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信用補完制度の解説~主に信用保険制度の観点から~(Ⅳ)

大臣官房信用機構課地震再保険係長(前 政策金融課政策金融第2係長) 中川  忠明


1.はじめに
第1回及び第2回までで、概ねの制度創設の背景・流れについて述べ、また前回(第3回)においては、信用補完制度がどのようにして運用されているのかという点について、法令・制度と予算の両面のうち、前者について述べた。
そこで今回は、残る予算の面から捉えることとし、また、今回を含めて計4回の内容を踏まえて、最後に信用補完制度について、一つのまとめを述べることとしたい。
(注) 引用している条文等は、特段断りがない限り、令和5年4月1日時点のものとした。
なお、意見に亘る部分は筆者個人の私的見解であり、政府や財務省の公式見解ではない。また、ありうべき誤りは、全て執筆者個人に帰属するものである。


2.信用補完制度の仕組み~予算措置~
法令などの制度運営面では、本稿の第3回で述べているように、中小企業政策という観点からも経済産業省が主となっている。では、その実施のための予算措置はどうなのかというと、少し先に結論を述べてしまえば、主に財務省が、信用補完制度の土台となる予算(株式会社日本政策金融公庫の信用保険事業(以下「公庫保険」という。)の財務基盤を強化するための出資金)を計上する形となっている。
勿論ながら、財務省が信用補完制度に係る全ての予算を計上しているわけでは無い。例えば、経済産業省にて信用保証協会の損失を補填するための補助金等も講じられている。しかしながら、その土台となる予算は財務省で計上されているというのが、この信用補完制度に係る予算措置を解するうえでの鍵である。
では具体的にはどのような予算措置が講じられているのか。以下、ここからは財務省計上予算である公庫保険への出資金を軸に、詳細を述べていくこととしたい。

(予算額)
まず金額面では、毎年度多額の予算措置が講じられている。例えば、令和5年度当初予算の場合、先述の出資金として、467億円を財務省にて計上しているところである。
なお、公庫保険はその成立以来、上記のように財務省にて大方の予算(出資金)を計上する形となっており*1、過去5年度間(令和元年度から令和5年度)の当初予算では、平均して、毎年度約459億円が財務省にて計上されてきた*2。

(事業規模)
では、公庫保険が保険を措置出来る金額は、上記の予算額なのかというとそういうものではない。この予算措置は、公庫保険がその保険事故によって負ってしまう財務基盤の毀損に耐えられるよう、財務基盤の強化を行うものであるから、実際にはそれを遙かに上回る保険対象額が存在するわけである。
正確性を犠牲にして、敢えて単純化して述べてみたい。
例えば、100の保険額があるとして、10%が保険事故を起こすとするならば、10の予算措置をしておけばその事業損失(財務基盤の毀損)に公庫保険は耐えられる。それは裏を返せば、10の予算措置で100の保険額を実現できるということであるから、予算は10であったとしても、実際に便益を与えることができるのは100である、ということになる。
そして、この100こそが実務上は、事業規模と呼ばれているものになる。
一般的に予算額へ目が向きがちであるけれども、事業規模は、信用保証協会が行える保証額とも紐付いているため、信用補完制度が現実的に稼働できる限界範囲ということになる。そして、最終的にはこのような予算措置と事業規模の内容等を踏まえて、その年度中に、公庫保険が保険契約を締結できる保険価格の総額(限度額)が、予算総則(令和5年度の場合、政府関係機関予算の予算総則第3条)に記載されることとなる。
一般的な傾向として、予算額が多ければ事業規模も増加するため、予算額が大きければ多くの信用保険を提供できるということは言えるであろう。一方、仮に事故率が上昇している状況下(例えば、災害対応)にあっては、一般論としては、同じ予算額でも対応できる事業規模は縮小してしまう。
このように、信用補完制度の予算措置を正確に理解するにあたっては、予算額と事業規模の双方の概念を連結して理解しなければならない。どちらだけを見ていても、信用補完制度の適切な理解は困難なのである。

(信用保険と予算措置)
さて、ここまでの内容を見て、もしかすれば、初見の方は以下のように思うかもしれない。すなわち、信用「保険」なのであるから、保険である以上、保険数理に基づき、収支相等の原則が働いているのではないのか、より平易に言えば、その引き受ける保険ごとの危険度に応じて、保険料率が引き上げられる等することが保険事業として一般的であるから、適切に保険料率を引き上げればよく、このような予算措置が必ずしも必要なのか、というものである。
