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「財務局の使命と目指す職員像」について


前・大臣官房政策立案総括審議官 兼 大臣官房地方課長事務取扱 渡部 晶
財務局の使命等に係るプロジェクトチーム


1.はじめに
財務局では、財政や国有財産、金融等の財務省・金融庁に関する多種多様な業務を所掌しています。このため、財務局の個々の業務を見ると職員共通の「強み」といったものが見えにくく、財務局のアイデンティティは何かといったことについて長く模索が続けられてきました。こうしたことを背景に、平成21年12月、財務局の様々な業務を総合し、共通の目標を明確化することを目指して、「財務局の使命」を策定しました。同時に、「求められる職員像」も明確化し、人材育成・研修やキャリアパスなどの見直しにつなげてきた経緯があります。
この「財務局の使命と求められる職員像」について、策定から10年以上が経過し、その間、「地域連携」*1の取組が今や財務局の組織文化に成長していることの反映や、「財務省の組織理念」との整理を求める声があることなど、組織内外の変化を踏まえた必要な見直しを検討するため、令和4年夏以降、大臣官房地方課内で事務的に検討を開始し、同年11月の全国財務局長会議を皮切りに議論を本格化させました。
本取組では、地方課内で係長級職員を中核に課内横断的な「財務局の使命等に係るプロジェクトチーム(PT)*2」を発足し、令和5年2月以降、財務局の全職員を対象にした意見募集(職員向けアンケート)の実施や、財務局の職員との意見交換会、4月の全国財務局長会議などを経て、6月をもって改定いたしました。本稿では、その取組についてご紹介します。
「使命」(平成21年12月策定)
財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁からの事務委任を受け、財政、国有財産や金融等に関する施策を実施します。
さらに、財務省及び金融庁の施策を地域に広報するとともに、地域の意見・要望や地域経済の実態を財務省及び金融庁に的確かつ迅速に伝達し、効果的な施策の形成に寄与します。
また、地域の特性を踏まえた施策の実施を通じて、地域貢献に努めます。
以上により、金融機能の安定や通貨の信認を確保し国民の資産を守るなど国民生活の安定・向上と我が国経済の発展に貢献します。
※ 災害等発生時に係る記載は省略。
「求められる職員像」(平成21年12月策定)
国民全体の奉仕者たる自覚と国家公務員としての使命感、責任感を持って、職務を遂行するとともに、国の予算の財源は国民の税金であることを自覚し、常にコスト意識を持ち、効率的・効果的な業務運営に努めます。
職務に必要な財政、金融、経済、資産管理等の財務に関する専門知識の習得に努めるとともに、現場に足を運んで地域の実情及びニーズを的確に把握し、地域への貢献を通じて、住民の信頼に応えます。


2.「財務局の使命と求められる職員像」とは何か
「財務局の使命と求められる職員像」が策定された経緯等を振り返り、今回の取組の趣旨を説明していきます。

(1)策定時の議論・考え方
平成21年に策定された「財務局の使命と求められる職員像」は、地方課が、同年9月に財務局に試案を求め、全国財務局長会議や全国財務事務所長会議等の場を通じて意見集約を行い、同年12月にとりまとめられました。こうして策定された「財務局の使命と求められる職員像」は、人材育成や地域連携などの取組に係る事務連絡の根拠に用いられてきたほか、研修資料、採用パンフレット、ホームページでの財務局紹介などにも活用されてきました。
その趣旨について、「使命」は、「様々な業務、情報の受発信を通じて究極的には地域に貢献する」ものと説明し、「求められる職員像」は、「良い組織では、使命が明確化され、それを果たすために人材が育成されていく」ことから、職員がどのようなことを絶えず意識していくべきかを明確にした、と策定当時に解説されています。

