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流動性供給入札入門


東京大学 公共政策大学院 服部  孝洋/オックスフォード大学 法学部・経営大学院 齋藤  浩暉


1.はじめに
本稿は流動性供給入札を説明することを目的にしています。流動性供給入札とは、投資家にある特定の国債が多く保有されることで流動性が枯渇した場合等において、市場のニーズに応じて当該銘柄を追加発行し、流動性を回復させる仕組みです。財務省は2006年に流動性供給入札を導入して以降、発行額を増加させており、現在では国債市場において欠かせない仕組みになっています。流動性供給入札への参加資格は、国債の入札において応札義務等を負っている国債市場特別参加者(いわゆるプライマリー・ディーラー(Primary Dealer, PD))に権利として与えられており、彼らの応札により未達が防がれる仕組みを通じて、流動性の向上だけでなく、国債の安定的な消化にも寄与しています。
流動性供給入札は、量的・質的金融緩和が導入されて以降、流動性の低下が市場参加者から指摘される中、重要性が増している施策と言えます。特に、足下では国債の大部分を日銀が保有する状況が生まれており、既発債を追加的に発行する流動性供給入札の重要性が特に高まっているとみることもできましょう。
本稿では流動性供給入札の仕組みをできるだけ具体的に説明しています。なお、国債の入札制度の基本知識を前提とするため、入札の基本の確認が必要な読者は、筆者(服部)が記載した「日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―」(石田・服部, 2020)を参照してください。筆者(服部)が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2.流動性供給入札の概要
2.1 流動性供給入札と市場流動性
流動性供給入札は市場流動性を改善させるための施策です。これが特に有効となるのは、ある投資家が特定の銘柄の国債を多く保有しており、市場での流通量が減少しているような状況です。流動性供給入札は、こういった時に投資家が求める国債を追加供給し流通量を回復させることで流動性を高める仕組みといえます。図表1. 流動性供給入札のイメージが流動性供給入札のイメージを示しています。通常の入札では10年国債などの新発債が定期的に発行されているのに対して、流動性供給入札ではかつて発行された国債を市場参加者のニーズに応じて追加発行するという仕組みになっています(後ほど具体的に説明します)。
そもそも、ここで目的となっている「流動性」自体が把握しにくい概念ではありますが、債券市場の実務家は、投資家が債券などを市場で購入する際の執行コストを市場流動性と解釈する傾向があります*3。例えば、読者が国債を購入するとして、それで国債の価格が大きく上昇するのであれば、購入の執行コストが高いといえましょう。逆に、大きな注文も価格を動かさずに吸収できる市場であれば執行コストは低いといえます。このように、少し注文しただけでも大きく価格が動いてしまう市場は流動性が低い市場であり、逆に取引に伴う価格変動が小さい市場は流動性が高い市場といえます。債券市場ではこのような注文に伴う価格の変動を「プライス・インパクト」といい、市場流動性の度合いを測る基準として活用されています。
図表2. 市場流動性の概念整理は市場参加者がしばしば用いる、流動性を直感的に表現した図表になります。この図表は国債やその先物の板をイメージした図表になっていますが(板については筆者が記載した「国債先物入門」(服部, 2020)をみてください)、例えば、そもそも板に注文が多く入っていたり(図表2におけるdepth)、買い注文と売り注文の価格差がタイトであったりする場合(図表2におけるtightness)、大きな取引を行ったとしても価格が動きにくく、執行コストが小さくなるイメージがつかめます。
本稿では流動性そのものの説明は最低限にとどめますので、より詳しい説明を求める読者は「市場流動性の測定―日本国債市場を中心に」(服部, 2018)をご覧いただけると幸いです。

