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G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議 2023年5月11日(木)~13日(土)in 新潟


日本は、2023年G7議長国として、5月11日(木)から13日(土)にかけて、朱鷺メッセ(新潟県新潟市)において、G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議を開催した。
会議には、G7(日本、イタリア、カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ(議長国順))の財務大臣及び中央銀行総裁
ならびに欧州委員会(EC)委員、欧州中央銀行(ECB)総裁及びユーログループ議長が参加したほか、国際通貨基金(IMF)、世界銀行グループ(WBG)、経済協力開発機構(OECD)及び
金融安定理事会(FSB)の長の参加を得た。
また、今回の会議では、ウクライナのマルチェンコ財務大臣のヴァーチャル形式での参加を得るとともに、ブラジル、コモロ、インド、インドネシア、韓国、シンガポール(パートナー国)との対話を行った。

G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議(5月11~13日)の流れ


1日目
G7ハイレベル・コーポレート・ガバナンス・ラウンドテーブル
金融庁は、OECDと共催で、サイドイベントとして「G7ハイレベル・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブル」を開催した。政府当局や国際機関、民間企業等からハイレベルな出席者を招き、日本のコーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みや「G20/OECDコーポレートガバナンス原則」の見直しについて議論・発信を行った。

各代表団の到着~日本政府・地元共催歓迎レセプション
鈴木財務大臣と植田日本銀行総裁により、G7各国大臣等を順次お出迎え(記念撮影)した後、各国随行者や地元選出国会議員等も招待した日本政府・地元共催歓迎レセプションを行った。
レセプションでは、鏡開きで乾杯した他、和太鼓演奏や新潟の古町芸妓の伝統技能を披露。新潟の地酒を楽しめる日本酒Barや新潟和牛、コシヒカリおにぎり等の地元食材で参加者をもてなした。

ウクライナ情勢・世界経済(ワーキングディナー)

ウクライナ情勢
ウクライナ情勢についてのセッションでは、ウクライナのマルチェンコ財務大臣のヴァーチャル形式での参加を得た。ウクライナ支援について、これまでの財政・経済支援やIMF支援プログラムでの大きな成果を確認しつつ、開発金融機関(DFIs)間の更なる連携強化等を通じた民間資本動員や、周辺国支援について議論した。

世界経済
世界経済の見通しについて不確実性が高まる中、経済の安定と成長の実現に向けたマクロ経済政策のあり方について議論した。


2日目
気候変動・金融セクター

気候変動
気候変動対策や公正な移行の加速化の必要性や、経済全体の脱炭素化のためのトランジションファイナンス及び災害リスクファイナンスにおける保険の役割や官民パートナーシップの重要性について議論した。

金融セクター
金融システムは強靭であるとの認識を共有した上で、今般の一連の銀行破綻等を踏まえ、引き続き警戒心を持って動向を注視し、金融安定及び金融システムの強靱性維持のために適切な行動を取る用意があることを確認した。また、中銀デジタル通貨(CBDC)に関する途上国支援、暗号資産が金融安定や健全性(インテグリティ)にもたらすリスクへの対処、サステナビリティ開示に関する国際的な取組みについても議論した。

ランチセミナー(多様な価値を踏まえた経済政策)
ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授をお招きし、多様な価値を踏まえた経済政策のあり方を議論した。デジタル化や気候変動、格差の拡大といった経済・社会の大変容を受けて、所得・富の平等や環境の持続可能性といった多様な価値の重要性が高まっている中、経済成長に加えて、こうした様々な価値にも配慮したより良い経済政策のあり方について、率直な意見交換を行った。所得・富の平等や持続可能性といった多様な価値を認識し、実用的かつ効果的な方法で政策に反映していくことの重要性を共有した。

ダイアローグセッション
このセッションでは、パートナー国の参加を得た。新興途上国を取り巻くマクロ経済環境が厳しさを増す中で、G7とパートナー国との協力が求められているとの意見が多く出された。債務問題については活発な議論となり、G20の「共通枠組」を迅速に実施することの重要性等が指摘された。また、持続可能で包摂的な成長のための国際協力の強化についても議論され、MDBs改革などが取り上げられた。さらに、世界経済の強靭化に向けた具体的な取組の一つであるサプライチェーンの強靱化について、低・中所得国がクリーンエネルギー関連製品の製造過程でより大きな役割を果たせるよう協力する新たな互恵的パートナーシップ(RISE、詳細後述)の構想を議論した。

