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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える


成田 悠輔さん(経済学者)編
令和5年6月5日(月)開催(対談者の肩書は同日現在)


はじめに
原田広報室長 皆さんよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、読者のみなさまにわかりやすく伝えられるよう、様々な分野の方をお招きして未来やイマについてトークをしてもらいます。
第四回として、経済学者であり、鋭すぎる的確な切り口で発信もされている成田悠輔さんをお招きし、財務省の主計局・松本課長、主税局・河本課長と対談をしてもらいます。
成田さんには、財政や税制等についてズバリと切り込んだ疑問やご意見をいただければ幸いです。

成田悠輔さん 今日は外からは見えにくい、財政政策・予算編成の制度と現場について教えていただければと思い、ノコノコと出て参りました。
写真1:右から二人目が成田悠輔さん


財政と民主主義について
河本課長 主税局の河本です。すみません。今日は対談を始めるに当たって最初にはっきりさせておきたい論点がありまして口火を切らせていただきます。
成田さんは、昨年「集団自決」の発言が取り上げられ炎上されていたと思います。「集団自決」という表現はまずいものだったと思っていますし、おそらくご自身も適切ではなかったと考えられていると思いますが、発言の趣旨についてまず教えていただければと思います。

成田悠輔さん 「集団自決」という単語はよくなかったです。21年の発言で、それ以降面白がって繰り返してほしいと言ってくるメディアや人も多かったのですが、自分自身その表現はよくないと思ってやめたものです。
一方で、主張の中身はシンプルで今も変わっていません。日本社会に新陳代謝を起こすべきというものです。政財界やメディア・芸能が典型ですが、権力を同じ組織や大御所が牛耳っており、顔ぶれが数十年ほとんど同じです。この感じが「この国で頑張ってもしょうがない」という諦めの雰囲気を次世代に生み出してしまっているのではないでしょうか?
この状況を変え、世代交代がどんな変化を引き起こすか検証するために、新陳代謝や世代交代を文化にしていく社会実験が必要だと考えています。そのために、田原総一朗さん、経済同友会の櫻田・前代表幹事や首相経験者の方など大御所にお会いする度に「引退してほしい」とお願いして嫌がられている次第です。
これは社会的な引き際の問題ですが、広げれば終末医療や死生観などの生物的引き際、今日の議題の一つでもある社会保障と財政の話にまでつながると思います。

河本課長 なるほど。色々な文脈を説明される意図で敢えて強烈な言葉で訴えたということでしょうか。

成田悠輔さん はい。この件に限らず、社会へのめざましを意図した強烈な言葉には意義があります。もちろん負の副作用もあり、ご批判はいくらでもいただければと思います。それで私が打撃を受けたり仕事を失ったりする可能性ももちろん引き受けます。
逆に自分も財務省の方に聞いてみたかったのですが、世間の一部で展開されるいわゆる「ザイム真理教」批判をどう捉えているのでしょうか。

松本課長 主計局の松本です。1つの問題として、受益と負担の認識が分断されており、税などの負担の部分が強く意識されるのに対して、受益の部分の認識が薄いことが影響していると感じています。
ある学者さんのアイディアですが、公的なサービスを受けるとき、負担がきちんと還元されていることが認識できれば、理解が変わってくると思います。実現可能性はともかく、例えば、病院での支払いの際に、税金や保険料で賄われた受益の部分も明示するようなイメージです。

成田悠輔さん 受益については、補助金などのお金に目が行きがちですが、社会生活の品質全体が受益の結果ですよね。日本ほど安全できれいで、公共交通もちゃんと動く国は他にほとんどありません。実際、Social Progress Indexというものがあり、経済だけでなく、環境や衛生、メディア、教育などの質を総合的に指数化しています。この指標で日本は今でも北欧に次ぐ世界8位です。

松本課長 他方で、幸福度や満足度といった国民の意識で測ると、日本は低いですよね。政府内でも、経済運営の成果を測る尺度のあり方について議論がありますが、成田さんのおっしゃった生活の質の高さに着目することも大事かもしれません。

河本課長 負担の話になると、みんな「無駄の削減を」と言いますが、誰しも「自分以外の分野」に無駄が「あるはず」というだけです。そんな中で、いやいや、まだ負担なんて求めなくてもいいんだよ、というMMTのような説について、成田さんはどういった認識でしょうか。