2.2 プライマリー・ディーラーの権利
冒頭で強調したとおり、流動性供給入札の参加資格が、プライマリー・ディーラーにのみ権利として与えられるという点も重要です。プライマリー・ディーラーと呼ばれる証券会社*4は、財務省が国債を販売して資金を調達するに際して、国債を落札して購入し最終投資家に販売する役割を果しており、国債の消化に重要な存在です*5。具体的には、すべての国債の入札における一定の応札責任や、直近2四半期中の入札における一定の落札責任を負っています。特に、応札責任については、プライマリー・ディーラーに課される応札責任額を合計すると発行予定額以上となるように配分されており、入札の未達を防ぐ仕組みになっています*6。このように、プライマリー・ディーラー制度を通じて、安定的な国債消化の仕組みが構築されていると言えます。
このような、落札責任や応札責任等を果たす代わりに、プライマリー・ディーラーにはいくつかの権利が与えられています。その重要な権利の一つが流動性供給入札への参加です(そのほかにも非価格競争入札等があるのですが、非価格競争入札の詳細を知りたい読者は「非価格競争入札入門―基礎編―」(服部・石田・早瀬・堀江, 2022)を参照してください)。以下では、プライマリー・ディーラーにとって流動性供給入札への参加資格がどのようにメリットとなりえるのか、具体的に考えてみます。
プライマリー・ディーラーの多くは証券会社になりますが、彼らはマーケットメイクをするために、日々国債を在庫に抱えながら売買をしています。そして、証券会社に所属するトレーダーは、時に国債を保有していない場合でも、国債を売却することがありえます。この場合、当該国債を借りてきて、売却することになり、これをショート(空売り)といいます(図表3. 証券会社が国債を借り入れて国債をショートを参照)。
このようにして構築されたショートのポジションを解消するうえで、将来的に当該国債を調達する必要があるのですが、流動性供給入札があれば、財務省から購入することでショートのカバーができることになります(図表4. 流動性供給入札でショートした銘柄を取得してショートをカバーがイメージ)。これは一例になりますが、流動性供給入札があることで、プライマリー・ディーラーはマーケットメイクをより行いやすくなっているといえましょう。

2.3 銘柄統合(リオープン)との比較
流動性供給入札に類似した制度として銘柄統合(リオープン)という制度があります。これは毎月行われる国債の発行において、毎回異なる銘柄を発行するのではなく、前月と同じ銘柄を発行するという発行方法です。例えば、毎月10年国債を新しく発行する場合、1年間で12銘柄生まれてしまうため銘柄ごとの発行額が小さくなってしまいます。これに対して、リオープンは、同一の銘柄を複数回発行することで銘柄ごとの発行量・流通量を増加させ、流動性を高めることを企図しています。
流動性を向上させるという観点でいえば、リオープンと流動性供給入札は類似した制度といえます。財務省も両制度を国債市場の流動性の維持・向上を図るという共通の目的を持つ制度と整理しています。もっとも、リオープンは、新発債の段階で銘柄ごとの流通量を増加させて流動性を高める措置であるのに対し、流動性供給入札は流動性が低下した既発債を追加的に発行することで流動性を回復させる制度であり、目的は同じですが異なるアプローチをとっているものと整理できます。


3.流動性供給入札の実際の流れ
3.1 入札の対象
ここまでは一般的な説明をしてきましたが、ここからは制度の概要を掴むため、具体的な事例を用いて流動性供給入札を考えてみます。まず、図表5. 入札カレンダー(2023年6月)は2023年6月の入札カレンダーですが、これを見ると流動性供給入札が月に2回実施されていることがわかります。具体的には、6月8日に残存5年~15.5年の国債、6月13日に残存15.5年~39年の国債が流動性供給入札の対象となっています。
実際のプロセスとしては、図表6 流動性供給入札の事前公表情報のような形で、入札予定日の通常一週間前に財務省から、入札予定日、発行予定日、発行対象予定銘柄、発行予定額が公表される仕組みになっています。読者がプライマリー・ディーラーであり、流動性供給入札に参加したい場合、図表6に記載してある銘柄について、希望する金額と価格で応札することが可能です。

