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漫画だけが売れるのはなぜ?

漫画編集者・株式会社ブシロード社外取締役
鳥嶋 和彦


出版不況といわれて久しいが、漫画だけは例外である。出版に関係ないIT企業や漫画に縁のない出版社も、どんどん参入してきている。いったいなぜ漫画だけが売れるのだろうか。
1.漫画がわかりやすく、誰にも読めるものであるから。
漫画は、コマとセリフと絵でできている。コマで動きを、しゃべり言葉のセリフで物語を表現し、そしてそれらを絵で強調する。子供が見てもわかるように作られてきた。子供が見てわかるものは大人にもわかる。だから多数の読者を獲得してきた。

2.漫画家も若く、読者の読みたいものを提供してきた。
文字で表現する娯楽のように、作家が年配でなく若い表現者であるから、表現もテーマも読者に響く身近なものを扱ってきた。だから多数の読者を獲得できた。

3.出版社も漫画家の育成に力を入れてきた。
1,2の理由から、漫画の掲載される雑誌も、それを再構成する単行本も売れてきた。他の雑誌や書籍より大金が動くため、漫画家の育成には手間と時間をかけてきた。

4.漫画がアニメになりやすかった。
漫画に色をつけ動かせばアニメになる。多くの子供がテレビで無料のアニメを見ることにより、原作の漫画を知ることになり、結果、漫画が売れた。

5.漫画がゲームにもなりやすかった。
アニメを自分の手で動かせるようにするとゲームになる。漫画はその特質から、アニメ、ゲームになりやすく、その原作となってきた。漫画をアニメにして、原作のプロモーションをやり、それらをゲームやキャラクター商品にして、キャラクタービジネスを展開してきた。

6.アニメを海外に安く売り認知度を上げてきた。
日本で減価償却を済ませたアニメをまとめて安く海外販売してきた。その安さと品質で海外市場を切り開き漫画ビジネスの基盤を築いてきた。

7.スマホでも手軽に見られる。
漫画はその構造からPCやスマホにも載せやすく、読者を獲得してきた。紙の本の落ち込みをデジタルが補ってきた。ここまで説明してきたように、漫画はその特質から、本を、出版社をはみだし、色んなメディア、表現方法に変化し、その領域を広げている。他の表現方法が苦手としている海外展開、デジタル対応も問題なしである。

8.漫画は作るのに、人手とお金がかからない。
これだけのビジネスを展開する、その大本の開発費が圧倒的に安く割に合う。だから先に述べたように新規参入が相次ぐのだ。
今、漫画、アニメはバブル状態である。漫画、アニメが儲かると新規参入が相次ぎ、既存プレイヤーはさらなる拡大を目指している。このビジネスの発展は「幅広いユーザーに安くて新しく面白いものを」提供してきたが故である。ここをちゃんと考えず、限られたユーザーに面白くないもの、どこかで見てきたものを提供すれば、合理的な値段じゃない、安くないと見限られ、ユーザーはあっという間に離れていく。ドラゴンボールが終了した後のジャンプの部数のように。数字を見て合理的に判断しているからと企業サイドは言うだろう。でもそれでわかるのは、今と過去のユーザーの動向だけである。未来の動向を探る指針にはならないのだ。提供されていない新しいコンテンツは選べないのだ。
常に次のビッグヒットは限られた才能の中にある。これを見つけ育てられるのは、才能を愛せる根気のある編集者と新しいものに貪欲なユーザーの存在である。これは職業上の私の経験則である。この二つを考えられる企業があることを望むが、見ている限り現状はお寒い。ローマは一日にして成らず、である。