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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える

伊沢 拓司さん(株式会社QuizKnock CEO)編
令和5年6月19日(月)開催(対談者の肩書は同日現在)


はじめに

原田広報室長 皆さんどうぞよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、読者の皆さまにわかりやすく伝えられるよう、様々な分野の方をお招きして、財政等にも触れながら、日本の未来やイマについてトークをしてもらいます。
第六回では、クイズ王として、あるいはコメンテーターとして、様々なメディアでご活躍されている伊沢拓司さんをお招きして、財務省の青木大臣官房長と対談をしてもらいます。
伊沢さんには、財政や税について国民の皆さまの目線で、お話をいただければ幸いです。
それでは、伊沢さん、よろしくお願いいたします。

伊沢拓司さん 今日は貴重な機会をいただきありがとうございます。霞が関にも多く友人がおり、また、大学で地方財政をテーマに研究をしていましたので、行政についてある程度わかる部分もあると思っていますが、本日は、率直に少しかみ砕いてお話しできればと思っています。よろしくお願いします。
写真1:中央が伊沢拓司さん

税と財政の役割について

伊沢拓司さん ものすごく基本的なところからお伺いさせてください。私は大学で地方財政について勉強して、ブライスの言う「民主主義の学校」的なことを学んできたのですが、地方を見ていても税を適切に集めるということは非常に難しいことだと感じました。また、大人になってから各地を仕事で回るうち、税ってこうしたところに使われているんだと驚くことも多くありました。こうした税と財政の役割についてお話しいただけますでしょうか。

青木官房長 大臣官房長の青木です。こちらこそ貴重な機会をいただきありがとうございます。
税と財政については、私たちが互いに支え合う政府という仕組みの中で、そのメンバーの会費として税を負担して、見返りに行政サービスを受ける、言い換えると受益と負担を表しているものです。
海外では、同じ国でも住む場所によって公共サービスや負担の程度が大きく異なることがありますので、「自分がそこに住む」という選択自体が投票行動であり、民主主義の基本になっているのだと思います。一方、日本では、全国どこでも一定水準の行政サービスが受けられる制度になっていて、それ自体は日本のすばらしさの一つであると思いますが、どこに住んでいても一定のサービスを受けられることによって受益と負担の関係についての認識が薄くなっている部分があると思います。

伊沢拓司さん 日本では受益と負担を感じづらいという点はまさにその通りだと考えています。私も社会保障の広報に関する会議のメンバーでしたが、受益と負担が感覚的に結びついていないなと感じました。その点を認識してもらうには、いかに「自分ごと」にするかが課題だと考えます。
そのためには税や財政について、身近にあるいはリアルに国民に感じてもらう必要があるのだと思いますが、財務省ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

青木官房長 色々な方に向けて財政や税に関するパンフレットを作ってHPに掲載しています*1。医療、学校、警察、消防など身近な行政サービスを紹介し、具体的に一人当たりでかかる金額を紹介するなど、様々な工夫をしています。しかし、こうしたものはなかなか手に取ってもらえていないと認識していて、税や財政についてあまり関心を持ってもらえていないのではないかと思います。
税と財政は、一人では困ってしまう場面での社会全体の助け合いの仕組みだと思いますが、そこに参加している一人ひとりが費用を負担すると同時に、何にいくらお金を使うか、誰がどのように費用を負担するのかについて口を出していくことが民主主義だと思いますし、そういったことをもっと「自分ごと」として受け止めていくことが大事だろうと思います。

伊沢拓司さん 社会保障のうち、年金も医療も両方とも受益と負担の仕組みですが、年金もあまりそれが認識されません。医療は、困ったときに助けてくれるサービスとして受益感がありますが、年金は貰うことが当たり前すぎて認識しづらいのだと思います。
財政も年金と同じようなイメージがありますが、青木さんの肌感覚的にはいかがでしょうか。

青木官房長 財務省が行っているアンケート調査*2の中で、「税金のイメージ」と「どのようなサービスで還元されていると感じるか」を聞いています。その答えをみると、税金については「国や社会づくりのためのもの」と多くの人が認識している一方で、「国がとりたてる」「国が使い方を決める」という少し他人事なイメージも抱かれています。
また、還元されていると感じるサービスについては、「医療」が圧倒的に高いですが、「教育」等もある程度認識されています。こうしたサービスが無料ではないことを認識しているものの、払わされているという感覚があるのだとすると、「このようなサービスを提供するためには費用がかかり、それを皆で負担する必要がある」ということを伝えていく必要がありますし、国民にとって負担とサービスのバランスが最適になるように皆さんから意見を言っていただきたいと思います。

伊沢拓司さん おもしろいですね。税金のイメージについて、親が家で「税金は嫌だなあ」みたいなトーンになりがちで、マイナスからのスタートを広報力で取り返せていない現状がありそうですね。