日本政府主催夕食会
G7各国に加え、パートナー国6カ国等も参加し、日航ホテル30階にて日本政府主催夕食会を開催。夕食会前のカクテル・レセプションを含めて、非常に打ち解けた雰囲気の中で、地元食材をふんだんに使った和食会席、新潟産日本酒等を各参加者が楽しんだ。
また、地元花火師が特別に制作した花火を打ち上げ。夜空に咲く花火に歓声があがった。


3日目
財務大臣・保健大臣合同セッション
長崎市にて開催されていたG7長崎保健大臣会合の会場と新潟の会場を中継で繋ぎ、財務・保健大臣合同セッションを実施した。また、ヴァーチャル形式にて世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の参加を得た。パンデミックへの予防、備え、及び対応(PPR)の強化に取り組むため、「G7共通理解」として、財務保健の連携強化等に合意した。特に、ファイナンス強化については、パンデミックが発生した場合の「対応」のため、必要な資金を迅速かつ効率的に供給することを可能とする新たな「サージ・ファイナンス」の枠組をG20と共に検討することで合意した。

国際課税
二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けて議論した。第1の柱に関する多国間条約について、合意されたタイムライン内での署名に向けたコミットメントを再確認。第2の柱の実施に向けた国内法制の進展を歓迎した。

ダイアローグの振り返り
2日目のパートナー国との対話を踏まえ、強靭な成長の実現のための新興・途上国の支援等について議論した。

G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議の成果
本稿では、今回の会議で採択された共同声明のポイントを、日本議長下の3つの優先課題に沿って紹介したい。

喫緊の世界の課題への対処
ロシアのウクライナに対する侵略戦争とウクライナに対する支援
G7は、ウクライナの緊急の短期的な資金ニーズへの対処と、周辺国やその他の深刻な影響を受けた国々への支援を継続することに強くコミットしている。国際社会と共に、2023年及び2024年初頭を対象に、ウクライナへの財政・経済支援のコミットメントを440億米ドルに増加させた。これは、4年間の総額156億米ドルのウクライナに対するIMF支援プログラムの承認を可能にした。また、復旧・復興支援においては民間資本の動員も極めて重要である。多国間投資保証機関等の取組と、開発金融機関(DFIs)間の協働等を通じてウクライナ及び影響を受けた国々を支援するためのウクライナ投資プラットフォームの設立合意(5月12日、東京)を歓迎する。
さらに、制裁及びその他の経済的措置の履行確保強化の取組の一環として実施調整メカニズム(ECM)を通じた迂回、回避の類型等の関連情報の共有を開始した。

世界経済と経済政策
G7は、安定及び成長を志向するマクロ経済政策の組み合わせにコミットしている。財政政策は、引き続き、適切な場合には、脆弱層に対して一時的かつ的を絞った支援を提供し、グリーン及びデジタル・トランスフォーメーションに必要な投資を促進するべきである。全体的な財政スタンスは、中期的な持続可能性を確保し、インフレ圧力の中での金融政策スタンスと整合的であるべきである。中央銀行は、インフレ予想の安定維持を確保し、各国間の負の波及効果の抑制に資するよう、政策スタンスについて明確に意思疎通を行う。供給サイドの改革の重要性及び経済の長期的な成功のための女性及び少数派のグループの極めて重要な役割を強調する。また、「G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則」の成功裏の見直しを期待する。
G7は、監督・規制当局と引き続き緊密に連携して金融セクターの動向を監視するとともに、金融安定及びグローバルな金融システムの強靱性を維持するために適切な行動をとる用意がある。2008年の世界金融危機後に実施された金融規制改革に支えられ、金融システムが強靱であることを再確認する。FSBによる最近の出来事からの教訓、及び金融の安定強化に向けた将来の作業の優先事項を引き出すために進行中の取組を支持する。

