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コラム 経済トレンド112

労働力不足への対策としてのモーダルシフトの有用性

大臣官房総合政策課 調査員 胡桃澤  佳子/横山  修平


本稿では、労働力不足が懸念される物流の「2024年問題」への対策として推進されているモーダルシフトの有用性について考察する。

モーダルシフトの概要と現状
モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を大量輸送が可能で環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することをいう。モーダルシフトは地球温暖化対策として注目されている上、道路混雑緩和、交通事故縮小など、様々な社会課題への対応策としても期待されている。例えば、1トンの貨物を1km運ぶ(=1トンキロ)ときに排出されるCO2の量をみると、トラック(営業用貨物車)に対し、鉄道は約1/11、船舶は約1/5の排出量しかない(図表1. 輸送機関別二酸化炭素排出量)。
現状、国内貨物の輸送機関別輸送量は、自動車が約5割、内航海運が約4割を占め、鉄道の占める割合は全体の約5%となっている(図表2. 輸送機関別国内貨物輸送量の推移)。一方で、鉄道とトラックにおける東京から各都市への輸送コストを試算すると、長距離輸送の場合にはモーダルシフトによるコストメリットがあり、事業者の負担としては鉄道が利用されやすいことが考えられる(図表3. 東京から各都市への輸送コストの比較)。
2024年4月以降、働き方改革関連法によりドライバーの時間外労働時間、拘束時間が減ることによる、人手不足等が課題となっている(図表4. 働き方改革関連法案による変更点と懸念点)。物流各社が十分なドライバーを確保できず、安定的な輸送が困難になるとの懸念があり、物流の「2024年問題」と呼ばれている(図表5 「2024年問題」による不足する輸送能力の試算)。労働力不足が懸念される「2024年問題」に対応するため、自動車輸送が貨物の最寄りの転換拠点までと、目的地付近の転換拠点からの輸送だけで済むモーダルシフトが有用になる。
(出所)国土交通省「交通関係基本データ」、「運輸部門における二酸化炭素排出量」、「「2024年問題」解決に向けて」、全日本トラック協会「今すぐわかる標準的な運賃」、日本貨物鉄道(株)「コンテナ時刻表」、NX総合研究所「「物流の2024年問題」の影響について」


モーダルシフトを推進する政策と推進事例
政策においても、モーダルシフトは推進されている。令和3年6月に閣議決定された総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の下、物流施策の方向性として、労働力不足対策と強靭性、持続可能性を確保した物流ネットワークの構築が挙げられている(図表6. 総合物流施策大綱概要)。
また、平成28年10月改正の物流総合効率化法では、流通業務の効率化を図る計画の認定を受けた事業に対して補助金を付与することで、モーダルシフト等の推進を後押ししており(図表7. モーダルシフト等推進事業概要)、毎年数十件程度の利用で推移している(図表8. 総合物流効率化法における認定事業数の推移)。
さらに、物流分野における環境負荷低減や物流の生産性向上等に資する取り組みを促進するため、「グリーン物流パートナーシップ会議」が開催されている。本会議では、持続可能な物流体系の構築に関し顕著な功績があった取り組みに対して、国土交通大臣表彰、経済産業大臣表彰が行われている(図表9. グリーン物流パートナーシップ会議の表彰事例)。
モーダルシフト推進事例として、ヤマト運輸(株)では九州発関東行きの荷物の幹線輸送をトラック主体から鉄道輸送に転換したほか、佐川急便(株)では電車型特急コンテナ列車の開発や、トヨタ輸送(株)とコンテナを共同使用して貨物輸送を行うなど、実際に輸送方法の転換が進められている。
(出所)国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要」、「モーダルシフト等推進事業」、「総合物流効率化法の認定状況」、グリーン物流パートナーシップ「事例集(モーダルシフト)」、ヤマト運輸(株)HP「関東ー九州間でフェリーによる海上輸送を活用したモーダルシフトを促進」、佐川急便(株)HP「脱炭素社会の実現に向けて」