この点については、どうしてもその名称からご指摘のようなご意見は十分承知するものの、実際的な政策面を考えると仕方の無い部分があると言わざるを得ないように思われる。その理由は、最も端的に言えば、中小企業信用保険法(昭和25年法律第264号。以下「信用保険法」という。)において、保険料率に上限が法定されているからである。
別の言い方をするならば、保険の論理(収支相等の原則)から、現行の上限(3%)を超える保険料率の設定が必要だという場合が生じたとしても、法制上の措置なく当然に引き上げるというようなことを想定した制度とはなっていないのである。
保険プールがある程度構築されれば、大数の法則からどの程度の事故が発生するかは算定可能にはなるため、保険料率の上限があることのみを以て、ただちに制度運営の機動性が落ちるとまでは言い切れないだろう。とはいえ、何故に、法律上で上限を定めているかという点については、今となっては確たる背景を探ることは難しい。当時の国会審議等に鑑みれば、法制過程を含めた、総合的な政策的判断によるものであると捉えるべきものなのであろう*3。
なお、こういった政策的な観点から自由な保険料率を設定しない中では、その財政措置の内容等を踏まえ、その事業規模を設定せざるを得ないであろうから、現行の法令上の立て付けは、その観点からも論理的に妥当なものと思われる。
ちなみに、仮に法改正をして、保険料率を公庫保険が自主的に決められる、としたならばどうであろうか。
この場合、確かに公庫保険はその経営上必要な料率改定を可能とするであろう。しかしながら、その場合、信用保険法第1条にある「中小企業者に対する事業資金の融通を円滑にするため、中小企業者の債務の保証につき保険を行なう制度を確立し、もつて中小企業の振興を図ることを目的とする」とする法目的を達する上で、適当な保険料率に必ず収まることは、制度上保証されないであろう。すなわち、一般論として保険料率と保証料率は連動しているため*4、収支相等という保険数理上の目的だけを単純に達成するとして際限なく保険料率を上げるとすれば、当然に中小企業者等が負担する保証料率も上昇せざるを得ないが、それは信用保険法の趣旨に沿うものとなりうるか、という論点が生じうる。
少なくとも現行の信用保険法の全体像を勘案することなく、単に保険料率を自由に定められるとすれば、この論点が解決されるものではないだろうと思われる。
では、保険料率の上限を簡単に変えられないとするならば、仮に引き受けるべき保険を、公庫保険が吟味すればよいのではないか(事故率が高い信用保証協会からの保険を引き受けなければよいのではないか)というようなご意見もあるかもしれない。
しかしながら、このようにした場合、公庫保険が行う内容は、信用保証協会への再保険機能では無く、実質的に「再保証」機能となってしまうと考えられる。再保証的な取扱いで対応するとするならば、これまでのような、いわゆる包括保険契約*5という取扱いは出来なくなるため、従来に比べ著しく保険審査コストが上昇することが予想されるほか、信用補完制度の中で著しい地域差を生じさせる可能性もあるだろう。なお、信用保証協会は、各地方公共団体の中小企業政策とも密接な関連があるから、再保証的な取扱いに変えるか否かの議論は、各地方公共団体の中小企業政策にも非常に大きな影響を与えることを認識しておく必要がある。
このように信用保険と予算措置については、非常に多面的な議論となることが容易に想定されるため、仮に何らかの政策的な検討を行う必要が生じた場合は、そういった点も十分留意の上で議論されることが望ましいと思われるところである。
その上で、ここまで述べたような論点があるとして、まず現状において、可能な限り事故率を引き下げ、低廉な保険料、より効果的かつ効率的な資金繰り支援を実現するために、今、まず取れる策は何かと問われたならば、どうお答えするべきだろうか。
この点については、様々なご意見があることは承知の上で、あくまで私見として述べるならば、少なくとも、公庫保険・信用保証協会・民間金融機関が、その融資先(保証先)への支援にあたり、緊密に情報共有等の相互協力が行われる関係性を維持・強化していくという路線を、これまで以上に進めるしかない、とお答えするしかないのではないかと思われる。