(2)財務省の総合出先機関としての財務局
財務本省では、財務局が「財務局の使命と求められる職員像」を策定する以前から「財務省の使命」が定められていました。平成30年7月からは、その後に起こった一連の問題行為を受けて財務省再生プロジェクトが開始され、組織理念の確認・共有が不可欠として、「財務省の組織理念」がとりまとめられています。
「財務省の使命」と「財務局の使命」との関係性については、平成25年6月に地方課がとりまとめた「財務局の機能強化と地域連携の推進」*3において解説がなされています。具体的には、中央のネットワークを活かし施策の企画・立案を行うのが財務省であれば、実際に施策をツールとして地域への貢献を行うのは全国に設置された財務局・財務事務所・出張所であり、総合出先機関として「実施」、「広報」、「伝達」を地域の実情に応じて適切に行うことを通じて「地域貢献」する必要があると指摘しています。こうした考えを受けて、財務局では、「地域連携」の取組を通じて、その機能を一層強固なものとして発展させようと試み、現在では、「地域連携」を含む地域貢献の取組は、幅広い業務を実施している財務局の各部門を束ねる組織文化やアイデンティティとも言うべきものに成長しています。
また、「財務省の組織理念」と「財務局の使命」との関係性については、財務局においても財務省の職員の一員としてこれを共有し、「組織理念を踏まえた意見交換会」などを通じて、その浸透・定着に向けた取組が進められてきました。「財務局の使命と求められる職員像」については、財務省再生プロジェクトの以前からあったものですが、その陰に隠れ、職員の間に十分に認知されていないとの声も聞かれる状況になっていました。
以上を踏まえて、「財務局の使命と求められる職員像」について再考し、今回の取組を通じて財務局職員の声を取り入れて、整理と浸透を同時に図るべく取組を開始しました。


3.改定案の考え方
「財務局の使命と求められる職員像」の改定の是非や改定するとした場合の案を検討するにあたっては、地方課長やPTメンバーが検討の背景や趣旨を説明する紹介動画を全職員に向けて発信し、意見交換会や財務局全職員向けの意見募集を通じて、職員1人ひとりのものとして受け止めてもらう機会を設け、検討に反映してきました。

(1)意見交換会と全職員向け意見募集等
PTでは、本年2月以降、全ての財務局(財務支局及び沖縄総合事務局財務部を含む)を訪問し、全55回、約500名の様々な階層の職員と使命改定の是非などを問う意見交換を実施しました。加えて、各財務局単位で自主的な意見交換会が行われたほか、中央研修への参加者との意見交換も行われたところです。
財務局全職員(非常勤職員を含む)向けの意見募集では、2,500件以上の意見が寄せられ、改定の是非については「賛成」及び「どちらかと言えば賛成」との回答が9割を超えました。
これらの取組を通じて、様々な意見が出され、令和5年4月の全国財務局長会議に検討すべき論点を提示・議論し、最終化しました。以下では、改定により新たに生まれ変わった「使命」、「職員像」、「主な業務」について解説していきます。

(2)新たな「使命」
わたしたち財務局は、地域に根差し、財政や国有財産、金融等に関する施策を実施します。その際、地域と連携しつつ、組織としての総合力を発揮して、地域貢献に取り組みます。
さらに、財務省と金融庁の施策を広報するとともに、地域の声や経済の実態を本省庁に伝達し、効果的な施策の形成に寄与します。
こうした取組を通じて、地域経済、ひいては我が国経済の健全な発展に貢献し、安心で豊かな社会の実現を目指します。
組織の「使命」というべきものは、職員1人ひとりがそれを理解し、あわせて「実践」していけるものであることが不可欠です。そのためには、職員1人ひとりが胸に刻みやすく、分かりやすい表現が望ましいと考えられます。また、「使命」の背景や意図を共有し、日々の業務に落とし込める、財務局らしさのあるものにする必要があります。
加えて、先に述べたとおり、財務局における地域連携の取組の反映や、財務省の一員である財務局も共有している「財務省の組織理念」との関係性も整理する必要がありました。
このため、今回最終化した「使命」では、施策の実施にあたり、「地域」の一員として職務を遂行する財務局らしさを表現するため、「地域に根差し」て取り組むこと、その際、「地域と連携しつつ」、地域貢献に取り組むこととしています。昨今の複雑化する地域課題の解決には、財務局各部門単独での対応が難しい場合もあり、財務局が課題解決に向けて組織内で部門横断的に情報共有、連携して取り組む姿勢を、「組織としての総合力を発揮して」と表現し、盛り込みました。
このような変更を加えつつ、当初から盛り込まれていた財務省・金融庁の施策の「広報」、地域の声や経済の実態を本省庁に「伝達」し、効果的な施策の形成に寄与していくとの考えを維持しています。締めくくりでは、「財務省の使命」との連続性も意識し、「地域経済、ひいては我が国経済の健全な発展に貢献し、安心で豊かな社会の実現を目指」すとしたところです。
なお、これまで冒頭にあった「財務省の総合出先機関として、また、金融庁からの事務委任を受け」、については、財務局職員にとって馴染みのある表現で愛着があるとの意見も多数ありましたが、財務局の業務に係る特質を表現した言葉であることから、「財務局の使命と求められる職員像」とともに財務局業務の一覧として整理した、「主な業務」(詳細は後述)に記載を移して整理することとしました。同様の考えの下、これまで「使命」の注書きに記されていた災害発生時における地域への貢献内容についても、「主な業務」に記載することとしました。

