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我が国におけるTLAC規制―我が国4SIBsに対する破綻処理スキーム―


―我が国4SIBsに対する破綻処理スキーム―
東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1

1.はじめに
本稿では、「我が国におけるTLAC規制」(服部、2023c)を前提に、我が国のTLAC(Total Loss-Absorbing Capacity, 総損失吸収力)規制の詳細を説明することを目的としています。まず、我が国におけるTLAC規制の概要を改めて確認します。その後、破綻処理時におけるTLACの取り扱いや預金保険機構の役割について説明します。
読者に注意を促したい点は、TLACを用いた破綻処理はこれまで事例がないことから、TLACによる損失吸収の枠組みについては、既存資料を参照しつつ筆者が解釈した部分も存在する点です。現在、TLAC規制の対象となっている日本の3メガバンクおよび野村ホールディングス(4金融機関グループを総称して「4SIBs」)の破綻がありえるかについては議論があるでしょうが、実際の破綻処理の運用にあたっては、今後、議論を深める必要がある点が少なくないと思っています。また、これまでの論文で指摘したとおり、我が国では一定の条件があるものの、金融機関に対して公的資金注入のスキームが残されている点にも注意してください。
本稿では、筆者がこれまで説明してきたバーゼル規制に関する一連の文献を前提にしています。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2.我が国における4SIBsの破綻処理戦略
2.1 TLAC規制と特定第二号措置の関係
服部(2023c)で説明したとおり、2008年の世界金融危機以降、「Too big to fail(TBTF)、大きすぎて潰せない」問題に対処するため、グローバルで展開する金融機関が仮に破綻したとしても、納税者への負担を回避しつつ、金融システムへの連鎖も防ぎながら破綻処理ができる制度の確立が求められました。我が国では、世界金融危機後に、預金保険法の改正により、「秩序ある処理」が整備され、「特定第一号措置」と「特定第二号措置」が確立しました。その詳細は服部(2023b)に譲りますが、巨大な金融機関が実際に破綻処理をすることを想定したスキームは特定第二号措置です。秩序ある処理は、金融危機対応措置(預金保険法102条スキーム)との比較でいうと、銀行持株会社等、預金取扱機関以外への対応や資本増強だけでなく、流動性供給等のツールも有する点が特徴です。また、秩序ある処理では、市場型危機に伴って金融機関の急激な信用不安が生じることを想定しており、必ずしも債務超過に陥っていなくとも、早期の処理開始が可能な枠組みが整備されました(図表1. 我が国における破綻処理スキームが我が国における破綻処理スキームを整理したものですが、特定第二号措置は「債務超過または支払い停止時(これらのおそれを含む)」としています)。
もっとも、我が国では、第一号措置(金融危機対応措置)や特定第一号措置(秩序ある処理)により、巨大な金融機関に対して預金保険機構を通じて資本増強するスキームが残されています。この場合、資本過小時であることやシステミック・リスクの認定が要件になりますが、政府としては普通株式等Tier1資本(CET1)比率が低下する等、巨大な金融機関の危機が見込まれる場合、特定第二号措置により早期に破綻処理をするのではなく、第一号措置(金融危機対応措置)や特定第一号措置(秩序ある処理)により公的資金を注入するオプションが残されている点に注意してください。
このように公的資金注入のスキームがあることから、金融庁はTLACを用いたSPE(Single Point of Entry)処理を望ましいとしているにも関わらず、主要な格付会社による格付けでは、我が国の金融機関は政府による公的支援が高い可能性で見込まれるとして高い格付けが付与されており、調達コストが抑えられています*3。こうした状況については、国際的な金融規制を議論する金融安定理事会(FSB)のTBTFに関する報告書でも指摘されています*4。しかしながら、実際にどのような処理が行われるかについてはその時の状況に応じた当局の判断によることに留意する必要があります。

2.2 我が国におけるTLAC規制の概要
服部(2023c)で説明しましたが、ここで改めてTLACの定義を確認しておきます。TLACとは、CET1およびAT1債による「ゴーイング・コンサーン・キャピタル」(生き延びるための資本)だけでなく、BⅢT2債やTLAC等の「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」(安全に破綻するための資金調達手段)を含めた合計と定義されています(これまでの筆者の論文では、BⅢT2は自己資本に含められることからゴーン・コンサーン・キャピタルと表現しましたが、TLAC債はキャピタルではないことから、「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」と呼ぶ方が適切と考え、ここではこのように表現しています)。
TLAC=ゴーイング・コンサーン・キャピタル
(CET1+AT1)*5+ゴーン・コンサーン・ベース
の損失吸収力*6
また、同論文で説明したとおり、TLACには、外部TLACと内部TLACがあり、外部TLACとは株式や債券などの形でリスクテイクを許容する外部の投資家からの調達でした。外部TLACという観点では、いわゆる持株会社のシニア債は「その他外部TLAC調達手段」と呼ばれる一方、CET1、AT1、BⅢT2については「外部TLAC適格資本」と整理されています。したがって、この関係に注目すると、