一見見落とされがちであるが、公庫保険・信用保証協会・民間金融機関は、信用補完制度上では、何らか一方が、当然に優位するような関係性にならない(それは、この信用補完制度の複雑な成立経緯も含め、これまでの積み上げによるものである。)。それ故に、関係する諸アクター間の相互協力という形を深めることが、まず現状において取りうる解の一つであろうと考える次第である。
そして、そういった相互協力は、これまでも行われてきたところであるが、新型コロナ対策により保険引受額が従来になく積み上がった現在においてこそ、その重要性はさらに高まるのではないだろうか。勿論、上記の3アクターに限らず、信用補完制度に関係するアクターによる有機的な連携が広く行われていけば更に望ましいことは言うまでもないだろう。

(まとめ)
信用補完制度は、その発足以降、中小企業政策に係る重要な金融インフラとして、いかなる場合であっても安定的かつ確実な稼働が求められてきた。また、地方公共団体の中小企業政策にも関連するため、非常に多面的な制度環境の理解無くして、その適切な改善を図ることも難しい存在となっている。
一方、信用補完制度は法令上の立て付けに加え、予算面について、事業規模と予算額という2つの概念を組み合わせて理解しなければ、その全体構造を理解することも容易ではなくなってしまっている。
信用補完制度には、これまで述べたように多額の予算が措置されているため、そのあり方については非常に多くの意見が存在すると思われる。それにあたっては、法令面もさることながら、予算面からもその構造を広くご理解いただくことが、適切な議論・検討に必要と思われる。
ここで述べている内容は、信用補完制度の予算構造としては、一般的な内容を、可能な限り平易な言葉に置き換えているに過ぎない。しかしながら、ここで述べた内容を台に信用補完制度について少しでも理解を深めていただき、今後の何らかの議論・検討に活用いただける方がおられるならば、筆者としては幸いである。


3.おわりに(最後に)
ここまで、4回にかけて、概ね、歴史的、法的、予算(財政)的な観点から、日本の信用補完制度について述べてきた。その内容自体は、一つ一つをみれば、信用補完制度に少しでも携わった方から見れば、さほど目新しい内容ではないだろうけれども、一体的に解説するという点に重心を置く試みとして書かせていただいたところである。
敢えて言えば、歴史的経緯に相当程度ページを割いているという点が、この手の解説においては少々珍しいかもしれない。この点については、現行制度を理解すれば足りるのであるから、そのような戦前・戦後まで遡らなくてよいのではというご指摘もあろう。ご指摘は、現行の信用補完制度を知るという点においては、おっしゃる通りと思う。
一方、「過去は現在の光に照らされて初めて知覚できるようになり、現在は過去の光に照らされて初めて十分理解できるようになる*6」という言もある。どうしても現在の光に、実務者、とりわけ、目の前の課題を解決したい現役の者ほど目を向けてしまいがちであるけれども、過去の光にも目を向けることが、結果的により良い制度理解に資するだろうと考えたものである。どうかご理解頂ければ幸いである。
また、今般の新型コロナ対策を含め、今後も、信用補完制度については様々な議論・検討が進められていくことになると思われるが、その際には、関係者や専門家に限らず、この制度を少しでも、多くの方に正確に理解していただくことが必要であろうと思うし、それにあたっては、こういった経緯を含めた一体的な解説物があった方が良いのではないかと、実際に書いてみて改めて思うところである。法的な部分など、極めてテクニカルな内容も多いため、分かりづらい部分も多々あったかと思われるが、何卒ご容赦いただきたい。
最後に、あくまで私見ながら一つ述べておきたい。
日本の政策金融は、この信用補完制度を含め、常に「民業補完」をその基本理念として行われてきた。ただし、その求められる補完の形は、少なくとも戦後においては、高度経済成長期を中心に「量」に係るものから始まった。そういった環境の中で、現行の信用補完制度は、経済規模が急速に拡大する中にあって、中小企業者等へのある種の保護として、十分な資金を供給ならしめるという観点では、最適化された政策金融システムの一つであったのであろう。
一方、日本経済の発展と成熟の中で、政策金融改革を経て、求められる補完の形は「質」に係るものへと変化してきたと考えられるところ、信用補完制度は難しい制度的舵取りを求められてきたと思われる。すなわち、平時には、創業などの政策課題への対応ツールとしての役割を求められつつ、今般の新型コロナ対策においては特に顕著であったように、量的補完という旧来のような役割にも応えなければならない。