モーダルシフトのデメリットと導入の障壁となっている要因
しかしモーダルシフトにもデメリットがある。一つは輸送障害時に代替手段の確保がしにくい点である。日本通運(株)が取引先企業を対象に行った調査では鉄道において、災害時の対応が他の輸送手段よりも劣っていると回答する企業が多かった(図表10. 他の輸送サービスと比較して鉄道が劣っていると思う点(2021年11月)(n=434社))。自然災害をはじめとする輸送障害は増加しており、特に自然災害後の復旧には時間を要する(図表11. 自然災害による鉄道運休事例と規模)。また船舶において、モーダルシフト向けの港湾整備が不十分であり、導入の障壁となっている他、代替の輸送手段として選ばれにくくなっている。
さらに、貨物を到着地まで運ぶには一度ターミナルで貨物を積み替え、最後はトラックで輸送するケースが多い。いわゆる、ラストワンマイルへの対応が必要となり、トラック運送よりもリードタイムが伸びるだけでなく(図表12. 代表輸送機関別平均物流時間(2021年調査),図表13. 主要区間の代表輸送機関別物流時間事例(2021年調査))、事業者の手間も増える。
また、モーダルシフトのメリットは一度に大量の貨物を輸送できることにあるが(図表14. 代表輸送別平均流動ロット(2021年調査))、一方で小口貨物の輸送には対応しきれていないことが課題と言える。さらに足元のEC市場拡大に伴い、宅配便の取り扱い量が増えている(図表15. EC市場規模と宅配便取扱量)。出荷1件当たりの貨物量を表す流動ロットを見ると、年々小口貨物の割合が増加している(図表16. 流動ロット件数構成比推移)。小口貨物の輸送もモーダルシフトで対応できるよう工夫することが求められている。
(出所)日本通運(株)「今後の物流のあり方に関する検討会(2022年4月28日)」、日本貨物鉄道(株)「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会説明資料(2022年3月17日)」、国土交通省「全国貨物純流動調査」、経済産業省「デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)(令和3年度)」国土交通省「宅配便等取扱個数の調査」(令和3年度)


モーダルシフトの今後の展望
モーダルシフトには前述のような課題があるが、現在はコンテナ専用トラックの導入が推進されており、拠点での積み換え作業が不要になるケースも出てきている。また、富士通(株)は希望納期毎に輸送モードを選択し、先納期の製品について鉄道輸送に切り替えるという工夫をしている(図表17. 富士通(株)企業向けPC納品の事例)。これらの工夫や既存の輸送を再検討することによりモーダルシフトが対応できる貨物の幅が広がっており、推進をするには今後もこうした動きを継続させる必要がある。なおヤマト運輸(株)はドライバー不足対策の一環で一部地域で翌日配送を取りやめた。オンラインショッピング利用者に対する要望調査によると配送スピードが重要と回答した人は全体の6.3%ほどであることから、消費者は着荷の早さを必ずしも求めていない可能性があるとも言える(図表18 ECサイトの配送について最も重要視すること(2021年1月)(n=3,812))。
一方、図表18.の要望調査の1位は「送料無料」となっている。価格競争の中、無料で配送する事業者が増えた結果、多くの消費者が物流にかかる適正なコストを意識できていない可能性がある。持続可能な物流を実現するための金銭的コストを消費者が負担する必要性や配送にかかる環境負荷を周知することもモーダルシフトの推進において重要になると考える(図表19. エコレールマークの概要)。
災害時の代替手段の選択肢を増やす必要もある。国土交通省では「次世代高規格ユニットロードターミナル検討会」といった港湾のターミナル機能強化に向けた検討会を開催している。現状はターミナルの狭さや貨物の位置管理が不十分なことが原因で、非効率な荷役になっていることがある(図表20. 次世代高規格ユニットロードターミナル検討会中間報告概要)。内航海運が災害時の代替手段として活用されるためにも、使いやすい港湾の整備が不可欠であり、これらの議論にも注目していきたい。
(出所)国土交通省「モーダルシフト推進に向けたコンテナ専用トラック等導入支援」、(株)日本政策投資銀行「今後の物流ビジネスにおけるモーダルシフトへの動き」、MMD研究所「ECサイトの配送に関する調査」、国土交通省HP「「エコレールマーク」のご案内」、国土交通省HP「次世代高規格ユニットロードターミナルについて」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。