外部TLAC=外部TLAC適格資本+その他外部TLAC調達手段
という関係が成立します。いわゆるTLAC債(持株会社のシニア債)の適格性については金融庁の告示上、「その他外部TLAC調達手段」として規定されていますが、それについては後述します。
自己資本比率規制とTLAC規制の関係を示したものが図表2. 我が国における自己資本比率規制とTLAC規制の関係です。ここで、図表2にあるとおり、資本保全バッファーなどの資本バッファーはバーゼルIII上における自己資本比率規制に含められていますが、TLACヘの参入は認められていません。これは、危機時にはバッファーに該当する資本はすでに毀損されているとの考えによるものです。また、この図表2では「日本の預金保険制度の貢献分」が含められていますが、これについては後述します。
TLAC規制では、上述のように定義した外部TLACを、リスク・アセット対比で18%、レバレッジ・エクスポージャー対比で6.75%以上に保つことを求めています*7(なお、国内では、2024年4月1日以降は6.75%から0.35%引き上げ、7.10%になる(代わりに日銀預け金をレバレッジ・エクスポージャーから控除する)予定です)。
外部TLAC/リスク・アセット≧18%
外部TLAC/レバレッジ・エクスポージャー≧6.75%

2.3 「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」の必要性
このようにTLACは、「ゴーイング・コンサーン・キャピタル」と「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」によって構成されているため、これだけを見ると、例えば、CET1やAT1といったゴーイング・コンサーン・キャピタルを中心にTLAC規制を満たすということもあり得るように思えます。ですが、TLAC規制では、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力についても一定程度、調達することが期待されています*8。具体的には、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力が外部TLAC所要水準の概ね33%を超えることが期待されています。
この背景には、金融機関が債務超過に陥ったような段階でも、納税者負担なく損失吸収できる余地を用意しておくという考えがあります。平時の監督で最も注目されるCET1はゴーイング・コンサーン・キャピタルですが、破綻時には株式価値の評価はほぼゼロになっていると想定されることから、CET1比率は金融機関が破綻する可能性を減らす意味では非常に有効である一方、破綻後の損失吸収力という観点では、破綻までは負債として扱われ、破綻処理の中ではエクイティ的に迅速な損失吸収の役割を果たす調達手段、すなわち、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力を準備しておくことが有効となります。
また、実際に、危機時において、株式投資家だけであるとモラル・ハザードを招く可能性*9があるところ、負債保有者(BⅢT2債やTLAC債の保有者)が一定程度いることで、負債保有者による適切なガバナンスが期待されているという面もあります。監督指針では、「金融機関の破綻時においてその株主が被る損失はモラル・ハザードの原則の下、自らの出資額が上限となり、特に危機時にはモラル・ハザードを招く可能性があるため、債権者による監視を通じて金融機関の意思決定に影響力を及ぼす必要がある。さらに、負債は発行体が危機に近づくにつれて利払い等のコストが増大するため、平常時から負債を発行することによって、自らが危機に陥らないようにするためのインセンティブを強めることも期待されている」と指摘しています。
なお、この規定を満たすことは、国際合意上、「expectation*10」という表現が用いられており、各国において具体的な運用方針が任されている項目であることから、実施状況には各国で違いがあります*11。また、以前は、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力のみで一定程度資本調達を求めるという議論(Gone-Concern Loss Absorbing Capacity, GLAC)もありましたが、その点については服部(2023c)のBOXを参照してください。

2.4 我が国におけるTLAC規制導入の流れ
金融危機以降、TBTF問題に対処するため、一連の国際金融規制改革の一環として、2015年のG20アンタルヤ・サミット*12において、グローバルにシステム上重要な金融機関が破綻したときに備えるためのTLAC規制が国際合意されました。FSBが2015年に公表した「TLACタームシート」において詳細な規定が定められており、各国(法域)においてこの規定に沿った制度整備・実施が求められました。
我が国では、これを受け、2016年4月に「枠組み整備方針」が公表され、本邦3メガバンクに対する望ましい処理戦略が明らかにされました*13。吉良・橋本(2018)によれば、同方針について、「(1)3メガバンクの処理戦略としては、いずれも、銀行・証券等の主要子会社で発生した損失をグループ最上位の本邦持株会社に集約させて処理する『SPE(=Single Point of Entry)アプローチ』が望ましいこと、(2)持株会社が所要のTLACを外部から調達したうえ、主要子会社へあらかじめ配賦しておくこと、(3)SPEアプローチを用いた場合に想定される、預金保険法上の特定第二号措置を用いた秩序ある処理の具体的なプロセスの例等を示した」こと(p.40)と整理しています。