脆弱国に対する支援
G7は、低・中所得国の債務脆弱性に対処する緊急性を再確認する。低所得国については、予測可能かつ適時に、秩序だった方法で連携した「共通枠組」の実施を改善するためのG20の取組を完全に支持する。中所得国については、全ての公的二国間債権者を含む多国間の協調によって債務問題に対処するべきである。この点、フランス、インド、日本の3か国の共同議長の下、スリランカのための債権国会合の立ち上げを歓迎し、中所得国の債務問題への対応における将来の多国間の取組の成功モデルとして、迅速な解決を期待する。また、効果的かつ信頼できる債務の持続可能性分析に向けて、債務データの正確性と透明性の向上は極めて重要であるという認識の下、有志の債権者と共に、初のデータ共有の取組を通じて、債務データ突合のために世銀に詳細な貸付データを提供し、初期段階で計65億米ドルに上るデータギャップを特定した。
MDBsが、貧困削減と繁栄の共有の達成に向け、気候変動やパンデミック等の課題に対処するための見直し・変革作業をさらに加速させることを奨励する。
特別引出権(SDR)の自発的な融通等を通じた支援について、日本とフランスによる追加のプレッジによって既存の貢献と合わせて1,000億米ドルの世界的な野心を射程に入れたことを歓迎し、野心達成のために更なるプレッジを要請する。
本年10月開催のG7アフリカラウンドテーブルにおいて、民間投資を更に動員するための重要な課題への対応に関する議論を継続する。


世界経済の強靱性の強化
気候変動
排出を緩和する様々な政策手段の有効性についての理解を深めるOECDの「炭素削減策に関する包摂的フォーラム(IFCMA)」を支持する。パートナー国がそれぞれの固有の状況を反映しつつ、加速された野心的な移行を追求することを支援する「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を迅速に前進させる取組の継続にコミットする。また、経済全体の脱炭素化を推進する上でトランジション・ファイナンスが重要な役割を有しているとの認識を共有し、保険を含む災害リスクファイナンスにおける官民の協調の強化の重要性を確認する。

経済効率性と強靭性
様々なショックへの世界経済の強靭性を高め、G7の共通の価値観を断固として守り、自由で公正かつルールに基づく多国間システムを堅持することにより経済効率性を維持するために協力する。
4月に公表した「脱炭素時代における強靭なサプライチェーン構築に向けた財政・公的金融手段に係るハイレベル政策ガイダンス」を踏まえ、関心ある国々とともに、世銀グループ等の国際機関と協働して、遅くとも本年末までの立ち上げを目指し、「RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」を策定している。RISEは、低・中所得国がクリーンエネルギー製品のサプライチェーンにおける、役割拡大に向けて支援することを目指す。
海外直接投資(FDI)は新興・開発途上国の多額のインフラ需要を満たす上で重要な役割を果たすと同時に、重要インフラへの海外からの投資は、経済的主権にリスクをもたらすおそれがある。新興・開発途上国への、より多くの、より良いFDIを促すための投資環境の改善を目的とする、OECDの「海外直接投資の質に関するイニシアティブ」の実施を歓迎する。OECDが非OECD加盟国への取組を拡大・深化させ、非OECD加盟国の投資枠組の強化を支援することを支持する。

金融デジタル化
中央銀行デジタル通貨(CBDC)の政策ガイダンスと能力開発に対する新興・開発途上国からの需要の高まりを踏まえ、IMFの「CBDCハンドブック」に関する作業を歓迎する。 G7は、FSBの勧告等と整合的な形で、暗号資産・ステーブルコインに関する効果的な規制監督上の枠組みを実施することにコミットする。また、暗号資産に関する金融活動作業部会(FATF)基準(トラベルルール等)のグローバルな実施の加速や、分散型金融(DeFi)及び個人間で行われる取引(P2P取引)等から生じる新たなリスクに関する、FATFの取組みを支持する。