青木官房長 年齢の話でいうと、同じ調査で、財政に関して「安心」「不安」という認識も聞いていますが、全体では「不安」に感じている割合が7割と高いものの、若い人ほど「安心」と感じている人が多い傾向にあります。なぜかはわかりませんが、年代ごとに接する情報の違いの影響もあるのではと考えています。

写真2:伊沢 拓司さん(株式会社 QuizKnock CEO)
写真3:大臣官房長 青木 孝德

税と財政の情報発信について

伊沢拓司さん 推測ではありますが、若い人は安心というよりは「無関心」なのかもしれません。そうだとすれば、こうした若い世代へアプローチしていくことも大切だと思います。
広報についてはコンテンツ作りと場づくりが大切だと考えています。コンテンツとしては、「うんこドリル」とのコラボなど積極的ですが、広報物が目に触れる「場」づくりはどのように行われていますか。

青木官房長 「うんこドリル」もそうですが、学校教育の中で、制度がどうなっているかを覚えるだけでなく、「どうしてそうなっているのか」ということを皆で考えて、議論するような教え方もいいなと思います。財務省でも、中学高校で「国の予算を作ってみる」ワーク型の授業を提供しています。何にお金を使うか、使うべきでないか、そのためにどんな税金を増やすか、減らすかを考えて、グループで意見交換し、予算案を作るのですが、政府の仕組みや社会について考える一助になっているのではと思っています。

伊沢拓司さん なるほど、場も多様ですね。こうした場では、従来の制作物よりかなり内容を厳選してある「うんこドリル」コラボも効いてきますよね。
もう一つ、財務省の広報のネックとして感じる部分として、題材が難しい点があると思います。頑張って取り組んでいることを説明すればするほど込み入った話になるので伝わりづらくなっていきます。国民の皆さんにまず理解してほしい、財務省の大きな役割とは何になりますか。

青木官房長 各省庁は、社会保障、教育、インフラ整備など、この分野で困っている人を助ける必要がある、この分野で投資する必要がある、といった立場で、政策とお金の使い道を考えます。他方、政策の元手になる税金を負担している納税者の目線で、予算や制度を見るのが財務省の仕事だと考えています。また、予算の一部を借金に頼る以上、どこかで将来世代の負担も発生するため、今は投票できない将来世代の視点での意見も言っています。耳あたりのよい意見ではないかもしれませんが…。
こうしたそれぞれの立場から議論を戦わせて予算や税金の制度を作り、国会の議決という形で、オーナーたる国民の合意を得ることになります。

伊沢拓司さん ある意味、財務省は行政の中で国民に一番近い立場、各省庁と国民の間に立つ存在だと思います。予算を通じてお金の使われ方を監視し、バランスをとっているわけですからね。国民のために行政を管理するという在り方が国民からの親近感につながると良いですね。

青木官房長 そうやって言っていただけると嬉しいです。職員によく言っているのですが、霞が関以外の色々なところ、例えば同級生との集まりや自分の母校に積極的に出て行って財務省や自分の仕事について話をしてくれば、そこで様々なフィードバックを貰えるし、財務省について理解して貰える良い機会になると思います。また、より幅広い人に届けるという点で、今回の対談企画のようなことも試行錯誤しながらやっていければと思っています。

伊沢拓司さん ちなみにそうした国民に近い官庁である財務省がしっかり働いているかどうかを知るためには国民としてはどうすればいいのでしょうか。

青木官房長 先ほどのパンフレットやマスメディアなどにはいろいろ情報が出ていて、関心を持って検索していただければヒットすると思います。ただ、通勤電車の中で新聞を読んでいる人はごくわずかで、皆さんスマホを見ていますよね。テレビ離れも進んでいると聞きます。こうした中で、どうすれば私たちのコンテンツを見てもらえるかよくよく考える必要があると思っています。

伊沢拓司さん 場とコンテンツでいうと、今は「場」、アクセシビリティを上げる必要がありそうですね。
国民の皆さんに関心を持ってもらうことも大事ですが、おっしゃるようにきっかけを作れるよう、財務省の皆さんも国民側へ歩み寄るような対応も必要ではないでしょうか。

青木官房長 そうですね。自分ごとという意味では、自分たちがどれだけ税金を払っているか、その行き先がどこかを具体的に想像してもらうことも大切かと思います。
私が大学等で授業をする際に導入部分でお話しするのが、皆さんが何年か後に就職したら給料がいくら、そこから税、年金医療・雇用の保険料が天引きされて、家賃や生活費がこれだけかかり、こういった生活になる、生活費の8~10%は消費税を払っていて、トータルでいくら税や保険料を負担しているのかという具体的なイメージです。その大学の人気就職先の初任給や周辺家賃等を事前にしっかり調べていきます。こうした身近で具体的な数字に触れることで、「皆さん、税や保険料を払って社会を支えているので興味を持つべきじゃないですか」と自分ごと化されるのではないかと考えたからです。