3.2 入札の実施方法
流動性供給入札では通常の利付国債と同様、10時30分から11時50分の間に応札され、12時35分にその入札結果が発表されます。国債の入札の詳細は石田・服部(2020)を参照していただきたいのですが、日本国債の入札では、参加者が自分で購入したい金額と価格を示して応札します。財務省は応札のうち、価格の高いものから順番に落札していき、発行予定額のところまで落札したら落札を終了します。財務省は40年国債と物価連動国債以外については、投資家が応札した価格で購入するコンベンショナル方式を導入していますが、流動性供給入札においてもコンベンショナル方式が用いられています(40年国債と物価連動国債についてはダッチ方式と呼ばれる方法が採用されています)。
流動性供給入札も他の国債と基本的に同じ方法ではありますが、他の国債の入札と異なる点は、一斉に複数銘柄の国債を対象として入札を行う点です。例えば、図表6.にあるとおり、10年国債・20年国債・30年国債についてそれぞれ数十銘柄が発行対象となり、それらすべてが応札の対象となります。この点が、単一の銘柄のみが対象となる通常の入札と異なる点になります。
財務省が高い価格で応札された国債を落札するためには、なんらかの基準を設けて、異なる銘柄間で割高な札と割安な札を判断しなければなりません。そこで、現在は、前営業日の金利(売買参考統計値)*7をベースに、高い価格を付された国債を落札していくという方法がとられています。
図表7. 流動性供給入札の入札方式のイメージ図がそのイメージになります。ここでは340回債(10年国債)、130回債(20年国債)、5回債(30年国債)について、発行額100億円に対して図表7のように応札があったとします。金利と価格は逆の動きをするため金利が低い札ほど価格が高いことを意味しており、財務省としては先に落札するメリットがあります。したがって、前営業日の金利に対して、より低い金利で応札した札(すなわち、前営業日の金利との差である希望利回り格差が小さい銘柄)から順番に落札していくことになります。図表7の事例でいえば、(1)340回債の40億円(A社応札)、(2)5回債の30億円(B社応札)、(3)130回債の10億円(A社応札)が落札されることになります。
(1)から(3)まで落札した合計は80億円(=40億円+30億円+10億円)ですが、図表7における発行額は100億円であり、まだ足りません。一方で、(4)の注文(希望利回り格差は+0.010%)40億円をすべて落札すると発行額である100億円を20億円上回ってしまいます。したがって、これについては20億円まで案分して落札するという形式がとられています。

3.3 入札結果の見方
図表8. 流動性供給入札の結果が流動性供給入札の結果ですが、応募額に加え、募入決定額、募入最大利回格差、募入最大利回格差に係る案分比率、募入平均利回格差を公表しています。図表8の結果の場合、売買参考統計値に対して、平均的には+0.002%(募入平均利回格差)だけ金利が高い水準で発行されており、発行予定額ギリギリとなる金利は+0.003%(募入最大利回格差)であったことを意味しています。募入最大利回格差に係る案分比率は68.7280%ですが、これは図表7における例の様に、発行予定額ギリギリとなる金利での応札額が発行予定額を超えたときの案分比率になります。この結果でいえば、読者が+0.003%(募入最大利回格差)で、100億円応札していれば、おおよそその69%(69億円)落札できるということを意味します。市場参加者が入札結果を判断する上で参照する「テール」は「平均価格」と「最低価格」の差で計算されますが、この場合、テールは0.002%(募入平均利回格差)と0.003%(募入最大利回格差)の差である0.001%ということになります(入札の結果を測る指標として、その他に応札倍率などがありますが、国債の入札結果の詳細を知りたい読者は石田・服部(2020)のBOX4を参照してください)。
図表9. 流動性供給入札において追加発行した国債の銘柄が流動性供給入札で追加的に発行された銘柄の一覧ですが、このように入札ごとにどの銘柄がいくら発行されたかが開示されます。発行対象予定銘柄に含まれていながらここに記載されていない銘柄は、入札対象であったものの、前述の入札のメカニズムに従って発行されなかったということになります(そもそも応札がなかった、または、応札されたものの応札された金利が高かった(価格が低かった)と解釈されます)。

3.4 隔月で異なるゾーンの入札を実施
以上が流動性供給入札の流れになりますが、前述のとおり、現在、流動性供給入札は月に2回実施されており、隔月で異なる年限の国債の供給を行っています。具体的には、残存5年~15.5年のゾーンを対象とする流動性供給入札は毎月行われていますが、残存1年~5年と15.5年~39年のゾーンは、隔月で実施されています。図表10. 入札カレンダー(2023年5月)が2023年5月の入札になります。この時は残存5年~15.5年のゾーンに加えて残存1年~5年のゾーンが対象となっていますが、残存15.5年~39年のゾーンは対象となっていません。