金融の持続可能性と健全性
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による、気候関連開示基準の最終化等を支持する。また、生物多様性及び人的資本に関する開示に係る将来の作業に期待する。
大量破壊兵器の拡散と、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBMs)を含む前例のない数の弾道ミサイルの最近の発射を可能にした資金調達に関連する北朝鮮の不正な活動がもたらす脅威に対する深刻な懸念を共有する。

国際保健
財務・保健の連携強化及びG20財務・保健合同タスクフォース(JFHTF)強化のための政治的モメンタムを集結することへのコミットメントを改めて表明する。また、パンデミックPPR(予防、備え、対応)のためのファイナンスの強化に引き続きコミットする。特に、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる「サージ」ファイナンスの枠組みを検討することに合意した。さらに、G7保健大臣との合同セッションでの「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」の承認を歓迎する。

国際課税
より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けたG7の強い政治的コミットメントを再び強調する。G7は、第1の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内にMLCの署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対するコミットメントを再確認するとともに、第2の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎する。


ウェルフェアを追求する経済政策
我々の経済・社会構造のダイナミックかつ根本的な変容を遂げる中、デジタル化や持続可能性等は、GDPのような集計された単一の指標では十分に捉えられない、ウェルフェアの重要な要素のほんの一例にすぎない。会議でのジョセフ・E・スティグリッツ教授との対話を通じて、この重要な課題を再検討し、ウェルフェアの多元的な側面を強調した。政策立案者は、ウェルフェアを測定するための多元的な指標を把握するとともに、そうした指標を政策立案に反映させるための運用ツールを探求する必要がある。引き続き、ベスト・プラクティスを共有し、急速な経済・社会の変革に対応して政策検討を深めていく。

column
日本議長国提案の新しい互恵的パートナーシップ“RISE”の立上げ
今回の新潟のG7では、RISE(Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement)を遅くとも本年末までに立ち上げるべく協働することに合意した。RISEは、中・低所得国の持続可能な発展を支援すると同時に、ネットゼロに向けた世界的な取組を支える、途上国そして世界全体にとって互恵的な新イニシアティブである。
背景には、現在、各国が喫緊の課題として認識している供給網の強靭化がある。特に、世界的に需要の激増が見込まれるクリーンエネルギー関連製品(太陽光PV、風力タービン、蓄電池等)については、上流工程(鉱物の採掘)は比較的分散しているものの、中流(鉱物の加工・精錬)及び下流(製造・組立)は、特定地域に過度に集中するという脆弱性を抱える。これに対処すべく、今年のG7財務トラックでは、脱炭素時代における供給網強靭化を優先課題の一つとして、財政・公的金融手段の効果的活用や、G7や同様の問題意識を持つ国々、そしてOECDや世界銀行グループ等の国際機関と具体的な協働策を議論してきた。
RISEは、(1)低・中所得国の機会と課題を特定する分析の実施、(2)ESG等も踏まえた投資環境の改善に資する技術支援や能力構築プログラムの提供、(3)協調投融資を促進する現場レベルでの情報共有強化の枠組みの展開、の3つの具体的活動を通じて、低・中所得国の自国産業の多様化・高付加価値化と、クリーンエネルギー関連製品の安定供給を通じたネットゼロに向けた世界的な取組の下支えを目指す。今後、RISEの早期立上げと実施に向けて、様々な関係国、機関を巻き込み、協働を深化させていくプロセスをリードしていく。