我が国のTLAC規制のロードマップにおいては、2018年4月に公表された「枠組み整備方針」改訂も重要です。吉良・橋本(2018)は、「(1)本邦におけるTLAC規制対象金融機関の拡大、(2)海外G-SIBsの本邦子会社に対するTLAC規制実施方針、(3)国内金融機関がTLAC債等を保有した場合の自己資本比率規制上の取扱いの3点を中心に整備方針を改訂し、公表した」(p.40)と整理しています。TLAC合意上、その規制対象はG-SIBs(我が国では3メガバンク)とされていますが、D-SIBsである野村ホールディングス(HD)に対しても、この2018年のタイミングでその規制対象に追加され、3メガバンクのTLAC規制適用開始時期である2019年から2年遅れの2021年3月31日から規制適用開始となりました(G-SIBsとD-SIBsの違いについては服部(2023a)を参照してください)。日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)では、「本邦 D-SIB のうち、国際的な破綻処理対応の必要性が高く、かつその破綻がわが国の金融システムに与える影響が特に大きいと認められる金融機関は、金融庁により本邦 TLAC 規制の対象」としており、「野村ホールディングス株式会社がこれに該当する」と説明しています(なお、そもそも中央清算機関等、秩序ある処理(預金保険法126条の2)がカバーしない金融機関が存在する点にも注意してください)。
国内における3メガバンクのTLAC規制の適用開始は2019年3月ですが、TLAC債自体は、2016年春頃に3メガバンクによる発行が始まる等、早い段階から準備が進められました。野村HDについても2018年春から発行が始まりましたが、その推移や傾向については紙面の関係上、次回の論文で記載します。

2.5 資本再構築
これまでの論文で議論してきたとおり、ベイルインとは、株式や債券の投資家に損失を十分に吸収してもらい、納税者負担を回避することですが、ベイルインにおいて既存の株式が無価値化した後に、銀行等の主要子会社のビジネスを展開するには、新たな株主が必要となります。FSBの「主要な特性」においても、破綻処理当局が(社債等の)債権を株式転換する権限を持つ必要があるとされています*14。TLAC規制では、バーゼル規制で求められる自己資本の2倍以上のTLACが求められています。
服部(2023a)で説明したとおり、バーゼル規制上の自己資本比率規制で求められる自己資本は、銀行の有する資産における最大損失額を見積もり、リスクを取ってよいと考える投資家から、それ以上の金額を自己資本(株式やバーゼルIII適格の劣後債等)で資金調達するというアイデアです。金融機関が仮に大きく損失を被り債務超過に陥っている場合、この自己資本は無価値化している状態といえます。もっとも、シニア債等のその他TLAC適格負債で所要自己資本と同額以上の調達を事前に行っていれば、仮に債務超過になったとしても、その他TLAC適格債として発行されていた社債等により一定程度損失を吸収したうえで、社債を株式転換すれば、新たな株主が生まれることになります。このプロセスを「資本再構築」といいます。
BOXで、米国における資本再構築を説明していますが、米国では、持株会社に子会社の損失を移転し、子会社の自己資本を復活させたのち、TLAC債が株式に転換される形で資本再構築がなされる一方で、我が国のTLAC規制における資本再構築は、預金保険機構が一時的にブリッジHDに出資する形でなされます(このプロセスは次節で説明します)。その後預金保険機構が2年以内に出資した株式を民間事業者に売却することで、新たな株主の下で再スタートを切ることになりますが、それまでの間、一時的には預金保険機構が株主の役割を果たすことになります。その意味で、我が国の制度では、預金保険機構が重要な役割を果たす点が特徴ともいえます。

2.6 日本の預金保険制度の貢献分
我が国のTLAC規制の特徴は、前述のとおり、TLACを計算するにあたり、預金保険機構の貢献分が考慮されている点です。国際合意において、資本再構築のための事前のコミットメントがあればTLACとして参入可能とされており、我が国の預金保険制度はこれに従っているという整理がなされています。我が国の制度では、ブリッジHDの資本再構築が必要になった場合、一定の方法で危機対応勘定から、ブリッジHDに資金注入する仕組みが整備されています。これに伴い、図表2のとおり、我が国のTLAC規制では、預金保険機構の貢献分が、リスク・アセット比で3.5%加算されています。


3 本邦4SIBsに対する破綻処理スキームのイメージ*15
3.1 本邦4SIBsに対する望ましい破綻処理の概要
ここからもう少し具体的にTLAC規制における破綻処理をみていきます。図表3. 本邦4SIBsに対する望ましい破綻処理が、金融庁により公表された本邦4SIBsに対する望ましい破綻処理の一例です。このスキームの処理については服部(2023c)で触れましたが、ここでは預金保険機構の役割を明示したうえで、その詳細について説明します。
