このページの本文へ移動

PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 21

行政データの利活用とは~税務データ共同研究関係者に聞く~

財務総合政策研究所 総務研究部 主任研究官 米田  泰隆
財務総合政策研究所 総務研究部 研究官  稲葉  和洋
財務総合政策研究所 総務研究部 係員  渡邊  葵伊
(本稿における執筆者及びインタビューを受けた共同研究関係者の肩書は、2023年6月末現在)

本年3月号では財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)の輸出入申告データを活用した共同研究をご紹介したところですが、国税庁では財務総研に先駆け行政データの利活用について検討を行い、税務大学校(以下、「税大」)において、税務データを活用した共同研究に取り組んでいます。そこで、今回のPRI Open Campusでは、同様に行政データの利活用に取組む財務総研の職員が、税務データ共同研究に携わる研究者及び国税庁職員へのインタビューを行い、取組の背景や税務データの研究を利用する上で期待されること、今後の課題・展望について「ファイナンス」の読者の皆様に紹介します。

1 税務データを活用した共同研究
国税庁では、国税庁が保有する行政記録情報としての税務データを利用して、大学教授をはじめとする外部研究者を税大の任期付非常勤職員(客員教授)に任用し、税大の職員と共同して、我が国の税・財政施策の改善・充実等に資する統計的研究を実施しています。
共同研究において使用するデータは、国税庁が保有する全ての行政記録情報ではなく、国税庁が指定するものとなります。共同研究のテーマに応じて、公募の際にサンプルのデータセットを提示しています*1。
個体別の税務データは、納税者の秘密の保護が強く求められることから、学術利用上は必要とされない氏名や法人名は削除しています。また、個体別の税務データは、税大施設内に設置された、税大が提供する端末においてのみ利用が可能です。個体別の税務データを集計・分析した図表等に関しては、国税庁が定めたガイドラインに規定されるチェック内容を満たしていることを国税庁が確認した場合のみ、税大の施設外に持ち出し、申出書に記載した利用場所でも利用できるようにしています*2。
共同研究において、税大職員が行う作業内容は、個別に研究者と協議の上で、具体的に決めることになります。これまでの共同研究では、税務データを学術で分析できる状態に整えるデータクリーニング作業、分析プログラムの実行、データの適正な管理、集計・分析した図表等の持出審査等については、税大職員が中心的に担っています。
研究成果の一部は、2023年4月に共同研究ディスカッションペーパー(以下、「DP」)として国税庁の税大HPに2本の論文が公表されました*3。共同研究の研究成果は、今後も順次公表することを予定しています。

2 共同研究者へのインタビュー
(1)國枝 繁樹 教授(写真左)
[プロフィール]
1989年にハーバード大学において博士号(経済学)を取得。その後、大阪大学大学院経済学研究科准教授、一橋大学国際・公共政策大学院(兼経済学研究科)准教授を経て2018年4月より中央大学法学部教授(現職)。主に財政学を研究。2022年4月より税大客員教授。
[聞き手]
稲葉 和洋(写真右)
財務総研総務研究部財政経済計量分析室研究官
2021年7月より財務省大臣官房総合政策課、2022年7月より財務総研総務研究部財政経済計量分析室にて財政の長期推計に関する研究に携わる。2023年1月より税大研究部に併任。

稲葉:
本年4月の共同研究の成果物第一号となるDP「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」の刊行、お疲れ様でした。共同研究開始から1年たちますが、振り返ってみていかがですか*4。

國枝:
以前から税務データに基づく分析の必要性を訴えてきたところですが、国税庁が学術利用を共同研究の形で認めることとなり、我々の申告所得税データを用いた研究が採択され、2022年4月から共同研究を開始しました。初めて学術研究に供されるデータということもあり、当初、データを学術で分析できる状態に整えることにかなり長い時間を要しました。申告所得税データは1年分で2,200万件を超えるビッグデータであり、様々な課題もありましたが、税大職員の献身的な貢献もあり、学術利用に耐えるデータに整備できたところです。税務データは、高額所得者のデータを含め、これまでのデータでは十分にカバーできていないサンプルが含まれていること、税務個票データを活用できることでそもそも個票データがなければ実行できない最新の推計手法が利用可能になったこと等、研究のために、極めて有用だと思いました。一方、税務データに含まれるのは、税務行政上必要とされる項目のみなので、研究上必要な情報がすべて得られるわけではないという課題も認識しました。
推計の内容によっては、計算に非常に時間のかかるケースもありましたが、国税庁において、コンピューターの性能向上等の研究環境整備にも努めていただいています。