Road to Niigata ~ロジ面を中心に


はじめに
2023年1月、日本はドイツからG7議長国を引き継いだ。議長国として日本は、国内外でG7関連会合を複数回にわたってホストする必要があるが、これらの会議を開催するにあたり、財務官室は、日程調整や会場設営をはじめとするいわゆるロジ面での会議準備・運営を担ってきた。具体的には、2月のインド・ベンガルールや4月米国・ワシントンDCでのG7財務大臣・中央銀行総裁会議や、大臣・総裁等の業務を最側近で補佐する大臣代理(財務省の場合は財務官)級の会議を複数回開催した。
そして、5月11日から13日にかけては、G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議(以下、G7新潟)を開催した。主要7カ国の財務大臣や中央銀行総裁、国際機関の長が新潟の地に一同に会し、会議の円滑な進行はもちろんのこと、警備や輸送、宿泊や食事、文化イベント等あらゆるロジを主催国が準備する一大プロジェクトであり、財務官室としても一連のG7関連会合の中で最も注力した会議となった。G7新潟の約1週間後には、G7広島サミットを控えており、G7新潟の成果がサミットの議論にも直結する状況において、ロジ面での会議運営の失敗は許されないという気持ちで会議本番に臨んだ。
日本のG7議長の下、財務大臣・中央銀行総裁会議を新潟で行うと昨年8月に発表されてから8ヶ月、多くの局面で難しいハンドリングを求められたが、新潟県・市、警察等関係当局、財務省地方支分部局、日本銀行、空港や駅関係者、会場・ホテル関係者、会議運営会社、駐日大使館を含めた参加各国関係者、ボランティアを含めた新潟市民の皆様、等々、本当に多くの方々の協力を得ながら準備を進め、会議期間中もこれら関係者と緊密に連携することで、会議を成功裏に終えることができた。本稿では、ロジ面の立場からG7新潟の準備・運営を振り返りたい。

厳戒態勢の中での会議運営
新型コロナ感染症の状況が大きく改善したことや十数年ぶりとなるG7以外の招待国を招致したこともあり、G7新潟には、7カ国の財務大臣及び中央銀行総裁、7つの国際機関等の長、6カ国の招待国の財務大臣等が参加し、その随行者も加えると総勢約500名にも及ぶ代表団が主会場となる朱鷺メッセを訪れた。会議期間中、これら代表団の安全を確保することは、議長国の最重要責務の一つであったが、G7財務大臣・中央銀行総裁会議においては、ロシアに対する制裁措置をはじめ機微な議題についても議論が及ぶことから、不測の事態の発生を未然に防ぐため十分な警備体制を構築する必要があった。
また、2022年7月の安倍元総理銃撃事件や、会議直前の4月に和歌山で起きた岸田総理への投てき事案といった、国内において要人が狙われる事件も発生していた。こうした足下の情勢を踏まえ、従来から行っていた身分証(IDバッジ)発行による施設入館管理や、会場回りの車両検問に加えて、警察庁や新潟県警、施設管理者等と協議を重ね、各国・国際機関のVIPと一般市民の動線を可能な限り分離するため、JR新潟駅において構内のエスカレーターや改札口の一部を代表団専用にする措置や、一般企業も入居する朱鷺メッセにおいてVIPの移動が発生する時間帯のみ一部フロアの関係者以外の立入を制限するといった措置を講じることとした。こうした措置による一般市民等への影響を最小減にすべく、事前の周知徹底や、当日の迅速・円滑な対応に腐心した。
加えて、今回の会場である朱鷺メッセが信濃川に面しており日本海にも近接していたことから、警察に加え海上保安庁とも連携して準備を進めた。準備及び会議期間中は、海上保安庁による潜水検索をはじめとした各種警戒の円滑な実施のため、会議の進行状況やVIPの位置情報をタイムリーに提供し、川に架かる橋上を通行する車両等の安全性確保に努めた。新潟県警及び第九管区海上保安本部の尽力のおかげで、会議期間中、事件や市民生活の大きな混乱は発生することなく、最終日には、G7新潟の共同声明の採択に辿り着くことができた。
写真:会議場のしつらえもロジ業務の重要なポイントの1つ。G7新潟では、本会議場中央部に日本庭園をかたどった展示を配置した。
写真:会場周辺では会議期間中、警察が厳戒警備にあたった。