成田悠輔さん 貧困化する日本が生むルサンチマンを晴らすために仮想敵を作るとすると、財務省か自民党か大企業くらいしか候補がいません。この仮想敵路線を過激化すると財務省陰謀論やザイム真理教叩きになり、割合はごく一部ですが、絶対数ではそれなりにいる印象です。批判側との生産的な論戦を張れなかった財務省やマクロ経済学者の側にも責任があり、批判する側とされる側でコミュニケーションが成立していない印象を持っています。財務省の業務も、財務省批判に影響を受けますか。

松本課長 財政政策については、たしかに、様々なご意見・ご批判があります。財務省も、緊縮的なことばかり考えているわけではないのですが、極端に拡張的な財政運営もリスクがあると思います。一方的な議論の影響でスタンスが変わることはないですが、世の中の議論の状況が、政策決定プロセスで一定の影響を及ぼす面はあると思います。

成田悠輔さん 財務省職員やマクロ経済学者も普通の人からは姿が見えないため、その主張が広がらず、結果的にメディアに出ている経済評論家的な人の声だけが過度に国民に届いてしまっていると思います。財務省も、少数の職員の方だけでも顔が見える形で発信すると良いのではないでしょうか。

河本課長 顔を出して説明するからこそ伝わるものもあると思います。
そうした問題意識から、我々もインタビューを受けましたが*1、ビビりながらではありますが始めているところなんです。

成田悠輔さん お二人の記事を読ませていただいて、無根拠な断言をせずに中立的なトーンを保とうという涙ぐましい配慮が伺えました(笑)。実際、適切な財政規律の度合いなどもよく分からないですよね。公債の積上げと将来の経済成長の関係について研究はありますが、結論は出ていません。そもそも、日本のような経済規模の国がこれだけの公債を抱えた例がないので、過去のデータや事例に基づいて明確なことを言うのは無理でしょう。そうした中で何かを発信するのはとても難しいと思います。

松本課長 ご指摘の記事では、債務残高が膨らむことはリスクを伴うこと、そのリスクが直ちに顕在化しなくても、リスクを大きく膨らませて将来世代に渡すこと自体が問題であることを、伝えようとしました。

成田悠輔さん 適切な財政規律のラインを定量的に引くことはできないとしても、予算や税で「ここはこう変えるべき」と考える点は何でしょうか。いったん政治的な難しさは無視したとして。

松本課長 一つ挙げるとすれば、社会保障です。今後、少子化対策にせよ、GXやデジタルにせよ、社会課題を解決して経済成長にもつながるような支出を増やしていく必要があると指摘されています。他方で、ただでさえ大きくなっている社会保障予算も、高齢化に伴い、放っておくと更に膨らみかねません。効率化の取組が不可欠だと思いますし、負担のあり方も考えていく必要があると思います。

河本課長 予算や税は本当はどうあるべきか、10人いれば10人の答えがあるような気がします。
難しいのはやっぱり民主主義的なプロセスの中で、例えば1000の予算を10人で割ると1人100の利益ですが、1億人で分けると一人当たりはごくわずかになるため、その1000の予算を獲得したい10人の主張が、ほぼ利益を認識できないレベルの多数の声、つまり「無くてもいいじゃない」という声よりも大きくなるところだと思います。成田さんの最近の著書*2では、そうした多くの人の無意識レベルの選好を実際の投票にどう反映するか、という視点がとても面白いと思いました。

成田悠輔さん 無意識データの活用にせよ、直接民主主義的な形にせよ、今とは別のやり方で予算編成を決めるとどうなるか見てみたいですね。

松本課長 ご存じだと思いますが、政策検討の一つの考え方として、フューチャーデザインがあります*3。国民の皆さんに認知いただくとともに、予算の議論などでも活用できるといいと思っています。

成田悠輔さん 現在の民主主義のもう一つの限界は将来世代が声をあげられないことですね。子どもの代理投票権を親に与えたらどうかとか、票を平均余命で重みづけたらどうかみたいなことは昔から言われています。私自身、票を平均余命で重みづけたら選挙結果がどう変わるか計算してみたところ、Brexitや米国大統領選の結果も覆ることがわかりました。

河本課長 実際の制度を変えるには時間と労力がかかりますが、少なくとも意識をどう変えていくかということが、今できる大切なことだと思います。
写真2:成田 悠輔さん
写真3:主税局調査課長 河本 光博


社会的な議論の必要性について
成田悠輔さん 先ほど、受益と負担の話がありましたが、それぞれの世代の受益・負担比率を計算して、「比率をすべての世代で一律にするには予算はこう変わらなければならない」といった見せ方をすることもできそうですね。先ほど松本さんから、社会保障を変えるべきとの話がありましたが、具体的にはどう変えるべきなのでしょうか。