稲葉:
今回発表したDPの内容について教えてください。

國枝:
今回のDPは、我々のグループの研究のいわばイントロダクションといったところで、まず、財政学の研究においてなぜ税務データの利用が重要なのかを、世界における税務データの利用の状況や税務データを用いた代表的な実証研究を紹介した上で、高額所得者の所得分布の指標であるパレー卜係数の推計を説明するものです。今回の推計結果では、日本の2020年の高額所得者の所得分布のパレート係数の推計値は1.45程度となっています。先行研究では、日本の1992~2000年のパレート係数は2を超える水準でしたので、過去の水準よりも大幅に低くなっています。パレート係数は、数字が小さくなるほど、所得集中が進んでいることを意味する指標です。つまり、今回の推計結果は、超高額所得者への所得集中が、資本所得を中心に進んだことを示しています。
これは、今回、国税庁との共同研究で申告所得税の税務データの利用が可能になったことにより明らかになったことであり、税務データの学術利用には、学術面のみならず、政策面においても重要な意義があることを示すと言えると考えます。
なお、DPの補論として、今回、利用可能となった申告所得税の税務データに関し、現在進めている学術で分析できる状態に整える具体的な内容を説明し、それを反映した、従来よりも詳細な、様々な所得概念に対応した統計表の一部を掲載しています。
現在、高額所得者の所得分布、課税所得の弾力性の推計、税制の再分配効果、マクロ経済学的なアプローチといったトピックにつき、引き続き分析を進めているところです。今後、様々な知見が得られると期待しています。

稲葉:
以前から税務データに基づく分析の必要性を訴えてきたとのことですが、なぜ税務データを研究に活用することが重要だと考えておられるのでしょうか。

國枝:
税務データを含む行政データには、主に次の3つの利点があります。
第1に、標本数がきわめて大きい点です。統計やサーベイデータの多くは、国民の一部のみを対象とした調査ですが、多くの行政データは、より広い人々を対象としています。
第2に、同一の個人の長い期間にわたるデータを含んでいる点です。これによりパネルデータを構築することができ、政策の長期にわたる効果等を調べるのに適しています。
第3に、質の高いデータを提供している点です。統計やサーベイデータは、無回答、対象人員の減少および過少報告等の問題を抱えている場合も多いですが、行政データはこうした問題が発生しにくい利点があると思われます。
現在、財政学においては、世界的にも税務データを用いた実証分析が主流です。逆に言えば、税務データを用いない研究は、国際的に評価されない状況にあります。

稲葉:
税務データを用いて分析することには、どのような政策的意義があるのでしょうか。

國枝:
今回のDPの後半では、これまでデータ不足で明らかでなかった超高額所得者層への所得集中が進んでいることを明らかにしています。特に、資本所得に係る格差が大きいことを示すことができ、これにより金融課税の強化という政策の必要性が明確になったと考えています。
これまでの日本の税制を巡る議論では、学術的な評価に耐えるエビデンスに基づく政策判断が必ずしも十分行われていないことが少なくありませんでした。それに対し海外では、例えば貯蓄やポートフォリオ選択に関し、減税によるインセンティブは限定的で、行動経済学に基づく政策が有効なことが実証的に確認されており、その学術的根拠に基づき、行動経済学に基づくスキームを税制で支援する方向に政策が転換されてきています。
日本でそうしたアプローチがなされてこなかった背景としては、そもそも税務データの学術的利用ができないため、税制の効果についての研究者による実証研究が難しかったことがあります。税務データの利用を拡大することは、日本における財政学の研究水準の引上げに寄与するだけでなく、日本の税制を巡る議論をエビデンスに基づくものとし、政策の質を向上させる点でも重要な意義を持つものと考えています。

稲葉:
現在利用している以外の税務データを扱う研究を行うとしたら、どのようなデータを使うと分析に有益だと思われますか。

國枝:
現在提供されている申告所得税、法人税、相続税の他にも、消費税等の他税目のデータが利用できれば、様々な研究ができると思います。
また、源泉分離課税の対象となっている所得や2,000万円以下の所得の給与所得者のデータで申告がないものは、現在利用している申告所得税データには含まれていません。マイナンバー制度の普及後には、マイナンバー等を用いてそれらのデータのマッチングを行い、納税者の所得の全体像が明らかになれば、税務データの学術的な価値も更に上がることになると思われます。