新潟を世界へ
会議の円滑な運営と並んで、開催都市新潟の魅力を世界に発信するのも、議長国の重要な役目である。張り詰めた会議の連続で疲れた参加者をもてなすべく、様々な工夫を凝らしつつ、新潟の魅力を感じてもらった。
まず食事。初日のワーキングディナーは和洋折衷、2日目のランチセミナーはフレンチ、夜の日本政府主催夕食会は和食会席とスタイルは変えつつも、村上牛やのどぐろ等の新潟を代表する肉・魚、地元産の野菜・果物の味を引き出すメニューを、ホテルニッコー・オークラグループの全面協力を得ながら 一つ一つ作り上げていった。各参加者の食事制限も事前に確認し、アレルギーやベジタリアン等の食事制限も配慮した。また、県内の酒蔵数が約90と日本一を誇る新潟県の酒も味わってもらうべく、酒を所管する国税庁(関東信越国税局)の知恵も借りながら、新潟産の日本酒、ワイン、ウィスキーの選定も行った。随行者への食事・お酒・リフレッシュメント等の提供も、限られた予算の中で関係者で工夫をしながら準備した甲斐あり、会議中には各国から食事を絶賛する声が多数聞けたのは、担当者として望外の喜びであった。
また今回は、時間や警備上の制約により、朱鷺メッセ以外での公式プログラムは組成しなかったが、そんな中でも各国参加者に新潟の文化を体験してもらうべく、会場内の展示を充実させた。この点については、生きた錦鯉が泳ぐ水槽や、世界遺産登録を目指している佐渡金山を映像で紹介する大型展示ブースの設置等、新潟市のG7サミット推進課が大きな役割を果たした。政府としても、新潟が日本屈指の花火王国であることを鑑み、2日目夜にG7新潟のための特別な打ち上げ花火を企画した。県内の長岡花火の名物で平和を訴える「白菊」の他、G7各国の国旗や新潟の四季をイメージした花火を打ち上げ、鑑賞していた参加者からは歓声が上がっていた。
この他にも、金属加工品で有名な新潟県燕市のカトラリーをお土産として贈呈したり、新潟市が企画した市内オプショナルツアーに大臣・総裁等も参加して酒造りや芸妓等の新潟の文化を身近に体験してもらったり等、短い滞在時間ではあったが、各国からの参加者には新潟の魅力を満喫して頂けたのではないかと思う。
写真:食事や酒、展示等を通じて新潟の魅力を発信
写真:地元花火師が特別に制作した花火の打ち上げ

リエゾン、税関、関東財務局の活躍
会議開催が近づくにつれ、各種〆切や各国からの膨大な問い合わせへの対応に追われる中、各代表団の世話役業務を担うリエゾンには本当に助けられた。財務省国際局・関東財務局・日本銀行の若手職員26名をリエゾンとして任命したが、各リエゾンが担当代表団としっかりと信頼関係を構築してくれたおかげで、VIPの行動予定等の最新情報をリエゾン経由でタイムリーに入手することができ、警備体制の構築や円滑な会議の運営に大きく役立った。各代表団から出される、「街中のレストランに行きたい」「カプチーノが欲しい」等々のワガママな?リクエストにも、機転を利かせて対応してくれていたのは頼もしかった。
新潟、成田、羽田空港を各代表団が訪れる際の空港接遇においては、各空港ある税関出張所に多大なサポートを頂いた。代表団の空港接遇について税関が全面的に支援してくれたおかげで各代表団のスムーズな入国/出国を実現することができた。後方支援頂いた関税局の関係者にも改めて御礼申し上げたい。関東財務局にも財務省の地方支分部局として他方面にわたってサポートを頂いた。
写真:各国代表団と日本事務局との間の連絡調整は、国・組織毎に割当てられたリエゾンが担当した。

最後に
細かいミスは(皆さん口に出してくれていないだけで)多々あったものの、大きな事故なく、予定通り成果文書も発出でき、何より各国参加者から新潟滞在を心から楽しんだとの声も多く聞けて、日本のホスピタリティの高さを十分に示すことができた会議になったのではないかと実感している。日本議長国下のG7も折り返し地点を迎えているが、財務官室としては、G7新潟での経験も活かし、引き続きしっかりと議長国として円滑な会議運営を実現していきたい。