松本課長 医療や介護は国が値段を決めており、最近でも、医療や介護の従事者の処遇改善のために値段を上げるべきとの議論がありますが、利用者にとって負担増となることは、あまり認識されていないと思います。保険料負担にはね返ることも、意識する必要があります。
病院や介護施設の経営状況はどうなのか、値上げが従事者の処遇改善にきちんとつながるのか等々、丁寧に議論をしていかなければならないと思います。

成田悠輔さん この手の問題は利害対立を生まざるをえない論点なので、すぐに「世代間対立を煽っている」と騒がれて炎上します。その結果、触れないことが得になってしまっていて、情報や議論が尽くされなくなっているのが問題だと思います。
ただ、目に見えないところで社会の雰囲気は変わってきているとも感じます。特別養護老人ホームで話を聞いていると、ここ5年くらいでご本人やご家族の死生観や終末医療観が大きく変わってきたという話を聞くことがあります。メディアや政治には見えないところにこそ本当の変化の萌芽があるかもしれません。
表面上の炎上でアレルギー反応を起こさず、人々の隠された声を制度や政策にどのように反映させていくかが課題だと思います。


国家と税・通貨のイマ
成田悠輔さん もう一つ別の対立軸として話してみたいのが、金持ちと庶民の対立です。日本は「お金持ちをいじめるのが得意な国」とよく言われています。所得税や相続税が高いと指摘されていて、自分の周りでも海外へ出るお金持ちが多いです。大きな税収を生み出す人が海外に出てしまう状況について、どのような認識なのでしょうか。

河本課長 お金持ちのいう「負担が大きい」という話の比較対象はシンガポールなどの税率の低い国だと思いますが、予算規模でみると、やはりそうした国では低い税負担に見合った公共サービスしかありません。他方で、「受益が少ない」という話の比較先はだいたい北欧諸国ですが、これらの国では相応の税負担があります。それぞれ一面しか見ていない主張にどう向き合っていくかはいつも考えさせられます。
シンガポールの税負担はG7のどの国よりも低い水準で、それに日本が対抗することはないと思います。現在の公的サービスのレベルを維持するならば。また、シンガポールへの移住や進出は税以外の要因も併せて考える必要があると思っています。
あと、日本人は、「海外で活躍する日本人」を応援することが好きな傾向がある気がしますが、個人的には、日本で生まれて日本の公教育を受け、日本の安全な社会の恩恵を受けて育ってきた人達が、その環境を次世代に引き継ぐための負担をすることなく、「税金が安いから」という理由だけで外国に移住してしまうということを、もう少し疑問視する姿勢があってもいいのかなという気はしています。

成田悠輔さん 加えて日本の特徴として、儲けられるだけ儲けたいと思っていない企業が多いのではないかと勘繰っています。京都の老舗旅館など、一泊100万円にしてもお客が来ると思いますが、10万円に抑えています。おそらく、誰でもがんばれば手の届くような価格帯にすることが、正しいビジネスの在り方だと考える日本企業が多いのだと思います。そもそも日本では、すごくいいものをすごく高く売るというビジネスが大成した例がないことも要因なのかもしれません。

河本課長 「より良いものをより安く」という言葉が本当にそれでいいのかと最近指摘され始めていますね。似たような話をすると、東京のあるラーメン屋では開店時から閉店時まで常時40分くらいの行列ができていますが、経済合理的な行動をすれば、行列が例えば5分に縮まるところまで価格を引き上げることで、人的投資や設備投資を全くしなくても収益を倍増できるでしょうし従業員に払う給料も引き上げられます。消費者が考える付加価値に見合ったプライシングをするだけですが、この「消費者余剰を取りにいかない営業」は、とても日本的だなと感じます。


国家と税・通貨のミライ
成田悠輔さん 税や価格の仕組みを、一物多価的に柔軟化していくような変革が起こるのではと最近考えています。キャッシュレスが進む中で、個人の消費行動や収入等がデータとして蓄積され、それを踏まえて個人ごとに異なる価格や税が設定される、みたいな時代が来ると考えています。現に一部のEコマースでは実装されていて、同じ物の値段が見る人によって違ったりしています。

松本課長 消費税の軽減税率導入の議論の際に、税率そのものを変えるのではなく、所得の低い方々に事後的にポイントで還元する案が浮上しました。当時は見送られましたが、キャッシュレス環境も進んでおり、技術的には実現できるのかもしれません。

