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コラム 経済トレンド111

日本のデジタルコンテンツ産業の展望

大臣官房総合政策課 調査員 木下  裕也/田矢  祐樹


本稿では、日本が強みを持つゲームIP(知的財産)を中心に、デジタルコンテンツ産業の展望について考察する。
拡大するデジタルコンテンツ市場
近年、日本におけるデジタルコンテンツ(デジタル形式で扱われるコンテンツの総称)の市場規模は9兆7,611億円(2021年)と、スマートフォンやタブレットの普及により拡大を続けている(図表1. 日本のデジタルコンテンツ市場規模)。
日本のデジタルコンテンツ市場の詳細をみると、モバイルコンテンツ市場(スマートフォン等でのコンテンツ消費)が成長しており、中でもゲーム・ソーシャルゲーム等の占める割合が大きい(図表2. モバイルコンテンツ市場規模)。
ゲーム・ソーシャルゲーム等に着目し、日本由来ゲームコンテンツの海外展開の動向をみると、家庭用ゲームはコンテンツ力の強さから存在感が窺える一方で、オンラインゲームは低位に留まっている(図表3. 日本由来コンテンツの海外売上高)。
(注)本稿におけるゲームとは、モバイル・家庭用・PC用等、デジタル形式で提供されているゲームコンテンツの総称を指す。
(出所)一般財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書」、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム「モバイルコンテンツ関連市場規模」、一般社団法人日本オンラインゲーム協会「JOGAオンラインゲーム市場調査レポート」


世界の市場規模/堅調なゲーム市場
世界のデジタルコンテンツ市場に目を向けると、日本の市場同様、右肩上がりでの推移となっており、特にゲームが占める割合は全体の約4割強と大きく、その額も拡大を続けている(図表4. 世界のデジタルコンテンツ市場規模)。
ゲーム市場について2021年の地域別売上シェアをみると、中国を中心とした東アジアが40.3%と最大シェアを占めている。次いで北米が29.3%、欧州が18.6%と続いており、アジア圏のゲーム市場の大きさがみられる(図表5. 世界のゲームコンテンツ市場シェア)。
アジア圏においては中国がゲーム市場を牽引しており、中国のゲーム市場規模は5兆9,303億円(2021年)と、日本のゲーム市場規模である2兆3,389億円(2021年)の約2.5倍の規模感である(図表6. 中国のゲーム市場規模)。中国の約14億人もの人口やスマートフォン等の普及が、市場の成長に寄与しているものと考えられる。
(出所)経済産業省「コンテンツの世界市場・日本市場の外観」、PwC「グローバルエンタテインメント&メディアアウトルック」、一般社団法人ライセンシングインターナショナルジャパン「グローバルライセンシング調査」、株式会社角川アスキー総合研究所「ファミ通ゲーム白書2022」、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会「ゲーム白書2022」、一般財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書」、GPC 中国遊戯産業研究院(2021)「中国遊戯産業報告」


世界のゲーム市場における日本の立ち位置
世界のゲーム市場は約22兆円規模であり、セグメント別にみると、スマートフォンの普及やゲームスタイル等の変化により、モバイルゲームが52.6%と最大シェアを占めている。次いで、日本が強みを持つ家庭用ゲームが26.9%となっている(図表7. 世界のゲーム市場におけるセグメントシェア)。
モバイルゲーム市場は、スマートフォンを使用し別途ハードウェアが必要ないこと、コンテンツの利用に関してもFree to Playが基本で利用ハードルが低く、他セグメントと比較してより多くの層を取り込めることから急成長を遂げている。プレイヤーとしては、中国が最も大きなシェアを持っており、パブリッシャー上位10位をみると、中国と米国が強みを持つ市場といえる(図表8. モバイルゲームパブリッシャー上位10社(2021年/全世界消費支出ベース))。
一方、家庭用ゲーム市場は世界的に縮小傾向にありつつも、日本の高いコンテンツ力が顧客のニーズをとらえ、大部分のシェアを獲得している(図表9. 家庭用ゲーム市場における日本由来コンテンツのシェア)。内訳であるハードウェアについて、一部米国企業のコンテンツだが、大部分は日本企業のコンテンツであり、ソフトウェアについても、日本や米国を中心にシェアを獲得しており、日本が強みを持つ市場といえる。
(注)図表8:ゲームパブリッシャーとは、ゲームの販売や運営等を行う企業を指す。
(出所)電通メディアイノベーションラボ「情報メディア白書2023」、Newzoo「Global Games Market Report」、data.ai「モバイル市場年鑑2022」、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会「ゲーム白書2022」


日本のデジタルコンテンツ産業の展望
日本の家庭用ゲームヒット作は高いコンテンツ力を保持しており、ゲームの枠を超えて、アニメーションや映画等、ゲームIP(知的財産)を活用したメディアミックス展開での成功事例が見受けられる(図表10. ゲームIPの映像化事例)。
国内主要ゲーム会社の2022年度売上高に占めるIP売上高は、足下一桁%台に留まっており、IP展開は発展途上であるが(図表11. 国内企業におけるIP売上高)、大手各社がIP戦略に注力することを打ち出しており、コンテンツ産業の更なる拡大が期待される。
世界のゲーム業界においては、IPやメタバースなどの新たな分野・技術の獲得等を目的としたM&Aが既に進められているが、日本は出遅れている(図表12. ゲーム業界における地域別M&A件数)。既存のゲームIPを軸にしつつ、M&A等も有効活用し、IPの拡充やメディアミックス展開を進めることで、顧客が求める新たなサービスや付加価値を提供し続けられるかどうか、日本のデジタルコンテンツの底力が試される。
(注)図表12:2018年1月1日~2022年12月31日までの5年間における、支配権獲得案件かつクロージング済みで金額が開示されている案件の集計。
(出所)日本経済新聞「ソニーG、「プレステ」10作品実写化へ 手本はマーベル」(2023年5月25日)、任天堂株式会社/株式会社バンダイナムコホールディングス/株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 各社決算資料、デロイトトーマツ「ゲーム業界における日本の動向」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。