(3)新たな「職員像」
財務省・金融庁と地域のつなぎ役となり、国・地方の双方に貢献する高い志を持って職務に取り組みます。その際、現場に足を運んで地域の実情及びニーズを的確に把握し、地域への貢献を通じて、国民の信頼に応えます。
社会経済情勢の変化に的確に対応できるよう、財政、国有財産、金融、経済等の職務に必要な専門知識と幅広い見識を深め、学び続ける姿勢を大切にします。
「職員像」については、財務局の人材育成や研修体系の基礎となっているものです。財務省の「組織として目指す姿」や「行動規範」が策定された今、財務局の業務の遂行にあたって特に必要な事項に限って記載していく方針としました。また、第一段落を業務に取り組むにあたって必要な姿勢や考え方、第二段落に職員に必要な素養をまとめ、全体的に記載内容を整理しました。
まず、第一段落冒頭では、財務局が従来から果たしていた、財務省・金融庁と地域を結ぶ役割について、デジタル田園都市国家構想総合戦略(令和4年12月23日閣議決定)などにおいて、「課題解決等に向けた『つなぎ役』を果たす」と表現されていることも踏まえ、「財務省・金融庁と地域のつなぎ役」を果たしていく旨の表現を盛り込みました。
また、財務局及びその職員については、国と地方両方の事情・利害等の考量が求められると同時に、業務の実効性を高めるには地域における様々な関係者との協働、地域固有の事情のきめ細かい把握、それに応じた工夫が必要となります。このことを、「国・地方の双方に貢献する高い志を持って職務」に邁進する姿として表現し、「職員像」に盛り込むこととしました。
続けての一文では、職員像の中でも愛着を持つ職員が多く、直接地域の声やニーズを把握することができる財務局の強みを表現した「現場に足を運んで」を残しつつ、国家公務員として、「国民の信頼に応え」ていく決意を示しています。
第二段落では、改定前には専門知識の習得のみが記載されていましたが、こうした専門知識のみならず、人口減少・少子高齢化、デジタル化など目まぐるしく変化する社会経済環境に対応していくためには、「幅広い見識」を「学び続ける姿勢」が大切との考えを盛り込んでいます。「職員像」は、これまでも研修体系の基盤としているものであり、今後もオンライン研修やオンデマンド型の研修などの研修機会が確保できるよう環境づくりにより一層努め、職員1人ひとりの学びを後押しできるよう取組を進めていく考えです。
なお、「求められる職員像」のタイトルについては、より主体性が感じられる表現が良いとの声があり、「目指す職員像」に変更しました。

