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ファイナンスライブラリー


評者 住澤 整

森信 茂樹 著
日本の消費 社会保障・税一体改革の経緯と重要資料
中央経済社 2022年11月 定価 本体14,000円+税


社会保障・税一体改革の取組みは、その嚆矢となった2004年度の年金制度改革及び与党税制改正大綱から、本年10月のインボイス制度への移行とその後6年間の経過措置期間の終了まで、四半世紀にわたる事業と見ることもできる。これまでの間、社会保障、税それぞれの制度論はもちろん、経済、財政、政治、社会の各分野で多くの当事者による膨大な議論と取組みが行われてきた。将来を担う世代のため、その経緯を詳細に記録し、引き継いでいくことが重要であるが、個々の当事者が知り得ることには限界があり、全体を俯瞰できる語り部が求められる。
著者は、主税局税制第二課長として消費税率の5%への引上げの実施の陣頭指揮にあたり、その後、アカデミズム・言論の分野においても消費税をはじめとする租税法・租税政策の研究・提言に幾多の業績を上げてきた。社会保障・税一体改革の議論にも折に触れて参画し、一連の動きを身近に観察できる立場にあった。理論・政策・歴史・実務の各側面から消費税を語り得る第一人者であり、社会保障・税一体改革の語り部として最も相応しい人のひとりである。
本書は、消費税の創設に至る議論の流れから1997年度の5%への税率引上げ、1999年度予算における福祉目的化までを対象とした前著「日本の消費税-導入・改正の経緯と重要資料-」(2000年3月)の続編にあたる。
著者による「解説編」と「資料編」の2部構成。膨大な資料を収集するだけで2年、それを読み解いた上で筋道を立てて整理するためさらに2年の歳月を費やした労作である。
「解説編」では、小泉内閣から第二次安倍内閣まで、内閣毎に章を分けて、8章にわたって消費税の歩みが語られる。各章の冒頭の「概説」で、その時々の内閣の財政や消費税に対する考え方がどのようなものであったか、政治情勢を交えて著者の分析がコンパクトに提示される。そのうえで、政府税調答申や与党税制改正大綱、時々の閣議決定文書等、節目となる文書の記述を丁寧に引用しつつ、資料編の参照箇所が示され、どのように議論が積み重なって意思決定がなされ、改革に至ったのかを、つぶさに追えるようになっている。
内閣毎の時系列という、いわば「縦軸」の整理に加え、最終章(第9章)では「低所得者対策・軽減税率導入」という「横軸」のトピックで独立の章を立て、軽減税率制度に至る議論、著者が提唱するところでもある給付付き税額控除を巡る議論、軽減税率の国民への周知徹底やインボイス制度の導入に至るまで、特に詳細な解説がなされている。
著者自身が、多くの関係者と行った対話や、国会等で述べた意見も随所に記されており、「ライフワークは、税制改革、わけても消費税」とする著者の、消費税への思いや考え方も色濃く感じることができる。
「資料編」は、政府税調答申、与党税制改正大綱に加え、骨太の方針、中期プログラム、社会保障・税一体改革大綱といった各種の閣議決定文書はもちろんのこと、三党合意をはじめとする政党間の合意文書、各内閣が設置した有識者会議の報告や会議資料、政府や与党の検討の場において財務省、厚生労働省等が提出した各種資料まで網羅しており、これだけの資料を体系的に総覧できる著書は他に類を見ない。本書に掲載しきれなかった資料は、東京財団政策研究所の「消費税アーカイブ」(※)に収載されている。
※https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3576
社会保障や消費税を巡る議論は、膨大な国民的議論の積み重ねの上に成り立っている。今後、受益と負担のあり方について議論する多くの方々にとって、本書が貴重な参考資料となることを期待したい。
(注)本書の内容のうち意見にわたる部分は、著者自身の識見を示されたものである。また、本稿のうち意見にわたる部分は筆者個人の意見である。