図表3を時系列でみるため、まず、図表4. 持株会社に損失を移転させる共に、持株会社の株式や社債等を通じてベイルインのような形で、この持株会社の傘下にある銀行において、グループ全体の破綻処理が必要となるような多大な損失が発生したとしましょう(図表4における(1))。この場合、損失を持株会社に移転することで(図表4における(2))、グループ全体としては債務超過でありつつも、単体で見た子会社(銀行)自体は自己資本を回復し、業務を継続します(図表4における(3))。さらに、持株会社は子会社である銀行から多大な損失を移転されたことで持株会社単体として債務超過に陥りますが、ベイルインを通じて持株会社の株主や社債の投資家が損失を負担します(図表4における(4))。損失を移転した子会社の銀行は、預金保険機構により設立されたブリッジHDに引き継がれますが、新しく設立された持株会社では、グループ全体としても持株会社単体としても自己資本が回復することになります(図表5. 子会社における損失からベイルインまでの整理*16は、子会社における損失からベイルインまでのプロセスにかかる各主体の自己資本比率の流れを整理しています)。なお、このベイルインにおいては、原則的には普通株式、AT1債、BⅢT2債、その他TLACという債権者順位に沿って損失吸収が行われます(この部分はもう少し丁寧に後ほど説明します)*17。
破綻処理前後を通じて子会社である銀行等の業務を継続するため、図表6. 巨大な金融機関の破綻処理のイメージのとおり、債務超過に陥った持株会社から、預金保険機構傘下に設立されているブリッジHDに子会社株式等を移行させることで、主要子会社は継続して取引を行うことが可能になります。ここでのポイントは、ブリッジHDは預金保険機構傘下に設置されている点です*18。具体的には、預金保険機構が政府保証により資金調達をしたうえで、ブリッジHDに対して出資や貸付を行います。その際、エクイティについては預金保険機構が100%出資します(なお、別途ローン等でブリッジHDが資金調達する可能性はあります)。このように、預金保険機構が出資するブリッジHDが破綻した銀行グループの株主となるため、我が国の資本再構築は、少なくとも一時的には預金保険機構を通じてなされると解釈できます(前述のとおり、資本再構築の方法は各国で異なりますが、米国の事例についてはBOXを参照してください)。
図表6の通り、ブリッジHDは持株会社から主要子会社の株式を購入する一方、その資金を預金保険機構からの出資、さらに負債等で調達することになります。したがって、この状況ではブリッジHDのバランスシート(BS)は、資産側に銀行等の主要子会社株があり、負債サイドに預金保険機構からの100%出資、さらに負債等が計上されていると想定されます(図表7. ブリッジHDのBS(主要子会社の株式を購入後))。このように一時的に預金保険機構がブリッジHDを通じて破綻した金融機関グループの事業を保有することになりますが、図表8. 預金保険機構によるブリッジHD傘下の事業等売却のような形で、2年以内(延長しても最大3年以内)に受け皿となる金融機関にその事業を売却することが想定されています。この売却をもって破綻処理が終了すると解釈されます。
ちなみに、内部TLACを用いた子会社から持株会社への損失移転、ブリッジHDへの譲渡までの処理は、いわゆる金月処理がなされるとされています。すなわち、金融機関が破綻した場合、混乱を防ぐため、土日に必要な処理を行い、市場が開く月曜日には営業を開始できるようにすることが想定されています。
巨大な金融機関の場合、その処理は複雑になりますが、実際に巨大な金融機関が破綻した場合を想定し、秩序ある処理をどう行うかについて、事前にそのプランを当局が作成することでこの担保がなされています。これを処理計画(Resolution Plan)といいます。また、巨大な金融機関においては、破綻処理に至るよりも前の経営危機に瀕した状態においてどのように意思決定を行い、財務の健全性回復を目指すかを複数のシナリオを前提に整理することが求められており、これを再建計画(Recovery Plan)といいます。これら再建計画、処理計画を総称してRRP(Recovery and Resolution Plan)とも呼ばれます。米国では、「Living will(遺言状)」とも呼ばれその一部については公表が義務付けられています。

3.2 投資家からみたTLAC債のリスク
投資家からみたTLAC債のリスクを考えるため、損失移転された後の持株会社に、どのような残余財産が残るかを考えます。なお、具体的なスキームの詳細は公表されていないため、このセクションにおける説明は公表されている資料を参照した筆者の解釈であることに留意してください。
服部(2023c)で指摘したとおり、TLAC規制で求められるTLACの水準は、バーゼル規制上の自己資本比率規制で想定される最大損失額の2倍以上に設定されているため、TLACの価値は必ずしも全額毀損されるものではなく、処理後に金融機関が健全な業務運営を行う上で必要な価値が残ることが見込まれます*19。秩序ある処理が行われた場合、TLAC債の投資家がどの程度の損失を負うのか(分配を得るのか)について考える上で、そもそもの事業上の損失規模以外に大きく影響すると考えられる要素は主に二点あります。一点目は損失発生の原因となった主要子会社から持株会社に対してどの程度損失を移転するか、二点目は、前述の通り、破綻処理にあたり、持株会社の有する子会社株式をブリッジHDに対して譲渡するのですが、その際の譲渡対価がどの程度の水準になるかです。
損失発生の原因となった主要子会社から持株会社に対してどの程度損失を移転するか
