関して、近畿地方に甚大な被害をもたらし、関西国際空港を中心に物流停滞を引き起こした、2018年の台風第21号に焦点を当て、差分の差分法を利用した回帰分析による因果推論を行うことで、「台風災害時の被災地(関西国際空港)における輸入申告について、自由化制度を利用することにより、申告件数の減少が抑制された。」という仮説の検証を行いました。

(2)分析結果のポイント
分析の結果得られた知見を簡潔に紹介すると、次の通りです。
1.自由化率は、輸出入とも増加
2.自由化制度利用の判断には、(輸出入者よりも)通関業者の影響が大きい可能性
3.自由化制度利用に伴い、申告官署だけでなく蔵置官署も集約される傾向
4.自由化制度の利用により、台風災害時における申告件数の減少が抑制
1.について、図表2. 自由化率の推移にあるように、制度開始日である2017年10月8日から2021年末までの期間において、自由化率は輸出入とも上昇傾向にあります。輸出と輸入を比較すると、全期を通じて自由化率は輸出の方が高く、また自由化率の上昇度合いも輸出の方が高いため、自由化制度は輸入よりも輸出において、より利用されてきたといえます。この理由としては、輸入申告の多くを占める、「マニフェスト申告」と呼ばれる簡易的な申告の自由化率が比較的低いことや、輸出申告時には、輸入申告時と異なり関税等の納付手続きがなく、貿易事業者にとって申告官署と蔵置官署を切り離した業務が実施し易いこと等が考えられます。この他にも、輸出入とも、申告価格が大きいほど自由化率が高い傾向があることや、短期的に自由化率が急上昇した時期が複数存在すること等、興味深い実態が確認できました。
2.及び3.について、ここでは特に興味深い分析結果を紹介します。「『申告官署』の自由化」というその名称もあり、自由化制度の利用により、貿易事業者の輸出入申告に関連する業務の集約が行われ、結果、申告官署が集約(申告官署数が減少)することは、想像に難くありません。他方、蔵置官署に関しては、輸出入手続きを行う申告先の変更が、直ちに輸出入貨物の蔵置場所や輸送の流れの変更を意味するとは考えにくいため、研究実施者としては集約が顕著に起こっているとは想定していませんでした。しかし、分析の結果、多くの輸出入者が申告官署だけでなく、蔵置官署も集約していたことが判明しました。図表3. 自由化制度導入前後での申告官署数及び蔵置官署数の変化(輸入)は、2016年(自由化制度導入前)と2018年(導入後)の両年に輸入実績のある輸入者に着目し、各輸入者が利用した申告官署及び蔵置官署の数がどう変化したか、比率(2016年水準=1)を散布図で表し確認したものです。縦軸・横軸ともに、多くのサンプルが0~1の範囲に入っている(つまり、多くの企業について、申告官署数と蔵置官署数のどちらも減少している)ことが見て取れると思います。輸出も同様の傾向であり、これらの結果は、研究実施者に驚きをもって迎えられました。
4.について、まず、台風上陸前後での関西国際空港における一般輸入申告について、自由化申告と非自由化申告の件数(自然対数値)の推移を比較したものが、図表4. 関西国際空港における台風上陸前後での申告件数の推移です。台風上陸前、両申告について概ね同様のトレンドが確認できるのに対し、台風上陸後は、どちらも申告件数の減少が見られたものの、自由化申告(実線)はその減少幅が小さく、かつ台風上陸前の水準への回帰に要する期間が短いことが確認できました。その上で回帰分析を実施し、結果を踏まえ自由化申告の災害時の事業継続への有効性を図示したものが、図表5. 台風災害時における自由化申告の利用効果となります。台風上陸前後で、非自由化申告の件数は概ね半減し(▲52.5%:二重線)、この台風災害時の傾向が自由化申告でも同一と仮定した上で(点線)、自由化制度を利用することによる申告件数の減少を相殺する効果(53%:実線)が確認されました。これにより、自由化制度が災害対応にも役立っているという主張を、統計的に裏付けることができました。
当然ながら本研究には、利用したデータや分析手法等に起因する限界が存在しますが、本リサーチ・ペーパーが提示する分析結果は、自由化制度の利用に関する様々な知見を提供し、税関当局における政策検討に加え、貿易事業者の日々の業務遂行に大いに資するものであると考えています。また、リサーチ・ペーパーには、ここで紹介したもの以外にも様々な分析やその考察を実施していますので、関心のある方は是非お読みいただきたく思います。