伊沢拓司さん 非常にいいですね。自分の将来の給与明細というのは、税を身近かつリアルに感じられる、キラーコンテンツだと思います。そうした負担に応じた受益をできているのか、という視点は「自分ごと」になってきますよね。

青木官房長 当然、若いうちは負担より受益が少ないと思いますが、病気になったとき、歳をとったときなどの助け合いの仕組みに関わっていることを身近なところから意識してもらえることが大事だと思います。

伊沢拓司さん たしかに、自分が参加しているフットサル場の会話でも、30代中盤くらいの方から一気にお金の話が増えているように感じます。病気やら子育てやらで自分のお金を使う中で、そこからの受益について考える機会が増えるからですかね。
逆に言うと、実際に自分ごとになる前から負担と受益について考えてもらうのが広報的な役割なので、現状はもったいないですよね。
ようやく金融教育も必修化されましたが、こういったお金の話について、例えば高校生が、身近にいる先生などからリアルなお金の話を聞ける機会などが増えるといいなと思っています。

青木官房長 財務局では、以前から、子育て世代に、教育、住宅など身の回りのお金、それに備える資産形成の話をしてきていますが、身近なテーマなので、しっかり関心を持って参加していただいて、反響も良いと聞いています。
伊沢さんもお話しされた30代中盤までの、若い人は税金を払うことについてどういったことを考えているのでしょうか。

伊沢拓司さん みんな関心はあって、入り口の見えづらさが問題かなと。税金に詳しいフットサル仲間にはみんな前のめりで税の話を聞きます。
みんな税金に興味はある、でもわかりづらい。わからないのに、取られてはいる、かつそれを訂正するものがないから不満が募るんじゃないかなと。これを自己責任で片付けてはいけないですよね。
「広報を出してますよ」だけでなく、わからない人の生活圏内に溶け込む形での広報が求められると思います。SNSや地域コミュニティは活路ですね。
YouTuberが自分の収入を公開する動画がすごい人気ですが、例えば高額納税しているYouTuberなどが給与明細や源泉徴収を公開する際に、「税金高いけど、これは社会保障に使われているからなあ」とかつぶやいてくれたら、影響はありそうですがそううまくはいかないですね(笑)。

青木官房長 ちなみに、これは東京財団の調査*3で経済学者と国民の財政に関する認識をアンケートしているものですが、国の赤字を問題視している方はどちらも6割を超えていますが、その原因については、経済学者の7割が「社会保障費」と答えているのに対し、国民は7割が「政治の無駄遣い」と回答しています。
経済学者と財務省は同じような認識なので、このギャップは、国民の皆さんに受益と負担の関係について考えてもらうための私たちの努力がまだ十分でないことを表しているのかなと思います。

伊沢拓司さん この調査も非常に面白いですね。ただ、社会保障費は対立を生むテーマなので直視したくない人もいると思います。例えば、社会保障費が社会の重荷になっているということが「生きづらい」と思ってしまうお年寄りや、「どうせもらえない」と捉えている若者など、ネガティブになりがちです。事実を伝えれば解決、というところから一歩先に進みたいですね。

青木官房長 社会保障は個人個人でみると得した損したという議論があるとは思いますが、社会全体では、負担はすなわち社会に貢献している、褒め称えられるべきことと捉えてもらうことも可能ではないかと思っているのですが。
少し異なる部分もありますが、アメリカでは成功した人たちは、その利益で寄付して社会貢献することが一つのステータスとしてとらえられている面があると思いますが、日本ではそこまでの雰囲気ではないと思います。税と寄付で違う面もありますが、日本でも寄付や納税による社会貢献が素直に評価される社会になったらまた違うのかなと思います。

伊沢拓司さん 寄付などのお金を通じた社会貢献は確かに真正面から評価されない部分があるかもしれません。寄付みたいに良いことをしたら褒める文化が必要だと思いますし、個人的には「社会に貢献すること」より「褒められること」のほうがモチベーションになりそうです。
お金を稼ぎ、使うことへの意識を変革することが、今求められていると感じています。今広報すべきは情報より、「税も含めた社会貢献は褒められるべき」という意見かもしれません。反発あるでしょうけど(笑)。

青木官房長 伊沢さんは、地域に行って学校で講演など活動されているという話をされていました。どういったモチベーションがあるのでしょうか。

伊沢拓司さん 結局これもマインドを変えたい、成長志向になってほしいという願いがあって。僕のようなイレギュラーな進路の人間に触れる機会が少なそうな場所に行くことで、将来の選択肢を増やしてほしいんです。こういった活動は自分でやっていることではありますが、僕も褒めてもらえると嬉しいです(笑)。
批判も称賛も、適切に成されればコンテンツを成長させます。評価にさらされる場が、まずは必要になってきますね。