この点について理解するため、秩序ある処理のプロセスに沿って、BS上の動きを考えてみます。まず、前述のとおり、最初に主要子会社(銀行Aとします)において大規模損失が発生し、債務超過に陥っているとします(図表9. 主要子会社(銀行)のBSと内部TLACの関係)。秩序ある処理においては、この銀行Aは処理後も今まで通り営業を継続することになるため、損失を持株会社に移転することで通常の銀行の営業に求められる自己資本比率を回復することになります。具体的には、銀行Aの持株会社に対する債務(内部TLAC)を事前の条件に従って削減し、債務が圧縮されることで自己資本が回復します(図表10. 主要子会社(銀行)における自己資本の回復のイメージ)。前述のとおり、自己資本比率の2倍以上のTLACを確保しているため、そのすべてを削減せず、その一部を元本削減していますが、この図表10からわかるとおり、内部TLACの削減が大きいほど、回復する自己資本が大きいことがわかります。持株会社への損失移転は銀行Aが健全な財務状況で営業を継続できるようになるまで行われる必要がありますが、具体的な損失移転額については損失規模や銀行Aの自己資本比率をどの程度まで回復させる必要があるかという当局の判断にも依存します。
次に、損失を子会社である銀行Aから移転された持株会社の処理を考えます。持株会社は子会社である銀行や証券会社の損失を内部TLACにより引き受けているので、債務超過に陥っています。この段階で、図表11. バーゼル規制資本(AT1/BⅢT2)のベイルイン前の持株会社のBSのような形で、まず持株会社が発行していたバーゼル規制上のAT1債、BⅢT2債について契約上のトリガーが発動されることで、元本削減又は株式転換が行われ、債務超過額は圧縮されます*20(バーゼル規制資本のベイルイン)。その結果、バーゼル規制資本のベイルインが完了した後では、持株会社の資産側には子会社株式を中心とする資産がある一方、負債側にはTLAC債(シニア債)、さらに、実質的な価値がゼロの株式(CET1)が存在しています。図表12. バーゼル規制資本(AT1/BⅢT2)ベイルイン後の持株会社のBSのとおり、ベイルイン後についても、引き続き、総資産額が総負債額を下回っているのでエクイティ価値(資産–負債)がマイナスになっており、債務超過の状況です。
持株会社の有する子会社株式をブリッジHDに対して譲渡する際、その譲渡対価はどの程度の水準になるか
次に、持株会社が主要子会社株式等の資産をブリッジHDに対して譲渡することに焦点を当てます。まず、前述のとおり、(倒産処理をする)持株会社が有する子会社株をブリッジHDに移すのですが、持株会社はブリッジHDから譲渡する資産(主に子会社株式)に対する(現金等の)対価を受けとることになると想定されます。この時、譲渡される主要子会社(銀行等)の株式価値は必ずしもゼロではないと見込まれることに留意してください*21。なぜなら、これら主要子会社は既に持株会社に損失を移転しており、自己資本比率を回復して業務を継続できる状況にあるためです。したがって、まず、このブリッジHDへの主要子会社株式等の譲渡の後、持株会社には、資産側にブリッジHDから支払われた(現金等の)譲渡対価及びブリッジHDに移転しなかった一部資産があります(図表13. 事業譲渡後の持株会社およびブリッジHDのBSの右図では、持株会社のBSの資産サイドが「子会社株式」であったところ、子会社株式を現金等の譲渡対価を受け取ることで、図表13の左図では持株会社のBSの資産サイドが「譲渡対価」になっている点に注意してください)。
その一方、持株会社の負債側に、その他外部TLAC債と(価値ゼロの)株式があり、引き続き、「資産<負債」という債務超過の状態になります(図表13の左図)。この状態の持株会社を法的に倒産処理することで、(債務超過であるため)株主は全損し、TLAC債の投資家はブリッジHDから支払われた譲渡対価に加え、ブリッジHDに移転しなかった資産を原資に分配を受けることになると予想されます*22。
注意していただきたい点は、最初の内部TLACによる持株会社に対する損失移転が大きければ子会社である銀行Aの財務状況は健全になり、ブリッジHDから持株会社に対して支払われる銀行A株式の譲渡対価は大きくなると見込まれる点です。先ほど、子会社から持株会社への具体的な損失移転額については当局の判断にも依存するとしましたが、この損失移転額がTLAC債を保有する投資家の被る損失の程度に与える影響は必ずしも明確ではない(持株への損失移転が大きいほど損をするとは限らない)点に注意してください。
なお、前述のとおり、預金保険機構が出資するブリッジHDは2年以内(最大3年以内)に引き受けていた事業を受け皿となる金融機関に再譲渡します。その時点の事業が受け皿となる金融機関にとってどれくらい魅力的であるかは、ブリッジHDへの事業譲渡までの一連のプロセスにおいてどの程度事前に損失吸収がなされたかにも依存します。TLAC債の保有者は事業譲渡対価を通じて適正な対価を得るべきである一方、ブリッジHD・預金保険機構側としては、きわめて先行きの見通しが不透明な事業を買収することになります。したがって、事業引き受け後の事業価値低下のリスクを回避しようとできるだけ安く事業を承継したいと考えることが想定されることから、危機時に事業譲渡についてどのような意思決定が行われるかは公表情報上明らかではありません。

3.3 AT1債・BⅢT2債・TLAC債における損失吸収のタイミング
上記を踏まえ、AT1債・BⅢT2債・TLAC債で見た損失吸収のタイミングを整理します。まず、CET1比率(持株会社の連結)が5.125%を下回った場合に、AT1債のゴーイング・コンサーン・トリガーが発動します(この点は服部(2022b)を参照)。この時には、CET1比率が5.125%を上回るために必要な損失吸収額分について元本削減または株式転換が行われることになります。仮に、特定第二号措置が認定される場合、その時点で残存しているAT1債とBⅢT2債は契約上の条件に基づき元本削減されます。この関係は図表14. 預金保険法における破綻処理スキームとPON条項の発動のとおりですが、特定第二号措置が認定された段階で「実質破綻時損失吸収条項」(PON条項)が発動され、元本削減(又は株式転換)されます。これらバーゼルIII適格調達手段(AT1,BⅢT2)における損失吸収が行われた上で、最後に前述のブリッジHDへの事業譲渡と持株会社の倒産処理が行われ、倒産手続きの中でTLAC債の損失吸収が行われます。
