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預金保険法102条第三号措置(一時国有化)について ―足利銀行の事例―

東京大学 公共政策大学院 服部  孝洋*1


1.はじめに
これまで「金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門」(服部, 2023a)や「我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム-」(服部, 2023b)等を通じ、我が国における金融機関の破綻処理制度を説明しました。特に、服部(2023b)では預金保険法102条の概要を説明した後、りそな銀行の事例(預金保険法102条第一号措置(資本増強))を取り上げました。もっとも、預金保険法102条の事例として、第三号措置(一時国有化)が適用された足利銀行の事例もあります。そこで本稿では足利銀行の事例を取り上げ、破綻処理スキームに対する理解を深めます。
本稿は服部(2023b)を前提としているので、預金保険法102条の概要の確認が必要な読者は服部(2023b)をご参照ください。また、筆者がこれまで説明してきたバーゼル規制の一連の文献も前提にしています。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。

2.預金保険法102条の第三号措置(一時国有化):足利銀行の事例

2.1 足利銀行のスキーム
足銀銀行については、預金保険法102条第三号措置が発動し、一時国有化がなされました。一時国有化が必要だと判断された理由は、足利銀行が破綻した場合、システミック・リスクがあると判断され、かつ、足利銀行が債務超過であったことが挙げられます(足利銀行は、947億余円の債務超過でした*3)。もっとも、この二つの条件であれば、預金の保護をしたうえで、破綻処理を行う第二号措置と、地域経済に配慮して、一時国有化しつつ経営を継続するという第三号措置という二つの選択肢がありえます。破綻処理において第二号措置と第三号措置についての選択があった中、一時国有化である第三号措置が選ばれたことについて、五味(2013)は、「不良債権と優良債権を切り分け、銀行をいわばばらばらにする第二号措置では、栃木県経済は崩壊の危機に瀕していただろう。金融機関としての機能をそのまま維持して営業を続け、受け皿への譲渡という将来のステップを考える第三措置のやり方が最善だった」(p.124)としています。
足利銀行のスキームの大枠は次のようなものです。まず、金融危機対応会議が開かれ、内閣総理大臣により足利銀行に対する特別危機管理の必要性の認定がなされました。具体的には、債務超過により第三号措置を適用し、足利銀行は特別危機管理銀行に指定され、一時国有化がなされました。預金保険機構が足利銀行の株式を保有することになり、株価はゼロとされました*4。この点は、預金保険機構の危機対応勘定のバランスシート(BS)にりそなHDの株式が計上された点と大きく異なります。
図表1 特別危機管理銀行に関する業務のスキーム図*5は足利銀行に適用されたスキーム図です。左上に破綻銀行の記載がありますが、まず株価がゼロの状態で預金保険機構が足利銀行の株式を購入します。足利銀行は特別危機管理銀行として一時国有化され、経営陣の刷新や、業務及び財産の状況等の報告・経営に関する計画の策定等が求められました。また、同行が有する不良債権については、預金保険機構による貸し出しに基づき、整理回収機構が買い取りを実施しました(図1の右下における「資産の買取り等に必要な資金の貸し付け」)。
整理回収機構による不良債権の買取は、複数回にわたり実施されました(図表2 整理回収機構による足利銀行からの資産買取り*6を参照)。預金保険機構は、「機構が決定した足利銀行からの資産買取りは、これまで4回にわたり特別危機管理銀行の資産健全化のために行われた預金保険法第129条に基づく資産買取りを含め、合計で簿価5,922億円、買取価格999億円となった(すべて整理回収機構に委託)」と説明しています。整理回収機構による不良債権の買い取りのイメージは、服部(2023a)を参照してください。

2.2 再民営化のスキーム
預金保険機構による資金援助
次に、足利銀行の再民営化に向けた動きを説明します。図表3 足利銀行のバランスシート*8の左側は、2004年における足利銀行のBSになりますが、純資産が△6,790億円であり、同時点で債務超過であることが確認できます。その後、足利銀行の再民営化のため、約4年にわたる経営改善や不良資産の圧縮により、2008年6月末時点で債務超過額を6,790億円から2,565億円まで圧縮します(不良債権比率は13.93%から4.74%へ低下しています)。そのうえで、2008年6月末に、預金保険機構から資金援助を2,565億円*7うけ、純資産額をゼロにすることで、債務超過を解消します(図表3の右側)。ここでの資金援助は前節で取り上げた一般勘定経由(危機管理勘定ではない点に注意)の資金であり、銀行等が預金保険に支払っている預金保険料を原資にしている点に注意してください。
図表4 足利銀行に係る預金保険機構による資金援助スキーム*9が足利銀行に対する預金保険機構による資金援助スキームを示しています。詳細はこの図を参照いただきたいのですが、足利銀行が特別危機管理銀行であったところ、預金保険機構が金銭を贈与することで、特別危機管理を終了します。また、前述のとおり、株価がゼロの状態で預金保険機構が足利銀行の株式を購入しましたが、足利HDが足利銀行の株式を(株主である)預金保険機構から買い取っています。詳細は後述しますが、足利HDは一時国有化された後、再民営化する中で、後述するコンソーシアム(企業連合)により設立されています(ちなみに、りそなHDは経営統合する中でその名称が変わることでりそなHDとなりました。詳細は服部(2023a)を参照してください)。

