評者 前広報室長 伊藤 拓
犬塚 壮志 著
説明組み立て図鑑
SBクリエイティブ 2021年11月 定価 本体1,630円+税
「説明って、ムズカシイ。」誰かと話したとき、そうお感じになったことはありませんか。
私は財務省に勤務して20年余り、講演会や採用説明会などで財務省の仕事や制度の改正などについて説明してきましたが、一度として満足に説明できたことがありません。「ちゃんと理解して頂けただろうか」、「本当に伝わっただろうか」と思い悩む日々でした。
そんな私が広報を担当することとなり、手にしたのが犬塚壮志氏の『説明組み立て図鑑』。「型にはめればうまくいく!」「あてはめるだけですぐ伝わる!」「どんな場面でも伝わる!」と表紙に書かれた誘いに乗って、読み始めることにしました。
著者の犬塚氏は元駿台予備校の人気講師。本書は犬塚氏が予備校の授業で受験生に実際に伝わった説明の型について、東大の大学院で専攻した認知科学の知識も織り交ぜながら、聞き手に伝わる80の型を厳選して収集した「図鑑」です。
図鑑では80の型が目的別(聞き手に理解してもらう、動いてもらう、できるようになってもらう、聞いてもらう)に分類されており、読者は説明の目的に照らして、必要な説明の型を見つけることができます。ここでは、お薦めの型を2つご紹介します。
まず、「振り返りの型」。これは、説明の節目で「ここまでをまとめると・・・ということです。続いては・・・」と小休止をはさみ、これまでに説明した内容を1分間程度で振り返るスキルで、聞き手が情報を頭の中で整理しより深く理解することができます。教育心理学では「振り返り」は深い学習効果をもたらすと言われており、説明が長くなりがちな講演会などで使うと効果的です。
次に、「咀嚼の型」。小難しそうな話をする前後に、「ざっくり言うと、・・・ということです」と要約する説明の型です。役所の説明は抽象的だったり冗長になったりしてしまいがちですが、厳密な定義や詳細な説明はグッと堪え、できるだけコンパクトに、聞き手が普段使っているような簡単な言葉にかみ砕いて説明することがポイントです。普段から「ざっくり言うならどうなるんだろう」と意識し、「ざっくり理解、ざっくり説明」することを習慣化すれば、瞬時に咀嚼した情報を説明できるようになります。
著者によれば、「説明とは、相手に分かるように順序立てて言うこと」であり、「分かるとは、外からの新たな言葉(情報)が自分の中にある言葉(知識)に結ぶ付くこと」です。聞き手の状況と説明の目的に合わせて話し手が情報量を調節して、聞き手の負担が減るように配慮した説明の型ができたかどうかで、伝わり具合が変わります。広報室で勤務するまでの私といえば、説明の型はOJTで、説明資料を大量に作り、聞き手に伝わっているという手触り感が乏しいなか、本番ではひたすら話すといったこともありましたが、そんな独り善がりな説明では聞き手によくご理解頂けるはずがありません。本書は「説明の主役は話し手ではなく聞き手である」と強調しており、あたかも説明とは聞き手への思いやりであると言わんばかりです。
犬塚氏は本書でさらにこのように述べています。「卓越した説明スキルは、先天的なものではなく、後天的にいくらでも身につけられる。」説明が得意ではない人は説明が好きになる第一歩として、説明が得意な人はそのスキルをより磨くために、ぜひご一読をお薦めします。