このように比較すると、特にBⅢT2債とTLAC債はともに「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」であり、期待される経済的機能は類似していますが、本邦制度上の損失吸収メカニズムやタイミングは大きく異なることに留意が必要です。BⅢT2債は契約上のトリガーに基づき特定第二号措置の認定に紐づいて機械的に元本削減が行われる一方、TLAC債はこれらAT1、BⅢT2による元本削減が行われた後のタイミングで、あくまで法的な倒産手続きの中で処理が行われ、残余財産の分配が行われることになります。
なお、巨大な金融機関が債務超過ではないが過小資本に陥り、特定第一号措置により資本増強がなされた場合、あくまでAT1債・BⅢT2債のPON条項は、特定第二号措置に紐づいているため、その時点で残存しているAT1債・BⅢT2債の元本削減はなされない点に注意してください*23。また、特定第一号措置の場合にはブリッジHDへの事業譲渡やそれに伴う持株会社の倒産処理も発生しないため、TLAC債による損失吸収も行われません。

BOX 資本再構築
ベイルインの目的としては損失吸収に加え、「資本再構築」も重要です。ベイルインにおいて既存の株式が無価値化したのち、当該金融グループの業務を継続して運営するためには、新たな株主が必要となります。FSBの「主要な特性」においても、破綻処理当局が(社債等の)債権を株式転換する権限を持つ必要があるとされています。
金融機関が仮に大きく損失を被って、債務超過に陥っている状態では、この自己資本は無価値化しているといえます。もっとも、シニア債等の適格負債で、所要自己資本と同額以上で調達を行えば、債務超過になったとしても、社債により一定程度損失吸収をしたうえで、社債を株式転換すれば、図表15. 資本再構築のイメージのような形で、新たな株主が生まれることになります。このプロセスを「資本再構築」といいます。一般にベイルインのプロセスでは、清算時の債権者順位を尊重した形で、損失吸収・資本再構築を行うこととされており、米国やEUの破綻処理制度では発行済株式は無価値化され、図表15のように、適格負債(TLAC債)が株式転換させる形で、新たな株主となります*24。
資本再構築の具体例を考えるうえで、米国のSPE戦略をみます。図表16. 米国のSPE戦略の全体イメージ図*25は預金保険機構が作成した米国のSPE戦略の全体像です。まず、この図の左下にあるとおり、子会社に損失が発生するなどして金融機関に危機が発生したとします。この場合、米国の預金保険機構であるFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation)が管財人(レシーバー)になり、システム上重要な取引を含む子会社は、ブリッジ金融機関に移転します。親会社の損失部分および負債については、レシーバーの管理下(「レシーバーシップ」という)に移管され、主に株式と負債によりその損失を吸収します。
一方、図表16の右側に注目していただきたいのですが、前述のとおり、最大損失額より十分なシニア債等による調達があれば、理屈上、損失吸収した後も一定額のシニア債の元本が存続します。したがって、損失吸収をした後、残った元本を用いて、一部を自己資本に転換することができれば、新しい民間会社(NewCo)には一定の自己資本が生まれることになります(図表16の右下)。このように、事前に、十分なシニア債等により資金調達を行えば、公的資金を注入しなくても、新しい民間会社は、システム上重要な取引を有する子会社を有しつつ、一定の自己資本を維持することが可能になります。
なお、このような資本再構築の仕組みは、いわゆるCoCo債(AT1債の一種)を思い出させるかもしれません(AT1債やCoCo債については服部(2022b)を参照してください)。CoCo債とは、資本が薄くなった場合、債券から株式へ転換される債券であり、金融危機以降、規制対応の観点で生まれた債券です。アーマー等(2020)では、「金融機関の資本再構築を民間で行おうとすれば、破綻処理のおそれが生じる時点よりもはるか前に始動しなければならない。また、始動する事態が生じる前に、あらかじめどのような性格のワークアウトをするのかを明らかにしておく必要がある」(p.547)としており、その仕組みとしてCoCo債を位置付けています。同書の説明の手順も、銀行の破綻処理を取り扱う章(16章)において、TLACを説明した後、「不測の事態に備えた資本(contingent capital)」という形でCoCo債を整理しており、資本再構築の流れでCoCo債を取り上げています。


4.おわりに
本稿では我が国におけるTLAC規制の詳細を説明しました。次回は、本稿で紙面の関係上取り扱えなかったTLACの話題に加え、足利銀行の事例等、一時国有化の仕組みを取り上げることを予定しています。
参照
[1].小立敬(2021)「巨大銀行の破綻処理―ベイルアウトの終わり、ベイルインの始まり」きんざい
[2].日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)「巨大金融機関の破綻処理制度改革の軌跡─10年目の節目を越えて─」『日銀レビュー』2022-J-7.
