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アジアにおける地域金融協力の推進(ASEAN+3,日中韓,日ASEAN)


国際局地域協力課長 陣田 直也/地域協力調整室長 日向寺 裕芽子/係長 穴沢 衛/松尾 洋平


2023年5月2日(火)、アジアにおける地域金融協力関連の会議として、第26回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議及び第23回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議が韓国・仁川で開催された。
ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議は1997年のアジア通貨危機を契機として、アジアの自助・金融セーフティーネットを構築する機運が高まる中、1999年にASEAN+3財務大臣会議が開催されたことを始まりとする(中央銀行総裁は2012年から参加)。日本は設立段階から議論に積極的にかかわっており、ASEAN+3域内の連携を強化する上で非常に重要な会議となっている。今年は、2019年以来4年ぶりの対面での開催となった。
また、日本とASEANの友好協力50周年を記念して、日ASEAN特別財務大臣・中央銀行総裁会議が開催された。
以下、本稿ではこれらの会議における議論の概要を紹介したい。


1.第26回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
本年はインドネシアと共に日本が共同議長を務め、日本からは鈴木財務大臣と植田日銀総裁が出席した。会議では(1)世界とASEAN+3域内の経済・金融見通しや政策対応についての意見交換、及び(2)ASEAN+3金融協力について議論しており、以下その概要を紹介する。
(1)世界と域内の経済・金融見通しや政策対応
ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)、アジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)から世界・域内経済の見通しについて説明があり、COVID-19のパンデミックやロシアのウクライナ侵略の影響にも関わらず、2022年の域内成長率は約3%と堅調だったことが確認された。また、域内各国の経済・金融情勢についての意見交換では、日本から、ロシアのウクライナ侵略を厳しく非難するとともに世界経済・地域経済の主要なリスクとなっていることを指摘し、2023年はより力強い経済回復が期待される一方、金融環境の悪化、サプライチェーンの混乱、及びロシアのウクライナ侵略による世界的なコモディティ価格の上昇等が、地域経済の見通しに対する下振れリスクとなっていることが確認された。

(2)地域金融協力について
ASEAN+3地域の金融協力は、従来から3本の柱に沿って議論を行ってきた。これらの柱の議論とともに、域内金融協力を更に深化させる新しい議題を日本から提案しており、災害リスクファイナンス(DRF)については今回の会合で定例議題に格上げがなされた。
以下、この従来の3本の柱と新しい議題という形で今回の会議の議論を紹介したい。

ア.【第1の柱】チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)
1997年に発生したアジア通貨危機を教訓に、ASEAN+3では、急激な資本流出による危機が生じた国を支援し、危機の連鎖と拡大を防ぐ枠組みとして、2000年に二国間通貨スワップ取極から構成されるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)が立ち上げられた。その後、2010年には、これらの通貨スワップ発動の際の当局間の意志決定の手続きを共通化し、支援の迅速化を図るため、CMIのマルチ化契約(CMIM)が締結され、その後も随時、資金規模の倍増といった機能強化が図られてきた。
他方で、現行のCMIMは危機対応及び危機予防のための2つのファシリティのみであり、パンデミック下においても緊急支援のニーズがあったにもかかわらずCMIMは活用されなかった。そこで日本より、パンデミックや自然災害等の突発的な外生ショックから生じる緊急対外収支ニーズに対応するため、緊急融資ファシリティの創設を提案しており、本会議でこの議論が歓迎され、今年末までに詳細な制度設計を策定して検討することとなった。また、地域金融セーフティーネットを更に強化するため、その他の新たなファシリティやより強固で信頼性の高い資金構造の検討も進めていくこと、また、そのためのロードマップを今年末までに作成することが合意された。
さらに、現地通貨の活用といったCMIMの運用改善についても、これまでの成果と議論の継続が確認された。

イ.【第2の柱】ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)
CMIMの実施支援に際しては、ASEAN+3域内・各国経済のリスクを早期に発見し、改善措置の速やかな実施を求めることが必要不可欠である。このプロセスに貢献するためのサーベイランス機関として、2011年にAMROが設立され、その後、国際機関となった。日本はその設立以降、所長を含めた人材の輩出や拠出金の貢献等を通じてAMROを支援してきている。
本会議では、昨年策定された、2030年までのAMROの中長期的な発展を見据えた「戦略的方向性2030」について、急激に変化するマクロ経済・金融環境や新たな課題に効果的に対応するための指針であるとして歓迎されたほか、AMRO幹部によるガバナンスについて包括的な見直しを進めることとなった。