(4)新たな「主な業務」
財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁からの事務委任を受け、地域に根差し、財政や国有財産、金融等に関する施策を実施します。
また、災害等発生時には、速やかな災害査定立会の実施、国家公務員宿舎や未利用国有地等の提供、金融機関に対する金融上の措置の要請など、被災地域の回復・安定のために尽力します。
1.健全な財政の確保
(1)適正な予算執行を確保するための予算執行調査や歳出予算の繰越承認手続き
(2)税外収入を確保するための国有財産の売却・貸付
(3)地方公共団体に対する財務状況把握、財政融資資金の貸付及び実地監査
2.国有財産の適正な管理
(1)国有財産の有効活用を推進するための総合調整
(2)国有地の適切な管理処分や国家公務員宿舎の適切な維持管理
(3)「まちづくり」に貢献するための地域や社会のニーズを踏まえた国有財産の最適利用
3.金融行政の着実な遂行
(1)金融システムの安定と地域金融機関等による金融仲介機能の発揮の両立と好循環を実現するための検査・監督が一体となったモニタリング等(政府関係金融機関や支援機関等との連携を含む)
(2)金融サービス利用者の保護及び利便性向上の両立を図るためのモニタリング等
(3)公正・透明な市場を確立するための市場監視等と市場の活力を図るための取組
4.財務省及び金融庁施策の円滑な浸透と施策への反映等
(1)地域経済動向の調査・分析、及び財務省と金融庁の施策にかかる地域への積極的な広報・情報発信
(2)効果的な施策の形成に寄与するために地域経済動向や財務省と金融庁の施策に対する意見、要望等を本省庁へ伝達
(3)たばこ小売販売業者の適切な配置を図るための許可、二十歳未満の喫煙防止への取組
(4)経済安全保障に関連した投資審査制度の相談・情報収集や周知等
(5)財務局組織が一体となり、地域とのネットワークを深化・拡大させて活用し、地方創生を支援
「主な業務」は、「財務局の使命と求められる職員像」とともに、財務局という組織がどのような業務をしているのかを広く知ってもらうことを目的にしてまとめられ、ホームページなど対外的にも案内しています。このため、改定を行うにあたっては、単に、財務局の業務を網羅的に羅列するのではなく、「強み」というべき業務の一覧にし、対外的に財務局をイメージしやすくするだけでなく、職員の間でも「強み」を共有していけるものにするという考えで必要な見直しを行いました。その上で、全体的に改定前に比べて記載内容を簡素化し、分かりやすくするとともに、業務内容を追加・修正しました。
具体的には、冒頭に、「使命」から転記した、「財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁からの事務委任を受け」、業務に取り組んでいることを説明し、財務局業務を概観できる言葉を配しました。加えて、災害大国である我が国において、災害発生時における地域への貢献も、財務局が所掌する業務の中での対応であることから、「使命」から「主な業務」に記載を移しています。
その他、国有財産に係る業務については、財務局の多くの職員が従事している国有財産の管理・処分だけでなく、留保財産の取組などを念頭に、国有財産の「最適利用」を盛り込みました。また、金融に係る業務については、「金融行政方針」や「金融検査・監督の考え方と進め方」(平成30年6月)など、ここ数年の金融行政の取組を反映しました。あわせて、今後、財務局業務において重要になると見込まれる業務として、経済安全保障関連の業務を新たに追記しました。


4.成果と今後の展望
今回、「財務局の使命と目指す職員像」については、10年以上の月日を経て、財務局職員とともに時代に即したものへと見直しを進め、財務局らしく、親しみあるものに改定できたのではないかと考えています。
しかし、成果はこれに留まりません。本取組は、多くの職員を巻き込んで財務局の今後のあり方について忌憚のない意見を交わす機会となり、組織としての一体感が醸成されたことです。組織としての現状と課題、期待や不安など様々な思いを交わし、知恵を出し合って今後の組織の羅針盤として共有される「財務局の使命と目指す職員像」が策定されました。今後は、時が経つのにあわせて職員1人ひとりの様々な物語が紡ぎだされ、これらに深みを与えてくれるものと期待しています。
また、地方課でも、今後の財務局を担う若手職員がアイデアを出し合い、組織づくりに参画するという一大プロジェクトに携わる貴重な経験をしたことも記しておきたいと思います。
今後は、財務局職員の様々な思いを反映した「財務局の使命と目指す職員像」の浸透と実践が重要です。組織における「使命」の定着には、10年でも十分ではなく、20年、30年と長い時間をかけていく必要があると言われています。このため財務局では、「組織理念に関する意見交換会」や研修などの様々な機会を通じて、職員1人ひとりが「財務局の使命と目指す職員像」を見つめ直し、その浸透と実践による定着を図っていきたいと考えています。これにより、職員が、今後も自らの組織のあり方を考え、財務局が今後も地域にとって必要とされる存在であり続けることで、愛着や誇りを持てる組織にしていければと考えています。

*1) 財務局は、業務により高い付加価値をつけ、地域に貢献していくため、地域関係者と協働して地域の課題に取り組むこととしており、この取組のことを「地域連携」としています。
*2) PTでは、「使命」を、村上浩三、内村裕幸、髙橋美優、「職員像」を星野紀孝、井手昌倫、宮川彩、「主な業務」を尾崎淳、渡邊大輔、柏木郁文、地域連携に係る横断的検証を浅井智士、八木隆広、山西雛歌、動画作成等を藤村かりん、成相隆明が支援し、全体調整を北村明仁、谷口貴哉、柏木郁文(再掲)が担った。なお、PTメンバーは令和4事務年度の所属。
*3) 財務局は、財務省・金融庁と地域との結節点であり、その中で地域住民や国民に貢献していくことが必要だとする財務事務次官から財務局職員へのメッセージ。

図表1:「財務局の使命と求められる職員像」のイメージ図(平成21年12月策定)
図表2:「財務局の使命と目指す職員像」イメージ図