[3].服部孝洋(2022a)「バーゼル規制入門―自己資本比率規制を中心に―」『ファイナンス』10月号.
[4].服部孝洋(2022b)「AT1債およびバーゼルIII 適格Tier2債(B III T2債)入門―バーゼルIII対応資本性証券(ハイブリッド証券)について―」『ファイナンス』12月号.
[5].服部孝洋(2023a)「システム上重要な銀行入門-「大きすぎて潰せない(TBTF)」問題について-」『ファイナンス』3月号.
[6].服部孝洋(2023b)「我が国における金融機関の秩序ある処理(特定第一号措置及び特定第二号措置)―預金保険法126条の二について―」『ファイナンス』5月号.
[7].服部孝洋(2023c)「我が国TLAC規制―ベイルアウトからベイルインへ―」『ファイナンス』6月号.
[8].吉良宣哉・橋本成央(2018)「TLACに係る枠組み整備方針の改訂について」週刊金融財政事情 2018年5月28日号.
[9].森田宗男(2015)「国際金融規制改革の最近の動向」『証券レビュー』日本証券経済研究所[編]55(1), 1-67.
[10].ジョン・アーマー,ダン・オーレイ,ポール・デイヴィス,ルカ・エンリケス,ジェフリー・ゴードン,コリン・メイヤー,ジェニファー・ペイン(2020)「金融規制の原則」きんざい

*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、吉良宣哉氏、匿名の有識者等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 「Very High’ Likelihood of Support:MUFG group’s GSR reflects our assessment that, like other systemically important banks in Japan, there is a ‘Very High’ probability the group will receive government support in case of need. The government can pre-emptively provide financial assistance to a solvent bank holding company when a serious system disruption is anticipated under Japan’s Deposit Insurance Act.
The government has made consistent and strong statements of its intention to support the financial system, backed by its long history of support. We expect the government to maintain its support position to avoid financial market disruption. The Short-Term IDRs of ‘F1’, which is at the higher of the two options mapped to the Long-Term IDR of ‘A-’, reflect Fitch’s expectation of government support, which is more certain in the short term.」としています。
https://www.fitchratings.com/research/banks/fitch-affirms-ratings-on-mitsubishi-ufj-financial-group-affiliates-outlook-stable-21-04-2022
*4) 例えば、FSBの「Evaluation of the Effects of Too-Big-To-Fail Reforms」では、「However, in some jurisdictions such as Japan, Singapore and Australia, CRAs do not judge the framework to be fully effective, because of what they judge to be the state’s propensity to support. Although resolution legislation has been passed giving authorities powers to act, the rating agencies are less certain that resolution powers would be used. In the case of Japan, Article 126-2 of the Deposit Insurance Act enables authorities to use pre-emptive capital injections to maintain financial stability, and the CRAs believe that this would be the preferred approach. In Singapore, the restriction of the bail-in tool to subordinated instruments means that the framework is not “operational” under Moody’s methodology.」と指摘されています。
*5) TLACにはCET1に含まれる資本保全バッファー等は含まない点に注意してください。
*6) 厳密には、AT1やBⅢT2でも、所定のTLAC適格を満たさないものはTLACにカウントできないので、必ずしも、CET1・AT1・BⅢT2が全額外部TLAC適格資本に算入されるわけではない点に注意してください。
*7) 経過措置が設定されており、3メガバンクについては2019年の導入から3年間はリスク・アセット対比16%、レバレッジ・エクスポージャー対比6%の水準に設定されていました。
*8) 33%を下回った場合に機械的な罰則が規定されているわけではありませんが、監督指針上「ゴーン・コンサーン資本等の外部調達の計画の立案・実施及びモラル・ハザードが起きないようなガバナンスの枠組みの構築を含め、危機時における損失吸収・資本再構築力を高めるための方策を十分に講じているか継続的にモニタリングしていくこととする」とされており、金融庁のモニタリングが強化されることになります。
*9) 銀行が破綻の危機に瀕しているような状況では、株式保有者は多少企業価値が回復したとしても保有株式の価値はゼロとなる可能性が高いため、イチかバチかのハイリスク・ハイリターンの行動を求める誘因が働きます。危機時におけるこうしたリスクテイクは、預金者を含むその他債権者の期待リターンを引き下げる可能性が高く、結果として預金保険への負担も大きくなる可能性が高いため、モラル・ハザードが生じる原因になります。