稲葉:
最後に、税務データを用いた研究が行われていく上で財務省及び国税庁に期待することを教えてください。

國枝:
税務データ利用の必要性を長らく主張してきただけに、まず税務データの学術利用を認めていただいたことに感謝したいです。また、税大職員にも、デー夕整備や研究環境の整備に献身的に御協力いただいており、深く感謝いたします。
税務データは、納税者のプライバシー保護もきわめて重要なので、税務データの利用は、税大の共同研究室に設置されたPCでしか許されていないなど、厳しい情報管理下にあります。プライバシー保護の観点からは、致し方ないと思う一方、中期的には、複数の利用できる場所を設けることが望ましいと思います。
今後とも、学術利用の対象となる税目の拡大や、データを利用できる場所の拡大など、税務データの学術利用を推進していただくことを期待しています。


(2)宮川 大介 教授(写真左)
[プロフィール]
2008年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)において博士号(経済学)を取得。その後、日本政策投資銀行設備投資研究所副主任研究員、ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所研究員、日本大学経済学部准教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、一橋大学大学院経営管理研究科教授を経て2023年4月より早稲田大学商学部教授(現職)。主に企業ダイナミクスを研究。2022年4月より税大客員教授。
[聞き手]
渡邊 葵伊(写真右)
財務総研総務研究部研究企画係
2021年7月より財務省内での研修の運営や、外部有識者を招いた講演会等の業務に従事している。2023年1月から税大研究部に併任。

渡邊:
宮川先生は、法人税の個票データを利用した共同研究に参画されていますが、実際に分析をしてみて、感じたことや分かったことを教えてください。

宮川:
これまで私自身の研究で様々な政府統計の個票データや民間の商用データを使用してきましたが、データの正確性や標本の偏りの有無は分析の重要な前提となります。法人税の個票データは、その性質から正確性が極めて高く、かつ母集団に近いデータです。様々なデータを使用して分析する際のベンチマークになりうる素材だろうと思います。自分たちが今まで使ってきたデータを税務データと比較することで色々なことが分かると思います。
例えば、売上金額の分布という文脈で考えてみると、ある地域の特定の業種について税務データから見える分布と、民間のデータベースや他の政府統計から得られる分布を比較した時の同異は、それらのデータベースを用いた分析の信ぴょう性を検討する上で有用だと思います。

渡邊:
税務データを研究で用いる準備をする上で、何が一番大切だと感じましたか。

宮川:
実務をよく知る税大の職員の方と密接にやりとりしながら研究を進めることだと思います。特に、分析用のデータセットを構築するための処理を行うプログラムを、こうしたやり取りの中で構築する作業がとても貴重な経験となりました。実務についての理解があやふやなままで進めると、大体の場合、分析を誤ります。職員の方と議論することで、どういった背景の下でデータが構築されているのかをよりよく理解できました。税務の現場をよく知っている方とコラボレーションしながら分析するという共同研究のスタイルが、振り返ってみると、研究の質を担保するために最も重要なポイントだったと思います。

渡邊:
本年4月にDP「The U-shaped law of high-growth firms」を公表されましたが、読者や政策担当者がどういった点に着目すると有益な示唆を得ることができるでしょうか*5。

宮川:
今回の論文のテーマは、売上高成長率で計測した企業成長のパターンを、ほぼ全ての法人が申告している税務データ、すなわち母集団に近いデータで描写しようというものです。特に、一定期間において高成長を遂げた企業が、各年においてどのような成長パターンを示したか、が中心的な関心事でした。
結論を要すれば、社齢の若い企業を除くと、複数年をかけてじわじわ成長した結果として高成長を実現するというパターンは例外的であり、ある年に急速な高成長を挙げているパターンが支配的でした。つまり「高成長企業は急成長企業」である、という結論になります。
過去30年に亘って日本経済の停滞が指摘されてきました。人口が減少していく中で成長の種になるようなものを見つけていかなければならないという問題意識が、常に政策に関する議論の真ん中にあると思っています。この点に関して、例えば、日本には老舗企業が多く存在するわけですが、そういう企業がもう一段階高い成長を遂げようと思ったときに、じわじわ成長しようというアプローチでは難しく、ジャンプするような形での急成長を目指すしかないという含意が今回の結果から得られます。経済成長のために何らかの政策を立案する、もしくは企業の経営戦略を考える際に、こうした実証事実が何らかのヒントになると思います。
本研究に関して、研究者仲間からは、実証結果の意義だけではなく、法人税データの中身を理解するという意味で有益だったという反応がありました。将来、こうした税大との共同研究プロジェクトが進むにつれて、利用できる法人税データの範囲が拡大する可能性も有るわけですが、多くの研究者がこのデータに関心を持っていると感じます。

