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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える


井上 咲楽さん(タレント)編
令和5年6月2日(金)開催(対談者の肩書は同日現在)


はじめに
原田広報室長 本日はよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、読者の皆さまにわかりやすく伝えられるよう、様々な方をお招きして、財務省の行政に触れながら、未来やイマについてトークをしてもらいます。
第五回として、タレントとしてご活躍されながら、政治にも高い関心を持たれて活動されている井上咲楽さんをお招きして、財務省の主計局・中村次長、国際局・日向寺室長、主税局・池田主任と対談をしてもらいます。ぜひ、いろいろな視点から、井上さんの思う社会についての疑問や日頃お感じになられていることなど、お話し頂ければと思います。
井上さん、よろしくお願いいたします。


写真1:左から二人目が井上咲楽さん


税と平等性について
井上咲楽さん 本日はよろしくお願いします。政治や選挙に関心があって、色々取材をさせていただいているほか、国民の幸福と平等がどのように決められているのかも気になっています。それではまず、税の平等性について伺いたいのですが、どういった点を考えながら、どういう基準で決められているのでしょうか?
日向寺室長 税制は、その国が何をもって平等と考えているか、その価値観をよく表すものだと思います。例えば、ブルガリアではかつて独身者から税をより多く取る制度がありましたが、これはその時代のブルガリアには「結婚して子供を産むことを促進したい」という考えがあり、結婚している人の税金が低いことが国の方向性に沿っており、平等につながるという考えに基づくものでした。一方、今の日本で何をもって平等と考えるのか、人によって尺度が異なるため、私たちもいつも悩んでいます。
中村次長 今日は長くしゃべりすぎないように日向寺さんから言われています。税や予算は税率や金額など数字で表記されるが故にごまかしが効きません。それだけに平等さや公平性、あるいは優先度などをきちんと議論し、丁寧に説明しなければなりません。また、これという正解はなく、議論をする中でベストの解を探り当てていくことになります。
財務省はそうした議論を担う役回りだけに、「理屈っぽい」というイメージも持たれてしまっています。悩んでいること自体はどれも当たり前のことなのですが、それらをどう伝えていけばよいのか、難しく感じています。
井上咲楽さん 時代が変わると、働く職員の方々にとっても難しいことが増えてきたりするんでしょうね。
池田主任 財務省は財政健全化の必要性を主張してきていますが、最近は「債務残高が増えても問題ないのでは」という意見も多く、理屈一辺倒では進まないことも出てきています。
井上咲楽さん 私たちの世代や次の世代は大丈夫なのか、という漠然とした不安は感じています。
政策の実施には財源は必要だと思うので、税収が減ったら社会保障や次の世代にどう影響がでるのかは、すごく考えます。
池田主任 自分も同世代として、もし日本が財源を調達できなくなったら、医療サービスや道路などを維持できなくなるかもといった、同じ不安を感じています。
井上咲楽さん お金の負担に対する考え方は、海外と日本では違いがあるのでしょうか?
中村次長 日本は戦後、安全保障上、或いは経済面での大きな危機のない国だったので、危機を現実のこととして想定することに慣れていないと感じます。しかし、このところ日本でも安全面・経済財政面の様々なリスクが高まってきています。これまでの状態が必ずしも今後も続くものではないと意識されるようになると、負担についても「人任せにせず、一緒になって考えよう」というように変わっていけるのではないでしょうか。
井上咲楽さん 世界情勢が大きく変わっていく中で、日本だけ変わらないことの怖さがありますね。一方で物価高の中で給料が上がらず、その中で負担が増すことに反対という声も判るし、すごく難しいと思います。
日向寺室長 海外と比べると、日本は、政府への期待が大きいと思います。例えば日本では必要なときにすぐに病院で受診できますが、イギリスではかかりつけ医でも2週間待ち、その後病院の紹介を受けても長期間行けないというようなことも場合によってはあります。保育園代も毎月20万円位かかることもあります。そのため、海外では政府に対する期待というのがあまりないのではないかと思いますが、こうした実態は日本では認識されていないのではないでしょうか。
井上咲楽さん なるほど。世界と日本の関係はまた後程伺いたいことがありますが、平等の話に戻ると、何か特定のことに力を入れ「偏る」ことは簡単ですが、なるべく多くの人が幸せになる「平等」を考えるのは難しくありませんか?
中村次長 本当に困っている人に支援を集中するのか、広く薄くするのか、そのバランスはとても難しいですよね。例えば児童手当では、今の制度は所得が高い人は対象外で、限られた予算の中でできるだけ困っている人に渡すという仕組みですが、これに対しては「頑張って所得を上げたら支援を受けられなくなってしまうのはあんまりだ」という意見もあります。皆が納得する正解はないのですが、何が最適なのか役所だけでなく皆で考えていく、結果だけでなくそのプロセスも問われる時代になっているのではないでしょうか。