4.その他の論点
4.1 これまでの制度改正の流れ
ここまで現行の制度概要について説明してきましたが、流動性供給入札については、財務省による制度改正が積み重ねられてきました。以下ではこれまでどのようにこの制度が拡充されてきたのかを概観します。
流動性供給入札が開始されたのは2006年4月で、当時は残存11年~16年の20年国債についてのみ、毎月1000億円発行されていました(図表11. 流動性供給入札の制度の変遷(発行額等の推移))。その後、2008年4月に対象となる年限が拡大され、残存6~15年及び残存16~29年の二つのゾーンについて発行が行われるようになりました。発行額と対象範囲はこの後も徐々に拡大していますが、毎月2回という入札回数はこの頃より変わりありません。
そして、2016年には、流動性の維持・向上を図ることを目的として残存1~5年が新たなゾーンとして対象に追加されています。当時、流動性供給入札の対象外だった残存5年以下の国債も需給がタイトであるとの指摘が市場参加者からなされていました*8。現に流動性供給入札による発行が残存5年から6年の銘柄に集中するなど残存期間の短い銘柄への強い需要の兆候も見られました。そういった状況の中で、図表12. 流動性供給入札の制度の変遷(発行額等の推移)のとおり、残存1年~5年の銘柄も対象とする形へと制度変更が行われました。
その際、従前から行われていた残存5年~15.5年ゾーンの対象銘柄を拡大する(残存1年~15.5年で一つのゾーンとする)案も検討されていましたが、残存期間の短い銘柄を同じゾーンとして扱うと、国債先物取引の受け渡し銘柄としての需要がある残存7年程度の国債(いわゆるチーペスト)が発行されにくくなる恐れが懸念されました(国債先物の商品性やチーペストについては「国債先物入門」(服部, 2020)を参照してください)*9。そのため、残存1年~5年は、独立した3つ目のゾーンとして、新たに入札の対象となりました。

4.2 国債発行計画
次に、国債発行計画と流動性供給入札の関係を説明します。日本国債の発行予定額そのものは、例年12月末ごろに「国債発行計画」が公表され、市場参加者に明らかにされます。流動性供給入札の発行予定額についても国債発行計画で公表されますが、特徴的な点は、具体的な年限が計画では定められておらず、入札によって決定される点です。
図表13, 国債発行計画(カレンダーベース市場発行額)における流動性供給入札についてが国債発行計画(令和5年度)におけるカレンダー・ベースの市中発行額ですが、流動性供給入札の金額が12兆円とされています。各年限の発行予定額についてはこの図の右下に、残存1年~5年は3兆円、残存5年~15.5年は6兆円、残存15.5年~39年は3兆円というかたちで、ゾーンを設けて発行額が決められていますが、具体的に何年債がいくら発行されるかは定まっていません。具体的にどの年限の国債がいくら発行されるかはプライマリー・ディーラーがどの年限の国債をどの価格で応札するかに依存します。
なお、国債発行計画の概要については筆者(服部)が今年度リリース予定である「日本国債入門(予定)」を参照してください。

4.3 前営業日の金利を基準とした入札制度の論点
前述のとおり、流動性供給入札には、具体的な発行銘柄を発行当局の側で選択するのではなく、入札の結果に基づいて発行銘柄が決まるという、重要な特徴があります。これにより、市場からのニーズが高い銘柄を発行することが出来、マーケットの実態に照らして必要性の高い銘柄の流動性が高められるという設計になっています。
ただし、前述のとおり、流動性供給入札では前営業日の金利(具体的には「入札日付で日本証券業協会が発表した公社債店頭売買参考統計値表に掲載された平均値の単利利回り」を指しており、これは発表日付の前営業日の午後3時の気配値に基づいて作成・発表されます。)に対して利回り格差が小さい(割高な価格の)応札から落札されます。したがって、一部の銘柄が入札日の11時50分までの間に大幅に値上がりした場合、当該銘柄を前営業日対比でより割高な価格(より小さな利回り格差)で応札しても経済合理的となるため、流動性の高低にかかわらず、落札が集中する可能性があります。
この点に、流動性供給入札の構造上の課題があり、例えば2023年3月22日の国債市場特別参加者会合(PD懇)でも、出席者から「市場のボラティリティが大きく、一日のカーブの動きが非常に激しい局面が続く中においては」「発行される銘柄及び量が市場の需給に鑑みて必ずしも最適な状況になっていない可能性がある」との指摘や、「現状のルールだと、前日の引値が甘かった銘柄や当日のカーブ形状にかなり影響を受けてしまい、追加発行しなければいけない銘柄が発行されないことが多い」との指摘がなされています。
その一方で、入札時におけるセカンダリー市場での客観的な価格データを得ることが困難であることも事実であり、現実的な運用にあたっては前営業日の金利(売買参考統計値)を用いる現行制度にも合理性がある点には留意が必要です。日銀の国債買い入れオペについても同種の問題が指摘されることもありますが*10、現状も流動性供給入札と基本的に同種のメカニズムでオペレーションを行っています。