column1
プレスセンター ~世界へ情報が発信される場所~
国際会議の会場では、会議室や各国代表団控室の他に、会議を取材する報道機関(プレス)にとっての作業場所であるプレスセンターが設置されることが通例である。
今回、朱鷺メッセのプレスセンターには外国メディア・国内メディア併せて約60社、約250名(プレス用IDバッジ発給ベース)が訪れ、海外大手テレビ局のカメラクルーや地元新聞社のペン記者など、様々な方に利用していただいた。
会場内で記者会見等が行われた後、記者たちにとっては時間との戦いが始まる。足早に同じ会場敷地内のプレスセンターに戻り、夕方の報道番組や翌日の朝刊等において取材した内容が盛り込まれるよう、原稿等を執筆しないといけない。PCのキーボードを叩く音が鳴り響く傍ら、事務局スタッフを捕まえて事実確認を行う記者の姿もしばしば見られ、プレスセンターは一時、国際会議の状況が世界へ発信されるまでの緊迫感に包まれる。
一方で、朱鷺メッセのプレスセンターは違う側面をも見せた。新潟の四季を堪能できる映像展示コーナーや、新潟のB級グルメ・たれカツ丼や郷土料理「のっぺ」等々の食事提供は好評を博した。新潟のソウルフード・イタリアン(ソースがけの焼きそば)を食べたイタリア人記者は、「とてもおいしいが、スパゲティではない」と苦笑い。プレスセンターからは、このような新潟のたくさんの魅力も、余すところなく発信していただいた。

column2
関東財務局・G7新潟奮闘記
G7新潟は、関東財務局の国際会議応援としては、2017年5月に横浜市で開催された「第50回アジア開発銀行(ADB)年次総会」以来となった。業務体制としては、本年1月に2名、2月に3名を専担者発令し、最初の大きな業務として、3月中旬に各国の在京大使館職員等を対象とした現地説明会の準備・運営を行った。

在京大使館向け説明会
大使館職員、財務省・日本銀行リエゾン職員等約70名に、会場の朱鷺メッセのほか代表団宿泊ホテル、新潟駅等を大型バス2台で巡り視察してもらった。準備段階では、バス乗降やホテル内EV乗降を何回も繰り返す必要がある中、この人数にどうスムーズに回ってもらうか苦心したが、当日はことのほか順調に進んだ結果、1時間近く前倒しで進み、ホテルにお願いして昼食を早めてもらうなど、関係者の協力も得て無事乗り切った。
そして、財務官室や新潟市との打合わせを繰り返して臨んだ会議本番、専担者も含め40名の応援者が、歓迎レセプションや金融庁サイドイベント、政府主催夕食会等の誘導、プレスセンター業務、新潟駅での接遇、リエゾン業務等に従事した。

新潟駅
新潟駅での接遇業務は、上越新幹線12両編成のどの車両に代表団が乗車していても対応できるよう、1列車当たり8名の陣容で臨んだ。最終列車で到着する代表団もあり、対応は深夜に及んだ。駅への到着時間の急な前倒しによる予定外の早朝対応や、送迎車両を追加したい、車両までの動線を変更したいといった各国からの要望への対応など、当初の計画と異なる対応を求められることも多々あったが、JRや県警、会議運営業者等と良好な関係を築くことができたこともあり、無事に送迎を終えることができた。

リエゾン
リエゾン業務を行った応援職員においては、会期前のGW中も、会期中にあっては早朝から深夜まで、担当国からの様々な質問や要求に応え、時には突発的な対応に追われた。担当した職員から「語学力以上に精神力が必要」との後世へのメッセージが残されるほどの業務だったが、担当国等から感謝の言葉をいただけるなどやりがいを感じていた。

関連イベント「G7記念授業」
本会議の関連イベントとして、新潟市G7サミット推進課が「G7記念授業」を企画、4~6月にかけて、新潟市内の中学校・中等教育学校9校の約1,500名に対し、当局新潟財務事務所の職員が手分けし「日本の財政について」と題して授業を行った。生徒からは「予算成立までのプロセスや財政状況のこれまでの歴史的経緯を知って面白かった。」という声や、現在の財政状況や少子高齢化への不安の感想もあり、予想以上に多くのことを吸収してくれたように感じられた。
昨年8月末、G7財務大臣・中央銀行総裁会議の新潟開催が決まってから、手探りで準備を進めてきたが、ご指導いただいた財務官室をはじめ、各種ロジにご協力いただいた新潟市G7サミット推進課、新潟県警、2016 G7仙台の状況を教えていただいた東北財務局など、各関係者のご協力のおかげで何とか応援業務を行うことができた。あらためて御礼申し上げたい。
写真:新潟駅での鈴木大臣お迎え
写真:G7記念授業の様子