写真2:井上 咲楽さん


SNSの影響について
井上咲楽さん まさにそのプロセスとして一つ伺いたいのですが、SNSでも政府に対する意見等が投稿され、拡散されているのも目にしますが、政策への影響は大きいのでしょうか?
日向寺室長 SNSで炎上したことをきっかけに政策の方向性を練り直したりする例もありますし、影響はとても大きいと思います。SNSでの発言が国会で引用されるなど、国民の声が届く面もありますが、SNSの発言がすべて正しいのか、本当に社会を正しく捉えているのかという問題もあると思います。
池田主任 SNSで発言力のある人の意見だけが目立つ一方で、本当は支援が必要だけれどその声を上げられない人たちもいるかもしれません。
日本のイメージについて
井上咲楽さん 私の周囲では、日本で就職するよりも海外で就職する方が報われると考えて、日本を出ていく人もいます。私は日本の文化、人の性格や公共サービスが充実していることの居心地などが好きで、日本をネガティブに考えるのはもったいないと思うのですがいかがでしょうか。
日向寺室長 たしかに「勝ち組は海外」という雰囲気があることも感じていますが、私は井上さんと同じように日本が好きで、この職業を選びました。
国際局で色々な国を見ていますが、アンケートをみるとアジアの多くの国が経済面では中国を重視しています。その中で「信頼できる国」という質問だけは日本が上位で、やはり日本は真面目な国民性でよきパートナーと思われているのですが、それをどうアピールできるかが難しいとも思っています。
池田主任 日本を出て海外に行きたいという人達がいても、実際に海外に行った後に国民性や医療サービスなどの日本の魅力を再発見してもらえると良いのではないかなと思います。
中村次長 若い人にアンケートを取ると確かに日本人は日本に対して悲観的ですが、世界のどこにもバラ色の国はありません。そんな国でも将来に対し楽観的な考えを持っている人が多いのです。日本の若い人たちには自信を持って頂きたい。
また、意見が違うのが当たり前という多様性がもっと浸透すると良いですよね。
井上咲楽さん ネガティブな声の方が爆発力があってバズるので、「日本だけこうなってしまっているんだ」という感じでネガティブイメージが溜まっているのかもしれませんね。
多様性のお話がありましたが、財務省の中でも、税に対して色々な意見があって、議論になったりするのですか?
池田主任 それはもう日々色々な議論がなされています。様々な考え方をぶつけて議論する中で、議論する前よりもあるべき税制に近づいているのではないかと思っています。
日向寺室長 解決策を言うのは簡単ですが、実現するのは本当に難しくて、その最たる例が少子化問題です。少子化という問題への答えが「子どもが産まれる」ということであることは明らかなのですが、今の多様化した社会の中で人々が出産をどう考えるかについて強要することは難しく、ではそういった価値観の多様化の中で人々に何を、どう納得してもらうのが良いのかすごく難しいと思っています。井上さんはどう思われますか?
井上咲楽さん 自分も少子化の答えは子供を産むことしかないと分かってはいますし、このまま少子化が進むとより少ない若者で年配の方を支えなくてはならなくなることは分かっていますが、なかなか自分事として考えるのは難しいです。将来に不安はあるものの、周囲から何か言われることもないし、何とかしなきゃという使命感もないのが正直なところです。今は自分の可能性をいっぱい探りたい感じです。
日向寺室長 それは多様性が尊重されていることでもあり、生き方を強制されないということなので、それ自体はとても良いことではあると思います。若い人の方が考え方が柔軟で発信力もあるので、まずは関心を持って頂いて、色々と意見を頂きたいです。


写真3:国際局地域協力課 地域協力調整室長 日向寺 裕芽子
写真4:主税局総務課総務第一係 調査主任 池田 祐輝


選挙への関心について
井上咲楽さん 私は選挙に関心があって、選挙期間中は50カ所くらい見に行ったりします。目の前の生活に不自由はないものの漠然とした不安は抱いていて、同世代にもそういう人は多いと思います。統一地方選の時だと、地域によって子育て支援の内容が違っていたりもして、そういう身近なことに関心を持って投票に行く人が多いと思います。
一点伺いたいのですが、選挙結果によって予算の分配が変わることはあるのでしょうか?
中村次長 選挙の結果、政権交代が起きれば、当然予算の配分も変わります。仮定の話ですよ、念のため。交代がなくとも、公約を掲げた選挙を通じて民意は予算面に少なからず反映されます。その時々の勝ち負けの中で、試行錯誤を重ねつつ、バランスを取りながら良い道を見つけていくのがあるべき姿だと思います。普段は政治に関心が薄くても、選挙を機に「こんな人がこんな主張をして立候補しているんだ」と若い人にも関心を持ってもらえると良いですよね。
インボイス制度について
井上咲楽さん ところで、私も個人事業主なのですが、インボイス制度のことがよくわかっていないのですが…。もしその制度に対応しないと、個人事業主側はどうなるのですか?
池田主任 消費税率が8%と10%に分かれていますが、複数税率の下で、事業者が消費税の税額を正確に計算するために必要な仕組みとして、売り手が買い手に対して消費税の適用税率や税額が分かる書類(インボイス)を交付することを義務付ける制度がインボイス制度です。それを発行するためにはインボイス発行事業者になる必要があります。軽減税率の導入と同じく平成28年に導入が決まったもので、今年10月から始まります。
仕入れる事業者側からすると、インボイスの保存が無いとその仕入れにかかった消費税額を控除できなくなります。そのため、インボイス発行事業者であることが、契約の一つの要素となると考えられます。一方で、小規模事業者がインボイス登録の有無で不利にならないように公正取引委員会等とも連携して、取引環境の整備に努めています。
中村次長 インボイス制度も消費税も、制度を変えるたびに大きな議論になりますが、税や予算に関心を持って頂くのは良いことだと思っています。負担に関わるテーマは、関心の高さが反対の多さにもつながるところは辛い面もありますが、無関心であったり、SNSなどで一方の意見だけに接するよりは、関心を持ってもらい、メリデメ両論あることをわかって頂きたいですね。
池田主任 私は仕事で税制に触れていますが、自分の給与明細を見て、支払っている所得税の金額を確認しています。こうした素朴な感覚は、大事にしていかなければいけないと思っています。


写真5:主計局次長 中村 英正


支出と税収のバランスについて
井上咲楽さん こうして色々とお話していると、財務省が関わる範囲の広さを感じます。
ここまで日本の税について、少しネガティブな話が多かったですが、逆に日本の税制でここは良いと思うところは何でしょうか?
(一同、しばし顔を見合わせる。)
中村次長 グッドクエスチョンであり、難しい質問ですね。自虐的に言うと、日本の税負担の範囲が個人も法人も狭いということでしょうか。実は対GDP比でみると、社会保障以外の支出も租税収入もOECD加盟国32か国中26位です。
また、世間では日本の税負担が高いと論ぜられることもありますが、例えば所得税は様々な控除制度が講じられていることなどにより、全体の8割は適用される税率が10%以下です。アメリカでは10%以下の人は2割程度、イギリスでは数パーセントしかいません。
こうした現状はあまり知られていません。毎年財政赤字が積み上がっている問題点に加え、国が提供するサービスの水準を上げ、そのために税を上げるのか、それとも今のままで良いのか、という負担とサービスのベーシックな問題を今一度議論していく必要があると思います。
井上咲楽さん 国民全体で考えることが必要ですね。その大きな機会が選挙ですが、投票率が低いということはそうした大事なことを一部の人だけで決めているということなので、多くの人に投票に行ってもらう必要があるわけですね。
中村次長 財務省では、「フューチャーデザイン」という考え方に注目しています。自分が20年、30年後の未来人になったつもりでその時の社会を想像し、その立場から今の世代がなすべきことを考えてみるというものです。そういう視点に立つと、景気対策や少子化対策についても見え方が変わってくると思います。こうした仕掛けで、財政だけでなく広く社会問題について自分事として考えるきっかけになると良いと思っています。

財務省の広報について
原田広報室長 財務省の情報発信について伺いたいと思います。分かりやすい資料を用意したり、職員が顔を出して発信したりしていますが、どうすれば国民の皆さんに様々な課題を抵抗感無く、自分に密接に関わりのあるリアルな話として感じて頂けるかについてアドバイスを頂けますでしょうか。
井上咲楽さん 今日の対談で、選択をするのは国民で、財務省が物事を決めるものでは無いという話はとても共感しました。SNSである意味簡単に発言できる時代ですが、国民の側でも発言していることの責任や、その結果自分たちで選択したことの責任が分かると良いと思います。とは言え、私たちも政策に詳しくはないので、詳しい方々から「それをやると将来的にはこうなっていきますよ」ということをもっと示してもらえると良いと思います。
日向寺室長 財務省だけで予算を決めている訳では決してないのですが、そういうイメージになってしまっています。一緒に考えるような機会があると良いのかもしれないですね。

おわりに
原田広報室長 本日は多岐に渡る話題に関して、率直な疑問やご意見をいただき、ありがとうございました。
財務省やその政策について、また次回、違った切り口でもお話を聞ければと思います。
写真6:左から2人目が井上咲楽さん

図表1.諸外国の支出と税収の規模*1

*1) 財務省「これからの日本のために財政を考える(令和5年4月)」