【コラム1】「輸出入申告官署の自由化」制度について
「輸出入申告官署の自由化」制度(自由化制度)とは、AEO事業者(※)のうちAEO輸出者、AEO輸入者及びAEO通関業者が、貨物の蔵置場所を管轄する税関官署(蔵置官署)以外の官署に輸出入申告を行うことができる制度です。例えば、成田空港(東京税関成田航空貨物出張所管内)に蔵置された貨物を、東京税関本関に輸出入申告することが可能となります。
(※)「AEO(Authorized Economic Operator)制度」とは、貨物のセキュリティ管理と法令遵守(コンプライアンス)の体制が整備された事業者に対し、税関が承認・認定を行い、税関手続きの緩和・簡素化策を提供する制度です。現在では、日本を含め90以上の国・地域で導入されている、民間企業と税関の信頼関係(パートナーシップ)に基づくプログラムといえます。本制度に基づき、税関より承認または認定を受けた者を、「AEO事業者」と呼んでいます。
日本で貨物を輸出入する際の税関への輸出入申告は、かねてより、蔵置官署に対して行うことが原則とされてきました。輸出入の許可を受ける前の貨物を蔵置する場所は「保税地域」と呼ばれますが、保税地域は税関の管轄下にあり、ここで貨物の検査を行うことで、貨物のすり替え等の違法行為が行われるリスクを低く抑え、通関の適正性が確保されます。一方で、輸出入申告を行う税関官署(申告官署)について、蔵置官署以外の官署を選択することも可能となれば、輸出入申告時の官署選択の柔軟性が高まり、結果、貿易を円滑化する効果が期待できます。「通関の適正性」と「貿易の円滑化」は、どちらも税関の大事なミッションであり、財務省において、外部有識者も交え両者のバランスをうまく取ることができる制度を検討した結果、通関の適正性及び税関における業務処理の効率性を損なわない範囲内で、申告官署の選択に柔軟性を与えることとし、関係法令の改正を経て、2017年10月8日より自由化制度が導入されました。
自由化制度の具体的な利点として、貿易事業者は、例えば自社にとって利便性の高い官署に申告を集約し、その官署に近接した営業所で申告書類の作成等の通関業務を一元的に行う、といったことが可能となります。各貿易事業者がその実情に応じて自由化制度を活用することにより、輸出入事務の効率化やコスト削減が期待されます。また、税関手続きを含めた物流全般に目を向けると、自由化制度は企業がサプライチェーンネットワークの効率化を図る際にも活用でき、その観点からも、本制度は貿易の円滑化に資すると考えられます。

【コラム2】輸出入申告データ用いた共同研究について
近年財務省は、保有するデータを最大限利活用するため、税関の輸出入申告データを、財務省の政策の検討に資するための学術研究に活用する取り組みを進めています。輸出入申告データとは、日々税関に対して行われる輸出入申告の情報をデータ化したもので、個々の輸出入申告における輸出入者や貿易相手、貨物の価格や品名等の情報が含まれています。取引品目やその単価等、保秘が求められる情報もあり、取り扱いには十分な注意が必要である一方、ここに含まれる情報を分析することにより、財務省の政策の検討に資する様々な知見が得られる可能性があります。
具体的な取り組みとして、財務総研では2022年春以降、財務省が実施した公募を通じ決定された外部研究者との共同研究を実施しています。税関業務においては、もちろんこれまでも輸出入申告データを活用してきましたが、外部の有識者を国家公務員として任命して、国際貿易や国際金融等に関する学術研究という手段を通じて、財務省の行政目的の達成を目指すいう意味で、全く新しい取り組みです。共同研究の実施に際しては、輸出入申告データが有する秘密情報の保護の観点から、研究従事者には国家公務員としての守秘義務が課され、またデータへのアクセスは財務総研の施設内でのみ可能とする等の厳格なルールが設定されています。
2023年9月現在、公募を通じて採択された、以下4件の共同研究を実施しています。第1期共同研究の成果は、財務総研のディスカッション・ペーパーとして既に公表されておりますので、ご関心のある方は是非財務総研のウェブサイトからご覧いただければと思います。また、ファイナンス2023年3月号のPRI Open Campusには、共同研究に参加している研究者の方々へのインタビュー記事を掲載しておりますので、こちらも是非ご覧ください。
【共同研究成果物の掲載場所(財務省ウェブサイトへのリンク)】
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/kyoudou/seika/1st/index.html

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

図表 【参考】内部職員研究のイメージ図
図表 【参考】自由化制度の概要
図表 【現在実施中の共同研究】

*1) https://www.mof.go.jp/pri/publication/research_paper_staff_report/research15.pdf
*2) 財務省では、常に国民の視点に立って、高い価値を国民に提供できる組織風土をつくり上げていくため、「財務省再生プロジェクト」を進めています。詳しくは財務省HPをご覧下さい。
*3) 本研究の実施に当たってご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。なお、本稿の内容は全て筆者の個人的見解であり、財務省および財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。