コンソーシアムによる足利銀行株式の買い取り
足利銀行については、前述のとおり、純資産をゼロにし、その後、増資をすることで再民営化がなされます。先ほど足利HDが、預金保険機構が有する足利銀行の株式を買い取ったと説明しましたが、具体的には、図表5 受け皿となるコンソーシアムの構成*12のように、野村グループ(野村ネクストグループ)を中心としたコンソーシアムを作り、銀行持ち株会社(足利HD)を設立します。そのうえで、足利HDを経由して、預金保険機構から足利銀行の株式が買い取られ、一時国有化(特別危機管理)が終了しました(このタイミングが2008年7月1日になります*10)。
足利銀行への資金注入は足利HDを経由しているため複雑ですが、そのスキームは図表6 足利銀行株式譲渡のスキーム*13の通りです。右側に前述のコンソーシアムがあり、コンソーシアムが足利HDに資金注入します。そのうえで、足利銀行の資本増強をするため、足利HDが1,200億円の譲渡価格で足利銀行の増資を引き受けました(それに伴い、足利銀行の自己資本比率は6%程度へ上昇します*11)。足利HDは合計2,900億円の資金調達を実施しており、その内訳は、普通株式1,350億円、優先株式(普通株式への転換権なし)500億円、永久劣後ローン350億円、期限付劣後ローン700億円となっています*14。

2.3 金融庁による受け皿の選定
そもそも、足利銀行の株式の譲渡に係る受け皿の選定は、金融庁が実施しました*15。その受け皿の選定にあたっては、「金融機関としての持続可能性」、「地域における金融仲介機能の発揮」、「公的負担の極小化」という3つの審査基準を用いています。具体的な選定は3段階に及びました。第一段階で8社の応募があった中、一定の審査を行い、7社を第二段階に進めます。そのうえで、先ほどの3つの基準の中でも、「金融機関としての持続可能性」及び「地域における金融仲介機能の発揮」をベースに2社に絞り、最後の第三段階で、「公的負担の極小化」も考慮のうえで、野村ネクストグループ(野村フィナンシャル・パートナーズ株式会社及びネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会社を中心に構成される企業連合)が選定されました。
前述のとおり、預金保険法102条の第三号措置は栃木県経済に配慮されたことから実施されたことを考えれば、足利銀行が再生することに伴う地域とのつながりも重要といえます。金融庁は足利銀行の受け皿としての基準として、「地域における金融仲介機能の発揮」も重視しており、足利銀行のケースでは、地域活性化対策特別委員会等を通して、野村グループ等に対して、地元からの要望が伝えられる等のコミュニケーションがなされています。実際、同委員会は野村グループ等がその要望を受け入れた点等を評価しています*16。
以上が足利銀行が一時国有化されてから再民営化するまでの流れになりますが、上記をまとめると、りそなHDのケースとは異なり、足利銀行は債務超過に陥っていました。そのため、株価をゼロにして預金保険機構が買い取り、特別危機管理銀行として一時国有化する一方、リストラや資産売却等により債務を圧縮します。預金保険機構は一般勘定で資金援助した後、その株式を民間金融機関に売却することで一時国有化を終了しました。このスキームではりそなHDと異なり、株価がゼロになるという形で株主の責任が取られるとともに、公的資金が注入されていない点が大きな特徴といえましょう。
なお、本稿では一時国有化という破綻処理に焦点を当てているため、足利銀行が破綻に至った経緯や地域への影響等については触れておりません。これらに関心がある読者は松下(2010)、山崎・蓬田・斎藤 秀樹(2015)、児玉(2017)、足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会の報告書等を参照してください。また、2013年に足利HDは上場していますが、本稿では破綻処理に焦点を当てているため、コンソーシアムを形成し、足利銀行が増資し、再民営化したところまでの解説となっています。

