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コラム 経済トレンド104

日本の化粧品産業の展望

大臣官房総合政策課 調査員 河野 愛/胡桃澤 佳子


本稿では、日本の化粧品産業の強みと、今後の世界の中での市場拡大に向けた課題について考察する。

化粧品産業の市場規模
世界の化粧品化学品市場は、2021年420.3億ドルから2030年1075.3億ドルまで、年平均11%の伸び率で成長することが予測されている。その要因として、継続的な研究開発投資、個人の可処分所得の増加と購買力の増加、天然成分を配合した化粧品の需要の増加が考えられている(図表1. 世界の自然化粧品市場)。
日本国内の化粧品市場規模は、新型コロナウイルスの影響を受け2年連続で減少し、2021年度で1兆3,529億円となっている(図表2. 国内化粧品出荷額)。また、日本からの輸出が日本への輸入を大きく上回る傾向が続いており(図表3. 日本の輸出入金額の推移)、中国をはじめアジア圏の需要が大きく成長している(図表4. アジアの主要輸出先推移)。
一方で、日本の主要輸出先であるアジア圏では、日本以外のアジアブランドの伸長が著しく、今後は日本製品との競合が激しくなることも予想されている。コロナ禍により国内外問わず人々の行動・生活様式が変化し、化粧品の購買行動も変化している。厳しい市場環境を勝ち抜くためには、コロナ禍で生まれた新たなニーズを取りいれた商品展開、販売方法等が市場拡大の鍵となっていくと思われる。
(出所)パノラマデータインサイド「自然化粧品市場」、経済産業省「商業動態統計」、財務省「貿易統計」(「輸出入金額」、「輸入金額」、「概況品別国別表」)

日韓化粧品産業比較
輸出の成長が著しいアジアブランドの代表が、韓国である。世界全体でみた輸出額は世界第2位で、日本を上回っており(図表5. 2020年対世界化粧品輸出国の割合)、今後韓国化粧品の市場規模は、輸出を含めて2019年102億ドルから2027年139億ドルまで成長すると予測されている(図表6. 韓国企業による化粧品販売額予測)。
韓国化粧品の成長の背景には、低価格帯ブランド戦略(図表7. 化粧品の輸出数量当たりの金額(2020年))、ECの利用増加等の要因が考えられる。韓国国内のスキンケア用品のEC比率は実店舗全体の販売比率並のシェアを占めている(図表8. スキンケア用品の販売チャネルシェア)。
一方、日本の化粧品の強みは世界トップクラスの品質であると認識されていることである。例えば、国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)の国際学会での受賞件数が他国と比べて突出している(図表9. IFSCC発表論文の国別受賞件数上位5カ国抜粋)。科学的根拠に基づいた製品を開発できることが日本の化粧品産業の成長要因のひとつであると考えられる。また、化粧品購買時において、専門の販売員が常駐していることも日本の化粧品への信頼感に繋がっていると言えるだろう。
(出所)株式会社グローバルインフォメーション「韓国コスメ市場の成長機会・成長予測(2021-2027年)」、三井物産研究所「日韓化粧品産業の比較からの考察」、薬史学雑誌「化粧品の科学技術の発展における日本の貢献」

化粧品産業におけるDX
ECサイトで化粧品を購入する理由として、安価さ・手軽さが挙げられている(図表10. コスメ購入でECサイトを利用する理由)。一方で日本の高価格帯の化粧品は、専門スタッフが個々の消費者の好みに合った商品を提供している点が評価されている(図表11. 高額化粧品の購入の決め手になること(年間化粧品購入額別)〈複数回答〉)。EC販売において、低価格競争に巻き込まれないためには、製品本来の良さを消費者に理解してもらうための戦略が必要とされる。
ECでは安価な化粧品が多く展開されるため、高価格帯商品をそのままECで販売するだけでは訴求力として不十分である。高品質な商品の価値を店頭で販売する時と同様に、消費者に認知されるためには、低価格品との明確な差別化が必要とされる。
実際にコロナ禍で人との接触が制限され、店舗から客足が遠のくなかで、デジタル技術を活用したリアルに近い、購入体験を提供する仕組みが急加速で進化している。スマートフォンアプリやAI(人工知能)を活用して肌状態を分析、個人仕様の化粧品を提案する企業も出てきている(図表12. スマートフォンアプリ・人工知能活用の具体例)。韓国でもデジタルやAIを活用した販売手法が多く取られるようになっているが、日本の化粧品の高品質な商品価値をデジタル・AIで更に訴求することができれば、他国と差別化を図ることができるであろう。
(出所)株式会社富士経済「新型コロナウイルスを契機に拡大する化粧品EC市場の現状と将来展望」、株式会社Tes Tee「コスメのEC利用に関する調査【2021年版】」、経済産業省「電子商取引実態調査」、株式会社NTTコムリサーチ「化粧品購入行動に関する調査結果」、KATE TOKYO・花王・POLA・L’ORÉALPARISの各HP

化粧品産業の展望
消費者が化粧品を購入する際に期待することは「その商品を使用することで自分をよりよく見せられるか」「自分の気持ちを上げることができるか」等である(図表13. 化粧をすることで得たい気持ち・気分)。コロナ禍以前はタッチアップや商品のテスターを通して、消費者は商品から得られる充足感を想像しやすかったが、コロナ禍以降は対面販売が減少した。代替チャネルとなり得るECでも対面販売と同じように消費者の購買意欲を掻き立てる必要があり、そのためにデジタルやAIを活用することが求められる(図表14. 化粧品メーカーなどが提供・検討しているサービスのうち関心があるもの)。
また、コロナ禍でアジアを中心とした一部の国ではマスク着用者が依然多く、その影響により国外でもスキンケアへの需要が高まっていると考えられる(図表15. 新型コロナウイルスの影響による行動・気持ちの変化)。日本のスキンケア商品は、科学的検証に基づいた高機能製品として従来から需要が高い。こうした現在の環境が生み出す新たなニーズを取り込み、日本の強みを活かした商品を打ち出す必要があるだろう。
スキンケア商品の割合が高い点が日本市場、アジア市場で一致しているため、日本の強みを活かしやすいのはやはりアジア地域であると考えられる。人口減少により国内市場の縮小が見込まれるため、日本の優位性を活かし、低価格とは異なった差別化を図ることでアジア圏へ更に販路を広げることが重要である。
(出所)ポーラ文化研究所「化粧文化調査2020レポート」、NTTコムリサーチ自主調査「No.254化粧品購入行動に関する調査結果」、株式会社アイスタイル「美容とライフスタイルに関するアンケート」、独立行政法人製品評価技術基盤機構「2020年度化粧品産業動向調査報告書」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。