事務局による振り返り(財務官室、国際機構課、G7財務大臣・中央銀行総裁会議政策企画事務局)
昨年夏にG7財務大臣・中央銀行総裁会議政策企画事務局が始動し、2023年議長国に向けた財務トラックの優先課題の検討が始まった。2022年議長国のドイツをはじめG7各国や国際機関と意見交換しつつ、国内では省内外の関係者と緊密に連携し、財務トラックにおける優先課題を策定し、昨年12月に開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁の会議において鈴木大臣から各国に説明した。
年明けからはG7議長国としての本格的な会議運営が始まった。まずは、優先課題の内容、各議題において目指す成果物等を各国にしっかり説明し、各国からの照会や問題提起に丁寧に対応することで、G7で目指す方向性に関しメンバー間で理解を深化させることに努めた。本年2月にはインドでのG20に際して、4月にはIMF世銀春会合に際して、G7財務大臣・中央銀行総裁会議を開催し、声明発出を通じて着実に議論の成果を積み上げるとともに、5月の新潟会合に向けた機運を高めてきた。また、これらの大臣総裁級の会議の準備のため、日々のメール等でのやり取りはもちろん、大臣総裁代理級以下の事務方での会議も頻繁に開催した。日中は各議題の検討や成果文書の策定作業、夜は海外とのオンライン会議やメールのやり取りという休む暇もない状況が続いた(頻発するオンライン会議や欧米との時差を恨むこともしばしば)が、関係者が一丸となって乗り越えることができた。
そしてついに迎えた新潟。参加者が忌憚なく充実した意見交換をできるよう、慣例に囚われず、招待国との対話や著名な学者を招待してのランチ・セミナーを開催する等、プログラムにも工夫を凝らした。その甲斐もあり、多くの具体的成果への合意につながった。
財務官室も昨年夏以降、G7議長国ロジを本格的に開始したが、やはりG7新潟直前期は多忙を極め、財務官室としての真価を問われる時期であった。特に、日本を訪れる代表団の対応には苦戦を強いられた。例えば、代表団が政府専用機を使って来日する場合、その受け入れには多大な準備を要するが、会議1週間前に、急遽、政府専用機の使用を決定した代表団の対応に追われるというハプニングも発生した(優秀なリエゾンと税関からの助っ人I専門官の卓越したロジ回しで当該国の政府専用機来日を無事実現することができた)。G7新潟については、最終的には省内外の関係者のチームワークで多くの困難を乗り越え、天候すら味方につけることができたと思う。G7開催中、新潟では驚くほど晴天が続き、各代表団に美しい新潟の風景を存分に堪能してもらうことができた。何より晴天のおかげで花火プロジェクトを実行に移すことができた。本プロジェクトの準備に奔走した助っ人T主査の号令のもと新潟の夜空に打ちあげられた花火は、財務官室職員にとっては格別に綺麗に思えた。
G7議長は年末まで続く。国際機構課、財務官室ともに気を緩めることなく引き続き業務に邁進していきたい。

column
青海波(せいがいは)に込められた思い
財務トラックの各ペーパーに現れる青海波にお気付きだろうか。青海波は、未来永劫へと続く幸せと人々の平安な暮らしへの願いが込められた文様とされており、パンデミックやロシアの侵略戦争等により世界経済の不確実性が増す中で、国際協調を通じて世界経済の安定、ひいては人々の平安な暮らしの実現に貢献したいとの考えから、省内の若手が財務トラックの共通デザインとして取り入れることを提案した。青海波のデザインは、財務大臣・中央銀行総裁会議の成果文書のフォーマットのみならず、新潟の会場の立て看板等、財務トラックの様々な場面で活用され、統一感のあるデザインにも貢献した。
青海波に込められた思いの実現に向けて、この幾重にも重なる波のように一つ一つ成果を積み重ねていきたい。