3.終わりに
本稿では足利銀行との一時国有化を取り上げましたが、一時国有化といえば、日本長期信用銀行(長銀)と日本債券信用銀行(日債銀)の事例も有名です。これは預金保険法102条スキームが生まれる前の時限立法により処理されたため、そもそも適用された法律が異なります。もっとも、預金保険法102条がそれまでの時限立法をベースに作られたことから、その類似性も少なくありません。長銀と日債銀の破綻やその処理については柳澤(2021)が詳細に整理しているため、その説明は同書に譲ります。
りそな銀行や足利銀行の事例をみると、公的資金注入や一時国有化は比較的うまく機能したように見えるかもしれませんが、新生銀行は現時点でも公的資金の返済が終わっていません。最近の動きとしては、2023年に新生銀行はSBIHDによるTOB(株式公開買い付け)により上場廃止となり、その後、公的資金の返済を目指すとの報道が出ています*17。その意味で、公的資金の返済が長年にわっても終わらない事例が存在することにも留意してください。本稿では長銀と日債銀の事例は取り上げませんでしたが、新生銀による返済が終わったタイミングで筆者が整理しようと考えています。


参考文献
[1].五味廣文(2012)「金融動乱:金融庁長官の独白」日経BPマーケティング
[2].服部孝洋(2023a)「金融機関の破綻処理及び預金保険入門」『ファイナンス』3月号.
[3].服部孝洋(2023b)「我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム-」『ファイナンス』4月号.
[4].松下淳一(2010)「銀行持株会社の破綻処理のケーススタディ」平成22年度金融法務研究会
[5].山崎美代造・斎藤秀樹・蓬田勝美(2015)「足利銀行一時国有化と企業再生の軌跡:歴史の記録として」下野新聞社
[6].柳澤伯夫(2021)「平成金融危機 初代金融再生委員長の回顧」日本経済新聞出版
[7].預金保険機構(2007)「平成金融危機への対応 預金保険はいかに機能したか」金融財政事情

*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 会計検査院資料では、「金融庁が16年10月に公表した上記公告時点での同銀行の貸借対照表によると、資産の部は計4兆9,263億余円(うち貸出金3兆7,945億余円)、負債の部は計5兆210億余円(うち預金4兆5,579億余円)と、947億余円の債務超過となっている」としています。詳細は下記をご覧ください。
https://report.jbaudit.go.jp/org/h15/2003-h15-0775-0.htm
*4) 預金保険機構(2007)では、足利銀行に関し、「同行の全株式(普通株式、優先株式)は、債務超過により対価ゼロ円で『一般勘定』が取得し、保有(簿価ゼロ円)している(『危機対応勘定』等の取得・保有ではない)」(p.287)としています。
*5) 詳細は下記を参照。
https://www.dic.go.jp/katsudo/page_001092.html
*6) https://www.dic.go.jp/katsudo/page_000895.html
*7) 預金保険機構は当初2,603億円の金銭贈与を予定していたところ、債務超過相当額の確定に伴い、最終的に2,565億円としています。詳細は下記をご覧ください。
https://www.dic.go.jp/katsudo/page_000894.html
https://www.dic.go.jp/katsudo/page_000895.html
*8) 詳細は下記を参照。
https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/kyousouseisaku/daisankai_files/ashigin.pdf
*9) https://www.dic.go.jp/katsudo/page_000896.html
*10) 預金保険機構のウェブサイトでも、2008年7月1日の株式の譲渡をもって、特別危機管理が終了したと説明されています。詳細は下記を参照してください。
https://www.dic.go.jp/katsudo/page_001084.html
*11) 東洋経済「足利銀行受け皿に野村陣営、再上場に向けた課題」(2008/3/24)等を参照してください。
*12) https://www.mebuki-fg.co.jp/news/ashikaga_hd/pdf/080627_01.pdf
*13) https://www.mebuki-fg.co.jp/news/ashikaga_hd/pdf/080627_01.pdf
*14) この数字は下記の資料を参照としています。
https://www.mebuki-fg.co.jp/news/ashikaga_hd/pdf/081125_02.pdf
*15) https://www.fsa.go.jp/common/conference/com/2008a/20080317.html
*16) 詳細は、「平成20年 6月足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会(平成20年度) 足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会会議記録」等を参照してください。
*17) 日本経済新聞「SBI新生銀、消えぬ火種 公的資金返済めざしTOB成立 株価、買い付け価格超え 市場の不信感映す」(2023年6月24日)