こういった点は、他の政策金融にも共通するものではあろう。しかしながら、信用補完制度は、先述の歴史的経緯をその根底に有するが故に、民間・地方・国という、明白に見えるだけでも常に3つのアクターを制度的に内包し、かつ、そういった制度において、質的補完と量的補完という時に相反する政策目的を如何にして達成しうるかを常に考えなければならない、という、他の政策金融と比べて複雑なバランス構造の上にあることは否めない*7。
したがって、その制度改善等の議論にあたっては、現状の制度バランスがどのようになっているか、というその現況把握にどのように努めるかが、非常に重要ではないかと思われる。
信用補完制度は、非常に多様なアクターが関与するものの、なかなか日常では、そういった点を感じ難いのではないだろうか。本稿を通じ、僅かでも信用補完制度そのものに興味を持っていただける方が居られたとすれば、それに越したことは無い。また、我が国の信用補完制度に係ることに関わらず、本稿が、中小企業者等への資金繰り支援にあたり、何らかの制度改善や政策検討に資するものとなることがあれば、この上なく幸いである*8。
(以上)

図表1. 公庫保険への財務省予算措置(令和元年度から令和5年度(当初予算))
図表2. 公庫保険と予算措置(イメージ)

*1) 政策金融に係る予算について、補給金制度の導入以前(昭和40年まで)は、出資金を大蔵省予算として計上していたようである。信用保険事業については、昭和33年の中小企業信用保険公庫の設立以来、継続的に出資金が措置されているところ、所管(予算計上先)について、特段の変更をする理由がなかったため、現在に至るまで、財務省が予算要求している。
*2) 信用補完制度に係る予算措置のうち、(1)様々な信用保証を引き受ける信用保険制度(公庫保険)への予算措置は、その基盤となる予算措置であり、かつ、(2)公庫保険へは、災害対策等の面から補正予算等において、多額の追加予算措置が行われる傾向にあるところ、信用保険事業の基盤的な予算措置にどの程度の予算を要しているのかということを端的に示すには当初予算が適していると考え、ここでは、公庫保険への当初予算を記している。
また、公庫保険への当初予算全てが、常に財務省計上であるとは限らないものの、その大宗が財務省計上(例えば、令和4年度当初予算の場合、公庫保険への出資金のうち、財務省分が約99.6%(471.2億円/473.2億円)となっていることに鑑みれば、財務省計上分で、概ねの予算措置傾向が把握可能と考えているところである。
*3) 昭和33年3月13日の衆議院商工委員会においても、下記の質疑がなされている。中小企業信用保険公庫として収支相償の経営を目指しつつも、中小企業政策の観点から、中小企業者等に対し可能な限り低廉な保険料を可能とするという論点は、その制度成立時からのものであることが、この質疑からも示されているのではないだろうか。
○内田委員(内田常雄議員)
 …この保険料率というものは、安ければ安いだけいいのでありますから、これは実績を見た上で、さらに冒頭にも論議をいたしましたように、保険準備基金を将来充実させることとも関連いたしまして、今後一そう引き下げていただかなければならないと思います。
 ところで、私は法律構成上、非常に重大な問題をお尋ねをいたしますが、今度政府は、同じくこの国会に輸出保険法の改正法案をお出しになっております。ところが、この輸出保険法によりますと、保険料率決定の原則というものが、何条かにあります。それによりますと、輸出保険の保険料率というものは、保険金をカバーするような計算においてこれをきめなければならないということが、法律にちゃんとうたわれております。いわば、自立採算制で、輸出保険の保険料はきめなければならないということがうたってあります。同じ政府の保険制度でありながら、この中小企業信用保険法におきましては、保険料率決定の原則が、輸出保険とは違うのでありまして、決して自立採算制でなければならないということになっておりません。政令の定むるところによってこれをきめるということであります。従って、同じ通産省が所管せられておる保険制度において一方に自立採算制によらなければならないという明瞭な規定がありこの中小企業信用保険の方にその規定がないということは、中小企業信用保険においては、必ずしも保険料支払い、あるいはその他の経費がカバーできるような高い保険料をとらなくてもいいのだ。中小企業対策として、相当保険基金に食い込んでも、できるだけ安い保険料をきめなさい、こういう趣旨だと思いますが、これはいかにお考えでございましょうか。
○川上政府委員(中小企業庁長官)