渡邊:
現在利用している以外の税務データを扱う研究を行うとしたら、どのようなデータを使うと分析に有益だと思われますか。

宮川:
最も関心があるのは、インプットのデータです。今回はアウトプットに対応する売上高を使ったわけですが、人件費や設備投資、更に、イノベーションの源泉となる研究開発への支出といったインプット側のデータを含めて分析出来れば素晴らしいと思います。
アウトプットについても、売上高だけではなく、付加価値の計測を含めた検討の余地が残されていると思います。

渡邊:
最後に、税務データを用いた研究に関し、財務省や国税庁に期待することについて、教えてください。

宮川:
期待することは3点あります。まず1つ目は、今後も共同研究を長期に亘って継続して頂きたいということです。現在進行中の第1期、第2期の採択研究が優れた結果を生み出すことが勿論期待されるわけですが、仮にこれらの初期のプロジェクトの結果がデータ整備などの比較的地味な成果に留まったとしても、共同研究活動を続けることで着実に成果が蓄積されていくはずです。国税庁では来春から国税専門官の理工・デジタル採用を創設すると伺いました。データ分析は、専門的な技術や経験の蓄積が重要です。短期的に成果が出なくとも、データ蓄積や人材育成を進め、共同研究を続けることが何より重要だと考えます。
2つ目は、税務データへのアクセス環境の整備です。税大和光校舎の共同分析室だけでなく、財務省・国税庁や地方の関係機関等でも税務データを利用できる環境が整うのであれば、より幅広い範囲の研究者がプロジェクトに参画できるようになると思われます。セキュアな環境でデータにアクセスするということを最優先すべきだと思いますが、こうしたセキュリティ面に支障がない範囲で、データへのアクセス環境の整備をご検討いただければと思います。
3つ目は、職員個人が執筆者となり、個人の名前が残るような仕事に対する組織の理解が高まってほしいと思います。今回のDPでも、研究活動に貢献頂いた税大職員の方に共著者へ入っていただきました。研究や分析の仕事では、その人の業績を構成する具体的な論文がないと、意味のある交流が始まりません。特に、海外の同種の機関との交流の中では、名刺代わりになる研究成果の有無が重要になると考えます。役所は組織単位での活動が重視され、資料も組織名で公表する場合が多いと思いますが、個人名で公表した成果であっても、組織に貢献しているという点では同様に意義があります。財務省・国税庁・税大の皆さまにおかれても、共同研究では臆することなく積極的に関わっていただき、貢献度に応じて適切に執筆者として名前が載る成果をしっかり出して頂くことを期待します。
なお、今回の税務データを用いた共同研究では、研究者が共同研究者として採択され、国家公務員として任命され、税大で研究活動を実施しています。将来的には、逆に国税職員の方が大学等のアカデミアの世界にお越しいただくような相互交流ができれば、より良いのではないかと考えます。学術的な知見と、実務的な視点は、行政データの分析のうえで、共に重要な両輪であると考えます。今回の共同研究を通じて、財務省及び国税庁に、単発の研究にとどまらない、情報や知識を活用する土壌や人的資本といった、充実した財産を残すことができれば素晴らしいと思います。


3 国税庁職員へのインタビュー
[プロフィール]
髙本 祐貴:(写真右)
国税庁データ活用推進室課長補佐
2015年4月に国税庁に入庁。国税庁・税務署等での勤務のほか、英国留学や、経済産業省での税制改正業務などを経て、2022年7月より現職。国税庁におけるオープンデータ関連の取組方針策定や統計業務を担当。
米田 泰隆:(写真左)
財務総研総務研究部主任研究官
2010年7月に財務総研研究部研究企画係に配属。その後、一橋大学への国内留学等を経て、2022年9月に一橋大学で博士号(経済学)を取得。現在は、財務総研のほか、国税庁データ活用推進室及び税大研究部にも所属し、税務データ共同研究における関係各所の調整役を担っている。