日本の将来を考えるために

伊沢拓司さん 少し真面目な話に戻ると、日本の未来のために、みたいなことを考えるにあたって、日本人は大局的な視点をもったビジョンコミュニケーションが得意ではないように感じています。
ニュース番組もすごく具体的な話や短期的な利益の話を扱っていて、「今の利害は置いといて50年後のビジョン作ろう」みたいな話はありません。
税についても、将来のビジョンを見せて、そのためのお金ですよ、という話ができるといいですよね。現状はメディアにいる私にも責任がありますが。

青木官房長 おっしゃるようにビジョンを語ることが得意でない部分はあるように思います。テレビやネットの世界でも、相手の意見を制して自説をまくし立てたり、論破して黙らせたりといった風潮がありますが、本来の議論は、相手の主張を尊重し、課題に対する理解や対応がより良い方向に進めるようにお互いの意見を交わさないといけないのではと思います。

伊沢拓司さん テレビなどはエンターテイメントの部分もあるため、積み上げるコミュニケーションには適さないかもしれません。ただ、こうしたコミュニケーションができないと、いいことをやろうとしているのに伝わらずもったいないと思います。

青木官房長 財務省としては、できることから始めて、この国の将来を国民の皆さんに考えてもらうための材料を地道に提供して回るしかないと考えています。

伊沢拓司さん ただ、メディアの潮目も変わっているように感じており、失われた30年を経験したクリエーターの中には公的セクターの重要性を認識するような方も増えていて、その中には、きっと財務省と一緒にモノづくりや情報を発信してくれるような方もいると思います。
クイズについて

青木官房長 全く違う話を聞いてもいいでしょうか。クイズって子どもから大人までものすごく関心を引くものだと思うのですが、どういった効果のあるコンテンツなのでしょうか。

伊沢拓司さん 自分は能動化と呼んでいて、クイズを投げかけることで相手に考えさせる、主体的にさせる効果があると思います。ニュースを扱うワイドショーの「めくり」なんか好例ですね。また、シンプルに正解したら褒められる、みたいな感覚も能動化のツールとして適していると考えています。

青木官房長 ワクワクする、面白そうだから参加してみようという行動経済学的な促す効果があるのでしょうか。財政は難しくて敬遠されがちではありますが、楽しく考えてもらうきっかけとしてクイズもあるのかなと思いました。

伊沢拓司さん お金の話はクイズととても相性がいいと思います。身近で、利害が絡んで、好奇心をかきたてやすい題材です。その意味では財政もたくさんのお金の数字があるのでクイズが作りやすいのではないでしょうか。

青木官房長 完全に個人的な興味ですみません(笑)。こうした日本のクイズ文化っていつから生まれたのでしょうか。

伊沢拓司さん 歴史的にはかなり古くて、室町時代には、後奈良天皇の勅撰のなぞなぞ集があったみたいです。今の「クイズ」は戦後GHQが持ち込んでラジオ経由で普及させたものです。戦後すぐですね。比較的新しいエンタメなのに国民に浸透しているのは、テレビの影響はもちろんとして、根本には「楽しい」「知りたい」という感情のベースがあると思います。私はクイズを通じて知ることの楽しさを知ってもらいたくてQuizKnockを立ち上げました。

青木官房長 そういった感情は伝える際のキーポイントになりますね。あとはおしゃれさとか遊び心などが重要ですかね。

伊沢拓司さん おしゃれというのは人に広がっていくトレンドの一つだと思うので、先ほどのフットサル場の話みたいに、お金や財務に詳しいと人気者になる、カッコいいみたいな雰囲気になっていくとよいなと思います。

おわりに

原田広報室長 話が尽きないところですが、本日はここで終わりにさせていただければと思います。どうもありがとうございました。税や財政についての認識からクイズそのものの話まで伊沢さんらしいお話が聞けました。また次回、違った切り口で財務省に関するお話を聞ければと思います。

写真:4 右側が伊沢拓司さん

図1. 財務省が発行する各種パンフレット

*1) 財務省ホームページ(https://www.mof.go.jp/public_relations/publication/index.htm)
*2) 財務省委託調査「広報活動の改善を目的とした調査(令和4年度)」(https://www.mof.go.jp/about_mof/mof_budget/release/itaku/seikabutsu/2023063001.html)
*3) 東京財団政策研究所 加藤創太「財政問題について経済学者と国民の意識はどう乖離するのか「経済学者及び国民全般を対象とした経済・財政についてのアンケート調査」の紹介」