 輸出保険の関係と、その点において違うじゃないかというようなお話でありますけれども、私は、輸出保険の法律はよく読んでおりませんけれども、この中小企業信用保険公庫の方につきましても、やはりこういう公庫を作るからには、独立採算という考え方でいくべきだというふうに、私どもは考えておりまして、その点は全く輸出保険の方と同じじゃないかというふうに考えておるわけであります。そこで、この公庫にいたしましても、保険料を非常に引き下げろとか、あるいは包括保険に重点を置いたとか、そういうような関係からいたしますと、やはり保険関係においては、相当のマイナスが出てくるわけでございます。それをカバーするのは、結局六十五億と、それから現在の保険の特別会計で残っておりますものを計上する分、それを合せました額を資金運用部に預けまして、その運用益でカバーするというような格好に、実はいたしておるわけでございまして、公庫を作りまして、独立採算とはいいながら、相当保証協会に対する持ち出しといいますか、そういうことになってくるわけでございます。
○内田委員
 中小企業庁長官、研究不足のようで、私は輸出保険法のことはよく知らぬということは、政府委員として答弁にならぬのであります。いずれも通産省が所管する信用保険制度でありますから、そこはさらに研究されて、そもそもこの中小企業信用保険というものは、輸出信用保険とは違うのだ、中小企業対策としての考え方から出発するのだということを、事の初めに考えておかれないと、どなたが今度の信用保険公庫の理事長になられるのか知りませんが、もうけ主義でやられたのでは、これは中小企業者を踏み台にするだけで、たまったものじゃありません。これは、一つ、きょうからさらに御研究を願わなければならないと思います。ことに、今度の信用保険公庫の基金にされる六十五億円というものは経済基盤強化資金法案によって、六十五億円がこの公庫に出されるのでありますが、何と書いてあるかといいますと、経済基盤強化資金法の第十一条の第二号でありますけれども、中小企業信用保険公庫に出資する六十五億円の基金は、同公庫の保険事業の損益計算上損失を生じた場合において、その損失をうめるための保険準備金とする、こう書いてあるわけであります。従って、たな上げ資金とはいいながら、この六十五億円は、ちゃんと損をする建前で、損をした場合には、だんだんこれを食っていくのだ、こういうことになるわけであります。従って、輸出保険制度と同じように、独立採算でいくのだという建前でもないようでありますから、私は、この点をも十分研究をしていただきたいと思います。
 なお、敢えて中小企業信用保険公庫以前の議論まで立ち返ってみると、保険料率の上限(3%)というのは、中小企業信用保険特別会計にまで遡ることができる。そして、その当時の考え方については、「中小企業信用保険公庫五年史」において次のように記されている。とはいえ、これは中小企業信用保険公庫の前身たる中小企業信用保険特別会計の議論でもあるし、そもそも、当時の議論状況と現在の信用補完制度の状況は当然に異なる。したがって、今となっては、そのバックグラウンドを知るという意味で取り扱うことが妥当な解説であろう。
「この新制度について中小企業庁は、…特長点を次のとおり挙げている。…(六)本制度の運営は、自立採算を維持するよう要求されている。保険料率が高率であることも、収支相償うべき保険計算の要請に基づくものである。この種の保険は、わが国では未発達であるために、厳密なリスク・レートの算出ができず、かつその変動率も高いと考えられるので、相当の安全率を加算した結果、年三%となつた。…」
*4) 平成29年5月11日の衆議院本会議において、次のように答弁されている。
○鈴木義弘君
 ただいま提案されました中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案について、民進党を代表して質問いたします。…
 さらに、本題の信用保証協会利用の理由についての設問では、信用保証協会を利用している企業の七割が、金融機関に勧められたからと回答していて、信用保証協会から保証を得られなかったことで金融機関から融資を断られた企業が百十八社存在し、その約五割が赤字などの理由で資金不足になったときの借り入れと回答した結果であります。
 この結果だけを見ると、信用保証協会や金融機関は何のための存在意義なのかわかりません。事業性評価を最大限活用するための目きき力の重要性がうたわれていながら、現状ではそれが実行されていません。さらなる方策をお尋ねいたします。
 過去にも信用保証制度の問題点が指摘されており、今回の法改正に至らなかったものを取り上げて質問いたします。