ウ.【第3の柱】アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)
アジア通貨危機の一因となった、ASEAN諸国における通貨と期間のミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借入れ、自国通貨建てで国内の長期融資を実施)の解消のため、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成し、域内の貯蓄を投資へと活用することを促進する取組みとして、2003年にABMIが開始された。ABMIの開始以来、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場は着実に拡大している。
本会議では、ADBの協力も得て「ABMI中期ロードマップ2019-2022」が成功裏に実施されたことを歓迎するとともに、サステナブル・ファイナンスやデジタル・トランスフォーメーション等の新たな潮流を踏まえた「新ABMI中期ロードマップ2023-2026」が承認された。
【新しい議題】
前述の3本の柱はこれまでASEAN+3の域内金融協力の骨子となっており、引き続き重要な議題であるが、他方で、気候変動やデジタル化の進展など地域を取り巻く環境が変わる中、域内協力を深化させ、より一層効果的なものとするため、新しい議題を取り込んだ議論も重要となっている。そこで、日本は自然災害リスクに対する財務強靭性の向上と、金融デジタル化による影響といった議題を推進してきた。

エ.【新たな柱】災害リスクファイナンス(DRF)
これまで日本は、自然災害リスクへの対応に保険スキームを活用し、ASEAN諸国の財務強靭性を向上させることを目的とした「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」の立上げを主導するなど、自然災害リスクに対する財務強靭性の向上に係る取組みを推進してきた。
本会議では、頻発化・激甚化する域内の自然災害に対応するため、将来生じうる経済的及び財務的損失に対する強靱性を高める重要性について認識が共有され、DRFがASEAN+3財務トラックの定例議題に格上げされることとなった。また、SEADRIFなどの既存の枠組みを活用し、保険その他商品の検討、知見共有の促進、域内における災害データの活用といった行動計画を盛り込んだ、「ASEAN+3災害リスクファイナンス・イニシアティブに係るアクションプラン 2023-2025」が承認された。

オ.ASEAN+3財務プロセスの戦略的方向性
ASEAN+3地域ではデジタル通貨等の金融デジタル化が急速に進んでおり、各国の経済発展と域内連携をますます強める機会となる一方、これまでとは異なる新たなリスクや脆弱性が出現する可能性がある。こうした観点から、日本は金融デジタル化に関する新たなイニシアティブを提起しており、昨年以降議論が進められてきた。
本会議では、より速い危機の波及効果やデータの安全性・プライバシー等のリスクを示すとともに、迅速かつ効率的な決済システムの開発などの活用すべき機会を強調したうえで、域内金融協力の将来を見据えた提言を行っているAMROの報告書「金融デジタル化の機会と課題:ASEAN+3地域金融協力の新たな視座」が歓迎された。報告書においては、金融デジタル化に対応したAMROのサーベイランス強化や技術支援の活用、CMIMの見直しの議論等が提言として示されている。
他にもインフラファイナンス、サステナブル・ファイナンスなどの取組みが議論で取り上げられた。

写真: (会合の様子。鈴木大臣は下段左から7番目、植田総裁は上段左から5番目。)


2.第23回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議
本会議は2000年以降、ASEAN+3の会議と合わせて開催されており、日中韓の3か国で率直な意見交換ができる重要な場となっている。今年は韓国議長の下で開催され、日本からは鈴木大臣、植田総裁が出席した。域内各国の経済・金融情勢及び地域金融協力について意見交換が行われ、日中韓の連携の大切さが確認された。


3.日ASEAN特別財務大臣・中央銀行総裁会議
本年は日本とASEANの友好協力50周年に当たる節目の年であることを踏まえ、日本の主催で本会議を特別に開催し、鈴木大臣、植田総裁が議長を務めた。
世界経済がパンデミックやロシアのウクライナ侵略の影響を受け、様々な不透明感が高まる中、世界の成長センターである日本とASEANが連携していくことは、地域はもとより世界経済の持続的な成長のために重要になっている。こうした状況を踏まえ、会議では、日本とASEANが共に持続的な経済成長を遂げていくために、経済・金融協力を一層強化するとともに、新たな課題に連携して対応していくことが確認された。
具体的には、(1)域内金融協力の深化、(2)金融のデジタル化への対応、(3)サステナブル・ファイナンスにおける連携、(4)サプライチェーンの強靭化という4つの政策課題について、日本とASEANが協力して取り組んでいく必要性について認識を共有し、それぞれの分野について日本からの具体的な貢献策を表明した。
写真: (会合で発言する鈴木大臣)
写真: (ASEAN+3共同議長のスリ大臣と握手する鈴木大臣)

各会合における成果文書はこちら
第26回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
●共同ステートメント
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502.pdf
●「新ABMI中期ロードマップ2023-2026」
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502_2.pdf
●「ABMIの成果及び分析」
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502_3.pdf
●「ASEAN+3災害リスクファイナンス・イニシアティブに係るアクションプラン 2023-2025」
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502_4.pdf
●「金融デジタル化の機会と課題:ASEAN+3地域金融協力の新たな視座」(概要)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502_6.pdf
●「金融デジタル化の機会と課題:ASEAN+3地域金融協力の新たな視座」(本体)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/asean_plus_3/20230502_5.pdf
第23回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議
●共同メッセージ
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/jp_ch_kr_meeting/20230502.pdf
日ASEAN特別財務大臣・中央銀行総裁会議
●日ASEAN特別財務大臣・中央銀行総裁会議を開催しました
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/other/20230502.pdf