河本課長 シンプルに言うと、同じ財・サービスを購入するけれどもお金を持っている人は多く払ってね、という仕組みでしょうか。価格設定に累進構造が盛り込まれるようなものですね。直観的には、そうなると財源調達のための税金は単一の比例税率だけでよく、税の持つ所得再配分機能は価格メカニズムに委ねられることになるような気がします。究極的には、給付を含めた政府の所得再分配政策は必要なくなり、国家はそれこそ夜警国家的な役割に戻るのかもしれません。ほとんどSFのような話ではありますが、外国で観光客用メニューを出されるような感じですよね。

成田悠輔さん 今の常識からすると難しいと思いますが、あらゆる価格や税が自由に変わることが当たり前になればあまり気にならなくなるのではと思います。
今はお金で測られる価格で動く市場があって、市場により格差などの歪みが生じ、それを正すための分配を税と国家がしていますが、価格と税が融合することが未来のマクロ経済の大きな方向性じゃないかと思っています。
さらにその先には、価格と税を一体でデザインする新しい貨幣制度みたいなものがあると思います。現行の法定通貨では難しいですが、暗号通貨みたいな仕組みであれば、ベーシックインカムやベーシックアセットのような再分配機能を通貨の仕組みの中に組み込むことが技術的にできます。そうすると、国家や税を使った再分配機能が、100年単位で見るとちょっとずつ消滅していく可能性さえあると考えています。
その意味で、市場や国家の失敗みたいな話は、一物一価しか実行できないという技術的な限界が作り出した歴史上の一フィクションという可能性もあります。この時代が終わると、通貨・価格・税の一体システムをデザインすることで、国の機能も夜警国家的なものに縮小していくかもしれません。

河本課長 普段我々が考えたこともなかった領域のお話ですが非常に面白い議論ですね。
写真4:主計局調査課長 松本 圭介


財務省の働き方について
成田悠輔さん よくブラックと言われる官僚の方の働き方についても伺いたいのですが、財務省も含めた官庁が働き方を変えるためには、国会から変わらないと難しいでしょうか。

河本課長 国会関係の作業については工夫の余地はあると思いますが、最終的には、役所の仕事に求められるスピード感や精緻さに対する社会の許容度みたいなところが影響すると思います。社会的な課題が発生したときに、「残業することになるので、それに対処する法案は来年の通常国会でいいですか?」と言って時間をいただけるのかどうかということですが、実際には難しいだろうと思います。

松本課長 意思決定がトップダウンで、部下はその通り動くとすれば、業務時間は削れると思います。ただし、主張すべきことも控えてしまうようでよいのか、という悩みもあります。情報を広く共有してみんなで議論していくほうが、組織全体のモチベーションも上がりますが、時間がかかる可能性はあります。
また、仕事の合理性でいうと、デジタルの活用で合理化できる余地はまだあると思います。昔は、職場の外ではメールの確認すらできなかったので、進歩はしていますが。

成田悠輔さん デジタル対応がなかなか進まないのは、霞が関に専門家や専門部署がないからか、それともセキュリティなどの問題からなのでしょうか。

松本課長 両方あると思います。前者は、デジタル庁もできましたし、省内でも担当部署が頑張っていますが、専門人材は足りていないと思います。また、官庁の業務が民間企業と比べて特殊なために、既存のシステムを丸ごと導入して解決、とはいかない点も、影響していると思います。

成田悠輔さん お二人が入省したときと比べて、今の20代の官僚のタイプは変わってきていると思いますか。

河本課長 根幹の部分は変わっていないと思います。国の制度といった大きな仕組みを通じて社会を良くしたいという気持ちは基本的にはあると思います。

松本課長 一方で働き方の部分は大きく変わっています。女性職員も増え、男性でも共働き家庭がほとんどになっており、それを考慮した働き方、ワークライフバランスに変わってきています。改善途上であり、あり方を模索している、といったところだと思います。


おわりに
原田広報室長 話が尽きないところですが、本日はここで終わりにさせていただければと思います。財政の課題やミライの姿まで面白いお話が聞けました。また次回、違った切り口でお聞きできればと思います。
写真5:中央が成田悠輔さん

*1) 日経ビジネス電子版 政策道場「世界ワーストの債務残高水準 日本の財政は持続可能か」、
「税金は嫌われ者 税制の『納得感』をどう高めていくべきか」
「税金は嫌われ者 税制の『納得感』をどう高めていくべきか」
*2) 成田悠輔著『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書)
*3) 財務省「より良い未来のために、今できることを考えよう」https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/202304_fd.pdf