 第一に、金融機関と借り手企業のモラルハザード。第二に、我が国では、信用保証制度の政策効果と副作用について検証が十分に行われているとは言いがたいこと。第三に、信用保証制度のコスト面の課題。
 つまり、信用保証制度に関連して、過去十四年間で八兆円を超える支出規模が適正かどうか。また、信用保険に対する財政措置の多くが、補正予算で手当てされて、国民の目に届きにくく、その是非について広い議論が行われることを妨げている。補正予算で手当てされた信用保険向け政府出資金は、過去十四年間を単純に平均すると年四千五百億円を超えている。政府支出以外に、保証協会向けに地方自治体が負担しているコストが別途存在し、社会全体として、信用保証制度に関係してどれぐらいの財政コストがかかっているのか、非常に見えにくいというものです。
 第四に、長年赤字が続いている信用保険制度の収支改善を図るには、保証協会が政策公庫に支払う保険料の変更も検討の余地があり、金融機関の審査インセンティブと借り手企業の経営努力インセンティブを同時に高めるような制度設計が望まれるが、その方策はお考えか。…
○国務大臣(世耕弘成君)
 …
 保険料の制度設計についてお尋ねがありました。
 保証協会が再保険のために日本政策金融公庫に支払う保険料の料率は、個々の中小企業の信用リスクを、CRD、クレジット・リスク・データベースと言われるビッグデータを用いて定量的に判定し、九区分できめ細かく適用される仕組みとしております。この保険料率と、中小企業が保証協会に支払う保証料の料率は、基本的に連動する設計となっております。
 この仕組みは、リスクに応じた適切な保険料率となることで保険収支が安定するとともに、御指摘のとおり、経営改善を進めて信用リスクを低下させれば、保証料率も段階的に引き下がるというインセンティブにもなり、結果として代位弁済が抑制され、保険収支の改善につながるものです。
 その上で、保険料率、保証料率の水準や体系のさらなる見直しについては、まず、今般の見直しの中核となる保証協会と金融機関のリスク分担を初めとする各種制度改正を進め、その効果を十分に検証した上で、御指摘のように、中小企業の経営改善のインセンティブに一層つなげること、制度の持続可能性を確保することといった点を総合的に勘案しつつ、検討してまいります。
*5) 正式名称は「包括保証保険契約」である。その内容は、株式会社日本政策金融公庫のHPにおいて、下記のように解説されている。なお、この契約方式(制度)の導入当初等の詳細は、本稿の第2回における脚注16を参照されたい。
「信用保証協会が中小企業者の金融機関からの借入等による債務を保証した場合に、借入金の額のうち保証した額の総額が一定の金額に達するまで、その保証について、信用保証協会と公庫との間に自動的に保険関係が成立する契約のこと…」
https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/insurance_glossary.html
*6) 「歴史とは何か(新版)」(E.H.カー 近藤和彦訳) P.86
特に、日本の戦後金融については、GHQによる戦後統治期の議論・動向まで遡ることが、結果的に、本来の制度趣旨等を理解するにあたり必要であることが多いように思われる。
*7) 一方、そのような構造は、制度全体を動かすという点ではコントロールや調整の難しい制度になっているとしても、例えば、地方公共団体の制度融資等に組み込まれることで、地域最適化の実施という点では柔軟性のある制度になっていると言えるのかもしれない。
*8) 「ミャンマー金融道 ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日」(泉賢一)のように、日本国外では、信用補完制度を一から構築するようなケースも存在する(この際は、筆者によれば、日本の信用補完制度を参考に、現地の状況を踏まえて制度設計を行ったとのことであった。)。
どういった構造(全国一律的な政策実施に重点を置くのか、地域最適化の実施に重点を置くのか等)の信用補完制度を構成することが最適解であるかは、当然にその国・地域の状況等によりケースバイケースであるけれども、仮に日本の信用補完制度を参考とした制度改善や政策検討が行われる場合にあっては、現行法制や制度の理解もさることながら、そもそも、この日本の信用補完制度がどういった特質を有するか、全体像がどのようになっているのか、という観点を何らか持っていただくことも必要ではないだろうか。そういった点で、本稿が、日本国内に留まらず、諸外国における制度改善や政策検討といった議論にも何らか資する資料となることが今後あるならば、非常にありがたいことと思う。