渡邊:
今回、国税庁の行政データ利活用の取組についてインタビューの機会を頂きありがとうございます。まずは、共同研究が開始するに至った背景を教えてください。

髙本:
まず、大前提として、税務データについては、申告納税制度*6の下、納税者の信頼や協力によって集積しているものであり、適切に取り扱う必要があります。その一方で、「オープンデータ基本指針*7」をはじめとした政府保有データのオープン化に係る政府方針も背景に、税務データの利活用については国税庁独自に有識者を交え検討を重ねておりました。その議論においては、個票データの利活用に対するニーズが高く、そこに焦点を当てて検討を行った結果、まずは共同研究という形式から始めることが適切であるという結論が得られたところです。その後、研究テーマの公募や、有識者会議における審査、採択決定を経て、2022年4月より、税大との共同研究を開始いたしました。

稲葉:
税務データという極めて機微な情報を共同研究で利用するにあたって、具体的にはどのような仕組みで共同研究を実施されているのでしょうか。

髙本:
繰り返しにはなりますが、税務データについては、納税者の信頼や協力によって集積しているものであり、適切な取扱いが求められます。したがって、個票データを利用される場合については、税大の任期付き職員(客員教授)に任用され、私たち国税職員と同じく国家公務員法等の守秘義務が課される仕組みとしています。また、実際の運用においては、氏名等が削除された個票データの利用となり、その利用も税大施設内・税大端末に限定しています。個票データから得られた分析結果については、税大施設外に持ち出すことはできますが、持出しに際しては税大内で審査を行っており、極めて厳格に情報管理を行っています。

稲葉:
昨年4月の共同研究開始から1年が経過し、研究の成果物としてDPも公表されました。検討開始から今に至るまでを振り返って、いかがでしょうか。

髙本:
研究を進めていく過程においては、膨大な分量のデータを分析することとなり、労力等も非常にかかるものかと思いますが、1年ほどで成果が出ることは大変喜ばしいことであると考えています。また、研究成果が出たこともあり、こうした取組を実施していることを、今後も学会等の場もお借りしながら、引き続きPRにも努めていきたいと思います。

渡邊:
共同研究をより推進するにあたり、どういったことが重要であるとお考えでしょうか。

髙本:
共同研究は、わが国の税・財政政策の改善・充実等に資する統計的研究であり、所掌事務の範囲内で、可能な限り学術的にも貢献することを目的としています。
このような共同研究の取組を推進するために、関係各所からご意見を頂戴しながら、可能な限り改善を図っていくことが重要であると考えています。

渡邊:
最後に、今後の展望などをお聞かせいただけないでしょうか。

髙本:
国税庁は、今年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」*8を公表しました。その大きな柱の1つであるデータ活用については、課税・徴収事務の効率化・高度化を図るためのデータ活用に加えて、共同研究のような税務データの学術研究目的活用についても、組織全体の重要な取組の一環として示しています。
また、共同研究とは別の取組として、税務データを標本抽出・匿名加工した匿名データの提供についても、一定の要件を満たすことを条件に、利用者の申出に基づき可能となるよう検討を進めております。
このように税務データについては、個人情報の保護や情報セキュリティの確保に万全を期しながら、学術研究目的の活用を進めてまいりたいと考えております。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

*1) 2023年3~5月に募集した第3期公募では、(1)所得税及び復興特別所得税の確定申告書第一表(A及びB)及び第三表、(2)法人税申告書別表一(一)(白色申告及び青色申告)及び(3)相続税の申告書第1表及び第15表という、3つの税目のデータを公募テーマとした。
*2) ガイドラインの詳細については、国税庁の税大HPを参照。
(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/guideline.pdf)
*3) 詳細は国税庁の税大HPを参照。
(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kyodokenkyu/kohyo/index.htm)
*4) DP「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」は、国税庁の税大HP以下URLに掲載されています。
(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kyodokenkyu/kohyo/pdf/230100-01ST.pdf)
*5) DP「The U-shaped law of high-growth firms」は、国税庁の税大HP以下URLに掲載されています。
(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kyodokenkyu/kohyo/pdf/230200-01HJ.pdf)
*6) 申告納税制度とは、国の税金は、納税者が自ら税務署へ所得等の申告を行うことにより税額が確定し、この確定した税額を自ら納付する制度のこと。
*7) 詳細は、デジタル庁のHPを参照。
(https://www.digital.go.jp/resources/open_data/)
*8) 詳細は、国税庁のHPを参照。
(https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm)