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特集 展示会・商談会、認知度向上、事業者への補助金 日本産酒類の輸出拡大を促進する国税庁の取組



国税庁は酒類業の健全な発展を図るため、さまざまな支援を行っている。とくに力を入れているのが海外市場の拡大で、輸出金額は増加傾向にある。今回は日本産酒類の輸出拡大のため、国税庁がどのような取組を行っているのかを紹介する。取材・文 向山 勇

日本産酒類の輸出動向
2022年分の輸出金額は前年比21.4%増。
2021年に続きウイスキーの好調が牽引
国税庁の使命は財務省設置法第19条によって、(1)内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、(2)酒類業の健全な発達、(3)税理士業務の適正な運営の確保と定められている。国税庁は、酒類業の所管省庁として様々な取組を行っている。
国内市場の状況については、少子高齢化、人口減少、ライフスタイルの多様化などの影響を受けて、中長期的な縮小傾向にある。酒類課税移出数量(出荷量)の推移をみると、平成11年度に1,071万KLでピークとなり、令和3年度時点ではピーク時の約8割まで減少している。
こうした状況の中、海外市場の獲得による輸出拡大が期待されている。政府は酒類を含む農林水産物・食品の輸出額を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円とする目標額を設定、酒類については、清酒、ウイスキー、本格焼酎・泡盛の3品目が重点品目とされた。

日本産酒類の輸出金額は好調に推移
日本産酒類の輸出金額を見ると、2022年分は対前年比21.4%増の1,392億円となり、初めて1,000億円を超えた2021年に引き続き好調に推移している。品目別では、ウイスキーや清酒が牽引している。
日本産酒類の輸出促進に向けた国税庁の予算には大きく分けて(1)展示会・商談会の開催等の販路拡大、(2)PR等の認知度向上、(3)事業者への補助金の3つがある。どのような活動をしているのか、次ページ以降で紹介しよう。

海外展示会への出展支援
海外で開催される大規模展示会に出展し国内酒類事業者に商談機会の場を提供
日本産酒類を使ったカクテルで認知度向上も
展示会・商談会の開催は、酒類事業者の海外販路開拓に関する取組を支援することを目的にしている。海外で開催される大規模展示会に出展し、国内酒類事業者に商談機会の場を提供することで、日本産酒類の更なる輸出促進を図る。
令和5年度の取組方針では、バーが盛んな国の展示会において、ミニバーやバーテンターを設置し、日本産酒類を使ったカクテルを提供、認知度向上を目的とした、展示会と併設したセミナーの実施、デジタルツール(情報収集アプリ)等の積極的な活用を予定している。
さらに、海外における日本産酒類の販路拡大を支援するため、日本産酒類の更なる流通が期待できる都市に「酒類輸出コーディネーター」を配置している。商談会の企画・実施、日本産酒類プロモーションセミナーなどの業務を実施することにより、日本産酒類の更なる輸出促進を図っている。


写真:▲英国・ロンドンで開催された「Imbibe Live 2022」の様子。
写真:▲「Imbibe Live 2022」の日本ブース。


コーディネーターの主な事業実施予定内容

マッチング施策
海外商談会
日本の酒類事業者と、海外バイヤー(現地の日本産酒類販売代理店や日本食レストラン、小売店の関係者等)のマッチングを対面又はオンライン型の商談会を実施。
消費者/事業者向け施策

セミナー
日本産酒類の認知向上を目的に、現地の消費者もしくは事業者向けに、日本産酒類の試飲とフードペアリングを提供する等、広く認知度の向上を図るセミナーを実施。

レストラン向け施策
教育セミナー
現地レストラン関係者向けに、日本産酒類に関する理解を深め、店舗で提供する際に必要な知識を得てもらうための、教育型セミナーを実施。

商談会
教育セミナーを受講したレストラン関係者を対象に、現地の酒類ディストリビューター等との商談会を実施。

海外におけるプロモーション
現地インフルエンサーを活用した情報発信や現地スーパーマーケットで試飲会などを開催
ジャパン・ハウスを活用し日本酒の情報を発信
日本文化の総合発信拠点であるジャパン・ハウスロサンゼルスにおいて、現地インフルエンサーを通じた日本酒知識の発信や日本酒を気軽に、かつ、多品種飲むことが出来る「角打ち文化」を中核としたイベントを開催している。
2023年2月8日に開催された現地インフルエンサーを通じた日本酒知識の情報発信では、日本酒の基礎知識(純米、吟醸の種類、熱燗、冷酒等の飲み方、楽しみ方など)をテーマにセミナーを開催し、日本酒に対する理解を深めてもらった。
2023年2月25日~3月3日に開催された一般消費者向け角打ちイベントでは、日本酒の試飲と非日系食の食事とのペアリングを提供。延べ1,575人が来場し、来場者からは「今回のイベントで日本酒はモダンでオシャレな感じになることがわかった」などの好意的な意見が多く聞かれた。

非日系スーパーマーケットを通じた日本酒の認知度向上
さらに、海外における日本酒の裾野を広げるため、日本食レストランや日系スーパーではない、非日系市場にも浸透させることを目的に、海外の現地スーパーマーケットの試飲事業を実施している。
令和5年1月~2月には、フランスの現地スーパーマーケット計5店舗において、各1週間程度、商品棚を確保し、試飲を通じて販促活動を行った。その結果、店舗において、新たに「日本酒」の商品コードを設定し、今後の取り扱いにつながった。また、実施期間中に試飲場所をワインコーナーから魚・惣菜コーナーにした店舗では、食事とのペアリングを勧めたことにより、説明がしやすくかつ高単価となった。加えてスーパーマーケットや百貨店などと商談会を実施、更なる浸透を図っている。


写真:▲ジャパン・ハウスロサンゼルスで行われたインフルエンサーを通じた情報発信の様子。
写真:▲ジャパン・ハウスロサンゼルスで行われた一般消費者向け角打ちイベントの様子。
写真:▲商談会の様子。
写真:▼スーパーマーケットでの試飲会の様子。


国内におけるプロモーション
G7広島サミットでの日本産酒類PRやユネスコ無形文化遺産登録に向けた機運を醸成
国内におけるプロモーションとしては、国際的イベント等でPR活動を行ったり、ユネスコ無形文化遺産登録に向けての機運醸成のための各種PRなどを実施している。
G7広島サミットでは、国際メディアセンター(IMC)展示エリアでの日本酒PR (5月18~22日)を行った。
来場した外国人は、記者のほか、G7大使館関係者や海外で地酒本を出版している方など様々、ネット配信で熱心に展示内容を解説する記者の姿もあった。また、土産用に酒の購入を希望する方も多く、会場近くの百貨店等を案内した。

広島県主催の試飲に企画段階から参加
国際メディアセンターで開催された広島県主催の試飲(5月19~21日)には、酒造組合等との協議など企画段階から協力するとともに、試飲ブースでの放映動画としてALTツアー及び酒蔵体験動画を提供。開催中は、国税と県とで協調して、相互のブースに海外メディアを誘導した。また、IMC内の「プレゼンコーナー」において、鏡開きを実施し、その後、広島県産日本酒、ワイン、クラフトビールの試飲会を実施(5月20日)。メディアでも、鏡開き及び試飲会の模様が動画とともに紹介された。


写真:▲IMC国税局展示ブースの様子。海外の記者が人気ブースとして国内番組で紹介した。
写真:▲広島県主催の鏡開き、試飲会の様子。


事業者への補助金
海外展開・酒蔵ツーリズム及び国内外の新市場の開拓に補助金
酒類事業者による、日本産酒類のブランディング、インバウンドによる海外需要の開拓といった日本産酒類の高付加価値化や認知度向上に向けた取組を支援することにより、日本産酒類の輸出拡大を図ることを目的とし、令和4年度第2次補正予算では日本産酒類海外展開支援事業費補助金(海外展開・酒蔵ツーリズム補助金)として7.0億円を計上している。
また、酒類事業者は国内需要の減少、酒類事業従事者の高齢化といった構造的課題に直面するとともに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により新たな課題も顕在化している。これらの課題を解決するためには、国内外の新市場の開拓も必要になることから、令和5年度当初予算では新市場開拓支援事業費補助金(フロンティア補助金)として6.0億円を計上している。事業者の意欲的な取組を促し、酒類業の経営改革・構造転換を促す目的もある。
この補助金では次の4つの取組に対し補助を行う。
(1)商品の差別化による新たなニーズの獲得
(2)販売手法の多様化による新たなニーズの獲得
(3)ICT技術を活用した、製造・流通の高度化・効率化
(4)新型コロナウイルス感染症拡大の影響により顕在化した課題への対応
令和5年4月28日までの締切分では、海外展開・酒蔵ツーリズム補助金には189件の応募があり、103件が採択され、フロンティア補助金には166件の応募があり、123件が採択された。

採択事例紹介
海外展開/株式会社ジーブリッジ(大阪府)
焼酎・泡盛の紹介冊子によるブランディング
過去ブランディング効果の高かった焼酎・泡盛を育んだ日本の歴史、風土、生産者を紹介する冊子の第2弾。現地でのプロモーションに活用し、フランス国内での更なる認知度の向上と焼酎・泡盛文化の定着を図る。


写真:▲焼酎・泡盛の紹介冊子。


海外展開/SAKECAPITAL株式会社(東京都)
消費者への提案販売と安定提供体制の構築
2022年に香港で成功した試飲提供型の販売モデルを横展開。提案力のある販売プロモーターの育成・管理と、販売場への手配を行う。定期便、専用倉庫、出荷システムによる安定供給体制を構築する。


写真:試飲会の様子。▲


酒蔵ツーリズム/株式会社仙醸(長野県)
醸造体験を軸にした外国人向け酒蔵ツーリズム
海外の日本酒愛好家やバイヤーが、日本酒の醸造について英語で学び、体験できる研修プログラムを開発。通年で、モニターツアーを実施するための環境を整備する。


写真:▲日本酒の醸造の様子。


フロンティア/大石酒造株式会社(鹿児島県)
有機焼酎の開発とVRを駆使した
新規販路開拓
有機でありながら食用としては規格外のサツマイモを用いた有機焼酎を製造し、農家の収益向上、フードロスの抑制を図る。VRを活用し、消費者へ焼酎の味や香、テロワールを蔵元が伝える仕組みを構築。現代に復元させた伝統的な蒸留器による焼酎を通じ、海外での焼酎の認知を図る。


写真:▲伝統的な蒸留器による高付加価値焼酎の製造。


図表.酒類課税移出数量の推移
図表.日本産酒類の輸出金額の推移
図表.令和5年当初予算の海外展示会への出展予定
図表.コーディネーターの配置想定国・地域(都市)