5.おわりに
今回は流動性供給入札について取り上げました。本稿では制度面に焦点を当てましたが、流動性供給入札の学術研究について関心がある読者はHattori(2019)を参照してください(この論文では流動性供給入札が市場流動性を改善させていることを実証しています)。次回は、齋藤通雄前理財局長へのインタビューを通じて日本国債の歴史的な議論を行う予定です。
参考文献
[1].石田良・服部孝洋(2020)「日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―」財務省財務総合政策研究所 PRI Discussion Paper Series(No.20A-06).
[2].財務省理財局(2022)「債務管理リポート2022」
[3].土川顕・西崎健司・八木智之(2013)「国債市場の流動性に関連する諸指標」『日銀レビュー』(2013-J-6)
[4].服部孝洋・石田良・早瀬直人・堀江葵(2022)「非価格競争 入札入門―基礎編―」『ファイナンス』9月号, 14–23.
服部孝洋(2018)「市場流動性の測定―日本国債市場を中心に」『ファイナンス』2月号, 67–76.
[5].服部孝洋(2020)「日本国債先物入門:基礎編」『ファイナンス』1月号, 60–74.
[6].Hattori, Takahiro(2019)“Do Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB market?” Economics Letters 183, 108516.

*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 土川・西崎・八木(2013)では「『流動性の高い市場とは、大口の取引を小さな価格変動で速やかに執行できる市場である』(Bank for International Settlements〈1999〉)といった定義は比較的頻繁に引用されており、広く共有されている。」としています。
*4) 我が国のプライマリー・ディーラー制度では一部の銀行も含まれている点に注意が必要です。
*5) 欧米主要国において導入されている、いわゆる「プライマリー・ディーラー制度」を参考として、2004年10月に、「国債市場特別参加者制度」(日本版プライマリー・ディーラー制度)が導入されました。
*6) 応札責任割合は「発行予定額」÷PD数(N)になります。例えば、N=20の場合、応札責任割合は5%となり、発行予定額と応札責任額の合計は同額になります。また、応札責任割合は「1未満の端数があるときは、その端数は切り上げる」とされているため、例えばN=19の場合、各PDの応札責任割合は6%となり応札責任額の合計は発行予定額を超えます。
*7) 入札日付で日本証券業協会が発表した公社債店頭売買参考統計値表に掲載された平均値の単利利回り
*8) 国債市場特別参加者会合(第63回)では、出席者から「残存5年以下のゾーンは、需給がタイトで投資家のニーズに対応できていない状況であるため、ぜひ対象に追加してほしいと考えている。同ゾーンの実施額としては、年間1.2兆円程度から始めるのがよい。スケジュールについては、残存5-15.5年ゾーンを毎月実施し、残存1-5年及び残存15.5-39年ゾーンを隔月で実施することを希望する」等と指摘がされています。その次回の国債市場特別参加者会合(第64回)では、理財局より「11月の本会合において、実際に導入する場合の具体的論点についてご議論いただき、更に本会合に先立ち事前に皆様のご意見をお伺いしたが、残存5年以下のゾーンの需給は引き続きタイトであり、同ゾーンに対象を拡大することを希望する意見が多かったものと認識している」と説明されています。
*9) 国債市場特別参加者会合(第64回)において理財局より、「ゾーン区分については、既存の2ゾーンに新しいゾーンを追加して3ゾーンで実施する方法と、対象年限を1年まで拡大して2ゾーンのまま実施する方法とが考えられる。ただ、2ゾーンで実施する場合、入札の特性を考慮すると、先物取引との関係での需要が高い残存6-7年の銘柄が落札されにくくなるおそれがあると考えられる。そのため、残存1年超5年以下、残存5年超15.5年以下、残存15.5年超39年未満の3ゾーン制とする」と説明されています。
*10) 例えば、2004年1月29日「金融調節に関する懇談会」における白川理事スピーチでは、「そのひとつは、国債買入オペの基準利回りの設定を巡る問題です。現在、落札に当たって基準とする利回りは、オペを実施する前営業日の終値(日本証券業協会がその前営業日に当該営業日付で発表する公社債店頭売買参考統計値表に掲載されている平均値の単利利回り)を用いていますが、オペのオファーは10時過ぎとなっています。このようにオペ時点の市場実勢とはかなり乖離しうる利回りを基準とすることが、オペ結果や国債市場に何らかの歪みを生じさせないかという点は、私が常日頃から重要と考えている論点です。ただ、国債の全銘柄についてオペ時点の市場実勢レートを把握することは難しいことも事実です。この点については従来よりオペ先とのヒアリングの場でもお聞きしていますが、何らかの改善の余地がないかどうか、今後とも皆様のご意見を聞かせて頂ければ幸いです」としています。