*10) 「In addition, to help ensure that a failed G-SIB has sufficient outstanding long-term debt for absorbing losses and/or effecting a recapitalisation in resolution, there is an expectation that the sum of a G-SIB’s resolution entity or entities (i) tier 1 and tier 2 regulatory capital instruments in the form of debt liabilities plus (ii) other TLAC-eligible instruments that are not also eligible as regulatory capital, is equal to or greater than 33% of their Minimum TLAC requirements.」(下線部は筆者が記載)としています。詳細はFSBによる「Total Loss-absorbing Capacity (TLAC) Term Sheet」を参照してください。
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/TLAC-Principles-and-Term-Sheet-for-publication-final.pdf
*11) 本稿では具体的な各国の制度比較は行いませんが、2019年7月にFSBが各国におけるTLAC規制実施状況を調査した報告書では、米国においては長期負債でRWA対比6%以上の調達が定められ、EUでは直接的な規制はないものの破綻処理準備体制(resolvability)の評価において考慮されている等、各国で実際に異なる運用が行われていることが記載されています。(https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P020719.pdf)
*12) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001553.html
*13) ここでの記載は吉良・橋本(2018)を参照しています。
*14) なお、各国の破綻処理制度の構築状況を年次評価しているFSBの報告書において、日本の当局はこの資本再構築を行う権限を有しているか明らかでないとされており、破綻処理当局のベイルイン権限は「主要な特性」に沿った実施がなされていないと評価されています。FSB Resolution Report 2022 P.30 footnote 5では、「The Japanese authorities report that they are able to achieve the economic objectives of bail-in by capitalising a bridge institution to which functions have been transferred and by liquidating the residual firm via powers to separate assets and liabilities of a failed institution. However, it is not clear that the recapitalisation is achieved by converting claims of creditors of the failed institution into equity of that institution or of any successor in resolution as required by KA 3.5(ii)」と指摘されています。詳細は下記を参照してください。
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P081222.pdf
*15) 秩序ある処理の特定第二号措置による破綻処理は、債務超過の場合に加え、債務超過のおそれ、(債務に対する)支払い不能、支払い不能のおそれといった場合にも適用される可能性がありますが、ここでは簡略化のためグループ全体が債務超過に陥ったケースを前提として説明します。
*16) (4)の段階では外部投資家に損失を移転した後であるため、持株会社はブリッジHDのことを指している点に注意してください。
*17) 通常の企業の破綻処理においては、裁判所の関与の下で債権者順位に沿った弁済が行われます。対して銀行の破綻処理では、通常の企業の場合と異なり迅速な損失吸収・資本再構築が求められます。よって、ベイルインという形で、事前に契約上定められたトリガーや、行政上の措置を通じて円滑に債務再編を行う手続きが、代替手段として整備されています。FSBの「主要な特性」においても、清算時における債権者順位を尊重する形で破綻処理を行うべきとされています。
*18) 危機が生じてから新たにブリッジHDを設立していては迅速な処理ができないため、預金保険機構傘下には平時から既に「特定承継会社」として5社の法人が設立されています。危機時にはこれらの特定承継会社に対して預金保険機構が追加出資や貸付を行い、十分な資金基盤を確保した上でブリッジHDとして活用されることになります。(https://www.dic.go.jp/kikotoha/kogaisha.html)
*19) もちろん損失の額がTLACの水準より大きければ、TLAC債も全損するリスクはあります。
*20) 秩序ある処理の特定第二号措置の適用が必要であると認定された時点で契約上のトリガーが引かれることになります。
*21) この譲渡対価算定のために事業価値評価を実施するための時間軸が非常に短く、事業の先行きやリスクがきわめて不透明な状況で実施されることが想定されます。しかしながら具体的にどのように手続きが進むのかについて、筆者の理解では当局の公表資料上で必ずしも明らかにされていません。
*22) なお、小立(2021)では、日本のTLAC債保有者のリスクとして、(契約上のトリガーではなく)裁判所による破産手続きによって処理が行われることから、破産手続きが開始され弁済が行われるまでの間TLAC債を含む持株会社の債務が凍結されることを指摘しています。
*23) 自己資本比率規制に関するQ&Aにおいて、実質破綻認定時を危機対応措置の第二号措置、第三号措置及び秩序ある処理の特定第二号措置の認定が行われる場合と規定されています。
*24) なお、日本においては破綻処理当局の権限で既存株式の無価値化を行うことはできません。邦銀が採用するであろうSPE型の破綻処理においては、主要な資産・負債をブリッジ金融機関に移転しつつ元の持株会社の倒産処理を行うことで、裁判所の関与の下株式が無価値化されることになります。
*25) https://www.dic.go.jp/katsudo/page_001649.html